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[第六弾]妹に言われたいセリフ

228 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:53:09 ID:iUl8b3KR
三月。
船はオーストラリア東海岸沿いへと進み、順調な航海を続けていた。
一ヶ月も乗船していると、もはや勝手知ったる他人の家で、すっかり船の内部も覚えてしまった。
そして日常を行うべく、俺は船内の学校に通っていた。

まだ真新しい、建造されたばかりの白い廊下を歩く。独りの足音が周囲に木霊した。
片手に抱えているのは教科書やノートの類で、使い古したせいか微妙に変色している。
 「……はあ」
予想外に退屈だ。
平日は登校。休日は街へ出かける。たまの上陸は観光。
その繰り返しは単調で、飽きの早い俺にとっては苦痛でしかない。
 「お兄ちゃん♪」
曲がり角からひょっこりと顔を覗かせた優希に対し、俺は足を止める。
 「ああ、はい……」
シャーペンを一本取り出し、ポイと投げてやる。
それを見た優希はむっと顔を赤く染めて、ぷんぷんに怒りながらシャーペンを返してきた。
 「ち、ちがうよ!今日はふでばこを忘れたんじゃないの!」
 「え?違うのか?」
 「ちがうもん!」
 「はは……優希も冗談を言うようになったのか。それとも、とうとう幻聴が……」
 「ちーがーうーのっ!!」
 「あうっ!?」
思い切り爪先を踏まれ、思わずよろめいてしまう。そんな様子を無視して優希は話し出す。

229 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:54:05 ID:iUl8b3KR
 「お兄ちゃん、最近元気ないよね……。どうしたの?」
心配そうな表情で顔を覗きこむ優希。微妙に上目遣いだが、仮にも兄なのでなんともないぜ。
 「い、いや……爪先が痛いんですけど……」
 「それはわたしのせいだけど……そうじゃなくてぇ……」
優希の言いたいことは分かる。ここ最近、ろくにリラックスしていない。
もじもじと指先をいじっていた優希だが、ついに決心したのか、ポケットから何かを取り出した。
 「と、いうわけで。お兄ちゃんの息抜き大作戦を遂行しに来ましたっ!」
 「なにその作戦名。ふざけてるの?」
 「じゃーん!なんとここに、温水プールのチケットがありますっ!」
 「ちょ、おま―――」
 「泳ぎにいけっ♪お兄ちゃん」
 「日本語おかしいって」

……一通りの回想を終えて、俺は頭上を仰ぎ見た。
青空にペイントされた天井が広がり、太陽を模された照明がプールサイドを照り付けていた。
視線を上から下に戻してみると、金髪美女が各々楽しそうに泳いでいた。
 「これはこれで……」
 「……お兄ちゃん?」
背後からの殺気に怯え、俺は慌てて振り向いた。
 「……し、白いスクール水着?」
優希が着ているのはその名前の通りの代物で、幼い面影を残す優希にはよく似合っていた。
 「それ、濡れると透けるやつじゃないのか?」
 「す、透けないもん!ちゃんと試したんだからねっ!」
 「試した?」
 「あーうーあーっ!」
墓穴をほった優希はメダパニしながら俺をプールに突き落とした。

230 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:55:02 ID:iUl8b3KR
 「なっ、生温い!」
 「温水プールだもん……お兄ちゃんだいじょうぶ?」
そろそろ優希に憐れな目で見られるようになってきたので、冗談は止めることにする。
 「さてと。足は着く?」
そろりそろりと水の中を歩く優希だが、どうも無理っぽそうだ。
 「だ、だめぇ……真ん中のほうは足が着かないかも……」
綺麗な長髪の黒髪が波にゆれ、水面をゆらゆらと漂っている。波?
 「ここ、波の出るプールなのか」
彼方に目を凝らしてみると、小さな仕切りで区切られた穴があり、そこから出ているようだ。
 「うん。自由にちょうせフーッ、つ出来るみたいだよ」
 「なにやってんのさ」
見ると、優希は小さな口で必死に浮き輪を膨らませている。
 「う、……………………うきわ」
顔を真っ赤にしてぼそぼそと呟く。そんなに恥かしいのだろうか。
それはともかく、浮き輪なら中央の深いところでも問題はないだろう。
 「よし。それ付けて行ってみる?」
 「う、うん」

しばらくして浮き輪を装着した優希と俺は、プールの深い場所へと泳いでいた。
元々外国人用に作られた船なので、俺たちには何もかもが少し大きい。
ちらりと優希に視線を送ると、浮き輪で楽しそうに自分の両足をぷらぷらさせていた。
ニヤリ。

231 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:56:04 ID:iUl8b3KR
 「お、お兄ちゃん!だめっ!」
 「ん?どうしてダメなんだ?」
 「だ、だってぇ……そこは……んっ!」
 「そこ?ここがどうかしたのか?」
 「や、やぁ……入っちゃうよぉ……!」
 「大丈夫だろ」
 「あ、あうっ……!お兄ちゃん、許してぇ……!んんっ……!」
 「嫌だね。ほら、支えといてやるから。出すぞ」
 「あっ!だめぇ!だ、出しちゃだめだよぉ!」
 「だから、大丈夫だって」
 「ふぁぁ……!な、中に出てる……!」
 「ほら、お前も出せよ……!」
 「らめぇっ!やぁ……出るぅ……出ちゃうよぉぉぉぉっ!!」






 「な。水の中で空気出すと面白いだろ?」
 「やだぁ!浮き輪しぼんじゃったよ!ここ、深いところなのに……」
 「だから支えといてやるってば」
 「ばかっ!お兄ちゃんのばかぁ!!」
ストレス発散はできました。

232 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/03/12(日) 12:56:59 ID:iUl8b3KR
夕日が沈むテラスで、俺と優希は手すりにもたれ、夕焼けを眺めていた。
 「お兄ちゃんのきちく……」
 「そういう言葉、どこで覚えてくるんだよ、お前は」
 「むー……」
 「ああもう、悪かったよ。あれでも食べて元気出せよ」

 「わぁ……これ……」
 「美味そうだろ?」
 「うん……お兄ちゃんの、すごく大きい……はむ」
 「……っ!お、おい、あんまり舌動かすなよ」
 「えーっ?どーしてぇ?……んむっ」
 「こいつ……!」
 「んふふ……さっきのお返しだよぉ……ぴちゅ……」
 「わっ……ば、バカ……!」
 「んむ……ちゅ……はむ……」
 「う……!!」
 「えへへ……手で強く握ってあげる……」
 「あ、やめろって……!あ……出る!」
 「きゃっ……!?……あはは、いっぱい出ちゃったね?お兄ちゃん」






 「……ソフトクリーム」
 「せっかく買ってやったのに……もう絶対に買ってやらないからな」
 「さ、さっきのお返しだもん……でも、ごめんなさい……」
船は汽笛を鳴らし、のんびりと航海を続けていく。
旅はまだまだ続くようだ。

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0ch BBS 2004-10-30