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[第五弾]妹に言われたいセリフ
- 83 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 1 :05/03/19 08:41:04 ID:WTKVMXJY
- 世界は千十一の要素で構成されている。
其の始原要素、10。
光、闇、生、地、水、火、風、死、獣、そして人。
全ての要素はこの始原要素の何れかに属する。
私は「死」に属する「血」の使徒。
ヒトに「死」を与える使徒。
然し、今は違う。
私は「血」に新たなる意味を見出した。
「絆」という意味を―――。
「如何だ、調子は」
ベッドの上の史也に話し掛ける。
「んあ・・・おはよう、奈菜・・・・・調子なら普通かな」
「普通、か・・・其れでは良く分からん」
「あー・・・そんなこと言われてもなぁ・・・・」
史也は腕を回し、首を横に鳴らした。
「ずっとこの状態だし・・・足が折れてる以外は多分健康そのものだぜ?」
事実、史也の傷は骨折以外既に完治していた。
之が「使徒の隣人」の持つ特性。
永きの間使徒と関わって来た者は、其の使徒の司るモノに関する「世界」からの干渉が薄れる。
私が本来司るは、ヒトの死。
史也は極端に「死に辛い体」に成っているのだ。
「もう入院してる理由なんかねーんだけどなぁ」
「否(いや)・・・念には念を入れて、だろう。 ・・・・異常な位の生命力だからな」
「うわ・・・なんかトゲのある言い方・・・」
「そんな事は無い。 之でも褒めている心算(つもり)だ」
「うわ〜、喜んでいいのか微妙〜」
ふと、ベッド向かいの棚の上を見る。
「・・・・其れは」
「ん? ああ、お前から貰ったヤツ」
- 84 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 2 :05/03/19 08:42:27 ID:WTKVMXJY
- 其れは確かに、私があの日贈ったシューズ。
「俺の血で汚れちまったからな、空いてる時間に洗っといた」
「・・・・そうか」
「大切なモンだからなー、キレイにしとかないと」
「・・・・大切な・・・物」
史也が、私の贈った物を大切にしている―――。
何故か分からないが、私は非常に嬉しくなった。
「あ・・・奈菜、お前・・」
急に史也が私を見詰める。
「・・・・何だ?」
「今までロクに見れなかったけど、笑った顔、可愛いな」
「・・・・・・・馬鹿野郎」
すぱーん。
私の突込みが史也の頭に入る。
「いてー・・・手加減抜きかよ・・・・・」
「当然だ。 健康なのだろう?」
「んまぁ、そうだけど・・・・」
「其れじゃあ私はそろそろ行くぞ」
「ああ。 勉強頑張って来い」
「ん。 ・・・・そうだ、起こして悪かったな」
「・・・・普通は一番最初に言うんじゃないか、ソレ?」
「済まん・・・・未だ、ヒトに気を使う、と云う事に慣れていないんだ」
今迄そんな事を考えた事が無かったから・・・・。
「いんや、別にかまわねーよ。 俺も奈菜と話せて良かったし」
「そうか・・・では、行って来ます」
「おう、行ってらっしゃい」
戸を開け、病室を出る・・・前に。
「どした、奈菜?」
「・・・・・早く元気に成れよ・・・・・・・お、お兄ちゃん」
其れだけ言って、私は戸を閉めた。
- 85 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 3 :05/03/19 08:44:47 ID:WTKVMXJY
- 「おはよー、奈菜ちゃん」
今日も校門前で有紗に声を掛けられる。
「ん、お早う、有紗」
「お兄さんどうだった?」
「うん、大丈夫そうだった」
「・・・・えへへ〜」
「・・・・何だ?」
「やっぱり今朝も行ったんだ〜」
「・・・・何か可笑しいか?」
「え〜? なんかさー、奈菜ちゃんとお兄さんが急速接近! って感じ?」
「・・・・何だ、其れは」
「前ならさー、毎日なんて通わなかったよーきっと」
「其れは・・・そうだな・・以前の私なら、きっと然程心配しなかっただろうな・・」
「およ? なんか素直にもなった感じ?」
「ん・・・私は自分が思って居たよりも、ずっと子供だった様だ。 おに・・兄が、気付かせてくれた」
そう、私は未だ未だ子供。 ヒトを寄り代とした事など、幾度もあった。 だが、一度もヒトを理解しようとした事など無かった。
だから、私は子供。 何も知らない子供なのだ。
「へぇ〜・・・呼び方変えたのもその影響?」
・・・・・有紗は時々、妙に勘が働く。
「・・・・余計な所で耳聡いな」
「お兄ちゃん、って呼ぶことにしたんだー、へぇ〜」
「・・・・何だ」
「ん〜? ど〜して隠そうとしたのかな〜って」
「・・・・・・恥ずかしい、から・・・だと思う」
之が、「恥ずかしい」と云う想い。 感じた事が無い訳じゃない・・・けれど、認識したのは、之が初めて。
「・・・・・なんか奈菜ちゃん、ますます可愛くなっちゃったなー」
「何を言っているんだ・・・・行くぞ」
「あ、待ってよ奈菜ちゃーんっ。 そんな照れなくてもいいのにーっ」
「・・・照れてなど・・いない」
・・・・・・之が、照れ。
- 86 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 4 :05/03/19 08:47:06 ID:WTKVMXJY
- 今日も私にとって退屈でしかない時間が過ぎる。
「数」のルール、「物質」を構成する元素と言う名の「要素」、世界に存在する「力」・・・・。
どれも之も、「世界の要素」で在る私が知らない筈の無いモノばかり。
だが、此の頃は楽しみも出来た。
ヒトの想いを乗せた言葉達や、ヒトの歴史。
ヒトの想い、ヒトの物語。 どれもが私の心を満たす。
私はもっとヒトを知りたかった。 「私」を知りたかった。
何故今迄知ろうとしなかったのだろう。 世界には、ヒトで満ちていると云うのに。
今、其の歴史の時間に・・・視線を感じ窓を見る。
木々の上に留まる、一羽の鳥。
碧い瞳に、確かに「意思」を乗せて・・・。
・・・・私は手を挙げた。
中年の歴史教諭が私を見る。
「・・どうした、太刀川」
「少し、頭が痛むので・・・保健室で休養を取らせて頂きたいのですが」
「貴様、何の用だ」
私は木々の上の鳥に言った。
「なんか不機嫌だね、キミ」
鳥が、応える。
「楽しみにしていた時間を潰されたんだ。 不機嫌にも成る」
「あらら・・・こりゃ悪いことしちゃったかな・・・待ってて、取り敢えず降りるから」
ばささささっ―――目の前に降り立った鳥は、思ったよりも大きかった。
「先ずは自己紹介。 僕は七人目の僕、八百五番目の使徒。 司るは『断』。 キミは?」
・・・・こいつ・・『世界』からの刺客、か・・・?
「・・・・私は八人目に従属する七十七番目の『血』の使徒。 名は太刀川奈菜」
「へぇ・・いいな、ヒトの寄り代は名前があって。 僕も5、6代前はヒトが寄り代だったんだけどさ」
「・・・・其れで、何の用なのだ?」
「うん、あのね、ここらへんで使徒に心当たりないかな?」
「・・・・と言うと?」
- 87 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 5 :05/03/19 08:50:13 ID:WTKVMXJY
- 「うん、実はね、『欠員』が出てるんだ。 それ自体はそんなに珍しいことでもないんだけど」
欠員――例えば使徒が寄り代から寄り代へ移る間、世界からは其の要素が消える。
短い間ならば他の要素で補う事が出来るのだが、永く「欠員」が出ると其れも又摂理の流れに淀みを生じる。
「結構永いことなんだ。 だから『忘却者』が出たんだと思うんだ」
・・・・・如何やら「世界」からの刺客ではないらしい。 私が「恐」を「殺した」のは、つい先日の事だからな・・・・。
「『忘却者』、か・・・・」
永い永いヒトや生き物、樹木などの生。
寄り代として其れ等に関わり続けて行くと、自身が使徒で在る事を「忘れて」仕舞う者が居るのだ。
「生憎と私の周りに其れらしい者は居ないな・・と言うより私はそう云ったモノを探すのに向いていない」
「うーん、そっかぁ・・・」
気配を感じ、振り返る・・・其処に一匹の猫。
「あ、姉さん」
鳥が羽ばたき、猫の側に降り立つ。
「姉さんと呼ぶのは止めなさい。 未だヒトだった時のクセが抜けていないのね」
猫が喋りだす。
「良いじゃないか、使徒としても姉弟みたいなものだろ」
「もう・・・初めまして。 私は七人目の僕、八百四番目の使徒。 司るは『切』」
「私は・・・」
「存じておりますわ。 八人目の七十七、『血』の使徒」
「・・・・・・名前が抜けている。 太刀川奈菜だ」
「そうでしたね。 では、お聞きになったと思いますが、私たちは『忘却者』を探さなければいけませんので、この辺で」
猫が後ろを向く。
「じゃ、そういうことだから。 勉強の邪魔してゴメンね、奈菜」
鳥が大きく羽ばたき、空へ昇って行った。
「そうだ、奈菜さん。 『恐』の使徒を、知りませんか?」
「・・・・・・いや、最近は見ていないな」
「・・・・そうですか。 奈菜さん、気を付ける事です。 例え貴方が『観念』を倒すことが出来たのだとしても、所詮は一使徒。
『現象』二人に掛かれば・・・・貴方が『死ぬ』ことに成るのですから。 では、さようなら」
身を翻し、猫は街へと消えて行く。 ・・・切の言葉。 其れは私の行いが「世界」に通じていると云う事・・・。
そして、命令さえ在れば・・・・何時でも私を「殺し」に来ると云う事。
- 88 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 6 :05/03/19 08:51:50 ID:WTKVMXJY
- 「奈菜ちゃーん、心配したよぉーっ! いきなり授業休んじゃうんだもーん!」
「・・・・有紗、保健室では静かにするものだ」
「ふーんだ、親友に心配掛ける奈菜ちゃんがいけないんだもーん!」
無茶苦茶な理屈・・・だけれど。
「親友・・・・」
「そーよ! この頃奈菜ちゃんお兄さんのこととかで忙しそうだったし、わたし結構心配してたんだからね! 親友として!」
「有紗・・・・・私は、有紗の、親友なのか?」
「え・・・な、何ソレぇ!? それが幼稚園の時から一緒だった親友に言う言葉ぁ?!」
「い、いや・・・有紗にとって、私は親友と呼べる様な存在なのか?」
「あったり前じゃないのぉ! ソレとも何?! 奈菜ちゃんにとってわたしって親友でも何でもなかったの?! そーなの!?」
「わ、私は・・・親友とか、そう云うの・・良く分からないから・・・」
「何、何ー? 今日はわたしを怒らせるキャンペーン? 親友の意味? 好きか嫌いか、それだけでしょ!」
「そ、そう・・・なのか?」
「あーあ、奈菜ちゃんがわたしを嫌いだったなんてかなりショックぅ・・・」
拗ねた様な言葉。 頭で本気で無いと分かっていても、其の言葉に慌ててしまう。
「あ、否、べ、別に有紗が嫌いとかじゃなくて・・・」
「でも、わたしは親友じゃーないんでしょー?」
「あ・・・・有紗は・・・私の、親友・・・だ」
「どうして?」
「私は・・・有紗が、好き・・・・だから」
「・・・・えへへ、なーら許しちゃう」
有紗に笑顔が戻った。 ・・・此処でやっと気付く。 私はこの笑顔が好きなんだ、と。
「有紗は・・・私の事、好き・・・・か?」
「ん? うん、だーい好きっ」
何の臆面も無く・・余りにも無防備過ぎる其の言葉は――私には、眩し過ぎる。
「あ、あれ・・・? な、奈菜ちゃん、泣いてるの?」
「ん? いいや、私は笑っているよ」
「で、でも、涙が・・・」
「嬉しくたって、涙は出るのだろう?」
史也と有紗。 二人の絆が在る限り、私は負けない。
- 89 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 7 :05/03/19 08:53:34 ID:WTKVMXJY
- 「はいはい、二人の友情物語はそこら辺にしてもらえる?」
奥から透き通る声。
「あれ、吉川先生居たのー?」
「あのねぇ・・・保健の先生が保健室に居なくてどうするの」
「だってー、こっからじゃ見えないんだもーん」
「土方さん・・・私を怒らせたいの?」
しゃっ、とカーテンが引かれる。 其処に現れるのは白衣の女性。
「いくら貴方達しか居ないからって、あんまり騒がれちゃこまるの。 ここは保健室なんですから」
「はーい。 いやーしかし吉川先生、今日もお美しいですなー」
「何を言ってるの・・・太刀川さんも元気があるなら起きて教室行きなさい」
「あ、吉川先生、今のはNGです! いくら美しい吉川先生でも、わたしの親友に無理させたらダメダメです!」
「否・・・先生の言う通りだ。 もう大丈夫だから、教室に戻ろう」
「本当に大丈夫? 無理なんかしたら駄目だよ?」
「ああ・・・大丈夫だ、無理はしない。 有紗や、おに・・いちゃんに、心配を掛けたくないからな」
言って、有紗に笑い掛ける。
「わ・・・・・な、奈菜ちゃんって・・」
「何だ?」
「笑うと一層カワイイね」
「・・・・・」
べしっ。
「い、痛ーい! 奈菜ちゃんがぶったー! 割と本気でーっ!」
「・・・二人で同じ事を言うからだ」
「え、何・・・あ、待って待ってぇ! 何処行くのぉ?」
「・・・・教室だと言ったろう」
私はドアを開け、挨拶をしてとっとと出て行く。
「あ、待って、待ってってばぁっ! そ、それじゃ失礼しまーすっ」
「んふふ・・・仲良きことは美しきかな。 子供達って飽きないわねぇ・・なんて、年寄り臭いかしら?」
にゃあ、にゃぁー。
「あら・・・・猫かしら?」
- 90 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 8 :05/03/19 08:56:06 ID:WTKVMXJY
- 「其れじゃあな、有紗」
そして放課。
「んー、お兄さんによろしくねー・・・・はぁ」
言葉尻の溜め息。
「幸せが逃げるぞ」
「え・・・あ、そーだね」
「如何したのだ、有紗」
「んー・・・わたしもお兄さんのお見舞い行きたいなー、って。 一日くらいピアノサボっても大丈夫かな?」
「サボりは善くないな」
「え〜、奈菜ちゃんヒドいよー。 自分ばっかりお兄さんとー」
「・・・・・有紗。 私も兄・・お兄ちゃんも、有紗のピアノが好きだ」
「えっ?」
「だから・・・退院した時、聞かせてやってくれ」
「あ・・・・う、うん!」
「練習、確りな」
「まっかして! 有紗ちゃんの超絶テクでお兄さんも奈菜ちゃんもピアノ中毒にしちゃうんだから! 退院の日、覚悟しておくことね!」
「嗚呼、覚悟して置くよ。 又な」
「ばいばーい!」
街の中心街へと有紗は駆け出す。
私はと言うと反対方向、今朝の病院へと歩き出す。 学校からは少々遠い道。 歩く裡(うち)、段々と辺りも暗く成る。
家々から流れる夕食の香りと温かい灯り。 其れ等に安らぎを感じ始めている自分――――。
私は、ヒトに近づけているのだろうか・・・・。
<<・・・すけて・・・! ね・・んを、た・・て・・・!!>>
「!?」
突如私の頭に響く思念の波。 痛切で、唯想いだけをぶつける様な思念。
何だ・・・・こんな「思念」を繰る事が出来る者が・・・この街に居たのか?
突風が駆け抜け、私の真後ろで一塊に成る。
其の中心に、一匹の猫。
「・・・・・貴方・・七十七番目・・?」
其の猫が、喋りだす。
- 91 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 9 :05/03/19 08:59:31 ID:WTKVMXJY
- 「お前は・・・切か? 寄り代を変えた様だが」
「ええ・・・私の寄り代は、『焼かれて』しまった」
「『焼かれた』・・・?」
「済まないけれど・・・力を貸して欲しいの・・断を助ける為に」
走りながら喋りだす。
「私は欠員らしきヒトを見付けた。 暫く様子を見たけれど、やっぱり『忘却者』だった・・・。
だから私は記憶に干渉して呼び起こそうとしたの」
「・・・・お前にそんな事が出来るのか?」
「私は七人目の僕。 吹き抜ける風程度になら干渉も出来るわ」
「・・其れで?」
「彼女は、目覚めた・・原始の意思の儘に・・・・。 今彼女の頭には唯一つの思いしかないわ」
辿り着いたのは―――私の、学校。
「自分が司るモノを唯司るという意思だけ」
人影無きグラウンドの真ん中に白い影。
「六人目の腕、百八番目の使徒」
美しき顔に表情は無い。
「司るは、『焼』」
「・・・・・吉川先生」
足元に、焼け焦げた黒い物体・・・昼間見た切の寄り代だろう。 手には一羽の鳥・・・・断だ。
「ねえ・・・さん・・・」
「断・・・!!」
「ゴメン・・・流石に・・『火』には、勝てなかった・・・・よ・・」
「断、待ってて、今助け―――」
ぶわんっ!
衝撃波の様なモノが掛け、思わず目を閉じる。
開く・・・と共に広がる焦げた臭い。
白衣の右手に最早鳥の姿は無く・・・・・唯、焼け焦げた、肉塊。
「・・・・・くっ・・!!」
之が、「焼」と云う「現象」・・・・。
- 92 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 10 :05/03/19 09:01:10 ID:WTKVMXJY
- 「私は・・・・『焼』。 あらゆるモノを、大地へと還す力。 私は、還す。 全てを、『世界』に」
「・・・焼! 徒に『世界』を還元して、如何するというの!」
「私は・・・・『焼』。 あらゆるモノを、大地へ―――」
「・・・・・駄目ね・・如何にかして止めないと、この辺り一帯を焦土にしても止まらなそう」
「・・・・仕方在るまい」
私は意識を集中させる。
「暗き闇より深く、燦然と輝く生よりも美しく・・・全てのモノに等しく在り、唯唯一なるモノとして在る―――。
此処に具現せよ。 我に体現せよ。 世界に存在せよ。 汝は死、我が手に集いて其を示せ」
現れる、大鎌。
「殺すの?」
「真逆(まさか)。 あれは私の学校の先生なんだ。 死なれては困る」
「多少手荒な方法で・・・って事ね」
「ああ。 相手は『現象』だ。 二人掛かりとはいえ油断するな」
「それはこっちのセリフよ」
たんっ―――私から飛び掛る。
「汝・・・使徒で在りながら、私を邪魔するか・・・」
片手で大鎌を受け流し、私の懐へ潜り込む。
「こっちよ!!」
其の隙に背面に回り込んだ切が、其の爪を振るう―――が、最小の動作で其れを回避する。 即ち、私を吹っ飛ばし、前へ。
「くっ・・・っ!」
着地し焼の方を見る―――眼前に迫る焼。
「『焼けろ』」
ぶわっ。 私を炎が包む。
「ああっっっ!!!」
「彼女を、放しなさい!!」
切が焼に飛び掛る・・・が、又してもかわされ、体を捕らえられる。
「汝、再び『世界』へ還るか?」
「ぐっ・・・!!」
「其の手を、放せぇっ!!」
大鎌の柄を当てる様に振るう。 が、余計な気遣い立った様で、焼は難なく其れをかわす。
- 93 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 11 :05/03/19 09:03:10 ID:WTKVMXJY
- 「っっ!!」
一瞬逸れた焼の注意を見逃さず、切は如何にか自由を得る。 私達は素早く距離を取った。
「・・・・『強い』な」
短い迎合だったが、「強さ」の差が嫌と言う程分かった。
「ええ・・六人目の系統は使徒の中でも『強い』部類。 しかも・・・風は火を煽るだけ」
「相性も悪い、か・・・全く、厄介事を持って来てくれたな」
「悪かったわね・・・・」
「・・・・切、一太刀で良い。 如何にかして焼の・・先生の体に傷を付けろ」
「何・・何をするつもり?」
「私が何を司っているか、忘れたか」
「・・・いいわ、よく分からないけれどやってみるわ」
駆け出す切。 私も右方向から焼に駆け寄る。
「せぇいっ!!」
切が躍り掛かる。 焼は上半身を逸らしてかわし、切を左手で捕らえようとする。
「はっ!!」
私が切り掛かる――大鎌の攻撃範囲外から。
「!」
一瞬の虚―――投げられた大鎌に焼の反応が遅れる。 其れは本の小さな隙。 大鎌をかわすのには問題はない。 だが。
「そこよっっ!!!」
切が焼の左腕に斬撃を与える。
「―――!?」
不測が二度も続き、焼は無防備。 意識其の物で在る使徒にとって、其れは致命的。
「私の邪魔をするな!!」
ごうっ! 切が炎に包まれ、飛ぶ。
「其方ばかり見ていて良いのか?」
私は左腕の傷口を掴んだ。
「――暫く眠っていろ」
「・・・・な、に・・・・を・・」
「喋るな、辛いぞ」
ふっ――と焼の意識が途切れ、私に崩れ落ちた。
- 94 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 12 :05/03/19 09:05:15 ID:WTKVMXJY
- 「何を・・・したの?」
起き上がった切が、此方に歩いて来る。
「先生の体の血の流れを止めた」
「血流を・・・?」
「嗚呼。 原始の意思しかないので在れば、寄り代と使徒の結び付きも強い。 ヒトの・・寄り代の意識を奪う方法で十分だ」
「血流を止めても・・・暫くは意識が残るのではなくて?」
「こいつは『焼』だ。 酸素のない状態に長くは耐えられないだろう」
「――使徒の意識のクセを利用するとはね・・・『恐』も、そうやって倒したのかしら?」
「・・・・やはり、『世界』は知っていたか」
「少なくとも・・『始原の十人』は知っているのでしょうね。 私は『空』に聞いたのだけれど」
「はっ、あの噂好きか。 奴に掛かれば『世界』中に知れ渡るのも時間の問題だな」
私は自嘲気味に笑った。
「・・・貴方は、何故・・『世界』を――」
ごおっ!!
轟音に言葉が掻き消される。 又も切は炎に包まれた。
「なっ―――!!?」
私の腕の中の先生が―――目を、開く。
「うふ、うふふふふ・・・流石ね、『血』の使徒」
辺りが、赤に包まれる――。
「六人目の配下を使って負けるなんて・・・予想外よ」
私が、燃えている・・・・。
「安心して。 未だ、『殺さ』ないから・・私の受けた苦しみを、味あわせてあげるから・・・・。 うふふふ・・・・・・」
其の美しい顔が狂気の笑みに歪むのを見て・・・・・私の意識は、途絶えた。
冷たい感触―――私の意識は其れに呼び起こされた。
「お目覚め?」
見下ろす、『焼』・・・・・。 床に倒れた、私。
「此処が何処だか、分かるかしら?」
意識がはっきりとしてくる・・・忘れる筈が無い、今朝程来たばかりなのだから。
- 95 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 13 :05/03/19 09:08:27 ID:WTKVMXJY
- 「そう、此処は病院。 深夜、誰もが寝静まる、患者達の病棟」
私の横には、切。
「彼女なら大丈夫。 無関係の使徒を『殺す』理由は無いもの。 唯、彼女は七人目、風の僕。
空気を断ち切ったのだから暫くは動けないでしょうね」
「お前は・・・何を・・・!?」
「うふふ・・私は私が受けた苦しみを、貴方にも返したいだけ」
「貴様・・・・『焼』では、ない・・・?!」
「うふふふふ。 そんな事は然したる問題ではないわ。 貴方が『太刀川奈菜』でないのと同じでしょう?」
息が苦しい・・・・頭が痛む・・・・・声が、頭に響く・・・。
「貴方は、『恐』を『殺した』。 私の半身も同じ、彼女を。 だから殺すの。 貴方の半身を」
私の半身・・・真逆!?
「うふふふふふふふふ。 そう、其の顔。 彼女が一番好きだった」
焼・・・白衣が、歩き出す。
「黒焦げにしてあげるから、火葬代は浮くわよ? うふふふふふふふふふふふふふふ」
「くっ・・・貴様、待て・・・!!」
「あら、無理はしない方がいいわよ? 今此処はとても酸素が薄く成ってるから」
「くぅ・・・!!!」
一歩が、途轍もなく重い。
「『焼』って便利ね。 この『現象』なら、広範囲の生き物を殲滅する事も出来るわ。
いっそ八人目の従属にした方がいいかも知れないわね。 うふふふふふふ」
「ま、て・・・・!!!」
「うふふふふ。 ゆっくりついて来るといいわ。 待っててあげるから」
たん、たん、たん―――廊下に足音が響く。
奴は・・『焼』の現象を如何にか利用して、自分の周りに酸素を確保しているのだろう・・・・。
其の後を、間抜けの様に着いて行く。
「くぅ・・・はぁ・・!!」
途中、何度も倒れそうに成りながら。 其の度に奴は此方を見て、笑う。
如何したの? 貴方の半身の命は、私の手の内に在るのよ? 取り返さなくて良いの? と。
「くっ・・・・・!!!!」
「ほら・・・もうすぐよ?」
- 96 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 14 :05/03/19 09:10:53 ID:WTKVMXJY
- 指差すプレート・・・・507、太刀川史也。
「さて・・如何する? 此の儘部屋の外から火葬する事も出来るわ。
其れとも、直接彼が焼ける様を見たい? うふふふふふふふ」
「くっ・・・!!!!」
「私は、彼女の死に様を見られなかったわ・・・。 其れはとても辛い事。 貴方にそんな辛い思いをさせるのも気が引けるわ。
うふふ。 だから・・・貴方の目の前で焼いてあげるわ・・・うふふふふふふふふふ」
「止め・・・ろぉ―――!!!」
すっ・・・ドアが開かれる。
其処に眠る、史也。
「うふふ・・・さぁ、さよならよ」
白衣の手が、史也に伸び・・火花が散る。
ぶわっっ!!
突然の突風。 炎は史也でなく、白衣を包んだ。
「奈菜、大丈夫!?」
後ろから、聞き慣れぬ男の声。
「うふふふふ。 上手く風を操って炎を私に向けたのね? でも、この体は『焼』。 炎などに焼かれる事は無いわよ?」
すぐに火は消えた。
「奈菜、僕の『現象』を貸す! 奴と『焼』との『繋がり』を『断』って!!」
「―――出ろ!!!」
私の一言で具現する大鎌。 其処に、『現象』を乗せる。
「たぁ―――!!!」
すっ―――間違い無く、刃は白衣を捕らえた。
糸の切れた人形の様に、先生の体は崩れた。
「・・・・・・・・・・・上手く・・・いったの?」
「・・・・嗚呼。 空気が、軽く成った」
風が吹く。 外から中へ、今迄押し止められていた空気が動く。
「そうだ・・・他の患者達は・・・」
「ん、廊下とこの部屋だけみたいだよ。 彼の周りは確保されてたみたいだし、僕の部屋も大丈夫だった。 だから空気を持って来られたんだけどね」
「・・・・貴様、知っていたのか? 私が何をして・・そして誰かに狙われていたのを」
「・・・・出ようか」
- 97 :月影に踊る血印の使徒:第二夜 15 :05/03/19 09:18:03 ID:WTKVMXJY
- 屋上、星々の光が私達を包む。
「切は、如何だ」
「うん、大丈夫っぽい。 何だか変な気分だね、こうしてヒトの姿で猫の姉さんを見るのは」
左手に抱き締めた切を、男――断は優しい目で見ていた。
「ふう・・いい加減しんどいな。 よいせっと」
右手に抱えた焼――吉川先生をベンチに降ろす。
「姉さんもここで寝ていてくれよ」
そっと、切を寝かせる。 暫しの間を取って、話しだす。
「・・・・・・・・僕は『生』の意思で動いてる」
「・・・・三人目の?」
「うん。 奈菜の取った行動は確かに『摂理』の流れに反しているかもしれない。 けれど、使徒としては正しい行動だった。
奈菜の見付けた新しい『意味』は、『世界』にとっては意外なものだったし。
今までずっと『死』の従属だと思っていたのに・・・むしろ『人』の方が近かったんだもん」
断は手摺りに寄り掛かり、肩越しに街を見た。
「だから、今『世界』は揉めている。 奈菜を、『摂理』に背いた者として『殺す』か、否か」
「三人目は、私を生かす意見か」
「そうじゃない。 まだ見極めきれてないんだ。 キミを迎えるべきか否か。 だから、見届け人を僕に頼んだ」
「・・・では、何故私を助けた?」
「姉さんを助けてくれたから」
「・・・・其れだけか?」
「本音はね。 建前も在るよ。 アイツは個人の恨みで奈菜を狙ってるから、っていう。 さっきも奈菜より先に彼を殺そうとした」
「・・・奴は・・『恐』を自分の半身と言った・・・奴は、何者なんだ?」
「それは・・・まだ分からない。 唯・・・相当な『強さ』だね。
『現象』を操って・・『時の制限』を認識出来る媒介無しでやってのけた」
「『根源』か、其れ並みの『強さ』か・・・」
「・・・・どうするんだい、奈菜。 はっきり言って勝ち目は無いよ。 『世界』がすぐに結論を出すとも思えない」
「相手が何で在ろうと・・・」
私の司る『絆』に誓おう。
「私は史也を護ってみせる。 絶対に―――」
仰いだ夜空には、燦然と満月が輝いていた。
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0ch BBS 2004-10-30