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[第六弾]妹に言われたいセリフ

1 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/12(水) 23:10:07 ID:WK59l+zx
「あ、お帰りなさい、兄さん。ご飯できてますよ」
ここは、脳内の妹さんが囁いてくれるセリフとかSSとかを暴露しちゃうスレなんです。

【兄さんと私の約束】
・荒らしさんや厨房は、無視してくださいね?
 そうでないと、兄さん自信が居づらいスレになってしまいますよ。
・出来れば、sage進行でお願いしますね。……その……恥ずかしいですから。
 メール欄に『sage』といれてくださいね。
・SS職人さんにはお礼を忘れずに。
 次も素敵なSSを読むことの出来るコツですよ。
・たとえリアル妹さんでも……浮気は、許しませんからねっ!?

【兄さんとの思い出】
妹に言われたいセリフ
http://game.2ch.net/gal/kako/1022/10225/1022257886.html
[第二弾]妹に言われたいセリフ
http://game4.2ch.net/test/read.cgi/gal/1028470988/
[第三弾]妹に言われたいセリフ
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gal/1056993709/
[第四弾]妹に言われたいセリフ
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gal/1106065356/
[第五弾]妹に言われたいセリフ
http://game9.2ch.net/test/read.cgi/gal/1110717816/

過去ログ倉庫
ttp://www.geocities.jp/mewmirror9/

では、このスレも楽しんでくださいね、兄さん?

2 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:11:38 ID:WK59l+zx
「やっぱりあれにしよう」
「ううん、絶対にこっち」
「こっちの方が面白いって」
「そっちよりこっちの方が良いよ、お兄ちゃん」

そっちこっちと押し問答を続けて三十分といった所だろうか。
今日は日曜日。
よく晴れた空、心地よい風、絶好の外出日和に映画鑑賞。
そこまでは良かったのだが肝心の映画で問題が起こった。
俺と巴、見たい映画がまるで違うのだ。
正直言って映画を見に行くと決まった時点で俺の中にはアクション映画しかなかった。
ところが巴の指差した先には恋愛映画。
・・・俺に寝てろとでも言いたいのか?

「何が悲しくて兄妹で恋愛モノなんだよ?」
「そんなの関係無い」
「あるだろ、虚しくならんのかお前は」
「見たい人と見たい映画を見るのが一番なの」
「おいおい、俺の見たい映画は無視なのか?」

3 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:12:31 ID:WK59l+zx
話は平行線を辿るばかりで一向に前へ進まない。
不毛な論争に終止符を打つべく俺が切り出す。
いや、どう考えても妥協だな。

「じゃ、それぞれ見たい映画を見るって事で」
「・・・」
「・・・冗談だよ、泣きそうな目で見るなってば」
「ボ、ボクはそんな顔してないよ!!」
「はいはい、解ったからさっさと入ろう」
「あっ、お兄ちゃん待ってよ!もうっ!!」

話を切り上げて早々と館内へ向かう俺の後を慌てて追いかけて来る巴。
お互いにそんなやりとりを楽しんでいる。
隣にある笑顔が何よりそれを証明していた。

4 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:13:24 ID:WK59l+zx
「ふわぁぁぁ・・・あ〜まだかなぁ」
「ほらっ、始まってもいないのに欠伸しないの」
「始まって欠伸したら怒るクセに」

なにか言いたそうに口を尖らせる横顔に肩をすくめて延々続く予告に目を向ける。
果たしてちゃんと起きていられるだろうか。

「あの・・・お兄ちゃん、ごめんね」
「ん?何が?」
「なんだかボクに無理矢理付き合わせて」
「気にするな、見たかったんだろ、この映画」

いつの間にか叱られた後の子供みたいになっていた巴に努めて明るく返事を返す。
基本的に俺の意見が最優先な巴がこだわる映画だ、余程見かったのだろう。

「それよりこの映画ってどんな内容?」
「涙無しでは語れない物語だって」
「だって、ってお前よく知らないのか?」
「友達が良い映画だったって言ってたから」
「へぇ、伝聞を真に受けるとは巴にしては珍しいな」
「うん、前からね・・・気にはなってたんだよ」

まぁ、恋愛映画である時点で睡魔に襲われる俺にはその辺の事はどうでもいい。
しかし、俺の中で妙に引っ掛かる一言。

涙無しでは語れない

湧き上がる嫌な予感を胸に上映のブザーが鳴り響いた。


5 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:14:35 ID:WK59l+zx
映画は以外にも良く出来ていた・・・と思う。
やはり俺は良作であっても駄作であっても眠い物は眠いという事実に欠伸を堪えるだけな訳だ。
最初から斜めに見ている為に冗長に聞こえる愛の台詞。
そんな俺にはお構いなしにスクリーンでは物語がクライマックスへと向かっていく。
互いの事を想いつつも避けられない運命に飲み込まれていく恋人達。
やがて引き裂かれる二人の絆。
映画は今や山場を向かえ音楽がそれを盛り上げる。
その時だった、嫌な予感が現実の物となってしまったのは。

「ん?おい引っ張るなよ、寝てないから」
「・・・」
「ホントだぞ、寝てない寝てない・・・眠いけど」
「・・・」
「あれ?どうした?」
「・・・」

ふと隣に目をやると俯いたまま俺の上着の裾を握る巴の姿があったのだ。
迂闊だった、近頃こんな事がなくて忘れていたがかなりの泣き虫を連れていたんだっけか。

6 :260 :2005/10/12(水) 23:15:31 ID:WK59l+zx
華奢な肩を震わせてギュッと握られた裾に力が篭る。
恐らく今出来る精一杯の自己表現。

「・・・我慢出来そうにないか?」
「・・・」

黙ったままコクリを頷く姿を見て思わずため息が漏れる。
そっと背中に手をやるとそれが合図だったかの様に俺の胸に顔を埋める巴。

「ごめん・・・ごめんね、お兄ちゃん・・・」

胸の中を冷たく濡らして小さく繰り返し呟く。
ここから先の映画の内容は覚えていない。
ただただ綺麗な黒髪と爽やかなシトラスの香りがシャボン玉の様に揺れていた

7 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:20:08 ID:WK59l+zx
「なぁ、いつまでこうしてりゃいいんだ?」
「・・・もう少し・・・ダメ?」
「いや、別にいいんだけど」

二時間後、やっぱり妹はまだ俺の胸に張り付いていた。
とりあえず公園のベンチまで来てみたものの知り合いにでもこんな姿を見られたら
エライ勘違いをされそうで気が気でない。

「・・・ありがとうお兄ちゃん・・・もう大丈夫」

ゆっくりと顔をあげて弱弱しく微笑んでみせる巴。
それにしてもこうして見ていると我が妹は本当に完璧なまでに整った顔立ちをしている。
紅く染まった頬とガラス細工の様に透き通った瞳、僅かに濡れた長い睫毛。
今まで余り気にせずにいたがこれはなんというか・・・

「・・・可愛いい」
「え?」
「ぜ、全然大丈夫に見えないと言ったんだ」
「でも、今・・・」
「いいからしばらくこうしてろ!」

8 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:22:32 ID:WK59l+zx
不覚にも洩れ出てしまった失言を誤魔化す様に腕の中へ無理やり引き戻す。

「泣き顔見られるの絶対に嫌なクセにな」
「お兄ちゃんにしか見られてない筈だよ」
「俺にならいいのか?」
「・・・お兄ちゃんだけは特別」
「やれやれ、甘えん坊は相変わらずみたいだな」
「・・・ずっと・・・」
「ん、なんだって?」
「ずっと・・・こうしていられるなら・・・それでもいい」

憎まれ口も気に留めず熱くなった頬を子猫の様に胸に擦り付けてくる。
幼い頃、泣きついてきては離れようとしなかったあの頃のように。
・・・ホントに相変わらずの甘えん坊だ。
ま、やはりというかなんというかそれに付き合う俺の方も人の事は言えないが。

「結局、映画は見てなかったな」
「もう一回見に行く?お兄ちゃん」
「・・・勘弁してくれ」
「残念、またお兄ちゃんに慰めてもらおうと思ったのに」
「は、半分本気だろ!?お前」
「ふふっ・・・どうかな?」

先程までの泣き顔はどこへやら、涼しげな瞳で軽く流し目を返す巴。
男なら誰しも心臓が早鐘を打ちそうな事を無意識にやっているのが巴の末恐ろしい所だ。

9 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:23:29 ID:WK59l+zx
「大体、誘ったお前が最後まで見てないんだからなぁ」
「それは・・・その、大丈夫だと思ってたんだけど」
「ほう、あれだけ泣きついて来たのにか?」
「・・・」
「今頃恥ずかしがっても遅いつっーの」

真っ赤に茹で上がった顔を冷ますようにポンと頭に手を置いてやる。
表情が大人になったり子供になったり、長い付き合いだが未だにこういうのが面白い。

「さて、飯でも食いに行くか」
「うん、迷惑掛けた分、ボクがおごってあげるね」
「言ったな、さ〜て、何食おうかな?寿司でも食うかね」
「・・・なんでもおごるなんて言ってないからねっ!!」
「いたたっ!?耳を引っ張るな!!」
「じゃあこういうのはどうかな?ふ〜っ」
「うわはははっ!!息吹きかけるのもナシ!!」

赤や黄に色付き始めた木々のトンネルを二人してはしゃぎながら歩く。
よく晴れた空、心地よい風、絶好の外出日和に妹と映画鑑賞。
こういう休日も・・・悪くはない。

10 :前スレ260 :2005/10/12(水) 23:30:34 ID:WK59l+zx
とりあえずスレ立て、ついでにSS。
一度に全編投下したのは初めてなので推敲が足りないかもです。


11 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/13(木) 00:49:05 ID:gCLwzQIU
乙そしてグッジョブ。この兄とのシンクロ率が84%を記録した
どうでもいいが俺の中では巴ちゃんの趣味は写生という設定



12 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/15(土) 08:42:27 ID:xHprxFVT
>260様
GJッス!!
いや、ホント、毎回素晴らしいッスね!!


新スレだし、ボツにした台本でも貼ろうかな……。

13 :前スレ260 :2005/10/15(土) 22:45:07 ID:onXSTJAg
>>11さん
読んでくれて感謝。
100%を目指して頑張る次第です。
巴の趣味が写生というのはいいですね。
自分の中に無かった発想だったのでかなり
参考になりました。
>>遊星さん
今回のSSはかなりベタな展開ではありました
が楽しんで書けた話でした。
新スレでの遊星さんの活躍も期待してますよ。

14 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2005/10/16(日) 16:40:31 ID:EdtwdGwB
>260さん
スレ立て&投下乙です!
素晴らしいでし・・・GJ!!

>遊星さん
ホントお久しぶりです!
楽しみにして貰えるのは嬉しいですが、期待に応えられるだけの力が・・・('A`)
遊星さんの作品は相変わらず『萌え』ますね!

とりあえず前スレ埋め代わりに少し短編(?)を投下してみました。
即興&リアルタイムで書きながらの投下だったので荒いしヘタレに磨きが掛ってますが・・・言い訳です まる


15 :前スレ727の続き :2005/10/18(火) 20:37:01 ID:42b21Bpr
きょとんとしていた顔が落ち着きを取り戻して涼しげな顔に代わる。

「一目見た程度だけどあれは結構モテるんで有名な先輩だったろ?」
「そう?」
「まぁた素っ気無い事を・・・今回ばかりは少し位いいかも、とか思わなかったか?」

軽く冷やかす様に意地の悪い笑顔で尋ねる俺をよそに一切表情を変えない巴。
その色の無さはテーブルに置かれた冷水とちょうど同じ位だ。

「全然、興味無いよ」
「あ・・・そう」

眉一つ動かさず無情に言い放たれる言葉。
先程の先輩に少しだけ同情しつつとりあえず相槌だけ打っておく。
相変わらず巴は他所様、特に男に関しては厳しいな。
それでも尚、告白されるだけの魅力が巴には・・・まぁ実際ある。
兄の俺が言うのもなんだがそんじょそこらにはいない程に綺麗だしスタイルも抜群、
同級生の女の子達と歩く様は大袈裟に言えば従者を連れ立った王侯貴族。
なにげに上級生の中にも巴をお姉さま扱いする人がいる位だ。
贔屓目を無しにしても端整な顔立ちと相俟って容姿に非の打ち所は無し。
俺が友人や知人に同じ血が流れているとはとても思えないと言われる理由がここにある。
まぁ、同じ血は流れていないので仕方ないといえば仕方ないんだが。
・・・人類皆平等なんて真っ赤な嘘だよな、神様?

天井を見上げて一人、語りかける俺。

16 :前スレ260 :2005/10/18(火) 20:41:04 ID:42b21Bpr
前スレのツンデレの流れを切らない為、こちらに投下します。


17 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/18(火) 21:53:38 ID:BfSq/TJt
>>15-16
やっぱ先生はすげぇなぁ……。
巴ちゃん、ホント可愛いしねぇ。

つーか、俺があんなツンデレみたいなものなんか書いたせいで、
先生に余計に気を使わせちゃったみたいで……スイマセン。

18 :前スレ260 :2005/10/19(水) 20:31:36 ID:qs1+uese
「お兄ちゃん・・・遠い目してるよ」
「ん?ああ、ちょっと考え事をな」
「・・・心配事?」
「う〜ん、心配事・・・かなぁ」

ぼんやりとした灯りを見つめ続けてチカチカする目をこすりつつ答える。
心配事というより単に軽い嘆きなんだが。

「・・・あの・・お兄ちゃんはどうなの?」
「?・・・何だそれは?」
「だから・・・その・・・お兄ちゃんには好きな人とか・・・いないの?」
「いるよ」
「えっ!?」

尻尾を踏まれた三毛猫もかくやといった様相で驚きを隠せない巴。
ここまで驚いてくれると俺としてもありがたい気がしてくる。

「そんな・・・だ、誰!?」
「巴」

妙な具合な僅かな間の沈黙が途切れ途切れの巴の思考を繋ぐ。
この間、約五秒。
赤い顔して拗ねる巴を前に堪えきれずついつい笑いが零れてしまう。

「もう・・・その内、本気にするからね」
「あははっ、どうぞご自由に、てか巴は俺が好きでないと?兄ちゃん悲しいなぁ」
「・・・」
「・・・ん?」

19 :前スレ260 :2005/10/19(水) 20:45:08 ID:qs1+uese
>>遊星さん
いえいえ、とんでもない。
素晴らしいツンデレだったのでその後に
投下するのが恐れ多かったのですよ。
それにしてもツンデレまで書けるとは遊
星さんの引出しの多いこと。
羨ましい限りです。


20 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 06:51:48 ID:ORt6Jj+E
 そう、アイツの唯一の欠点は足が遅い事だ。
 俺の妹のくせに、俺より何でも出来た。
 勉強とか。
 俺が七十点取れば、アイツは必ず満点を取った。
 スポーツとか。
 体力こそ無いが、アイツは大体のコツを直ぐ掴んで、上手く技術を身に付けた。
 人付き合いとか。
 俺の親友は一桁を超えないが、アイツの周りに友達が居なかった事は無かった。
 まぁ是については男女の違いって奴があるのかも知れない。
 後は―――まぁ、兎に角。
 全部が全部、俺を上回って居たアイツの欠点。
 それが、足の遅さだった。

21 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 06:52:37 ID:ORt6Jj+E
「おにいちゃ〜んっ・・ま、待ってよぉ・・・・」
「・・遅ぇぞ、紗枝」
 電信柱一間隔分後ろにアイツ。
 先刻迄隣を歩いて居たと思ったら是だ。
「お前、前世亀だろ」
「ひ、ひどっ。 私亀さんじゃないよぉっ」
「じゃあ何だってんだ。 お前、その足の遅さは異常だぞ。 何で俺が百メートル歩く間に二十メートルしか歩けないんだ」
「そ、それは言い過ぎだよぉっ」
「そんな足じゃヒマラヤは越えられんぞ」
「越える気なんか無いもん」
「ヒマラヤを越える気が無いだと? 兄ちゃんはそんな夢の無い子に紗枝を育てた覚えは無いぞ」
「あ、ご、御免なさい・・」
「・・・・其処は育てられた覚えも無い、って返す所だ」
「あ、そ、そっか。 流石お兄ちゃんだ〜」
「・・嫌味抜きに言えるお前は凄いと思う」
 色んな意味で。
「お兄ちゃん」
「あん?」
「待っててくれて有り難う」
 俺の隣迄追い付いた紗枝が、俺を見上げながら言う。
「・・もっと速く歩いてくれれば、俺が待つ必要も無いんだがな」
「あう、それは言わない約束だよぉ」
 言いながら、また歩き出す。
 今度は、先刻よりゆっくりと。
「ふふっ・・」
「・・何だよ」
「お兄ちゃん、優しいから大好きっ」
 嗚呼そうだ、欠点もう一つ。
 俺なんかを、慕ってる。

22 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 06:53:31 ID:ORt6Jj+E
 もう何年前だろう。
 今でも憶えて居る。
 あの日はそう、冬の晴れた日だった。
 積もった雪に、反射した陽光が眩しかった。
 冬休みも終わりに差し掛かって・・それで紗枝を、折角だからどっかに行こう、って誘ったんだ。
 何時も一緒だから、冬休み中も特別何かした訳じゃなかったから・・。
 そんな理由を付けて・・本当は、もっと大切な事を伝えたくて・・・・。
 俺の特別を、アイツにやろうと思ったんだ。

23 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 06:54:28 ID:ORt6Jj+E
「・・冬場は一層厳しいものがあるな」
 振り向くと、二トントラック二台分程後方に紗枝。
「お、おにいちゃ・・」
「・・・・転ぶなよ」
 危なっかしい足取りが追い付く迄待ってやる。
「・・・・間に合うかな」
 右手の腕時計は、差し迫った時間の程を無情に告げて居た。
「ご、御免ね・・・・」
 少々息を切らせて、謝って来る。
「いや、それは良いけど・・風邪とか引いて無いよな?」
「へ? な、何でかな?」
「いや、何か結構顔赤いから」
「あ、嗚呼、だってほら、その、ちょっと疲れちゃったから」
「疲れたか? なら少し休んで行くか」
「あ、駄目だよ、間に合わなく成っちゃうっ」
「いや、だってお前・・」
「大丈夫大丈夫っ、本当はそんなに疲れて無いって言うか、何て言うかっ」
「・・は? 疲れてるんだろ、お前。 息も切れてたし」
「そ、そんな事無いってっ。 は、早く行かないと間に合わなく成っちゃうんでしょっ」
「いや、でもなぁ・・」
 俺は正直、迷って居たんだと思う。
 今更伝えるには、少し・・所じゃなく、照れ臭いものがあった。
 だから、今日じゃなくても・・って思いがあった。
 でも・・。
「・・嬉しかったの」
「ん?」
「お兄ちゃんと一緒に出掛けるなんて、凄くすっごく久し振りだったから。
 それもお兄ちゃんから誘ってくれるなんて・・小学校二年生の時、公園に遊びに行って以来だったから」
「・・良く憶えてんな」
「憶えてるよ・・だって、お兄ちゃんの事だもん」

24 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 06:55:31 ID:ORt6Jj+E
「あん? 如何いう意味だよ」
「・・その儘、だよ、お兄ちゃん。 お兄ちゃんの事なら、何でも知ってるもん」
「何でもって・・そりゃ無いだろ」
「何でもだもーん」
「お前は何でも知ってるお星様か」
「お兄ちゃんの事ならね?」
「ほう、言ったな。 例えば?」
「えろ本は現在三冊所持っ」
 ずびしぃっ、と効果音付きで指を突き付けて来る。
「・・往来で何を言ってるんだ」
「図星でしょ〜? ふふ、お兄ちゃんも中々良い趣味ですなぁ?」
「・・行き成りオヤジに成るな。 つか・・・・読んだのか」
「ええ勿論。 妹として兄の趣味位把握して置きませんと」
「んな妹要らん・・」
「ふふ・・お兄ちゃん」
「・・あんだよ。 未だ何かあんのか」
「うん。 何でも知ってるって言ったでしょ」
「・・勘弁しろ・・・・」

25 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:10:09 ID:ORt6Jj+E
「ふふ・・お兄ちゃんの、一番の秘密、知ってるもん」
「一番?」
「・・・・私の秘密でも、あるんだけど・・」
 ゆっくりと・・視線が絡まる。
 見上げる瞳は、兄を、見るそれでは無く・・そう、想い人を見る――。
「ずっと一緒だから・・ずっと一緒だけど・・」
「・・・・」
「そういう、事・・気付いて、たよね?」
「・・・・・・ん」
「・・・・答え、今日、聞かせてくれるんだよね?」
「・・ん」
「ふふ、それじゃ、急がないと。 折角用意してくれたんでしょ、その為のシチュエーション」
「ん、まぁ、な」
 何だよ、全部お見通しかよ。
 適わねぇな・・コイツには。
「お兄ちゃん、ほら早くっ」
 何時の間にか俺の前方に立つ、紗枝。
「・・このやろ、紗枝のくせに俺の前に立つとは良い度胸じゃねーかっ」
「ふふっ、早く早くっ。 日が暮れちゃうよっ」
 公園迄の駆けっこは、小学二年以来だった。

26 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:11:53 ID:ORt6Jj+E
「ふ・・俺が本気を出せばこんなもんだぜ」
 照れ隠しに本気を出してしまった。
 結構全力で。
 ・・日没迄もう少し。
 如何にか間に合った様だ。
「・・お、おにい・・・・」
 遥か後方から微かに聞こえる声。
 あー・・・・居た居た。
 高層ビルを横にした位の距離に、小さな影がぴょこぴょこ跳ねて居た。
「・・無理すんなよー」
 公園を見遣る。
 雪が積もって居たが、近所の餓鬼共が冬でも遊んで居るらしく、歩くのには困らない程度だ。
 懐かしい公園だ。
 俺と紗枝が遊んだ公園。
 唯、俺と紗枝がこの公園に、この時間に居る事は無かった。
 律儀に母親の言う事を聞いて居た俺は、空が赤味を帯びる頃にはもう紗枝を連れて家に居た。
 日暮れ迄此処に二人で居るのは、初めてだ。

27 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:12:53 ID:ORt6Jj+E
「―――きゃっ!」
 聞き慣れた声の、聞き慣れない短い悲鳴に、俺は思考から引き戻された。
「・・紗枝?!」
 振り向くと、道路の真ん中で尻餅をついた紗枝。
 何だ・・転んだのか。
「おい、大丈夫か?」
 歩いて近寄ろうとする。
「うん、平気・・えへへ、転んじゃった」
 恥ずかしそうに笑いながら立ち上がる。

 ――――思い出が綺麗なのは此処迄だ。
 あの瞬間。
 あの音。
 鮮明に刻み込まれて居る。
 先刻迄紗枝が居た場所には、軽自動車。
 紗枝が吹き飛ぶ。
 数メートル。
 道路の上に、吹き飛ぶ。
 事態の把握には数十秒掛かった。
 或いは、もっと。
 ・・紗枝が、跳ねられた。
 雪に染みこむ紅は、夕日に染まる中でもはっきりと見えた。

28 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:13:41 ID:ORt6Jj+E
 それから・・それから数日は、余り良く憶えて居ない。
 それ程体の強い方じゃなかった紗枝の手術は、長引いたらしい。
 スピードの出し過ぎのスリップ事故だとか、そんな話がされて居た気がする。
 でも、俺は俺が悪いとしか思えなかった。
 俺の所為じゃないか・・俺が紗枝を置いて行ったから、紗枝は転んだんだ。
 紗枝の足が遅い事なんて、俺が一番知ってるじゃないか。
 紗枝の足で走れば、直ぐに転ぶなんて想像に難く無いじゃないか。
 俺が一緒に歩いて居れば、紗枝は転ばなかったかも知れないじゃないか。
 俺があの日を選んだから、事故に遭ったんじゃないか。
 俺があの日、答えを出そうとしたのが悪いんじゃないか。
 俺が、紗枝を・・・・俺なんかが、紗枝を・・。

 ―――結果から言えば、紗枝の命に別状は無かった。
 けれど・・。

29 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:14:45 ID:ORt6Jj+E
 今日は退院の日だ。
 病院の人達からも見送られ、涙脆い紗枝は案の定泣いて居た。
 俺と紗枝は、家迄の道をゆっくり、ゆっくりと歩いて居た。
「・・紗枝」
「んー? 何、お兄ちゃん」
「退院おめでとう」
「何、今頃ー」
 くすくすと笑う紗枝。
「いや、何か言いそびれてたから。 ・・おめでとう」
「うん・・・・ふふ、何時の間にか私もおばさんだ」
「何言ってやがる、二十にも行かないくせに」
「お兄ちゃんは行ったんだよね?」
「嗚呼、立派に社会人だ。 敬え」
「ははーっ、私が通信教育とは言え、大学に在籍して居られるのは兄上様のお陰で御座いますーっ」
「明日からは通えるな」
「ちょっと不便だけどねー」
「まぁ俺の金で買ったんだ。 文句言うな」
「言わないよー。 絶対、何があっても」
「・・文句位言われないと困るんだが」
「如何して? 私の為に、働いて買ってくれたんでしょ? 確か借りれるのに」
「注文して作らないと、体にぴったり合わないんだ。 オーダーメイドって奴」
「嗚呼、何か妙に体に合って気持ち悪いと思ったよ」
「・・気持ち悪いってお前。 俺の苦労が吹き飛ぶ台詞だな」
「いやだってさぁ。 うん、でも、良く馴染むよ」

30 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:23:37 ID:ORt6Jj+E
「・・大学迄は俺が送るからな」
「え、毎朝?」
「そう、毎朝。 朝じゃなくても」
「そ、それは迷惑掛けちゃうよ」
「良いんだ。 俺がやりたいんだから」
「・・・・そう?」
「そう。 今迄ずっと、一緒に歩く事も出来なかったからな。 暫くは・・一緒に歩こうじゃないか」
「・・ん。 もう、置いて行かれる事も無いしね」
「・・・・嗚呼」
 コイツの唯一の欠点は、足が遅い事だった。
 何時も俺の後ろに居て、それで俺は何時もコイツが追い付くのを待って居たんだ。
 でも、それはもう無い。
 コイツが俺の後ろを歩く事は、もう、無い。
「お兄ちゃん・・疲れない?」
「いや? 何で」
「や、だって、結構重いんじゃないかなーって」
「んな事ぁ無いぞ」
「そうかなぁ。 私はとっても軽いけどさ、車椅子って結構重そうじゃん」
「最近のは軽いんだ。 お前よりもな」
「あんだとーっ。 言ったなこのーっ」
 ―――紗枝の足が遅いのは、ある種の病気だったらしい。
 生まれ付き、足が弱いのだ。
 だがそれは日常の生活に現れる程では無かった。
 足が遅い、程度にしか。
 交通事故と言う、大きな負荷が、紗枝の足を壊した。
 紗枝は二度と、立って歩く事が出来なく成った。
 それは、俺の罪だ。
 抱いてはいけない想いへの、罪なんだ。
 だから俺は、兄として・・贖罪の道を、選ぶんだ―――。

31 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:27:13 ID:ORt6Jj+E
「お兄ちゃん」
「ん?」
「私は重いけど、車椅子が軽いから平気なんだよね?」
「嗚呼、お前は重いが車椅子が軽いから平気だ」
「それじゃ、寄り道頼もうかな」
「父さんと母さんが待ってるぞ」
「直ぐ済みまーす」
「・・やれやれ、仕様が無ぇなぁ」
「ふふ、そんな甘いお兄ちゃんが大好き」
「はいはい、俺も大好きですよー、っと。 で、何処行くんだ」
「公園」
「公園?」
「そう。 あの日の公園に行きたい」
「・・・・・・」
「駄目?」
「・・・・いや。 分かった」

32 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:28:31 ID:ORt6Jj+E
 薄っすらと赤味を帯びた空。
 公園への道が長く感じた。
 あの時と同じ時間。
 今度こそ、二人で公園に居た。
「お兄ちゃん」
「何だ」
「・・あの時の答え」
「・・・・」
「聞いて無いよ」
「・・・・・・・・」
 俺の、答え。
 あの日の、答え。
 でも・・・・それは、もう・・。
 俺に許される答えじゃない。
「俺の・・・・答え、は――」
「お兄ちゃん」
 言葉が遮られる。
「お兄ちゃん、事故の日から、ずっと私に付いて居てくれたよね」
「・・・・・・」
「毎日私の所に来て、お話して、身の回りの世話してくれて、面会時間のぎりぎり迄居てくれた。
 大学行くの止めて、会社に入って、お金貯めて、車椅子買ってくれた。
 私の在学費払ってくれてるのもお兄ちゃん。 有り難う、って思ってる。 感謝、凄くしてる」
「・・・・当然だ」
「如何して?」
「俺は・・お前の兄貴だからな」

33 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:29:49 ID:ORt6Jj+E
「嘘吐き」
「・・・・・・」
「正直に成りなさい」
「・・・・・・・・・・・・罪の意識は、ある」
「・・・・やっぱり」
 悲しそうに、紗枝は呟いた。
「・・・・嬉しくない」
「・・何が?」
「全部。 そんな想いでされても、全然嬉しくない」
「・・・・・・・・」
「罪とかそういうの、すっごく頭に来る」
「・・・・・・御免」
「・・もっと頭に来る事がある」
「・・何だ?」
「お兄ちゃん、誤魔化してる」
「誤魔化して・・?」
「・・・・お兄ちゃん。 ちゃんと、答え聞かせて」
 逡巡。
 でも、やっぱり・・俺の答えは・・。
「・・・・紗枝。 ・・俺は―――」

34 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:31:27 ID:ORt6Jj+E
「お兄ちゃん!」
 ・・此処迄紗枝が大きな声を出したのは、初めてじゃないだろうか。
「もう止めようよ。 お兄ちゃんは悪く無いよ。 お兄ちゃんだって本当は気付いてるでしょ?
 言い訳にしてるだけでしょ? お兄ちゃんだって辛いでしょ?
 でも・・私は、もっと辛いんだからねっ!? お兄ちゃんが苦しいと、私はもっと苦しいんだからねっ!!」
 ・・嗚呼、俺は。
「・・・・私の想いは、あの日の儘だよ。 お兄ちゃんが一番。 お兄ちゃんじゃなきゃ、駄目」
 俺一人で勝手に背負い込んで。
「なのに・・お兄ちゃんは、私から目を逸らしてる。 罪だとかそんな事考えて、私を見てくれない」
 自分にもコイツにも嘘付いて。
「ちゃんと私を見てよ・・私を見てくれないのは・・・・辛いよぉ・・」
 挙句俺の大切なものを、自分で傷付けて―――。
 啜り泣きが公園に響く。
 空は茜。
 あの日見せたかった、茜。
 ゆっくり、ゆっくりと車椅子を押す。
 高台にあるこの公園の端へ。
 街を見下ろせる場所へ。
「―――綺麗だろ」
 茜色に染まる街は、輝きを帯びた宝石だった。
「結構ありきたりだけどな。 でもさ、すげー綺麗だろ?」
「・・・・うん」
 しゃくり上げ混じりに答える。
「あの日見せたかったんだ。 俺の一番。 俺の知ってる風景で、一番綺麗な風景。
 冬場はもっとすげーんだぜ。 光が雪に反射して・・でも半分は雪を染めて・・」
 目を閉じて、紗枝は頭にそれを描いて居る様だ。

35 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:40:54 ID:ORt6Jj+E
「紗枝」
「・・何?」
「俺、最低だよな。 お前事故に遭わせて。 その事何時迄も引き摺って。
 その所為にして、お前の事ちゃんと見てやんなくて。 ―――お前を傷付けて」
「お兄ちゃん。 お兄ちゃんが私と一緒に居てくれたのは、罪の意識だけ?」
「・・いや、違う」
「傷付いたのは、私だけ?」
「・・多分、違う」
「ふふ、おっけー。 今迄の事は水に流してあげましょう」
「・・・・・・有り難う」
 本当に、コイツは・・俺の妹のくせに・・出来過ぎだ・・・・。
「それで? 水に流れた後に残ったのは何?」
「あの日の、答え」
「うむ、申してみよ」
 車椅子を回転させ、俺と向き合わせる。
「・・酷い面だな」
「泣かしたのは誰よ」
「水に流したんだろ」
「女の涙は重いのよ。 水じゃ流れないわ」
「なら俺が払ってやるよ」
 両手で頬を包み、涙を拭ってやる。
「是が、俺の答えだ・・」
「お兄、ちゃん・・」
 茜から群青へと移る刹那の時間。
 俺と紗枝の影が重なった。
 ―――もう紗枝が俺の後ろを歩く事は無い。
 ずっと、俺と一緒に歩いて行くから・・。

36 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 07:48:22 ID:ORt6Jj+E
連投規制に八回程引っ掛かった件について。

彼女は足が遅い >>20-35

いや・・何か二ヶ月半振りに覗いてみたら思い付いたもんで・・いや、何か、御免。
タイトルパクリで御免・・。
色んな柵から開放されちゃって、前世の記憶は飛んでるんだ。
紗枝って名前もう使ってたら御免・・。
何つーか・・萌えなくて御免・・。
クオリティ低くて御免・・。
話煮詰めてなくて御免・・。
是、割と即興なんだ・・(言い訳)。
出直す・・。

37 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 11:33:53 ID:aVQINCf2
妄想もここまでくると呆れるな…
精神病院池。

38 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/23(日) 13:41:29 ID:pkS6VOIZ
>>20-36
お帰りなさい、姐さん。
もう来ないんじゃないかって、心配してたんですよ。
まぁ、お元気そうで何よりです。
前スレの続きも、心よりお待ち申し上げておりますです、はい。

39 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/23(日) 16:03:35 ID:i6FPX78V
駄作だって感じるなら貼るなよボケ

40 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/25(火) 22:58:09 ID:mVqnzPO0
「ふぅ……疲れた」
杏のベッドの前で一息つく。
冷却シートやら、薬やら、毛布やら、加湿器やら……我ながら良く頑張ったと思う。
……あとは杏ちゃんの病気が、風邪であることを祈るばかり。っと。
「さぁ、薬も飲んだし、もう寝な」
「うん……」
とは言うものの、どこか満足いっていない様子の顔をする杏。
「どうしたの?」
「え……?」
「何か、言いたいことあるでしょ?」
「う、うん……えっと……でも……いいよ……」
「いいから。言っといた方が、気分よく眠れると思うよ?俺は気にしないからさ」
「……うん」
「で、何かな?」
「あのね……えっと……約束……してほしいの……」
「何を?」
「えっと……その……一緒に……毎日……」
布団で隠れて見えないが、杏ちゃんの胸の胸の辺りがモゾモゾ動いている。
こんなときでも、例のモジモジ運動を欠かさない杏が、ちょっと可愛かった。
「……あの……だから……学校行ってほしいの……」
「うん。いいよ」
「あとね……帰るの……も……」
「うん」
「私……学校の前で……待ってるから……。今日……みたいに……」
「……」
今日みたいに……?

41 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/25(火) 22:58:41 ID:mVqnzPO0
「そうなんだ……」
杏は、俺を待ってたんだ。あんなに寒かったのに……。
じゃあ、俺を待ってて……風邪引いちゃったのかもな……。
「そっか……」
もう一度繰り返す。
自分勝手な意見かもしれないが、罪悪感はさほど感じていない。
俺だってまさか待ってるとは思わなかったし、第一電車の都合、あれ以上早く帰るのは不可能だった。
だが……俺が何もしなくて良いということにはならないだろう。
「約束するよ」
俺は自分の小指を立てて、杏ちゃんに見せる。
「指切りしようよ」
「うん……」
杏ちゃんが、その細い小指をゆっくりとあげる。
俺はその指を、自分の指と絡ませ、上下に二度ほど軽く振る。
ホントは歌でも歌うべきなのだろうが、そこまでのテンションはない。
「これで、よし」
まぁ、何となく指切りっぽい動作に満足し、指を離し素に戻る。
「うん……ありがとぉ……」
恥ずかしそうに、さっきまで結んでいた小指を撫でながら、礼を言う杏。
「さぁ、そろそろ寝ようね?」
「うん」
「布団かぶって。電気消してあげるから」
「うん。……いいよ」
「じゃあ、お休み」
「えと……おやすみ……なさい……」
電気を消す。
俺は邪魔にならないように、静かにドアを開け、自分の部屋に戻るのだった。
───────────────────────

42 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/25(火) 22:59:43 ID:mVqnzPO0
前スレからの続きですね、一応。

前もって話の流れは決めてたんだけど、実際書いてみると今一つだったり、
書いてる途中で良いネタ思いついて話をガラッと変えたり……
台本って、奥が深いですなぁ……。

43 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/26(水) 00:35:44 ID:mwit3eBR
杏ちゃんかわええ…

44 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/26(水) 23:27:13 ID:NZrd3yom
田んぼの街の彼方へと向かって、赤い夕日が沈んでいく。
不規則に揺れるバスの中で、僕はそれを見送っていた。
「懐かしいの?」
半ば忘れかけていた声を聞き、窓から振り返る。隣の席でお袋が笑っていた。
「……全然」
僕は味気ない返事をすると、もう一度窓のほうへ顔を向けた。

先月、僕の親父が亡くなった。煙草の吸いすぎによる肺ガンだった。
親父の葬儀が終わると、狭いアパートは広くなったが、僕とお袋の距離も広がった。
専業主婦であったお袋には稼ぐ手段がなくなり、遺産だけで食っていくには厳しかった。
そこでお袋は実家に電話をし、都市から離れることを決めた。
無論、僕も転校することになった。お袋の実家であり、僕が生まれた場所へ。

45 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/26(水) 23:28:15 ID:NZrd3yom
バスは田舎町には不釣合いなほど綺麗に整備された高台を登っていき、やがて止まった。
ステップから降りると、唐突に強い風が僕らの背中を撫でた。
空はすっかり秋に染まり、少し肌寒いくらいだ。
僕はガードレールに両手をかけ、眼下の光景を見下ろした。
真っ赤な光に染められた田んぼが続いている。その間を縫うように、いくつかの砂利道がある。
(ああ、さっきはあそこを走ったのか)
僕は冷たい風に頬をさらし、ぼんやりと世界を見つめていた。
その時、視界に何か白いものが映り込んだ。
(……ん)

白いワンピースだ。秋風になびき、ゆらゆらと揺れている。
大地を縫うような砂利道の一本を、ひとりの女の子が歩いていた。こちらに背を向けている。
長い髪は光を反射して宝石のようで、すらりとしたスタイルは僕に違和感を感じさせた。
「また田舎に不釣合いな子だな……って、あれ寒くないのかよ……」

46 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/26(水) 23:29:21 ID:NZrd3yom
「―――何か見覚えある?」
肩越しに聞こえたお袋の声に、僕は頭を振りながら答える。
「だから、そんな昔のことなんて覚えてないって。僕、当時まだ小学校低学年でしょ?」
それもそうね、とお袋は苦笑した。それから近くに実家があることを告げた。
「ほら。もう日が沈むから、さっさと行くわよ」
「はいはい……と」
ぼやきながら、ちらりと目を向けてみる。もう女の子の姿は見えなかった。

それから数分で実家に辿り着いた僕らは、不幸な境遇に同情されたのか、
これでもかという歓待を受けた。何故か親戚のじじいやらばばあまでもが招かれ、
いつの間にか居間は宴会場と化した。こういう辺り、田舎なんだなと思う。

47 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/26(水) 23:30:17 ID:NZrd3yom
「はあ……」
僕はすっかり酒臭くなった居間を抜け出すと、夜の庭を散歩していた。
さすがド田舎だ。普通の家でも、散歩が出来るほど庭が広い。というか家が少ない。
気の向くままに足を進めてみるも、僕はいまいちピンと来ない感覚に戸惑っていた。
ここは僕が生まれ、少なくとも小学校低学年まで過ごした町なのだ。
何か思い出があって当然なのである。しかし……。
「何にも思い出せないんだよね、これが。ひょっとして記憶力悪いのかな?」
ひとり、うんうんと頷く。あまり頷きたくはないけれど。
「あはは。でも私のことは覚えていてくれたんだ?」
「うん………………うん?」
僕は一瞬で背筋が凍るのを感じた。夜風が冷たく通り過ぎ、意識が背後へと集中する。
世界から音が消える。実家の灯りがはるか遠くに感じる。
唾を飲み込み、両足に力を入れる。ジャリッ、とかすかに音を立てる。
振り向くと、そこには。

48 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/26(水) 23:31:19 ID:NZrd3yom
―――白いワンピースに、桃色の上着。黒く闇に溶け込んだ髪。不気味な笑顔。
「う、うおわああぁっ!?」
「ひゃっ!?」
僕は思わず尻餅をつき、女の子はぎょっとした自らの後ろを振り向いた。
「な、なにっ?何かいたの?」
「…………は?」
僕はポカンと口を空けた。コイツ、足があるぞ……?
「ねぇ、なにかいたの?……ちょっとぉ、そういう冗談はやめてよぉ……」
「……あのぅ」
「……なに?」
「……もしかすると、お化けじゃない?」
色んな意味で、世界は再び凍りついた。と思う。

49 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/26(水) 23:33:11 ID:NZrd3yom
ごめんなさい、前作とか放り投げてごめんなさい。
しかも萌えなくてごめんなさい。
次に書き込むときは萌えーな話になる予定ですので、生暖かく待っていただけると幸いです。

50 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/10/27(木) 01:22:18 ID:JF967MPi
>>海中氏
毎度毎度続きが気になる終わらせ方しやがって
ああ、思惑にハマってやるさこの野郎!

51 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/27(木) 21:36:37 ID:m04teEmM
>海中さん
海中さんだ!!わーい!!
260先生に姐さんに、さらに海中さんもいらっしゃって、このスレもしばらくは安泰だー。

……でもね、前作の続きをね、読みたいなー、なんて、前スレのSSまとめながら思いました。ゴメンなさい

52 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:02:19 ID:NnGZNx1P
 かざした手のひらさえ見えない暗闇の中で、僕はなかなか寝付けずにいた。
目を見開いてみても、視界には黒しか映らない。僕はその上に記憶を重ねた。
先ほど会った女の子。あの子は、僕のことを知っていた。

 「むー……本当に忘れちゃったの?」
居間の光が微かに届くほどの位置にある小庭で、女の子はむすっと頬を膨らませた。
 「あー……いや、その……」
すっぱりと肯定するのも躊躇われた僕は、言葉を濁した。彼女は言葉を続ける。
 「……まぁ、しょうがないかなぁ?ずっとずっと昔のことなんだし……」
そう言う女の子の表情はどこか切なそうで、僕は慌てて口を開いた。
 「いや、知ってる、知ってるんだ。知ってるけど、思い出せないだけなんだ……」
 「んー……よく分からないけど、そーゆうことにしておきましょうっ」
女の子は白い吐息をしながら、人差し指を唇に当てた。
 「それじゃ、二度めのご挨拶しよっ?」

 そして女の子の口から紡がれた名前は、やはり僕の心には無い名前だった。
もしかすると、僕はとても酷いことをしているのだろうか。
どんなに頭の中を掘り起こしてみても、幼いころの記憶がどうしても見つからない。
でも、大丈夫。いつかは思い出せる。今日から僕はここに住むのだから。
明日は来るんだ。

53 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:03:27 ID:NnGZNx1P
 翌朝、僕は適当に顔を洗ったあと、朝食を食べるために居間へ向かった。
……はずなんだけど。
 「どうなってんだ、この家は……」
広い。とにかく広い。これはもう田舎、の一言で片付けられない問題だ。
和風で趣ある廊下が奥まで伸びていて、僕は呆然と立ち尽くした。
 「こんなにたくさんの部屋、いったい何に使うんだ……」
アレか。実はこの屋敷では、夜な夜な謎の儀式とかが行われていたりするのか。
昨夜会った女の子も実はその犠牲者で、儀式のための生贄だったり……。
 「……って、そんなワケないだろ!」
頭を抱え、近くの戸を開いた。朝から妄想に溺れる前に、さっさと朝食を済ませてしまおう。
 「あ……」
 「あ?」
室内を覗くと、まず全裸の女の子が目に入った。それから今まさに穿こうとしているぱんつ。
硬直した女の子と目が合った。…………。
 「ぱんつはいてない?」
 「ひゃあぁああああぁぁっ!!?」

54 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:04:23 ID:NnGZNx1P
 「もうっ、信じられないよ、バカ!」
 「ごめん……」
頬に赤い手形を付けたまま、僕と女の子は朝の森を歩いていた。
 「もー……戸を開ける前に中の空気を読むとかぁ……」
 「それは無理だって」
 「無理じゃないよぅ……お兄ちゃんのえっちぃ……」
朝っぱらから照れた上目遣いでそんなことを言われても困る。
 「もういいだろ?不可抗力だよ、許せ」
 「やだ。許さないもん。乙女の裸を見ちゃった男の人は、責任を取らなきゃダメなんだよっ?」
 「なんの責任だよ、それは」
 「え!?……えっと……それは……っ」
 「なんだよ?」
 「……も、もうっ!バカ!お兄ちゃんの確信犯!!」
 「……わけわんかねーよ……」
僕は上を仰ぎ見た。木々の切れ目から霧のかかった空が見える。
霧は当分、晴れそうに無かった。
 「せきにぃぃん……」
 「まだ言ってるのか……」

55 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:05:20 ID:NnGZNx1P
 森を抜けると、そこは川だった。
急に視界が開け、さらさらと清水の流れる音が響いている。いい場所だ。
 「へぇ、綺麗なところだね」
 「う、うん……」
女の子は川のすぐ近くまで歩いていき、ひざを抱えてしゃがみ込んだ。
 「どう?……何か思い出せないかな?」
 「あ……」
そうか、ここは……。僕が、いや、僕に関係のある場所なのか……。
 「ここ、どういう場所なの?」
 「……お兄ちゃんが、私やお友達とよく遊んだ場所、だよ……」
やっぱり。僕も同じように近くまで歩み、すっと水に手を触れてみた。冷たい。
 「……分からない。思い出せないよ」
僕は本当に、ここで生まれ、ここで育ったのだろうか。まったく記憶に無い、この空間。
女の子は少しだけ震えた。無理もない。
友達に……大切な記憶の友達に、裏切られたのだから。

56 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:06:20 ID:NnGZNx1P
 「えへへ……しょーがないよね。昔のことだから……」
嘘だ。しょうがなくなんか無い。心の底では、語り合いたいことが山ほどあるのだろう。
それを我慢している。記憶の無い僕を相手に、ひたすら我慢し続けている。
 「……なんで、だろ……」
ハッとして顔を向けると、小さな雫がこぼれたのが見えた。
 「……なんで、忘れちゃったの……?……お兄ちゃぁん……」
どうすることもできなかった。
 「お兄ちゃぁん……!覚えてるよねっ?ねぇ……!いっぱい、遊んだこととか……っ!!」
 「……」
 「……うっ……うう……」
女の子は僕の胸に体を預け、やがて泣き始めた。僕は空を仰ぐ。
思い出せない。こんなの、理不尽だ。分からないことを理由に、一方的に泣かれている。
理不尽なんだ。どうしようもなく悲しくて、やるせない……!
―――霧は、ますます濃くなっていく。
僕は……女の子との間に亀裂が走るのを感じながら、あえてそれを広げた。
これ以上、見に覚えの無い理由で傷つくのはごめんだった。

57 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:07:17 ID:NnGZNx1P
 「―――あっ」
気が付くと、僕は女の子を突き飛ばしていた。
 「……知らないよ」
胸のうちに眠っていた苛立ちが、ふつふつと湧き上がってくる。
 「知らないんだよ、君のことなんか!!」
 「お、お兄ちゃ……」
 「黙れよ!!僕は君のいう“お兄ちゃん”なんか知らないんだよ!!」
 「あ……」
 「本当は騙してるんじゃないのか!?僕のこと、騙しているんじゃないだろうな!!」
僕は……。
 「―――うっとうしいんだよっ!!」
その一言に、女の子は呆然と立ち尽くした。僕は踵を返し、背中を向ける。
 「うっとうしいんだよ……」
そうだ。うっとうしい。だから僕は、あのとき火を放ったんだ。
―――火?
……僕は血が冷めていくのを感じた。

58 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2005/10/27(木) 23:10:13 ID:NnGZNx1P
・・・萌えませんね。すみませんorz...
書いているうちに何故かミステリー風味になってきました。今回は怖いかもしれません。

>>遊星さん
今回の話が終わったら、書かせてもらおうと思っています。


59 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/10/28(金) 20:25:13 ID:gffnILF1
>海中様
ものすごい、続きが気になります……。
マジで続きが楽しみですよ。

つーか、なんかワガママ言っちゃって、ゴメンなさい……。
催促する気はなかったんです……orz


あと、第五弾のSSまとめました。よろしければどうぞ。っと。

60 :終末 ◆ZkGZ7DovZM :2005/10/31(月) 02:07:21 ID:STqudk3Q
萌、萌えましたwww

61 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/04(金) 23:04:47 ID:30rxXhmn
ピピピピピピピ……。
可愛らしい電子音が聞こえる。
もう朝なのか……?だけど……眠ぃ……。
眠すぎて、体が動かない。
「ぅん……」
ピピピ……ピピ。
電子音が止まり、静寂が戻ってきた。
だが……俺は何もしていない。
ということは……
「え……あれ……?」
女の子の声。
「えっと……けいたろう……さん……?」
俺の名前を呼んでる……。
そうだ、思い出した。
「ん……おはよう、杏ちゃん」
目を開けると、心配そうに俺の顔を覗き込む杏の顔が。
「あー、腰痛い!!」
立ち上がり、腰を前後に曲げる。
やっぱり、座って寝ると起きたとき辛いね……。
「……えっと……えっと……」
俺の後ろでは、まったく想定外の事実に、『えっと』とモジモジ運動を繰り返す杏。
まぁ、聞かれる前に説明しようか。
「ああ、ゴメンね。杏ちゃんが心配だったからさ、ここで眠らせてもらったんだ」
「え……」
「で、さすがにベッドに入るわけにはいかないから、壁に寄りかかって寝てたら腰が痛くて」
そう言って、笑ってみる。

62 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/04(金) 23:05:20 ID:30rxXhmn
杏は少しも笑わず、俺の手を取り、
「けいたろうさん……」
「ん?」
「ありがとう……」
「どういたしまして。それより体の方はどう?」
「えっと……大丈夫……みたいです」
「そう?じゃあ……」
杏の額に手を触れる。
恥ずかしそうに視線をそらし、モジモジ運動を再開する杏。
……何だろ。何か、すごく可愛い。
「うん、大丈夫っぽいね」
「学校……行ける?」
「うん。でも、一応母さんに聞いてからね?」
「うん」
優しく微笑む杏。
やっぱり、昨日までの顔とは全然違って……愛らしいというか。
とにかく俺はそんな杏の頭にポンと手を置いて歩き出す。
すると……俺のパジャマの袖が何かに引っ張られる。
見ると、案の定というか、杏が申し訳なさそうに俺の袖を少しだけ掴んでいる。
俺に見られていることが分かると、杏は恥ずかしそうに頭を下げた。
「手、つなごうか?」
そんな杏に俺はそんな言葉をかける。
「……うん」
消え入りそうな声。
でも、俺は確かにそう聞こえた。
そして、杏の小さな手を掴む。
恥ずかしそうに俺を見上げる杏。
……これが幸せなのかもと、少しだけ思った。
───────────────────────

63 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/04(金) 23:05:51 ID:30rxXhmn
昨日と同じ道を、杏と二人歩いている。
実は、駅まで行くには少し遠回りになるが、俺は気にしてない。
隣の杏は、少しだけ嬉しそうな顔をして、俺を見上げながら歩いている。
そんなことよりもだ。
さっき母さんに言われた言葉が気になっている。
『もう立派なお兄ちゃんだ』
昨日の夜のことを話した後、母さんがこう言った。
……立派なお兄ちゃんか。
俺がねぇ……。
確かに俺は杏の兄だ。
そんなことぐらい分かっているが……いざ言われると……。
「けいたろうさん……」
チョイっと杏が制服の袖を引っ張る。
「ん?」
「危ないよ……?」
杏ちゃんが、前を見る。
俺も前を見ると……俺の目の前には電柱が。
「あ……ありがと」
「ううん」
電柱を避けて、また歩き出す。
昨日と同じ、会話のない通学路。
「ねぇ……けいたろうさん……?」
「ん?何?」
「えっとね……うんとね……」
立ち止まってモジモジの杏。
俺も立ち止まって、優しくそれを見守る。

64 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/04(金) 23:06:22 ID:30rxXhmn
「えっと……その…………いいかな?」
「え?」
「だからね……お兄ちゃんって、呼んでもいい?」
「お兄ちゃん?」
……正直、違和感を感じてる。
何だか痒いようなくすぐったいような、もどかしい感じ。
だけど……頼られてるみたいで、凄く嬉しい。
「ねぇ、杏ちゃん」
「うん……」
「もう一回、呼んでくれる?」
「うん……お兄ちゃん」
「何か、恥ずかしいね……でも、嬉しいよ」
「お兄ちゃん……」
杏がちょっと俯きながら、俺の手を取る。
そして、
「ありがとう」
優しい笑顔。
そして、恥ずかしそうにまた下を向いてしまう。
俺は、妹の手をそっと握りかえし、いつもと違う道を歩き始めた。
───────────────────────
ま、杏の話はこれにて終了。お疲れ様。
思いつきの割には、長い間書いてたなー。

さ、セイザーXのために寝よー。

65 :某173 :2005/11/04(金) 23:10:28 ID:euacCdSp
なんだか、すごく、可愛い。GJ!

66 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/05(土) 01:13:35 ID:bEkb4dsr
妹がベットに入り込んできて
「えへへ……お兄ちゃん、好き好きぃ……」
と抱き付いて甘えてくる。

67 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/05(土) 02:19:28 ID:itUsN43Q
ジャイ子が

68 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/05(土) 08:13:42 ID:Ze8b8HN8
>66
それを14の弟にやられたオレは





どないせよと?

69 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/05(土) 12:34:19 ID:bEkb4dsr
>>68
(´・ω・`)

70 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/06(日) 05:08:18 ID:bqyYG0FS
>>68
ウラヤマシス…

71 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/06(日) 12:39:18 ID:e0VIPJQv
>70
オレとしては今後どう弟に接していけばいいのか悩まされる日々が続いているんだが・・いくらかわいいとはいえ、甘やかしすぎたか・・

72 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/06(日) 16:00:57 ID:JK9hZa0W
>>71
掘れ









なんて無責任な事を言ったら駄目だな

73 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/06(日) 18:14:07 ID:rCI6JJj2
BLはイラネ。

74 :前スレ260 :2005/11/06(日) 21:26:10 ID:3u8+UvuN
「勿論、好きだよ・・・お兄ちゃんの事」
「な、なんだよ?急に」
「・・・変な意味じゃないんだよ、ただこれからもお兄ちゃんと一緒がいいなって・・・うん」
「あ、ああ・・・解ってる」

解っているのは頭だけで実の所、心の方はどうだか自分でもよく解らない。
細い指でコップの縁をなぞりつつ上目遣いな巴。
変にシャキッと背筋が伸びる俺。
苦し紛れに視線を逸らしても無口になった眼差しが痛い程に頬に突き刺さる。
さっきとはまた違う二人を包む微妙な空気。

「お待たせしました。スペシャルトロピカルジュースです」

そんな空気もようやくやって来たメニューにより変わる・・・筈だった。

「あっ・・・」
「げっ・・・」

やたらと豪華に盛り付けられたフルーツ、大きなグラスの真ん中にハートの軌跡を描き
巻き付いた二つのストロー。
もはやこれ以上、説明の不要な物がテーブルの上に鎮座している。
まさか、これがくるとは・・・あまりにも予想外。

「・・・あ、あのさ、巴」
「お兄ちゃん、男に二言は無いよね?」
「うっ!?」
「責任・・・とってね」

両手を組んで頬杖をついた女神の微笑み。
振り込んだダイスの目が全て裏目に出た男。
汗をかいたグラスと曇り硝子の向こうの気だるい日差し、そんなある日の午後。

75 :前スレ260 :2005/11/06(日) 21:42:05 ID:3u8+UvuN
とりあえずこの話は一段落。
次の投下予定は文化祭話です。
いや、ヘタすればクリスマスの方が先になったりして。
そんな事より、暫く間を空けていたら神々が降臨!!
皆さん相変わらずの高いクオリティ、頭が下がります。

76 :No.2 :2005/11/07(月) 01:09:31 ID:cw/NZURj
どもども
前スレがdat落ちしたので、うpりました

http://www.geocities.jp/mewmirror9/1110717816.html

77 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/11(金) 19:18:19 ID:++NYqpqQ
人が射ない

78 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/11(金) 21:57:05 ID:HVOHfyu8
>>77
ここにいるぜ

79 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/11(金) 22:36:45 ID:xrV1rg6y
……貼ろうと思ったけど、上の方にあるんで保留。

80 :しゅーまつ :2005/11/12(土) 03:13:55 ID:FpAzIwNG
>遊星氏
お願いしまつorz

81 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:18:05 ID:cwp0+9it
雲ひとつ無い秋晴れの空。
十一月とは思えない暖かい日差しに、強制的に冬服になってしまった制服の袖をまくり、
俺、州田敬介は校舎内をブラブラ歩いている。
今日は年に一度の文化祭!とのことで、校舎内は活気と人間と甘い香りに溢れている。
とはいえ、俺は大した目的も無く、飲食をするような気にもなれない。
なので、こうしてブラブラと歩いているわけだ。
ちなみに、本来今日は日曜なのだが、文化祭のため、全員出校。明日は代休だ。
「誰か暇なヤツいねぇかな……」
友人はみんな用事や、やることがあるらしく、忙しくしている。
唯一の暇人だった友人、立花将人もどっかの教室で何かやるからと、走っていってしまった。
「あの時、立花についていきゃよかったんだよ」
そんなこと呟いても、今更どうにかなるものではない。
せめて、どこかゆっくり静かに座れる場所でも有れば良いのだが……
そう思い、キョロキョロと辺りを見回す。
とはいえ、基本どこもスペースの奪い合い……使ってない場所なんてある訳無いわな。
「自己主張が激しいよな。みんな」
そう皮肉ってみるも、無性に悲しくなった。
俺が少し校舎の端のほうに足を運ぶ。
すると、
「あ……」
体育館のところにいるあの人間は……俺の幼馴染、相川梨那だ。
足を止めて、梨那の様子を眺める。
梨那は体育館の近くに置いてある下駄箱の前で、両手で胸を押さえている。
ここからでは、あまり顔が見えない。
体調でも悪いのだろうか……。

82 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:18:48 ID:cwp0+9it
ま、とりあえず、声かけてみよう。ヒマだし。
「よぅ、梨那」
俺は渡り廊下を通って体育館へ行き、後ろからこっそり梨那の肩を叩く。
「にゃっ!?」
そんなに驚いたのだろうか、大きく体を震わせた後、地面にペタンと座り込んでしまう梨那。
「お、お兄ちゃん……!?」
「そんな驚くことはねぇだろ」
相手に冗談で言った言葉が図星だったときのような、微妙な罪悪感を感じてしまう。
「あ、うん……ゴメン」
気のない返事を返す梨那。
「ほらよ」
とりあえず、梨那に手を差し出す。
「うん……」
しかし、梨那は俺の手を取らず、魂の抜けたような顔でボーっと俺の顔を眺めている。
「どうかしたか?」
「えっ……あっ、うん。なんでもないよ」
「ならいいけど。それより、お前ヒマか?ヒマなら、どっか一緒に巡ろうぜ?」
「あ、ゴメンね。梨那、やることあるから」
やっと、俺の手を取り立ち上がる梨那。
パンパンと制服のスカートの埃を払う。
「そっか、まぁ頑張ってくれ」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん。梨那、頑張るね?」
俺の手を両手で握りながら、梨那がまじまじと俺の顔を見つめる。
言っておくが、俺は別に変な気は起きてない。
ただ、心配にも似た疑問を持ってしまったのだが。
「お……おぅ」
何を頑張るのかは不明だが、とりあえずそう返しておく。

83 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:19:32 ID:cwp0+9it
つーか、ホント、何をするのだろう。
演劇をやるにしては、服は普通だし、裏方だとしても、意気込みすぎだ。
いろいろ考えたが、予想もつかないので、直接聞いてみることにする。
「ところで、梨那、お前何を……」
と、言いかけたが、肝心の梨那はいつのまにか遥か遠く。
体育館の裏口に入っているところだった。
梨那は一度、そこから顔を出して、笑顔で俺に小さく手を振った。
そして、また見えなくなる。
これでまた暇つぶしの当てがなくなってしまった。
「あ、そうだ」
ポケットの中に文化祭のパンフレットを入れていたことを思い出す。
ポケットの中から、八つに折りたたまれた、
黒一色の、いかにも手書きです。という感じのパンフレットを取り出す。
「えっと……今の時間、体育館でやってるのは……お、あった」
そこには、確かに『文芸部』との文字が。
梨那は文芸部じゃないハズだ。じゃ、何で……?
つーか文芸部が舞台で何すんの……?
「ま、どーせヒマだし、見てくか」
パンフレットを折りたたみながら、入り口へ向かう。
中に入ろうとすると、前に立っていた男子に呼び止められた。
「あの、チケットは?」
「え?いるの?」
暇つぶしに今見ていこうと思ったのだ。もちろん持っているわけが無い。
もっとユルい出し物だと思ったので、ちょっと驚く。
「じゃ、買うよ。いくら?」
「いえ……完全前売りになってますから」
「あぁ、そう……」
ここで抗議するほど見たいわけじゃないし、何食わぬ顔で言う。
まぁ、文芸部と梨那との関係が分かれば良いわけだし。

84 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:20:04 ID:cwp0+9it
「ところで、キミ、文芸部?」
「はい」
「今から、何すんの?」
「作品の朗読会ですけど」
……文芸部を悪く言うつもりは無いが、
金を取る上にチケットは前売り、しかも内容が朗読じゃそんなに客は入らないだろ……。
「チケットはどう?売れてた?」
「はい。ほとんど完売で」
マジか……。
すげぇな、いろんな意味で。
「そっか……ところでさ、相川梨那って知ってる?」
「はい!!もちろん!!」
「そんな有名なんだ。さっき、裏口にいたんだけど、何かするの?」
「あ、はい。特別に参加してもらうことになったんです。
 彼女のおかげで、こんなにお客さんが来てくれて……もう感激ですよ」
「そんな凄いんだ、アイツ」
「はい!凄いです、相川先輩の詩、すごい感動しますもん」
「ふーん」
梨那とはずっと一緒だったのに、知らないことってあるもんだなー。
って、梨那の詩なんて、小4のときの花だか草だかのヤツしか読んだことないんだよ、俺は。
それだって、そんなに感動した記憶は無いが……。
一人記憶をめぐっていると、急に体育館内が静かになる。
舞台の上には、司会がいつのまにかいて、その司会に呼ばれ、文芸部員と思われる数名が舞台袖から現われる。
そのなかには、よく知ってる梨那の顔が。
……ガチガチだよ、アイツ。

85 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:20:36 ID:cwp0+9it
「なぁ、キミ」
「はい?」
「すぐ出るから、ちょっとだけ入ってもいいかな?」
「え……?」
「いや、司会の間だけ。頼む」
「……分かりました。ホント、約束は守ってくださいよ?」
「当然だ」
俺は、スリッパを脱ぎ、体育館の中に入っていく。
満席といっても、体育館全てを埋め尽くすほどの席は無い。
俺は後ろの方に立って、舞台を見る。
みな座っている中で、一人立っているのは凄く目立つ。
梨那もこちらに気付いたようで、「どうしよう……」みたいな視線を俺に向ける。
俺にはどうしようもない。
変わってやることなんてできないし、そもそもすぐにココから出て行かなきゃならないんだ。
さっきの部員がにらんでいる。
「せっかちだな」
俺は一言だけ呟いて、右手の拳を前方に思い切り突き出す。
そして、親指を天に上げる。
「頑張れよ」
俺のいいたいことが分かったようで、小さく頷く梨那。
俺もうんうんと頷いた後、振り返って体育館を後にする。
「そういや、真司の妹が喫茶店やってるっていってたな。遊びに行くか」
と言うわけで、このあと、体育館で起こる出来事を……俺は知る由がなくなってしまったのである。
───────────────────────

86 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:21:44 ID:cwp0+9it
まぁ、あの後はいろいろあった。
三上兄妹に会ったし、立花と石川ツインズの喫茶店にも行った(二人のウエイトレス服、つーかメイド服が最高でした)。
考えてみると、俺の文化祭はヒマに始まり、メイド服に終わったわけだ。
飾り付けられた教室で適当にHRを終え、あとは帰宅するだけである。
特に思い入れがあるわけではないが、いざ終わってみると、何となく寂しい。
ま、すぐ忘れるだろうけど。
「さ、帰るか」
教室の外。俺が歩き出そうとすると、
トントンと誰かが俺の肩を叩く。
「お兄ちゃん……」
梨那だった。
梨那は体を丸め、俺の背中に張り付きながら、俺に囁く。
「よう、梨那。どうかしたか?」
「にゃっ!?静かに!!」
「あぁ、スマン。で、どうかしたのか?」
「文芸部の人から逃げてるの〜!!」
梨那は俺の肩越しに、向こうを見ながら、小さな声で言う。
「何で?」
「打ち上げに参加して欲しいんだって〜」
「大活躍だったんだろ?行けばいいのに」
「だって〜……苦手なんだもん、ああいう真面目な雰囲気って〜」
「確かにな」
「でしょ〜?」
「で、それはいいが……何故俺のところに来た?」
「えへへ、お兄ちゃんをお誘いに来たのー。ねぇねぇ、二人で後夜祭いこーよー!」
「後夜祭なんてあるんだ……」
「うん。でも、嬉しいよー!!梨那、まだ全然お兄ちゃんと文化祭してないもん」
文化祭する:自サ変動詞。文化祭を楽しむこと。
「そーだな。このまま帰るのもつまらないし、付き合うよ」

87 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/12(土) 23:22:42 ID:cwp0+9it
「わーい!!やったねー!!さぁ、れっつごー!!」
後ろから、俺の首に抱きついて、頬ずりをする梨那。
「いや、退けって!!苦しいから!!」
楽しいことは二人で。
……何となくだが、今日一日がつまらなかった理由が、わかったような気がした。
───────────────────────
さて、少し話は戻るが、俺が帰ったあとの体育館。
特別ゲストとして呼ばれた梨那。
梨那の誰かさんへの想いを綴った詩は、
内容もさることながら、梨那の話し方にもその人をラブな気持ちが篭っていてステキだった。と言う。
さらにブラスバンド部が、これまたステキなメロディーを奏で始めたから、さぁ大変。
一人のカップルがキスし始めたのを皮切りに、会場内では幾度と無くキスをするカップルが見られ、
ついには噂が噂を呼び、告白の会場みたいになってしまったらしい。
結局文芸部の発表は有耶無耶になったが、成功に終わったと判断したとか。

……と言うのが、俺の後日聴いた話だが、どこまで話の尾ひれなのか分からない。
というか、ほぼ尾ひれのような気がする。
それより……その誰かさんって、誰だよ……?
まだ梨那には知らないことがある。今回それを学んだが……
……ちょっと、ムカつくよな。
───────────────────────
まず、ゴメンなさい。
文化祭話なんで、先生のとカブってます、ゴメンなさい。
つーか、変な話でゴメンなさい。
あと、別に文芸部を悪く言うつもりは無いです。気に障ったらゴメンなさい。
必要と有らば、土下座します。つーか、自害します、自害。

88 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/12(土) 23:34:13 ID:9eaKG29v
んじゃしてみてクダサイ

89 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/13(日) 00:34:49 ID:k8ncuygL
お兄ちゃんせっくすってなに?せっくすしたいのせっくすしたいの〜!せっくす教えて〜!

90 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/11/15(火) 01:09:27 ID:23uZB45s
>>81-87
続きはあるんすか?

91 :しゅーまつ :2005/11/19(土) 04:52:37 ID:dQtvhR/m
>遊星氏
GJ
これからも良い萌え作品をお願いします
>88
まぁまぁ

92 :前スレ260 :2005/11/20(日) 21:10:01 ID:pUindH0o
キャンバスを灰色で塗り潰した様な空。
重たげな雲にも秋の気配を感じつつ早足で家の扉を開ける。
こんな日は家の明かりが妙に暖かい。

「ただいま・・・っと」
「あ、おかえりなさい、お兄ちゃん」

台所で夕飯の準備をしていた巴が俺に向き直って丁寧に迎えてくれる。
しかし、制服の上にエプロンとはまた通好みな格好だこと。

「巴も遅かったみたいだな」
「?・・・ああ、この格好なら解っちゃうね」

エプロンの裾を掴んで巴がはにかんでみせる。
やたらと破壊力のある仕草と姿、もう少し元気があればつい頭を撫でてたかもしれない。
ちなみにこのエプロンは巴お手製。
真ん中に描かれた二匹の子猫がワンポイントだ。

「今日は寒かったね、ココア入れる?」
「そんじゃ、貰おうかな」

コポコポとカップにお湯を注ぐ音を耳に深くソファーに沈みこむ。
なんか・・・このまま寝たいな。

「・・・はい、遅くまでご苦労様」
「ん、ありがとよ」
「文化祭の準備は大変みたいだね」
「ああ、当日まで時間が無いからな」

93 :前スレ260 :2005/11/20(日) 21:11:08 ID:pUindH0o
今回の文化祭は自分のくじ運の悪さを思い知る事になってしまった。
今年は出店の数が去年より一つ多い。
うちのクラスが屋台造りから始める。
その一番キツイ屋台の製作に役が当たる。
全てが当たるのは相当な確率だと思う。

「で、巴の方はどうだ?巴達の学年は体育館で発表会だろ」
「うん・・・順調、かな」

湯気の立つマグカップを二つテーブルに置いてわざわざ真隣りに座る巴。
そんな巴の物言わぬ抗議に応じてとりあえず体を起こす。

「そんなに王子様が嫌なのか?」
「・・・知ってたんだ」
「校内にいれば自然と耳に入ると思うぞ、確か演目はシンデレラだっけか」
「・・・別に役は嫌じゃない、やるって決めたのはボクだから・・・」
「そうだな、例え女子推薦で勝手に選ばれたとしても、な」
「!?ど、どうしてそこまで解るの?」

不思議そうな顔した巴を横にココアの甘い香りに誘われて口に含む。
張り詰めた疲れを溶かすにはちょうどいい甘さ。

「そりゃあ解るさ、俺は巴の兄ちゃんだからな」
「・・・そっか・・・ふふっ、そうだね」

嬉しそうに納得した面持ちでココアに口を付ける巴。
まぁ、俺が兄でなくとも解ったとは思うが・・・誰が考えても当然の配役だし。

「お兄ちゃん、ボク・・・頑張るよ」

静かに、はっきりと自分に言い聞かせる様な巴の決意。

94 :前スレ260 :2005/11/20(日) 21:12:03 ID:pUindH0o
「まっ、俺が何も言わなくても誰に何を言われても頑張るだろうからな」
「えっ・・・」
「無理はしなくていい・・・頑張るのもいいけど、ほどほどにな」
「・・・お兄ちゃん」

慣れないウインクで照れ隠ししつつ本音を語る俺。
我ながらこういうのはホントに柄じゃないよな、というかひどく似合わん。
しかし、ブレーキかけてやらんとどこまでも走り抜けるからな、巴は。
そんな事を考えている内にちょこんと俺の肩に巴の頭が乗っかる。
不意打ち気味に視界に飛び込む流れる黒髪と胸を透く爽やかな香り。

「・・・頑張るんじゃなかったのか?」
「ほどほどに、だよね・・・心の充電・・・少しだけ・・・このままで」
「ま、俺の肩でよれけばどうぞ」

何も言わず瞳を閉じて寄り掛かる巴。
暫くして俺がココアを飲み干す頃には規則正しい寝息が聞こえてきていた。

「・・・やっぱり、頑張り過ぎてたか・・・」

巴は周りの期待に押し潰されてしまう程、弱くはない。
けれどその全てを一人で受け止められる程、強くもない。
誰だって支えが必要だ、ちょうどこんな風に寄り掛かれる支えが・・・
カレンダーに印された赤丸まで後一週間。
肩をかすめる穏やかな寝息を数えながら俺は自分に出来る事を考えていく。

「とりあえず、起こしちゃ悪いし・・・今はじっとしてるか」
「・・・お兄ちゃん・・・余所見なんて・・・ダメだからね・・・」
「ん?ね、寝言か・・・まさか寝言で釘を刺されるとは」

文化祭は騒がしい一日になりそうだな、これは。

95 :前スレ260 :2005/11/20(日) 21:21:03 ID:pUindH0o
>>遊星さん
時期的にネタがカブっても自然な事ではないでしょうか。
話までカブる事は無い訳ですし。
と、いうか遊星さんの話があまりに良いのでちょっと投下
するのに勇気が要りました。
なにはともあれ、GJです!!

96 :にぼし :2005/11/21(月) 02:51:45 ID:/lxMO0pE
最近寒くなりましたが、はお変わりありませんか?
今年の風邪は治りが悪いらしいので、お体にはお気を付け下さい。
俺は今、予備校に向かっています。
今日が初めてなので多少緊張していますが自分なりに頑張ってきます。
10時には実家に帰りますので夕飯のほう宜しくお願いいたします。
麻美の夕飯を楽しみにしています。   信二


「送信っと…」
「………何やってんだ俺は…」
今年の冬から予備校に通うことになった俺は暇だったので妹に妙なメールを送ってしまった…
「はぁ…」
バスの中、背中を丸め溜め息をつく俺…
これからまた勉強だと思うと鬱になる…


予備校に着き先生方と軽く挨拶を済ませ教室に向かった…
教室で座席表を確認し自分の席を見ると真面目そうな眼鏡の長い黒髪の女の子が座っていた…
「あれ?Eの7…」
俺はもう一度座席表を確認した…
間違いなく俺の席に女の子が座っている…

97 :にぼし :2005/11/21(月) 03:12:26 ID:/lxMO0pE
俺は座席表を持って女の子の所へ向かった…
「あの…すいません…ここ俺の席なんスけど…」
「え?あ…え?え?」
女の子は突然話し掛けられたからか焦っていた…
「ここEの7っスよね…?ほら…これ…Eの7沢田って…」
女の子に座席表を指差しながら説明した…
「あ!すいません!私、間違えちゃって…すいません!」
女の子は自分が席を間違えた事に気付くと頭を何度も下げて謝った…
「いや、いいよ。そんな謝んなくて。」
「すいません…私…ここ初めてで…」
「いいよ、いいよ。俺も初めてだし。」
「え?あなたも初めてなんですか!?」
女の子は驚いたのか少し大声を出したのでビビった…
「え…あぁ…そうだけど…」
「よかったー!初めてなの私だけじゃないかと思って不安だったんです。」
女の子は俺が予備校初めてだと分かると急に明るくなった…
「あぁ…そ…そうなんだ…」
俺は少し焦ってしまった…
「すいません…座席表…見せて貰えますか?」
「え?あぁ!はい座席表…」
女の子は座席表で自分の席を探し始めた…

98 :にぼし :2005/11/21(月) 03:28:39 ID:/lxMO0pE
「あ!すいません…一個後ろの席でした…」
女の子は困ったように笑いながら席に座った…
「あはは…」
俺は変な愛想笑いをしてしまった…
「あ!私、谷本綾子っていいます!よろしくお願いしますね!」
「あぁ…お…俺は…沢田信二です…よろしく…」
真面目そうだったので大人しい性格だと思っていた俺はかなり焦っていた…
「初めてで…まだ友達いないんで…仲良くして下さいね…?」
「あ、はい、こちらこそ。よろしくお願いします。」
また困ったような笑いを見せる谷本さんを少し可愛いと思った…
俺は授業が始まるまでの間、谷本さんと雑談をして少し仲良くなった…

99 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/11/23(水) 22:33:42 ID:fUoCigO+
>先生様
さすが先生。もう萌え!っつーか、主人公がかなり羨ましいですw
俺の先に出しといてよかったなぁ……。


>>96-98
ふむ……続き、どうなるんでしょうね。
楽しみですよ、はい。

100 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2005/11/30(水) 09:54:14 ID:fwmulV0t
保守かな

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0ch BBS 2004-10-30