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[第六弾]妹に言われたいセリフ

224 :223 :2006/03/10(金) 16:05:03 ID:lX3bjVwb
sage忘れました。すいませんorz

225 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/10(金) 16:49:21 ID:I71D5L4U
>>実年齢よりも一回り幼く見える

ここおかしくね?中学生で一回り幼いと1歳とかになってしまうのではないかと。

226 :遊(ry ◆isG/JvRidQ :2006/03/10(金) 18:21:44 ID:iH1sfFDh
>>223
あぁ、また悲しい系のお話だ……弱いんだよなぁ、こういう話に……・。

>>225
ヤフーの辞書より(1、2略)
3 十二支が一回めぐる年数。一二年。「兄と―年が違う」
4 物事の程度、また、人の度量の大きさなどの一段階。「―小さい服」「人物が―大きい」

4に使えるか否かが微妙なところだねぇ……。
ま、いいんじゃない、何となく意味がわかりゃw

227 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/12(日) 00:46:52 ID:GWckR+XV
>>213-217
海中氏期待あげ

228 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:53:09 ID:iUl8b3KR
三月。
船はオーストラリア東海岸沿いへと進み、順調な航海を続けていた。
一ヶ月も乗船していると、もはや勝手知ったる他人の家で、すっかり船の内部も覚えてしまった。
そして日常を行うべく、俺は船内の学校に通っていた。

まだ真新しい、建造されたばかりの白い廊下を歩く。独りの足音が周囲に木霊した。
片手に抱えているのは教科書やノートの類で、使い古したせいか微妙に変色している。
 「……はあ」
予想外に退屈だ。
平日は登校。休日は街へ出かける。たまの上陸は観光。
その繰り返しは単調で、飽きの早い俺にとっては苦痛でしかない。
 「お兄ちゃん♪」
曲がり角からひょっこりと顔を覗かせた優希に対し、俺は足を止める。
 「ああ、はい……」
シャーペンを一本取り出し、ポイと投げてやる。
それを見た優希はむっと顔を赤く染めて、ぷんぷんに怒りながらシャーペンを返してきた。
 「ち、ちがうよ!今日はふでばこを忘れたんじゃないの!」
 「え?違うのか?」
 「ちがうもん!」
 「はは……優希も冗談を言うようになったのか。それとも、とうとう幻聴が……」
 「ちーがーうーのっ!!」
 「あうっ!?」
思い切り爪先を踏まれ、思わずよろめいてしまう。そんな様子を無視して優希は話し出す。

229 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:54:05 ID:iUl8b3KR
 「お兄ちゃん、最近元気ないよね……。どうしたの?」
心配そうな表情で顔を覗きこむ優希。微妙に上目遣いだが、仮にも兄なのでなんともないぜ。
 「い、いや……爪先が痛いんですけど……」
 「それはわたしのせいだけど……そうじゃなくてぇ……」
優希の言いたいことは分かる。ここ最近、ろくにリラックスしていない。
もじもじと指先をいじっていた優希だが、ついに決心したのか、ポケットから何かを取り出した。
 「と、いうわけで。お兄ちゃんの息抜き大作戦を遂行しに来ましたっ!」
 「なにその作戦名。ふざけてるの?」
 「じゃーん!なんとここに、温水プールのチケットがありますっ!」
 「ちょ、おま―――」
 「泳ぎにいけっ♪お兄ちゃん」
 「日本語おかしいって」

……一通りの回想を終えて、俺は頭上を仰ぎ見た。
青空にペイントされた天井が広がり、太陽を模された照明がプールサイドを照り付けていた。
視線を上から下に戻してみると、金髪美女が各々楽しそうに泳いでいた。
 「これはこれで……」
 「……お兄ちゃん?」
背後からの殺気に怯え、俺は慌てて振り向いた。
 「……し、白いスクール水着?」
優希が着ているのはその名前の通りの代物で、幼い面影を残す優希にはよく似合っていた。
 「それ、濡れると透けるやつじゃないのか?」
 「す、透けないもん!ちゃんと試したんだからねっ!」
 「試した?」
 「あーうーあーっ!」
墓穴をほった優希はメダパニしながら俺をプールに突き落とした。

230 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:55:02 ID:iUl8b3KR
 「なっ、生温い!」
 「温水プールだもん……お兄ちゃんだいじょうぶ?」
そろそろ優希に憐れな目で見られるようになってきたので、冗談は止めることにする。
 「さてと。足は着く?」
そろりそろりと水の中を歩く優希だが、どうも無理っぽそうだ。
 「だ、だめぇ……真ん中のほうは足が着かないかも……」
綺麗な長髪の黒髪が波にゆれ、水面をゆらゆらと漂っている。波?
 「ここ、波の出るプールなのか」
彼方に目を凝らしてみると、小さな仕切りで区切られた穴があり、そこから出ているようだ。
 「うん。自由にちょうせフーッ、つ出来るみたいだよ」
 「なにやってんのさ」
見ると、優希は小さな口で必死に浮き輪を膨らませている。
 「う、……………………うきわ」
顔を真っ赤にしてぼそぼそと呟く。そんなに恥かしいのだろうか。
それはともかく、浮き輪なら中央の深いところでも問題はないだろう。
 「よし。それ付けて行ってみる?」
 「う、うん」

しばらくして浮き輪を装着した優希と俺は、プールの深い場所へと泳いでいた。
元々外国人用に作られた船なので、俺たちには何もかもが少し大きい。
ちらりと優希に視線を送ると、浮き輪で楽しそうに自分の両足をぷらぷらさせていた。
ニヤリ。

231 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:56:04 ID:iUl8b3KR
 「お、お兄ちゃん!だめっ!」
 「ん?どうしてダメなんだ?」
 「だ、だってぇ……そこは……んっ!」
 「そこ?ここがどうかしたのか?」
 「や、やぁ……入っちゃうよぉ……!」
 「大丈夫だろ」
 「あ、あうっ……!お兄ちゃん、許してぇ……!んんっ……!」
 「嫌だね。ほら、支えといてやるから。出すぞ」
 「あっ!だめぇ!だ、出しちゃだめだよぉ!」
 「だから、大丈夫だって」
 「ふぁぁ……!な、中に出てる……!」
 「ほら、お前も出せよ……!」
 「らめぇっ!やぁ……出るぅ……出ちゃうよぉぉぉぉっ!!」






 「な。水の中で空気出すと面白いだろ?」
 「やだぁ!浮き輪しぼんじゃったよ!ここ、深いところなのに……」
 「だから支えといてやるってば」
 「ばかっ!お兄ちゃんのばかぁ!!」
ストレス発散はできました。

232 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:56:59 ID:iUl8b3KR
夕日が沈むテラスで、俺と優希は手すりにもたれ、夕焼けを眺めていた。
 「お兄ちゃんのきちく……」
 「そういう言葉、どこで覚えてくるんだよ、お前は」
 「むー……」
 「ああもう、悪かったよ。あれでも食べて元気出せよ」

 「わぁ……これ……」
 「美味そうだろ?」
 「うん……お兄ちゃんの、すごく大きい……はむ」
 「……っ!お、おい、あんまり舌動かすなよ」
 「えーっ?どーしてぇ?……んむっ」
 「こいつ……!」
 「んふふ……さっきのお返しだよぉ……ぴちゅ……」
 「わっ……ば、バカ……!」
 「んむ……ちゅ……はむ……」
 「う……!!」
 「えへへ……手で強く握ってあげる……」
 「あ、やめろって……!あ……出る!」
 「きゃっ……!?……あはは、いっぱい出ちゃったね?お兄ちゃん」






 「……ソフトクリーム」
 「せっかく買ってやったのに……もう絶対に買ってやらないからな」
 「さ、さっきのお返しだもん……でも、ごめんなさい……」
船は汽笛を鳴らし、のんびりと航海を続けていく。
旅はまだまだ続くようだ。

233 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:57:59 ID:iUl8b3KR
正直  許して・・・

234 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/12(日) 14:13:10 ID:5LyZx7VN
許します
不覚にも笑ってしまった(´・ω・`)

235 :遊(ry ◆isG/JvRidQ :2006/03/12(日) 15:25:47 ID:OeprWq89
>>228-232
あぁ、もう、ちくしょう、この人上手いよ!
ホワイトデーにむけて頑張ろうと思ったが、一気にやる気失せたわw

236 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/12(日) 15:55:58 ID:h+/OF/61
なんかファミ通に昔のってた女神のまぎらわシリーズ思い出した。

237 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/14(火) 01:12:05 ID:JoWeREMW
全米が抜いた

>>遊(ry
やる気無くすな!頑張れ

238 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 22:58:00 ID:7FvloQ+5
ピンポーン
「はい、はーい!!」
雑誌を放り出して、玄関に走っていく。
「どなたですか?」
ドア越しに尋ねる。
ホントは、分かるんだけどね。
「州田敬介。梨那か?」
照れくさそうに、自分の名前を告げる。
「あ、お兄ちゃん、どうしたの?」
ドアを開けながらまた尋ねる。
この質問の答えだって、私にはもう分かってる。
でも、私が先に言ったら、きみは怒って、「そうだよ」とは言わないから。
「ホワイトデーだからな」
ドアの向こうから現れたキミは、恥ずかしさを隠しながら、小さな箱を見せる。
「わぁー、ありがとう!!」
「気にするな。借りは返す」
これも照れ隠し。
キミは知らないかもしれないけど、私にはそれぐらいお見通しなんだから。
「中は何?」
「ケーキ。普通じゃつまらないだろ?」
これもウソ。
私の好きなケーキ屋さん、ちゃんと覚えててくれてる。

239 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 22:58:33 ID:7FvloQ+5
「ありがとう、お兄ちゃん」
私も、キミに最高の笑顔をあげる。
「じゃ、俺は帰るわ」
やっぱり。
キミはクールぶってるけど、頬の赤さは隠せないよ。
「お兄ちゃん、時間あるかな……?」
「ん。なくはないけど……」
「じゃあ、これ、一緒に食べようよ」
「いや、でも……」
「いいじゃない。お兄ちゃんだって、こんな美味しそうなケーキ見てたら、食べたくなるでしょ?」
「それじゃ、梨那の分がなくなるだろ?」
「いいの。ケーキが少なくなっても、お兄ちゃんと一緒にいられるじゃない」
「……しょうがねぇな」
そう言って家の中に入ってきてくれる。
ホントはね、キミの気持ちも知ってるんだ、全部。
だけど……その気持ちはキミの口から聞きたいから。
今日も私は、バカな女を演じるのです。
──────────────────────

「にゃー!!恥ずかしぃ!!」
目の前の紙をクシャクシャに丸める。
「お兄ちゃんにケーキもらって嬉しかったから、
 何か詩が書けると思ったけど……やっぱり、無理っぽいなぁ……
 もうちょっと頭冷えてから、練り直そーっと」

240 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 22:59:10 ID:7FvloQ+5
「ねぇ……やっぱり良くないよ、こういうの……」
「いいじゃない、千奈ちゃん。最終的には、唯奈たちのものになるんだから」
とある大型スーパーの一角。
休憩スペースのベンチに座り、コソコソとどこかを見ている二人の少女。
「でもぉ……」
「どうしたの?」
「私たち、ちょっと怪しい人だと思うよ……」
「そう?気にしすぎだよ……あ、お兄ちゃん、何か手に取って見てる」
「……」
「あ、置いた」
「やっぱり、よくないよぉ……」
──────────────────────
……ホワイトデー。
何故かチョコを送る日になってしまったバレンタインデーの
お返しをする日という、もうワケの分からん記念日だ。
日本人は、そういう亜流文化には厳しいらしく、
日本で作られた行事の割りに、結構盛り上がりには欠けるようだ。
それは、このホワイトデー特設コーナーの規模の小ささからも伺える気がする。
「……んー、今一つだな」
とある大型スーパーの一角、ホワイトデーコーナーの前で、
また一つ、商品に目をつけては、却下する。
「あんまり良いものがないなぁ……」
どうもホワイトデー用の商品って言うのは、義理感の強いものが多い気がするな……。
「まぁ、恵さんの分は買わなくて良いのは助かるけど……」
俺の義母、石川恵さんにも、チョコを頂いたことは頂いた。
けど、『アタシにお金と手間かけるぐらいなら、千奈と唯奈にその分を回してほしい』
とのことなので……全力で妹の分を選ばなくてはならなくなったワケだ。

241 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 22:59:45 ID:7FvloQ+5
「……そもそも、千奈にはお菓子あげてもしょうがないよなぁ……」
……とすると、無難なトコだと、ハンカチとかか……?
「でも、この辺にあるようなのじゃ、かなり義理くさいよな……」
それに、女物ってのは、よく分からないしな。
「……ま、唯奈はお菓子でもいいとしても……お菓子の選択が難しいなぁ……」
うーん……
やめやめ、ちょっと休憩だ。何か飲も……。
──────────────────────
またまた、双子。
「わわ!!お兄さん、こっち来るよ!!」
「落ち着いて。慌てると怪しまれるよ。ゆっくり逃げよ」
「う、うん、そうだね」
「行こう」
同じタイミングで振り返る二人。
そこに、
「あ、すいません!」
背後から真司の声が……
同時に体を震わせる千奈と唯奈。
「ど、どうしよう、千奈ちゃん……」
「しょうがないよ、謝ろう?」
またも、振り返る。
すると真司は、
「あ、忘れ物ですよ」
そう言って、唯奈のバッグを差し出す。

242 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:00:29 ID:7FvloQ+5
「え……あ……ありがとうございます」
バレてない!
唯奈はそう確信し、普段より声を高くし、答えた。
「いえいえ、じゃ失礼します」
優しく微笑んで、去っていく真司。
「変装のお陰だね……?」
眼鏡をクイッとあげ、こっそりメガネ千奈に耳打ちするメガネ唯奈。
……これ、素敵です。
「……何だろう、私はすごい罪悪感を感じるんだけど……」
「うん……実は私も……」
「どうしよう?」
「どうしようね?」
──────────────────────
「……んー」
ペットボトルを手に、まだ悩んでいる真司。
「まいったな……時間もなくなってきたぞ……」
浮かない顔でお茶を一口飲む。
そして大きく息を吐く。
「ま……好き嫌いは考えず、二人に似合うか似合わないかで決めることにしよう」
そう決め、立ち上がる真司。
すると、
「お兄ちゃーん!」
唯奈と、少し遅れて千奈がやってくる。

243 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:01:05 ID:7FvloQ+5
「あ……唯奈……千奈も……何で?」
「見てたんですよ、お兄さんのこと」
「え……?えっと……これは……その……」
「誤魔化さなくても分かってるよ。ホワイトデーのプレゼントでしょ?」
「あ、あぁ……でも、まだ……」
「それも分かってますよ、お兄さん」
「そんな情けない顔しないでよ、私たちが選んであげる」
「え……?」
「唯奈が千奈ちゃんのを」
「私が唯奈ちゃんのを選びますよ」
「唯奈たちは、生まれたときからずぅっと一緒なんだから」
「お互いの好みは、よく分かってますよ」
「だから、お兄ちゃんに千奈ちゃんのこと教えてあげるよ」
「お兄さんに唯奈ちゃんのこと教えますよ」
……息ピッタリのコンビネーションに圧倒する真司。
そして、
「うん、じゃ頼もうかな」
「うん!」「はい!」
大きく返事をする二人。
真司は微笑んで、彼女たちの手を優しく握り、歩き出した。

[一応、END]

244 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:01:44 ID:7FvloQ+5
「んー……」
本を見ながら唸る。
すると、
「おにぃちゃん!!何してるのー?」
背後から、俺の妹、沙耶が声をかける。
「ん?あー、本を読んでるんだ」
「どんな本ー?」
「お菓子の本。ほら、ホワイトデーだから沙耶に何か作ってあげようと思ったんだけどさ」
「サヤに!?見せて見せて!!」
「あぁ」
ソファを乗り出してくる沙耶にも見えるように、本を移動させる。
「はわー……」
チーズケーキ、ガトーショコラ、苺大福……
いろんなお菓子をパラパラと見せていくうちに、沙耶の瞳に期待の色が溢れてくる。
「いいなぁ……食べたいなぁ……」
ボソッと呟いたこの言葉に悪気はないと信じたい……。
「でもな、沙耶。俺は、そんなに難しいのは作れないからなぁ……」
「そうなのー?」
「そうだけど……」
さすがに、ヘコむだろうな、沙耶……。
などと考えていたが、
「それならね、おにぃちゃん、サヤ、これがいいよー!」
沙耶が上半身を完全に乗り出し、本の一ページを指差す。
「え……?これでいいのか?」
「うん!」
大きく頷く沙耶。
「んー、じゃあ、今日のおやつはこれにするか……」
「うん!!」
「それなら、材料買いに行かなきゃ」
「うん、沙耶も行くー!!」
──────────────────────

245 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:02:29 ID:7FvloQ+5
「ねぇ、ねぇ!!もういいんじゃない!?」
フライパンの前。
椅子の上に膝立ちし、眺める沙耶が、うずうずしながら尋ねる。
「いや、まだだな」
俺はそんな沙耶の肩を、沙耶が落ちないようにつかみ、フライパンの様子を見守った。
「まだかな、まだかなぁ?」
「そろそろかな。どいて、危ないから」
右手でフライパンの柄を、左手で皿を持ちスタンバイ。
「うん、早く、早くっ!!」
「よっと」
フライパンを皿の上にひっくり返す。
すると、湯気と共に、大きくて厚いホットケーキが。
うむ、自信作だ。
「わぁー!!おいしそー!!」
「だな」
これに、さっき買ったバターとシロップとあとはホイップクリームを乗せて完成。
ココアを添えて、沙耶の待つテーブルへ運ぶ。
「さ、召し上がれ」
「うん、いただきまーっす!!」
一段目のホットケーキを、勢いよくフォークで突き刺し、豪快に食す沙耶。

246 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:03:01 ID:7FvloQ+5
「こらこら、ナイフ使えよ。服汚れるぞ」
「へへー、美味しいよ、おにぃちゃん!」
「……ま、いいか。まだ焼こうか?」
「サヤは良いよー。それより、おにぃちゃん、あーんして」
一切れをフォークに刺して、掲げる沙耶。
「え……?」
「おいしーよ。食べないの?」
「いや、食べるよ」
俺は沙耶から、フォークごと受け取り、ホットケーキを口に運ぶ。
「うん、うまいな」
「ねー?おにぃちゃんの味だよー」
「俺の味……?」
「うん。おにぃちゃん、よく作ってくれたよねー?」
「あぁ……」
作るのラクだしねぇ……。
「サヤは、これがおにぃちゃんの味なんだって思うんだー」
「そっか」
「うん、ありがとう、おにぃちゃん!!」
笑顔でホットケーキを頬張る沙耶。
そうだ、もう一枚焼いてあげなきゃな。

[おしまい]

247 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:04:43 ID:7FvloQ+5
三月十四日。
昼下がりを走る電車はスピードを落とし、とある大きな駅に滑り込む。
俺は窓から、駅名を確認すると、バッグを掴んで電車から降りる。
「……意外と早いもんだな」
時計を見ながら呟いた。
ほとんど来た事のない駅を、案内板に従い改札を出た。
……そこまではよかったが……
「……サラの家、知らないぞ」
知らないんですよ。
サラがいつもやるみたいに、驚かせようと思って、何の連絡もしないで、ここまできたのはいいけど……。
「仕方ねぇ、電話して迎えに来てもらうか」
そう思い、携帯電話をポケットから取り出し、電話をかける。
プルルルルルル……
呼び出し音が数回鳴った後、
「え……!?マサト!?」
サラの声が聞こえた。
しかし、それはケータイからではなく……
「こんにちは、マサト」
サラが、俺の目の前に現れる。
「え……?サラ……?」
「ええ、久しぶりね。こんなところでどうしたの?」
「あ、ほら、ホワイトデーに会うって約束だろ?」
「来てくれたってこと?」
「学校早く終わったからね」
「そうなんだ」
サラがちょっとだけ俯く。

248 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:05:38 ID:7FvloQ+5
多分、照れ隠しなんだろうと思うと、嬉しくなった。
「立ち話もなんだからさ、喫茶店でも行こうよ。何か良いところ知ってる?」
「うん、一度行ってみたいとこがあったんだ。そこでいい?」
「任せるよ」
「そう、じゃあ、行きましょうか」
サラに従い、全く知らない道を歩く。
ときどき振り返り、何か言うわけでもなく俺の顔を眺めるサラが何か可愛かった。
──────────────────────
「マサトは何にする?」
「……」
今まで我慢していたが……もう限界みたいだ。
「ここ……喫茶店じゃなくて茶店じゃない!?」
いかにもな和風建築物の中で突っ込みを入れる。
「いいじゃない、何でも」
サラは何食わぬ顔でお茶を飲んだ。
「ま、まぁ……そうだけど」
「でも、驚いたわ。マサトがこっちに来るなんて」
「俺も。まさかあんな偶然があるなんて」
「……運命の赤い糸……かな……?」
「え?何だって?」
「い、いえ、聞こえなかったらいいの!!」
顔を赤らめ、手をパタパタ振るサラ。
「そう……ま、そういうの慣れてるけど……」
俺もお茶を掴み、飲む。
「ところで、マサト、聞きたいことがあるの!!」
「あぁ、何?」
「私に、何をくれるの?」
「は……?」

249 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:07:10 ID:7FvloQ+5
「日本だと、バレンタインデーのプレゼントはチョコレートでしょ?じゃあ、ホワイトデーは何なの?」
「あ、知らなかったのか?」
「いろいろ聞いてみたんだけど、クッキーだったり、マシュマロだったり、キャンディーだったり……
 ハンカチとか下着とか、諸説あるみたいだったの」
「ほぅ……」
「だから、マサトは何を持ってくるのかなって」
気体に満ちた瞳。
「……え、何をって……何も持ってないけど……?」
しょうがないよ、学校帰って急いできたんだからさ……。
「え……えー!?何で何で!?楽しみにしてたのに!!」
「いや、俺も何が良いかわかんなかったし……」
「そんな……」
肩をガックリ落とすサラ。
……そんな楽しみだったのか……。
「でも……そのかわり、ここは俺がご馳走するから、それで許してくれないか?」
「……ま、いいわ。だけど……いっぱい食べるからね?」
「お手柔らかにお願いしますよ……」
「少しは拒否しなさい、冗談よ」
「何だ、冗談か……」
「せっかく来てもらったのに、そんなことしないわよ」
「そんなに嬉しかったか?」
「そ、それはそうよ……ただでさえ、一ヶ月だったんだから」
「そっか、やっぱり来てよかったよ」
「ええ、ありがとう、マサト」

少々幼い笑顔を見せるサラ。
ま、これを見れただけでも、ここに来る価値はあったんじゃないかと思う。
あとで、忘れずにサラの家の場所を聞かないとな。

[終]

250 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:08:01 ID:7FvloQ+5
三月十四日、いわずと知れたホワイトデーですよ。
「ただいまー」
もはや暗くなった時間、俺は大きな紙袋を下げて、玄関のドアを開ける。
「あ、兄さん。遅かったですね」
そんな俺を出迎えてくれる妹の未来。
「おぅ、ちょっといろいろとねー」
靴を脱ぎながら答える。
「何ですか?その荷物?」
「これ?これは、ホワイトデーのプレゼント」
「兄さん、チョコ、一杯もらったんですねぇ……」
「え?あぁ、これ、全部未来ちゃんのだよ?」
「そんなに……ですか?」
「つっても、直接未来ちゃんにあげるワケじゃないけどね」
「……?」
「ま、あとの楽しみってことで」
「そうですか……ま、楽しみにしておきます」
「じゃ、早いところご飯にしよう。用意は?」
「はい、用意できてますよ」
と言うわけで、未来と二人、美味しそうな料理の並ぶ食卓につくのでした
──────────────────────

251 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:08:38 ID:7FvloQ+5
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
空になった食器の前で、手を合わせる二人。
「さてと……」
食器を片付けるため、立ち上がる未来。
「あ、俺も手伝うよ」
同様に立ちあがる俺。
「え?いいですよ、別に」
「いいからいいから。二人でやって、早く終わらせちゃおうよ」
「そうですか。じゃ、お言葉に甘えますね?」
「おー。任せとけ」
腕まくりをして、洗い物の山に挑む俺。
黙々と、未来が洗った食器を濯ぎ、拭いていく。
「やっぱり、二人でやると早いですね」
数分後、洗い終わった皿の前で、手を拭きながら微笑む未来。
「だろ?さ、お楽しみといこうかな」
「ついに……」
「そうそう。はい、これ」
俺は先ほどの紙袋から、箱を一つ取り出し未来に手渡す。
「何ですか?」
「入浴剤。なかなかお高いですよ、それ」
「っていうか、何で……?」
「いつも頑張ってる未来ちゃんに、たまには、一番風呂を楽しんでもらおうと思ってさ」
「へぇ……」
「俺のことは気にしなくても良いから、のんびり入ってよ」
「兄さん……」
「ん?何か問題でも?」

252 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:09:16 ID:7FvloQ+5
「いえ……ホワイトデーには別に何もいらない、なんて思ってたんですけど……
 いざもらってみると、何だか嬉しくて……えへへ……」
恥ずかしそうに微笑む未来。
あぁ、もう!!ちくしょう!!可愛いぜ!!
「じゃ、兄さん。遠慮なく、兄さんからのプレゼント頂きますね?」
「おぅ、ごゆっくり」
よほど嬉しかったのか、部屋を出て行くとき、小さく手を振る未来。
それを満足げに見送る俺。
思ったより順調だなぁ、おい。
──────────────────────
「ふぅ……」
お風呂の中で大きく深呼吸をする。
「兄さんが言うだけのことはあるなぁ……」
肩までお湯につかりながら、良い気分で呟いた。
凄くいい香りだし、お肌もツルツルしてきた気がする。
そもそもこんなに長風呂をしたのは久しぶりだ。
何だかリラックスしすぎて、眠くなってきてしまった。
「あとで、兄さんにお礼言わなくちゃ」
「いや、礼には及ばないぞ」
後方から、兄さんの声。
「あ、兄さん……いたんですか……」
「ああ、ちょっと様子を見に来た」
「いいですよ、これ……すごく気持ち良いです……」
「そっか。お気に召された様子で、光栄ですよ、姫」
「ふふっ……」
「何だよ?」
「恥ずかしいんですけど、さっき私、お姫様になったみたいだな。って思ってたんですよ。
 それが、可笑しくて」
「んじゃまぁ、せっかくだし、もうしばらくやりますか。お姫様ごっこ」

253 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:09:51 ID:7FvloQ+5
「……じゃ、お願いしちゃおうかな」
「了解。お姫様」
「兄さんは何役ですか?」
「王子……って柄じゃないから、家来かな」
「そうですか、お願いしますね」
「お任せください。姫」
「ふふっ。頼りにしてますよ」
……お風呂は人を変えるようです(立花未来、後日談)
──────────────────────
ベッドに横になる未来。
彼女の透き通るような真っ白な肌に、野獣のごとき俺の手が、獲物を求めるかのように這い回る。
「あっ……兄さん……そこは……」
俺が未来の敏感な部分に触れるたびに、未来は可愛らしい悲鳴をあげた。
その声が、俺を一層やる気にさせるのだ。
「気持ち良い?」
俺はクスリと笑って、さらに彼女を快楽へと誘うべく、さらに力を込める。
「あっ……はい……いいです……んっ……」
未来は締りのない顔で、ただ体に溢れる快楽に身をゆだねている。
そんな彼女に、俺は……

254 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:10:43 ID:7FvloQ+5
「マッサージぐらいで紛らわしい声出すなよ。親父が聞いたら卒倒するぞ」
正解:マッサージ。
「あ、すみません……でも、気持ちよくて……」
「それだけ疲れてるってことだね」
「やっぱりそうなんですか……」
未来の背筋をふにふに。
「まぁねぇ、あれだけ毎日頑張ってりゃ、当然じゃない?」
「あはは、何だかんだ言っても結構大変ですからね」
未来の腰をもみもみ。
「ま、好きでやってるのはわかるけど、たまには休まなきゃってことだね」
「そうですね……」
未来のお尻をじー。
「ま、そんな暗くなるなよ」
「そうですね……」
未来のふとももをぷにぷに。
「未来が無理しないように。未来が頑張り過ぎないように。そのために俺がいるんだろ」
「兄さん……」
「俺は未来の兄貴なんだからな。たまには甘えてもらわないと」
「ふふっ、覚えておきます」
微笑む未来。

255 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:11:19 ID:7FvloQ+5
そんな未来の足をなでなで。
「ねぇ、兄さん?」
「どうした?」
「今日はありがとうございます」
『いや、こちらこそ、いい思いをさせてもらったよ!!』
とは、さすがに言う気にならなかった。
「なに。こんなんでよければ、いつでもするさ」
当然下心有りで。
「はい、お願いしますね……あ、そうだ。兄さんにもやってあげますよ、マッサージ」
「おいおい、それじゃ、意味ないだろ?」
「いいじゃないですか。ほら、寝てください」
「んじゃ、お願いしようかね」
「はい」

ロマンティック、とは程遠いが、ま、こういうホワイトデーでも良いんじゃないのかな。
なんて、未来にマッサージされながら思う。
というより、未来と楽しめりゃ、何だっていいのかもしれないな。

[おわり]

256 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/14(火) 23:12:34 ID:7FvloQ+5
とにかく時間がなかったです……でも、頑張ることは頑張りました……結果は伴ってないけど……

257 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/14(火) 23:39:50 ID:+WPFg8Bn
いやGJだ。
芸風広いなー。

258 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/15(水) 12:56:21 ID:SBmPuSZl
Gj! 
…ちょっとしたミスにより遊星さんのまとめサイトが見れなく…
 誰かおたすけを!

259 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/15(水) 13:34:46 ID:7zsPNpDG
>>258
www.geocities.jp/you_say712/

そういや、ここには貼ってなかったっけねぇ

260 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/15(水) 17:10:50 ID:SBmPuSZl
ゆ、遊星様!?ありがとうございます(ノДT)
 それとsage忘れスマソ

261 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/17(金) 11:43:10 ID:JbCl7rQk
海中様、遊星様、GJです!

海中様>エロいw
面白かったです!!

今回はギャグですね

遊星様>ヤバいっ、サラ萌えました!
サラはツンデレかな?
プレゼント(´・ω・`)

サラ&双子最強w

262 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/03/19(日) 19:52:35 ID:isOInMJv
待ちに待った文化祭当日。いつもの何倍もの活気と熱気を帯びた学園に弾んだ声が飛び交う。
俺もそんな空気を人並みに楽しんでいた、筈だったのだが

「はい、オーダー入りま〜す!!イチゴクリームにバナナチョコ一つです!!」
「・・・はいはい」

何故か屋台でクレープを作っていた。・・・明らかに何かが間違っている。

「・・・あのさ、なんで俺が作らなくちゃならないワケ?」
「それだけ上手く作れる人はそういないよ、あたしだって無理だもん」
「その才能を使わない手はないワケよ」

強靭な笑みを見せるクラスメイト達にたじろぐ俺。
ほんの少しクラスの出店状況を見てみようと思ったのが運の尽きだった。
連れ立って歩いていた筈の仲間は知らぬ内に姿を眩ませ、気が付けば俺一人拘束。
あまりにも無情な展開だが、そんな訳で今現在屋台を切り盛りしている。

「くっ、くそ・・・全員トンズラとは友達甲斐の無い奴等だ!!」
「いいのよ、男子で当てになるのって言えばキミくらいのもんだし」
「屋台造ってクレープまで作るってか、村一番の働き者だな俺は」
「まぁまぁ、これでも私達ほんとに感謝してるんだからさ」
「うん、実際、村一番の働き者だよキミは」

なんとなく上手く扱われている感じがあるが今更その辺りは深く考えまい、虚しいだけだ。
愚痴を零しつつも手早くクレープを仕上げていく。その所業に周りから漏れる感嘆の声。

263 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/03/19(日) 19:54:07 ID:isOInMJv
「ほい、出来上がり」
「ほんと上手だよねぇ、ひょっとしてどっかクレープ屋でバイトしてたとか?」
「流石にそれはないな・・・まぁ、家で何度か作った事があるからさ」
「ひょっとして、巴ちゃん直伝だったり!?」
「え?ああ・・・そんな所」

目を輝かせて問いかける女子を前に俺は曖昧な作り笑いで答える。
当然、巴と共に培った技術なのだが教えたのは俺だったりするんだよな。
まぁ、それを言った所で誰も信じやしないとは思うが。
男子厨房に入るべからずという言葉はもはや昭和の向こうに霞んで見える。

「・・・ところで、昼になったら俺は抜けるからな、流石にその辺でご勘弁を」
「ありがとうね、お陰で助かっちゃったよ」
「一番忙しい時に助っ人だったからね、ほんとありがとう!!」
「じゃあさ、どうせだったら後で私達と文化祭見て回る?お詫びに奢ったげるから」
「う〜ん・・・気持ちだけ受け取っておくよ」

割と本気で言ってくれていた様だがやんわりと断っておく。
女の輪の中に男独りはキツ過ぎる。公園へ遊びに連れ歩くチワワじゃあるまいし。

「あっ!!いらっしゃいませ!!」
「・・・うっ!?な、なんか嫌な予感が・・・」

そんな事を考えて苦笑いしていると一オクターブ高い接客の声が聞こえてくる。
ほぼ同時に背中に感じる悪寒。この感覚、まさか・・・振り向いたその先にいたのはやはり氷の女帝、もとい我が妹。

264 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/03/19(日) 19:55:44 ID:isOInMJv
「・・・イチゴチョコひとつ」

大きくは無い、むしろ囁く様な、それでいてはっきりと聞こえる独特の澄んだ声。色めき立つ周りとは少し違う緊張が俺に走る。
長い付き合いで大体解るんだが・・・妹様は大変ご機嫌斜めらしい。

「兄さん、楽しそうだね」
「えっ?そ、そうかな・・・ははっ」

急にこちらに向けられた穏やかだが矢の様に刺さる視線に動揺して作り笑いもままならない。
兄さんという完全に余所行きの言葉もやたらと深く胸に突き刺さる。
背筋まで凍りつく瞳の奥にある絶対零度の世界。一体何がこの子をここまで駆り立てるのか?

「はい、イチゴチョコです」
「・・・ありがとうございます」

クレープを受け取ると軽く会釈して悠然と去って行く巴。そんな巴の颯爽たる後姿を惚けた顔で皆が見送る。

「ほんと素敵よねぇ・・・巴ちゃん」
「うんうん、財布を取り出す姿もカッコイイっていうか」
「年下とはとても思えないよ、ホント」

頬を染めて後姿をうっとりと見つめるクラスメイト。数秒後、なんとはなしに俺に品定めする様な視線が集まる。
所詮、体は一つだというのに複数の視線で貫くとはなんという仕打ちだろうか。

「・・・すみませんね、どうせ俺は面白くもなんともないただの凡人ですよ」
「い、いや、そんなんじゃないんだよ!?そんな事は無いから、ねっ」
「そ、そうそう、いいひとだもんねぇ」

鑑定の結果はいい人かよ・・・まぁ、自分でもお人好しかその辺りだろうとは思うが。
それよりも巴の機嫌がすぐに直ってくれればいいのだが。
遠くになった背中を見ていると自然と深い溜め息が漏れ出てしまう俺だった。

265 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/03/19(日) 20:19:20 ID:isOInMJv
てな訳で前回、年の終わりに遊星神のご神託を承ったのでコテ&トリップ付けた前スレ260です。
相も変わらずのスローペースに誰も覚えていなくとも仕方がありません。
一応、話は去年前振りしていた文化祭話の続き。
バレンタイン話もホワイトデー話も書いてはいますが完成したのが今し方。
来年投下しましょうかね・・・生きてれば。

>海中様
SF的設定を活かしたお話は流石の一言。
というか思わせ振りな展開が上手い!!
>223様
悲しめのお話ですね、続きがとても気になっています。
期待して待ってますよ。
>遊星様
しっかりバレンタイン、ホワイトデー共に書き上げるとはお見事です。
堪能させて頂きました、羽音ちゃんが可愛い!!何気に精神年齢高い梨那ちゃんがイイ!!

266 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/03/21(火) 08:33:42 ID:udjHyFTw
わーい、260様、改め夢ノ又夢様がいらっしゃったぞー!
続きが楽しみだー!

267 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/04(火) 22:24:48 ID:09xp6MVE
保守保守っと。

にしても、アイデアがわかないなぁ……。

268 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2006/04/07(金) 15:31:46 ID:441Fyv+f
>>夢ノ又夢さん
コテトリおめですー
いつもひっそりと楽しませてもらってますですw

>>遊星さん
料理にお酒を入れすぎて酔っ払って暴れまくる妹…言ってみただけです(´・ω・`)
遊星さんは書いてる量が量だから仕方ないですよ。

それにしてもこの時間のなさは一体…
次のが書けるようになるまで名無しで潜伏するかも知れないです。

269 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/04/12(水) 01:59:15 ID:5Ar0SzUf
ひそかに期待あげ

270 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/17(月) 21:29:28 ID:ZDUMoLOm
意思のある静寂に包まれた体育館に司会の声が響き渡る。舞台袖から現れる数人の生徒達。
一人一人司会者に丁寧な紹介をされ大きくお辞儀してみせる。文芸部の詩の朗読がもうすぐ始まる。

「・・・お兄ちゃん・・・」

渡せなかったチケット、隣の空席。頭に過ぎるクラスメイトに囲まれて照れた笑顔のお兄ちゃん。
先程の光景を思い出すだけで秘めかねた痛みが胸にチクリと突き刺さる。

「・・・カッコ悪い・・・デレデレして」

きっと優しいお兄ちゃんの事、忙しそうなのを見かねて助け舟を出したに違いない。
頭でそう解っていても心は納得してくれない。メトロノームの様に揺らめくアンバラスな心と理性。
やがて耳に聞こえてくる詩の朗読、どうやら気付かぬ内に朗読は始まっていたらしい。
綺麗に着飾られた言葉を聴く度に思い知る、ボクにはこんな風に伝えたい言葉が無い事を。
ボクは人に言われる程、器用な方じゃない。届けたい想いは沈黙の渦の奥にある。
お兄ちゃんへの想いは嬉しい事も悲しい事も、時に大きくなる戸惑いや苛立ちだって抱え込む。
例えそれがどんなに辛くてもそのひとつひとつが本当の気持ち、偽りの無い心。
ホントはちゃんと解ってた・・・解ってるんだよ、お兄ちゃん。

「お待たせしました、次は相川梨那さんです」

泣き虫だったボクが元気にここまでこれたのはお兄ちゃんが傍に居てくれたからだって。
繋いだ手の温もりがボクを支えてくれていたんだって。
瞼を閉じればいつでも目の前に広がるずっと追いかけ続けるお兄ちゃんの大きな背中。
耳元からは落ち着いたメロディに乗せて朗読される詩が聞こえてくる。
紡がれるシンプルな言葉達が胸を打つ。それはきっと心からの気持ちだからなんだと思った。
こんな風に自分の想いを伝える事が出来ればどんなに素敵だろう。

271 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/17(月) 21:30:25 ID:ZDUMoLOm
「心からの気持ちをありのままに・・・」

ボクは考えすぎていたのかもしれない。そう思うとなんだか切羽詰っていた自分が余計に滑稽に思えてしかたがなかった。
気持ちは言葉にしなきゃ伝わらない、そんなお兄ちゃんの真摯な言葉を不意に思い出す。
ボクも伝えよう、欲しいのは思い出じゃない、今この時なのだから。
朗読を終え、割れんばかりの拍手に真っ赤な顔で応じる彼女を見届けてボクは席を立つ。

「あれ?最後まで聞いていかないんですか?」
「・・・舞台の準備があるから」

それに相沢先輩の詩の効果で体育館が甘い空気に包まれ始めている。
こうして入り口の男の子に呼び止められた今も場内の熱に浮かされたカップルが自分達の世界に入浸る。
もっと問題なのは数名の女子の妙な熱視線を背中に感じる事、これ以上ここに留まるのは危険を伴う。
一人に告白されでもすれば矢継ぎ早に告白されかねない、それでは卒業式の二の舞だ。
たまにお兄ちゃんから冷やかされるけど女の子の恋焦がれる人を見つめるかの様な視線を浴びるのはやっぱり苦手・・・
かといって男の人にそんな視線を送られるのも正直、嫌だけど。

「そうですか、あ、あの・・・舞台頑張って下さいね!!」
「ありがとう・・・それより相沢先輩に伝えてくれるかな、本当に素敵な詩でしたって」

後ろを振り返りもう一度あの詩の主を見やり、そっと心の中で呟く。
(あなたの想い、どうか想い人に届きますように)
そんな祈りを捧げながらボクは騒がしくなってきた会場を後にした。

272 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/17(月) 21:42:46 ID:ZDUMoLOm
まずは遊星神に心からの謝罪を。
折角文化祭話が被ったならこれくらい重なってもいいかなと。
怒られても文句言えません。

>すばるさん
なにやらお忙しそうで。
すばるさんssも気長にお待ちしております。

ちなみにシチューに入れる赤ワインに酔って迫りまくる巴さん
なんて話も書いてたりしたのですが無駄にえっちいので没にしましたw
流石に裸エプロンはなぁ・・・

273 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/17(月) 22:50:58 ID:XcLSeSYj
>夢ノ又夢大先生様
いやいやいやいやいや!!
怒るなんてとんでもない!
良いもの読めて、しかも拙僧のキャラを出した頂くなんて、感無量とはこのことですよ!!

>流石に裸エプロンはなぁ・・・
は、裸エプロンっ!?
……くそ……今、エロスレがあれば!!w

274 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:00:33 ID:idYqj/jC
放課後。
校門の前に、一人の少女が立っている。
スラッと伸びた足、制服の上からでも分かるスタイルの良さ、大きな瞳と、日本人にしては高い鼻。
普通と生徒と同じはずの制服すらも、彼女が着ると、1ランク上の服のように見える。
彼女は、胸の下で、小さく腕を組み、何かを待っていた。
「ふぅっ……」
時計を見て、小さなため息。
そのため息にも、魅力を感じてしまう。
「あ……」
小さな声。
しかし、そこには大きな喜びが込められていた。
彼女は振り返ると、品のある笑顔を一人の男に向ける。
……その男、というのが何故か俺なワケだが……。
「お兄ちゃん!!」
少女が─まぁ、ご察しの通り俺の妹なんだけど─サラサラの髪を風に靡かせながら駆けてくる。
さっきまで無風だったと言うのに……風までが彼女の味方だ。
「やぁ、葵。待ってたのか?」
俺は彼女のオーラに圧倒されながら、何とか会話を進める。
「うん、遅かったね?」
そんな俺の心など全く知らず、フランクに話しかけてくる葵。
「ああ、まぁ、テスト近いから」
「勉強してたの?」

275 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:01:22 ID:idYqj/jC
「いや、クラスの女の子に数学を教えt……」
「……ちょっと蚊が」
ギュ。
頬に電撃が走った。
「痛い痛い!!」
「我慢して」
涼しい顔をして、さっきよりも力を強くする葵。
指はあんなに細いのに、どこにこんな力が……!?
「ギブギブギブ!!俺がなんかしたなら謝るから!!」
まわりの生徒が俺たちを見ている。
しかし、そこは葵。
凄い力で俺の頬をつねっていても、ちょっとふざけているようにしか見えないのだ。
「……やだなぁ、お兄ちゃん、大げさだよぉ?」
そんな俺の願いに、ニコリと微笑む葵。
……鬼だ、この人……。
「痛いって!!」
限界に達した俺は、仕方なく葵の手を振りほどく。
当の葵は……
「さ、早く帰ろうよ……」
作り笑いを見せた後、捨て台詞を吐いて、先に歩いていく葵。
「……俺、何かした?」
俺はまだ痛む頬を押さえながら、こうなった原因を探る。
が、特に思い当たらない。
つまり、妹さんはご機嫌斜め、何か嫌なことがあったということだろう。
というか、俺に八つ当たりとは何とバイオレンスな……。
とりあえず、葵を追って駆け出した俺。
周りの人々の俺に対する視線が非常に冷たいよ……。
───────────────────────

276 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:02:14 ID:idYqj/jC
「お兄ちゃん……」
帰り道を二人で歩いていると、穏やかな声で葵が俺を呼んだ。
「ん?」
「反省してる?」
「は……?」
反省?何で?
「してないか……」
呆れた。とでも言いたげな葵。
「……葵ってさ」
「え?」
「いつもそうだよな。俺と兄妹になったときから、ずっと」
「何が?」
「よくわかんないところで怒る」
「……お兄ちゃんも変わってないよ」
「そりゃそうだ」
「何が?って聞いてよ」
「何で……」
……殺気!?
「な……何が!?」
「……鈍感」
「まぁ、自分でも察しの悪い人間だとは思ってるけど」
「ホントだね」
「だろ?……って、おい!!」
「今、何で怒ってるかも、分かってないでしょ?」
「……俺に関係あるのか?」
「さぁね」

277 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:03:00 ID:idYqj/jC
「……出会って、二年になるけど、葵のことはさっぱりわからんな……」
「一気に全部分かっちゃったら、つまらないでしょ?」
「性格悪いよ、葵……」
「……そうかもね……」
「え?」
「あ、あはは!!なんでもないの!!さ、帰ろ!!」
ぎこちない笑いとともに、急に早足になる葵。
「やっぱ、わかんねぇ……」
一人、そう呟いてみた。
───────────────────────
ゴロゴロと寝転がりながら、雑誌のページをめくる。
幸せってこういうことを言うのかなぁ。などと間の抜けたことを思った瞬間、
「ねぇ、お兄ちゃん」
葵が俺の背後に現れる。
「何?」
「数学、教えて?」
数学……。
「先生すらも一目置くような優等生の葵さんが分からないような問題、俺に解けるわけ無いだろ」
目を離さず、雑誌を読み続ける俺。
「で……でも……」
「何?」
「……」
黙ってしまう葵。
「どうした……?」
俺が後ろを振り返ると、

278 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:03:46 ID:idYqj/jC
「お兄ちゃんのバカ!!」
「うぉっ!?」
問題集を俺の顔面に驚くほど正確に投げつけ、何処かへ走っていく葵。
「……何なんだよ、アイツは……」
床に落下した問題集に目をやる。
「あ……」
真っ白な問題集。
でも、ところどころ消しゴムのカスや、消し残りが見える。
明らかに、一度解いた問題を消した後。
「……何で……」
葵が何を考えてるのか分からない。
でも、これは聞いたほうが良いような気がした。
俺は葵の問題集を閉じ、それを持って、葵の後を追った。
───────────────────────

279 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:04:35 ID:idYqj/jC
「あ……」
それは、運命の出会いというには、あまりにも平凡だった。
焦って転びそうになった私を、助けてくれた男の人。
「ありがとうございます」
「いえ……」
私が礼を言うと、小さくそういってまた歩き出す青年。
別にそのときは、何にも思ってなかったのに。
だけど、次の日も、その次の日も、彼のことが何故か頭から離れなかった。
いつも目で追って、いつも同じ車両に乗ろうと努力した。
それで分かったのだが、彼は本当に優しかった。
本当に、誰にでも。
お年寄りが乗ってくると、黙って席を立ったり、
満員の電車の中で、本人にも気付かれないほどさりげなく女の子を守っていたり……。
私にしか見えていない、彼の優しさ。
いつのまにか下心のある優しさにばかり触れていた私には、彼は凄く暖かかった。
……そして、いつのまにか、彼への想いは募っていた。
だから、お母さんが再婚して……あの人と兄妹になるって知ったときは、本当に嬉しかった。
運命の出会いはちゃんとあると思った。
ワガママなのは分かってる。
けど、私はアナタの特別になりたい……。
アナタの優しさを独り占めにしたい……。
だけど……
───────────────────────

280 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:05:17 ID:idYqj/jC
「それが、この有様か……」
「何がだよ?」
そう呟いた、葵の背中を見つけ、声をかけた。
「……ったく、まさか駅にいるとは思わなかったよ」
葵の隣に座る俺。
「……嫌だな……顔合わせたくなかったのに……」
葵は驚いた様子も見せず、前を見たまま、答える。
「悪かったな……」
「……やめてよ」
「え?」
「何も分かってないのに、謝らないで……」
「……スマン。確かに、口先だけってのは良くないな。だけど……」
「どうしてこうなったのか分からない。ってことでしょ?」
「……そうだな」
「ホント鈍感……」
「今更どうにかなるもんじゃない。諦めろ」
「あ、開き直った……」
「しょうがない。やっぱり、俺には葵のことは分からないんだ」
「……そっか」
立ち上がる葵。
そして、振り返って

281 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:06:04 ID:idYqj/jC
「聞きたい?」
「……言いたいか?」
「質問を質問で返さない」
ビシッと人差し指を差し出す葵。
……無理してるのはなんとなくわかる。
「……じゃ、聞きたくない」
「うん、それがいいよ」
憂いを帯びた微笑み。
「何だそれ……」
「私もあんまり知って欲しくないから」
「……何で?」
「うーん……」
少し考えるように俯く。
「……お兄ちゃんには、純粋なままでいて欲しいかな」
「俺が?純粋?」
「そうだね」
「ま、何でも良いけどさ」
「さ、帰ろう」
手を差し出す葵。
「あ、ああ……」
俺もゆっくり立ち上がり、歩き出す。
すると、
「ねぇ、お兄ちゃん」
「ん?」
俺が振り返ると、葵は立ち止まったまま。
「足が痛い」
「どうした?」
「わかんないけど……痛い」
「歩けるか?」
「無理」
「……しょうがない、誰かに迎えに……」

282 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:06:52 ID:idYqj/jC
「お兄ちゃんが運んで」
「……え?」
「ダメ?」
「まぁ、いいか」
「ありがと」
礼を言ってこちらに歩いてくる葵。
「今……歩かなかったか……?」
「気にしない気にしない。さ、お願いね」
両手を前に突き出す葵。
俺が背中を向けると、
「前ぇ」
「……はいはい」
仕方なく、彼女を抱きかかえる。
葵はしばらく驚いていたが、嬉しそうに
「……ふふっ」
「何だ?」
「ちょっと見直した」
「何を?」
「内緒」
「分かんねぇ……」
「じゃ、一つヒントをあげるよ。目、閉じて」
「ん?あぁ……」
いわれるがまま、少し足を止め、目を閉じる。
「これが、私の気持ち、だよ?」
何だか含みのある言葉と共に、なにやら頬に暖かいものが……
「なにをした?」
「クスクス……さ、歩く歩く」
「……わかりましたよ」

情けない話だが、ヒントをもらっても何だか分からない。
まぁ……それはそれで葵も嬉しそうなので、今日のところはよしとしようか……。
──────────────────────

283 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/21(金) 23:08:38 ID:idYqj/jC
鈍感兄と嫉妬妹。というつもりで書いていたけど、後半何が何だか……。
実は、夢ノ又夢先生みたいなのを書きたかった。というのは、僕とキミだけの秘密だ。

284 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/04/23(日) 01:09:28 ID:vKH8l8Q7
GJ!
兄の鈍さがイイ!!

285 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/04/28(金) 01:03:46 ID:zP/bBIM8
そろそろほしゅ?

>>283
いい感じだと思いますよ〜

286 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:33:38 ID:VoxOMLZP
「あの・・・先輩、おはようございます」

通い慣れたいつもの通学路でふと見知らぬ女の子に声を掛けられる。
こういう展開、男なら誰しも淡い期待が湧き上がるというもの。伏せ目がちな視線、少し恥ずかし気な顔。
これはもしかして・・・

「巴さんは一緒じゃないんですか?」

・・・俺はオマケかい。
やはりそうそう上手くはいかないらしい。微妙に泣きたい気持ちを笑顔で隠したその時、

「ええっと、今日は俺が先に出てきたから多分・・・ぐっ!?」

唐突に物凄い力で後ろから襟首を掴まれる。その先にあるのは閻魔様も裸足で逃げ出す氷の瞳を持った我が妹。
マズイ・・・完全に誤解している。
勢いに立ちすくむ女の子に射抜く様な視線を浴びせ無言のままぐんぐんと俺を引き摺り歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ておい!!落ち着けってば!!」

スイッチの入ってしまった以上、そう簡単には収まらない巴。
あ然としたまま一人残された女の子に先程より二割多めの作り笑顔で手を振る俺だった。

287 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:34:30 ID:VoxOMLZP
「まったく、ボクがいないとお兄ちゃんはこれなんだから!!」
「はいはい」
「あんな子にデレデレしちゃって・・・カッコ悪いよ!!」
「はいはい」
「騙されて酷い目にあうのはお兄ちゃんなんだからね!!」
「・・・あー、はいはい」

不機嫌度MAXで捲くし立てる妹に半分呆れつつ適当に相槌を打つ。それにしても何故こんなに叱れなければならないのか?
とはいっても下手に反論しようものなら倍返しが待っているし・・・
この勢いと説教では下手すれば遅刻になりそうだな。釈然としないまま目の前に広がる入道雲をぼんやりと眺める。

「お兄ちゃん!!ボクの話を真面目に聞いて!!」
「聞いてるよ、それで何が言いたい訳だお前は?」
「八方美人をなんとかしてって言ってるの!!」
「俺のどこが八方美人なんだよ」
「誰にでも優し過ぎるから八方美人なの!!」
「んなコト言われてもなぁ・・・・・・ふぁ〜あ・・・ぐっ」

考え込むフリして両腕を組むと堪え切れずに漏れ出す欠伸。その瞬間、互いの顔が白い手で無理やり近づけられる。
真っ直ぐに俺を見つめる水鏡の如く透き通った瞳。可憐さと凛とした強さを湛え、潤んだその瞳に前に思わず息を呑む。

「お兄ちゃん・・・ボクはホントに心配してるんだよ?」
「い、いや、それは分かってるんだが」
「・・・心配なんだよ、お兄ちゃん、人が好すぎるから・・・」

288 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:35:22 ID:VoxOMLZP
凄みを効かせたと思うと急に言葉を途切らせて巴は不意に表情に影をつくる。
毎回思うんだがこの不安気な顔は反則すぎる。俺に落ち度は無い筈なのに罪悪感に囚われてしまうぞ、ホントに。

「ま、まぁ・・・なんと言うかさ、優しさが有り余ってるんだよ、きっと」

結局、出てくる言葉は言い訳にも成りえない言葉だけ、更に沈み込む巴が不安になってそっと横目で顔を盗み見る。

「・・・優しさが余ってるのなら・・・全部ボクにくれればいいのに・・・」

そっと呟いた、でもバッチリ聞こえてしまった独り言。
・・・これ以上、優しくしてくれと?
(まったく、何言ってんだか・・・)
笑いを堪えながらポケットから小銭入れを取り出し、脇にある自動販売機に向かう俺。

「・・・よっと、ほら、飲みな」
「・・・えっ?」

突然差し出されたスポーツドリンクに目を白黒させて戸惑う巴。そんな子供っぽい仕草が面白くて俺はつい吹き出してしまう。

「あははっ、そんなに驚く事ないだろ?遠慮せずにどうぞ」
「・・・」

さては先程まで説教していた手前、素直に受け取っていいものか悩んでるな。中途半端に差し伸ばされた手はそんな巴の無言のSOS。
周りの人は皆、巴は感情を顔に出さないとか気難しいとか言うがこれ程に解りやすい子もそうそういないと俺は思う。
まぁ、他人には意識してそうしている節もあるがそれが逆に人気を高める一端になってたりもする。
冷静であって冷徹ではない、そんな所だろうか。

289 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:36:18 ID:VoxOMLZP
「そんだけ喋れば喉も渇いただろうし・・・はいよ」
「・・・ありがとう、お兄ちゃん」

巴の迷いを笑い飛ばす様に細い指にドリンクをそっと重ねる。
その瞬間、肩の力が抜けてしっかりと握り返してくる。プルタブを開けて一口付けると大きく息を吐く。

「まぁ、あれだな・・・これも俺の優しさだ」
「・・・120円の優しさだけどね」

勝ち誇った顔した俺。隣で肩肘付いて呆れかえった流し目の巴。
緩やかに流れる朝の冷えた風が巴の髪をサラリと靡かせる。

「・・・ぷっ、くくく」
「うふふっ」

僅かな沈黙が流れてどちらともなくこぼれ出す笑顔、無邪気な笑い声は張り詰めた時を溶かしていく。
ふたりして顔を見合わせ笑い合う、他愛のない事で、子供の頃と変わらない距離で。

「ふふっ、ホントにお兄ちゃんは変わらないね」
「さて・・・変わらないのか変われないのか、ま、どっちにしても俺は俺だからな」
「ボクは思うよ、お兄ちゃんはお日様だって」
「ありゃ、俺は太陽なのか?」
「そう、誰の元にも分け隔てなく降り注ぐ優しいお日様」
「あはは、俺がお日様で巴がお月様って所か」
「・・・月・・・うん、そうかもしれないね」
「いや・・・そこは笑う所だろ、冗談なんだから」
「・・・月は・・・お日様が無いと輝けないんだ・・・お日様に近づく事も出来ない、ただ、違う軌道を廻り続けるだけ・・・」


290 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:40:25 ID:VoxOMLZP
朗らかな笑顔のまま、そっと瞳を閉じて物思う。静かに心を揺らめかせる巴の姿は笑っている筈なのにどこか寂しげな横顔に見えた。
まるで天界に飾られた彫像に命が宿ったかの様な鳥肌が立つ程の美しさを秘めた憂いあるその姿。
不覚にも俺は感情の波間を漂う巴の横顔に時を止められてしまう。
しかし、こんな時に限って記憶の片隅に忘れかけていた何かが稲妻の如く音を立てて目を覚ます。
やはり何事も、そうそう上手くはいかないらしい。

「・・・あ、あーっ!!」
「えっ!?ど、どうしたの?」
「時間だよ時間!!学校に遅れちまうぞ!!」

そうだったのだ、よくよく考えれば今は登校中、二人でのんびり語り合ってる場合じゃなかった。
慌てた手付きで内ポケットから携帯を取り出せば授業開始まで後十分、もはや絶望的な状況下にある。

「はぁ、遅刻か・・・まぁ今更慌てても仕方ないか」
「大丈夫、まだ間に合うよ」
「だ、大丈夫って・・・どうあっても学校まで二十分は掛かるだろ」

何時からか自信に満ち溢れた瞳の巴に気圧されつつも溜め息まじりな俺。人間、諦めが肝心だとしみじみ思う。
そんな負け気味な俺の手を取り巴は何の予告も無く無遠慮にトップスピードで駆け出す。

291 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:42:04 ID:VoxOMLZP
「お、おい!?」
「走ればまだ間に合うハズだから・・・お兄ちゃん、頑張って!!」
「陸上部にスカウトされる巴ならともかく俺は無理だってば!!」
「諦めなければなんとかなる、ボクにそう教えてくれたのはお兄ちゃん、だよね」
「・・・まったく・・・やるだけやってみますか」
「うん、お兄ちゃんとならきっとなんとかなる・・・ボクは迷わない、ずっと二人でいようね」
「なんだって?走りながらじゃ聞こえないぞ」
「何でもない!!さ、ラストスパート!!」
「げっ、もう全力疾走かよ!?」

それにしても朝から怒ったり笑ったり悲しんだり走ったりとうちの巴さんの元気なこと。
二人揃って風になる爽やかな感覚。追い越していく新緑の並木道に頬を染めた巴の横顔。
学校まで後八分、なんだか余裕で間に合いそうな気がする。
俺と巴、繋いだままの手の向こうで両手を広げた太陽が笑っていた。

292 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/04/28(金) 21:50:06 ID:VoxOMLZP
遊星神に追いつけ追い越せと単発SSで頑張りましたが・・・返り討ちって感じです。
>遊星様
す、凄い・・・流石は神。お見事としか言い様がありません。
綺麗な妹の可愛い仕草がよく出ていてマジで参考になりました。
是非、葵さんのこの後も書き続けて下さい。
巴の楽隠居の日も近い!!

293 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/04/29(土) 22:29:46 ID:TWYik8JN
>夢ノ又夢大先生様
そんなご謙遜を!!
先生のほうが何倍も凄いですって!!
隠居なんて悲しいこといわずに、これからも巴ちゃんの話が読みたいです、俺は。

294 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/04/30(日) 21:54:37 ID:+DY55Uiv
期待sage

295 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/04(木) 22:14:34 ID:0hdfCk/C
お兄ちゃんと二人。
並んで、学校の廊下を歩いている。
今日は、廊下でバッタリ会えた。
それだけで、なんだか嬉しい気分になる。
「お兄ちゃん、嬉しそうだね?」
少しだけ、表情の柔らかい彼の横顔に尋ねる。
「そうか?」
そういって、私を見た顔は、やっぱり嬉しそうだった。
「うん。何かいいことあった?」
「まぁ……少し」
「何何ー?」
「いや、そんな葵に言うほどのことじゃ……」
「気にしないから、教えてよ」
「んー……」
考えるように俯くお兄ちゃん。
「あ、わかった!!テスト、よかったんじゃない?」
お兄ちゃんの答えを待たずに、私が答える。
「あ……うん。ちょっとだけど順位上がってた」
お兄ちゃんは照れくさそうに、成績表を見せてくれた。
「そっか。よかったね?一生懸命勉強してたもんね」
「いや……でも、葵に比べたら俺なんて……」
「私は関係ないよー。でもよかったね、お兄ちゃん」
「うん。そうだな」
もう一度、確かめるように成績表を見るお兄ちゃん。
何だか、私まで嬉しくなってきてしまった。

296 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/04(木) 22:15:46 ID:0hdfCk/C
「じゃ、今日は私が奢っちゃおうかな」
「いいよ、別に」
「遠慮しないの。私だって、嬉しいんだから」
「ん?葵も何かあったのか?」
「え……?」
お兄ちゃんは相変わらず、鈍感。
そういうとこも、結構可愛い。なんて思っちゃう辺り……
私もお兄ちゃんという人間に、慣れてきたのかな。
「そうじゃないけど……いいじゃない、たまには」
「……そうか、悪いな」
「ううん。何処に行こうか?」
「そうだなー……」
幸せだな。
考えるお兄ちゃんの顔を横目で見ながら思う。
なのに……
「天童ー!!」
後ろから邪魔者が……。
「お前、どうだった、テスト!?」
邪魔者に肩を叩かれお兄ちゃんが振り向く。
仕方なく私も……。
「ん?いや、そんなに自慢するほどじゃ……」
「何位!?」
「15だったかな」
「へー。俺の見てよ!!7位だぜ!?すごくね!?」
「ほぅ、すごいね」
「だろー?見てよ、葵ちゃんも」
あ、この人……。
話題を振られて、あることに気付いた。
そう考えると、何だか無性に腹が立ってきた……。

297 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/04(木) 22:16:49 ID:0hdfCk/C
「あ……うん、凄いんだね」
適当に、愛想笑いで答える。
「だろー!?じゃ、次は頑張れよー!!」
嬉しそうに、足早に去っていく邪魔者。
私は完全に姿が見えなくなるのを確認すると……
「誰なの、あれ……」
「同じクラスの人」
「仲良いの?」
「あんまり話すほうじゃないが……」
「そうなんだ……」
やっぱりだ……。
あまりこういうことはいいたくないんだけど……
きっと、あの人の目的は私だ……。
お兄ちゃんより、良いところを見せたくて、そのために一緒にいるところにやってきたんだろう。
せっかくお兄ちゃんは頑張ってたのに……。
せっかくお兄ちゃんが嬉しそうだったのに……。
せっかくお兄ちゃんが笑ってたのに……。
そう考えたら、怒りで頭がカッとなってきてしまった。
「感じ悪いね……」
「え?いきなりどうしたんだ、葵……?」
「だってそうでしょ?わざわざやってきて、自慢だけして帰ってくなんて」
「いや、でも気持ちは分からないでもないから……」
「でも、親しくも無いお兄ちゃんに言いにくるなんて……」
「まぁまぁ、いいじゃない。俺はそんなに気にしてないしさ」
「でもぉ……」
「いいから。ほら、今日は奢ってくれるんだろ?甘いものでも食べに行こうよ」
「うん……そうだね」
「そうそう」
そういって、笑うお兄ちゃん。

298 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/04(木) 22:17:51 ID:0hdfCk/C
そうだね。
私の好きなお兄ちゃんは、こういう人だもんね。
「そうだ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの成績表、ちゃんと見せてよ」
「え?」
「いいでしょ?さっきはよく見てなかったし、お兄ちゃんの自慢できる結果なんだから、私、見てみたいよ」
「うん……いいけど」
お兄ちゃんからテストの成績表をもらう。
中を見ると……
「あれ……?さっきの人よりいいんじゃないの……?」
「あぁ……俺、学年順位と学級順位を勘違いしてたみたいで……」
「ってことは……すごいよ、お兄ちゃん」
「いや……それほどでも……」
「ううん。お兄ちゃんが頑張ってたの、私は知ってるから、だから、この結果は凄いと思うよ」
「……うーん、そうなのか……」
「そうだよ。ね?」
「うん、そうだな」
……やっぱり、私はお兄ちゃんが好きだな。
誰よりも。ずっと……。
そう思いながら、少しだけお兄ちゃんに寄り添う。
お兄ちゃんは鈍感だから、気付かない。
私だけの幸せ……。
「あ、天童君!!」
……女の声……。
「あぁ、どうしたの?」
「このまえ、天童君に教えてもらった問題、出たんだー!!ありがとー!!」
「いやいや、俺は別に……」
照れてるお兄ちゃん……
「じゃ、私は部活あるから」
「うん、また」

299 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/04(木) 22:19:22 ID:0hdfCk/C
ガッ!!
女の子が降り買って走り出した瞬間、無言で、お兄ちゃんのかかとを蹴る。
「っ!?」
「カッコ悪い……」
「え……葵?」

……まだまだ、二人の先は長いみたいです。
───────────────────────
天童ってのは、この兄妹の苗字です、念のため。

夢ノ又夢大先生に褒められて、調子に乗ったので、嫉妬妹第二弾。
……まぁ、所詮俺だもん。この程度だよね。

まったく関係ないけど、次は、ベタなツンデレが書きたいなぁ……

300 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/05(金) 13:25:02 ID:Vd7CypmJ
うっひょおおおお!!GJ!!!!!!

301 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/06(土) 04:40:58 ID:N/KP1aNY
天道・・・・・・・・・・・・・・・・・ じゃなくて、天童兄妹良いですねー。今回も萌えさせてもらいました。
遊星神GJ!!

302 :天空聖界より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/08(月) 23:04:38 ID:w2/dnPC9
よく分からない空間。
俺は一人の女性を抱きしめていた。
「お兄ちゃん……?」
「弥生……俺は……弥生のことが……」
「え……」
「弥生のことが好きだ!!」
「お兄ちゃん……嬉しいよ……やっと……私の気持ちに気付いてくれたんだね……?」
「うん、今までゴメンな……」
「ううん。いいの……私も……お兄ちゃんのことが、大好きだから!!」
「弥生……」
「お兄ちゃん……」
接近する唇。
高鳴る胸の鼓動。
俺たちは今、一つに……
───────────────────────
「って、おい!!」
ギリギリで目が覚めた。
危ないところだった……我ながらナイスガッツ……。
「何で……俺がこんな夢を……」
俺は上半身を起こし、額にかいた嫌な汗を手でぬぐう。
すると……
「あ、お兄ちゃん。おはよう」
妹の声が聞こえる。

303 :天空聖界より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/08(月) 23:05:10 ID:w2/dnPC9
……何故か下のほうから。
そちらに目をやると……さっきまで俺が寝ていた辺りから少しだけ離れた位置に妹の弥生が……。
「いつのまに……」
「ん、いつもの実験」
そう言って、何だかよく分からない棒、弥生曰く魔法の杖を見せる弥生。
俺の妹、弥生は魔法使いである。
いや、魔法使いらしい。よくわからないが。
「また魔法か……?」
「うん。好きな夢を見せる魔法」
「なるほど……あの夢はお前の仕業か……」
「素敵な夢だったでしょ?」
「……あぁ、素敵過ぎて冷汗かいたよ」
「でも、さすがお兄ちゃん!精神力が強いから、途中で止められちゃったよ」
「……よかった……」
もし、俺の精神力とやらが弱かったら……と考えて、嫌な気分になる。
「ただ……私もすごい疲れたぁ……」
そう言って、布団から這い出す弥生。
弥生は、魔法使いらしく真っ黒なローブ……を纏っていてくれればよかったのだが、
何故か、フリフリ、ミニスカート、ピンク色の変な服……
俗に言う、メイド服。とは違うのだろうねぇ。
だが、もうこれも初めてのことじゃないので、この記憶は抹消。俺は何も見てないっと。
「朝からご苦労だな」
「うん。お兄ちゃんが、もっと魔法の効きやすい体質だったらラクだったのになぁ……」
「ラクって……」

304 :天空聖界より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/08(月) 23:05:42 ID:w2/dnPC9
あれか。
俺を操り人形にでもしようってか……よかった、この体質で。
「でも……今日は大成功かな」
「何か言ったか?」
「ううん。何も」
「そうか……よし。さぁ、朝飯食おう」
「うん」
「用意できてる?」
「うん。出来てるよ」
「……魔法は……?」
「えっと……使ってないよ?」
声が裏返ってる……分かりやすいなぁ……。
「本当は?」
「ちょっと……」
目が泳いだ……。
「その割合は?」
「えっと……九割九分くらい……」
「やめてくれよ、魔法で作った飯は美味くないんだから……」
「う、うん」
「でも、まぁ、感謝してるよ。ありがとな」
「うん!!」
眩しい笑顔を見せる弥生。
こうしてる分には普通なんだけどなぁ……。
───────────────────────

305 :天空聖界より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/08(月) 23:06:33 ID:w2/dnPC9
今夜は満月。
眩しいくらいの月が影を作る兄の部屋。
「今日こそチャンスなんだ。お邪魔するね、お兄ちゃん」
スヤスヤと寝息を立てる兄の布団に潜り込む弥生。
「……やーる……いりーな……ゆーす……」
弥生は、杖を降りあげ、呪文を唱えた。
杖が光を徐々に帯びる。
兄の部屋が、昼間よりも明るく照らされる。
「凄い……コレが満月の力なんだ……」
満月の夜は、魔法使いに魔力が満ちる。
弥生は、それを利用しているのだ。
「この力で……お兄ちゃんを……」
弥生がそう呟いた瞬間……
「俺をどうするって……?」
「おおおおおお、お兄ちゃん……!?」
「何だ、お前が起こしといて……」
「え……?」
「眩しいよ……」
光を発する杖を指差す兄。
「あ……」
事実に気付き、呆然とする弥生。
眠い目を擦りながら、兄がうんざりした様子で尋ねる。
「また魔法か……?」
「う、うん……ゴメン……なさい……」
「そろそろ、教えてくれないか……?弥生が何をしたいのかを……」
「ゴメンなさい……それは……言えない……」
「何で?」
「だって……恥ずかしいから……」
「恥ずかしい?」
「う、うん……」
俯いている弥生。

306 :天空聖界より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/08(月) 23:07:35 ID:w2/dnPC9
兄は、少しだけ考えるそぶりを見せて……
「大丈夫。俺は絶対、怒らないし、笑わないから」
弥生の肩をしっかり抱きしめながら言う。
「でも……」
「俺は魔法なんかに頼らない、弥生の言葉が聞きたいよ」
「お兄ちゃん……わかったよ……」
「うん」
「……私ね。ずっと……お兄ちゃんのことが……」

満月の夜。俺は最初で最後の魔法にかかる。
これからも、魔法のような楽しい出来事があれば良いと思う。
───────────────────────
天空大聖者様がお亡くなりになったので、急遽作った。
追悼とかそういうわけじゃないけど、なんとなく今日中に書かなきゃいけない気がした。

まぁ、構想含め、二時間くらいしかかけてないので、それなりの結果かなと。
きっと二度と書かないな、このキャラは……。

307 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2006/05/09(火) 13:09:09 ID:JfdfeHzo
つぼった…(*´Д`)GJです〜

曽我町子さんの話は急で俺もびっくりです。
ご冥福をお祈りします(´-人-`)ナムナム

308 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/12(金) 22:18:02 ID:4TteQZUz
天空大聖者様とわ?

309 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2006/05/13(土) 17:02:00 ID:gBNPZKb1
>>308
数々の特撮番組の女王役として活躍した女優の曽我町子さんが5月7日の未明、自宅マンションで死去した。
遺作となる『魔法戦隊マジレンジャー』(2005年)では天空大聖者マジエル役 という正義側の女王を演じて、話題になったばかりだった。


310 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/13(土) 22:50:02 ID:B5nMNhL/
いやいや、何か湿っぽい雰囲気にしちゃって悪いねぇ。
何か悪いんで、急遽ツンデレ妹を。
やっぱツンデレって書くの苦手だなぁ……
───────────────────────
いつもの下駄箱を通り、いつもの校門へ。
学校は嫌いじゃないし、帰って何かするわけでもないが、やはりこの開放感は嬉しい。
足取りも軽く、校門の先に目をやると
一人の少女が、仁王立ちで、こちらを眺めている。
もとい、睨んでいる。
「あれは……」
俺はその少女に近寄り、
「翼じゃないか。どうかしたのか?」
「べ、別になんでもないわよ」
「もしかして、待っててくれた?」
「ばばばばば、バカいわないでよ!だ、誰が、お兄ちゃんなんか!」
「だよなぁ……」
理不尽に怒られて、俺も勢いを失う。
このとき、何だか悲しげな顔をした翼の顔を、俺は見逃していた。
「何か知らんが……頑張ってくれ」
俺は、ヒラヒラと手を振りながら、帰宅路を歩き出すと……
「で、でも……お兄ちゃんが、どうしてもって言うなら……そういうことにしてあげても良いけど……?」
「お構いなく。じゃ、お先に」
「な……何よ、その態度……私が……お兄ちゃんのためを思って……」
「何だよ?そんないきなり……」
「な、何でもないわよ!何だっていいでしょ!?」
「いいけど……」
「じゃあ、とっとと歩きなさいよ」
「は?」
「帰るんでしょ?」
「はい……」
何で妹にこうも言われるのか……。

311 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/13(土) 22:50:35 ID:B5nMNhL/
少し情けない気分で歩き出す。
しばらく何も言わず歩いていると……
「?」
気のせいでなければ、ジワリジワリと翼が寄ってきてる……。
何だ……何をする気だ……?
ちょっと恐怖を感じながら、翼の顔を見てみると……
「なななななな、何見てるのよっ!」
「何、といわれても……」
「ほ、ホント、やめてよね!き、気になるんだから!」
「気をつけます……」
顔を真っ赤にして怒る翼に、とりあえず頭を下げ、
少しだけ翼の接近を意識しつつ、ひたすら歩く歩く。
そのまま数分が経過。
「きゃっ!!」
後方でなにやら甲高い声。
思わず振り返ると……
素敵なタイミングで、倒れこんでくる翼。
それを胸で受けととめる俺。
……しばし、時が止まる。
「な……なに……するのよ……」
何か凄い真っ赤な顔で、文句を言ってくる翼。
「いや、お前がコケたんだろ」
呆れながら、答える俺。
「……つーか、何で顔赤いのさ?」
「ななななななななっ!?赤くなんて無いわよ!全然!」
「そうか?」
いや、どう見ても赤いですけど……
もうワケが分からなくなってきたので、いつまでも動こうとしない翼を起こそうとすると……

312 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/13(土) 22:51:07 ID:B5nMNhL/
「ちょ、ちょっと動かないでよ!」
「え……?」
「もう少しだけ……こうしていたいよ……」
「は……?」
「か、勘違いしないでよねっ!ちょ、ちょっと足痛めちゃっただけなんだからっ!」
「大丈夫か?」
「大丈夫よっ!」
「いや、でも……無理はよくない。おぶってやるよ」
「え……!?」
「嫌ならいいよ。痛くない程度に、ゆっくり、帰るんだな」
「嫌よ!嫌だけど……今日は……お兄ちゃんの顔を立ててあげるわ……」
顔って……
何かワケが分からないが、とりあえず、妹をおぶって歩き出す。
「ねぇ、お兄ちゃん」
翼が背中で囁くように言う。
「ん?」
「明日も……一緒に帰ろうね」
「は……?」
「ちちちちちちちち、違うのよ!ほら、最近物騒だから!」
「あぁ……そういうこと。分かったよ、翼。俺が翼を守るよ」
「お兄ちゃん……」
うっとりするかのような気の抜けた声……。
まさか、呆れてらっしゃる……?
「じゃ、なくって!何でそんな素敵……じゃなくて恥ずかしいセリフが言えるのよ!」
「いや……カッコいいかなって思って」
「こここここ、これっぽちもカッコいいなんて思ってないんだからね!!」
「分かってるよ……」

妹に怒鳴られながら進む。
何故か……悪い気はしないのであるが。
───────────────────────

313 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/05/13(土) 22:57:30 ID:B5nMNhL/
うわー、我ながら、適当だー。
俺の書く兄さんは、あんまりツンデレと絡ませるのに向いてないなぁ。

夢ノ又夢先生まだかなー。

314 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/14(日) 10:12:56 ID:HW1fxA8D
gj!姉スレの方もどうか…

315 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/16(火) 02:52:18 ID:rDrl6syh
>>309
ありがd

316 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/23(火) 01:50:29 ID:kJ5ki66U
保守

317 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/05/23(火) 21:44:58 ID:9P3UyKD6
「う〜ん、喫茶店か・・・ちょっと興味あるんだが、後が怖いし」

片手にしたパンフレットの向こうに仁王立ちした巴の姿が浮かび上がり身震いを一つする。
メイドさん目当てに喫茶店に行きました、なんて事がバレたら説教二時間では済まされないだろう。
注目は双子の美人姉妹との話だがやはり誘惑も鬼には敵わない。携帯を取り出し、時間を見遣れば巴の舞台まで後、一時間。

「機嫌直しの為に差し入れでも持ってくか・・・」

屋台でお菓子を適当に見繕って体育館の裏手へと足を運ぶ。・・・なんか、館内が妙に甘ったるい空気で満ちてるんだが、何かあったのか?

「すみません、ここからは関係者以外立ち入り禁止です・・・って先輩じゃないですか」
「よ、陣中見舞いに来たぞ」
「ありがとうございます!!流石は先輩、気が利きますね」

バスケット一杯に詰め込まれたお菓子を前に顔を綻ばせる女の子、顔パスな辺りに自分の知名度に少し嬉しくなる。
とはいってもやはり後輩連中の間では巴のお兄さんとして有名なだけな訳だが。
余談だが時々巴をお姉さまなんて呼ぶ子がいるが決して巴さんのお兄様なんて呼ばれた事は無い。

「毎回、お兄さんなんだよな、一度くらい呼ばれてみたいもんだが」
「はい?」
「あ、いやこっちの話、それより巴はいるかな?」
「巴さん、ですか・・・」

それ以上何を言うまでも無く視線が巴の存在を物語っている。男子はおろか女子の羨望と憧れの視線を一点に受ける眩いばかりのその姿。
巴の周りだけ視界が澄んでいるかの様にひんやりとした静けさが漂う。荘厳な空気と衣装を身に纏い瞳を閉じて瞑想する巴。
これは確かに見紛う事無く王子様だ・・・

318 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/05/23(火) 21:48:07 ID:9P3UyKD6
「すごいな、あれは白馬に乗った貴公子って感じだな」
「はい、ほんとに素敵・・・」

ほぅ、と熱の篭った溜め息を零す女の子に俺は思わず苦笑いが零れる。うちの妹はこうして今回も純真な乙女を虜にしていくのだった。
しかし、こうしていても埒があかない訳で・・・
しかたなく果てしない妄想の旅に旅立った女の子を現実に引き戻すべく目の前で手を振ってみせる。

「お〜い、帰ってきてくれ」
「・・・はっ!?ご、ごめんなさい、つい」
「それはいいから、巴に俺が来た事だけ伝えといてくれるかな」
「会っていかないんですか?」
「いや、集中してるとこ邪魔しちゃ悪いしさ」

というよりこの空間を断ち切る根性は俺には無い。
本音を言えば巴がどうこうというより夢から覚めた人々の視線が一斉にこちらに向く様な事を絶対に避けたい。
前後に振っていた手を軽く上げてそのまま俺は立ち去っていく。去り際は潔く、やはり男はこうでなくては。
・・・みんな巴に夢中で誰も気には留めていないけど。
なんとなくバツの悪いままその場を後にする俺、舞台開演にはまだ時間がある、適当に時間潰しを考えながらトボトボと牛歩。
ほんの少し頭に浮かぶメイド服、自分でも呆れてしまうが何気に未練があるらしい。

「双子の姉妹っていうと石川姉妹の事だよな、あの二人のメイド服か・・・うぐっ!?」

後ろから口を塞がれる俺、なんか他人様に恨まれる様な事でもしたろうか?
ああ、そういや一人いたっけか、恨むというより怒ってる人が。ゲーム開始時にいきなりラスボスにエンカウントしたかの様な唐突さ。
振り返ればやっぱりそこにいるそこにいない筈の妹様。

319 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/05/23(火) 21:50:59 ID:9P3UyKD6
「と、巴・・・お前どうして!?むぐっ」
「しっ!!いいからこっちに」

有無を言わさずに銀行強盗と人質みたいな体勢で体育館裏に連行される。
人気が無い事を確認してから俺に真っ直ぐ向き直る巴、やっぱり頭を撃ち抜かれるのかもしれない。
まさかとは思うがここで説教を始めても可笑しくない不穏な空気。半分諦め、半分ビビりながら固唾を呑んで巴の言葉を待つ。

「・・・お兄ちゃん」
「は、はい、なんでしょう?」

ただならぬ巴の表情に背筋は伸びきり、つい敬語になってしまう。そんな俺を巴は気にも留めずに重々しく口を開く。

「来てくれたのなら、どうして声を掛けてくれなかったの?・・・イジワルだよ」
「は?」
「ボクはお兄ちゃんをずっと待ってたのに・・・それなのに黙って行っちゃうなんて・・・」
「あ、ああ・・・そっちの事か、俺はまたてっきり」
「てっきり?」
「い、いや!!なんか集中してたみたいだったからさ、邪魔しちゃ悪いと思って」

予想外の非難に余計な事を口走りそうになる俺、わざわざ蒸し返す必要も無いので軽く流してしまう。
これ以上、話がややこしくなれば立場が悪くなる一方だ。

「気を遣って声を掛けなかったんだ、別にワザとじゃないって」
「そうだね、気を遣って屋台を手伝って気を遣って差し入れをして・・・気を遣って喫茶店へ」
「・・・あー、ひょっとして・・・聞こえてた?」
「うん、ばっちりと・・・可愛いもんね、石川さん達」

表情は変えないもののピクリとこめかみをヒクつかせて俺を見詰め続ける。
・・・非常にマズイ、完全に手の内は暴かれている。こうなっては隠すだけ無駄だ、ならば素直に認める他ない。


320 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/05/23(火) 21:55:24 ID:9P3UyKD6
「・・・正直言えば気にはなってたけど、どちらにしても行ってはなかったと思う」
「どうして?」
「誰かさんの説教喰らう事になるから」
「うん、正座で説教三時間かな・・・あ、四時間かも」
「・・・今、この状況でそれを言うのは立派な脅迫だぞ」
「そうかな?ボクはお兄ちゃんに本心を言ってるまでなんだけど」
「・・・鬼」
「鬼にしたのは誰?」
「・・・俺?」
「なんで疑問形なの、他に誰もいないのに」
「「・・・」」

鏡でも凝視するかの様にジッと互いの目を見詰め合う。他人様とは絶対に行われない大変せせこましい兄妹の戦。
この状況は高架下でのヤンキーの決闘に近い、確実に目を逸らした方の負けだ。
いや、それ以前に勝ち負けは決まっているのだが、巴の澄んだ瞳に見詰められてはどんな頑固者も根を上げるだろう。
ついでに虜にされるだろう。がっくりと肩を落とし大きくうなだれて溜め息の後、根負けした俺が口を開く。

「・・・あのな、巴が思ってる程、俺は不真面目じゃあない」
「分かってるけど・・・嫌なの」
「何が?」
「同じクラスの人達と屋台で楽しそうにしてるのを見た時、悲しかったんだ・・・ボクの事なんて何も考えてくれていないんじゃないかって」
「ちょっと待て、あれは無理矢理引き込まれたんだって」
「それも分かってる、お兄ちゃんの善意なのは・・・」
「・・・だったら、どうして?」
「お兄ちゃんが真っ直ぐな人なのはボクが一番知ってる、でも・・・それが痛い時だってあるんだよ」

まるで自分に言い聞かせる様な巴の言葉。痛みを堪えているのか、落ち込んでいるのか、なんともいえない不器用な笑顔を俺に見せる。
笑顔の奥で点と線が繋がり見えてくる感情、今の巴の表情を人は皆こう呼ぶ、自嘲、と。
憂いを帯びたこの姿を一枚の絵に出来たのなら誰も値の付けられない名画になるに違いない、そんな場違いな考えが頭を過ぎる。
何故ヤンキーの決闘からこんな事になったのかは未だに分からないが、俺がすべき事はその絵画に命を吹き込む手伝いをしてやる事。
まるで子供をあやす様にそっと巴の額を撫で上げる。

321 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/05/23(火) 21:58:24 ID:9P3UyKD6
「・・・ごめんな」
「・・・分かってて謝ってる?」
「分からない、でも結果として俺が巴を困らせた事は分かる、大事なのはそこだろ」
「違うよ・・・痛いのは頭じゃなくて・・・ここ」
「いっ!?」

前髪を梳いていた俺の手を両手でそっと包み込み、心臓の音が一番聞こえる左胸へと導く。
あまりにナチュラルな仕草だったので抵抗する間も無くなすがままな俺、近くに鏡でもあれば相当間抜けな赤い顔が映っていたに違い無い。

「分かる?ボクの鼓動、トクン、トクンって」
「あ、ああ・・・うん、かなり早い・・・って事は緊張してるのか」
「やっと気付いてくれた、そう、緊張してるんだよ・・・すごく」

緊張という言葉にはかけ離れた巴の穏やかさ。でも、俺の手の平の奥で確かに鼓動は乱雑なリズムを奏でている。
鼓動に集中していた意識が不意に途切れる、再び視線が重なる。瞳の奥に見えるのは緊張とは少し違った揺らめき、それは・・・

「緊張というより不安なんじゃないのか?顔に書いてある、不安で仕方無いってな」
「・・・どうして不安なのか・・・分かる?」
「問題はそこなんだよ、舞台に緊張するなんて無いと思うし・・・何だろうな」
「ボクが不安なのはお兄ちゃん」
「俺?俺の何が不安なんだ?」
「ホントにボクのこと、見ててくれるのかな・・・お兄ちゃんが見に来てくれなかったらどうしようって」
「やれやれ、巴は俺がそんなに薄情な男だと思ってたのか?そんな訳無い」
「・・・絶対?」
「ああ、俺は冗談は言うけど嘘はつかない・・・それを知ってるのも巴だろ」
「うん、ボクが・・・誰よりも分かってる」

添えられた両手を優しく解いてもう一度額を撫で上げてやる。
くすぐったそうに目を細める巴、学校でこんな子供みたいに純真な顔を見せるのはごく稀な事。
いや、髪を梳く俺の手に擦り寄ってくる様な姿は子供といより子猫に近い、それは心から安心しきっている何よりの証拠。
何万回の言葉より一つの温もり、それが巴を安心させてやれる鍵だと俺は手の平に少しだけ力を籠めた。

322 :夢ノ又夢 ◆7FqW82/Veo :2006/05/23(火) 22:03:05 ID:9P3UyKD6
「さぁ・・・そろそろ行った方がいい、あまり遅れるとみんな心配するぞ」
「あ、お兄ちゃん、その前に約束して欲しいんだ」
「はいはい、聞きましょう」
「・・・ボクはお兄ちゃんの為にガンバルから」
「だ、だから俺はそんな事一度も」
「ううん、ボクがそう思いたいの・・・それだけで今度のお芝居も乗り越えられるから・・・だから」
「・・・」
「だから・・・ボクの事、ちゃんと見ていてね・・・余所見なんてダメだよ、ね?」

白く細い指先を胸の前で組んで、眩い程に弾ける笑顔を見せる。
本人は意識しないでやっているのだろうが上目遣いなその笑顔が光の洪水みたいに瞬きしても瞼の裏に消えない。
コクコクと上下に頷く事しか出来ない俺を満足そうに見詰めて巴は音も立てず踵を返す。
艶やかな黒髪を風に靡かせる後ろ姿には、もはやどこにも迷いはなかった。学校でのいつもの巴の姿がそこにある。
改めて思うのだが実際、今の格好はともかく普段の校内での巴もまぎれもなく王子様だ。
まぁ、それはともかく立ち直る手助けは出来たみたいだな

「・・・お兄ちゃん」
「・・・見てるよ」
「うん・・・ふふっ、分かってたけど再確認、行ってきます」

一度だけ振り向いて俺の目に甘えてみせる巴、言うまでも無く王子様とは別の瞳で。
・・・王子と子猫って背中合わせのカードだったりするんだろうか?

「それよりも、だ」

うちの巴さんはどさくさに紛れてまた凄い事をやらかしてはいなかったろうか。
ずっと右手に残っているゴム鞠みたいな柔らかでしっかりとした弾力、掌を開いては閉じ、また開いては閉じ。
体育館の裏口へ消えていく巴を見送りつつ同じ事を繰り返す手の平をじっと見詰める。

「・・・着痩せするタイプだったのか巴は・・・じゃなくて!!・・・はぁ、俺も行くとするか」

右手をぐっとポケットに仕舞い込み歩き出した俺の前で、体育館は俄かに騒がしさを増していた。

323 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/05/23(火) 22:27:31 ID:hogOZUpJ
夢ノ又夢先生今回もよかったです。早く続きが読みたい、私生活に影響が出ない程度に頑張ってください

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0ch BBS 2004-10-30