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[第六弾]妹に言われたいセリフ

484 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/10/08(日) 22:14:15 ID:gbCW+2p8
「ふぅ……」
放課後の教室に、自分のため息だけが響く。
いつも賑やかな教室は、誰もいないと非常に寂しいものだ。
急かされるように、荷物をまとめ、同じように誰もいない廊下を歩いていく。
賑やかに演奏しているのは、ブラスバンド部だろうか。
新しい曲なのだろうか。まだまだ未熟な音が、やかましく聞こえる。
「ん?」
そんな音の中に紛れて、かすかだが、ピアノの音が聞こえた。
ブラスバンド部ではない。
その音に引き寄せられるように、フラフラと行き先を変え、音楽室の前へと。
開け放たれたドアの向こうで、ピアノを弾いている少女の背中。
顔は見えないが、確かに見覚えがある。
だが、声をかけるのは勿体無い。
このまま、曲が終わるまで待つ。
最後の盛り上がりを迎え、美しい旋律はあっと言う間に終わってしまった。
パチパチパチ……。
間抜けな拍手を鳴らしながら、ピアノの方へと歩いていく。
少女は大きく肩を震わせ、振り返る。
「葵はピアノも上手なんだな」
「お、お兄ちゃんっ!?」
「あ……ゴメン、驚かすつもりは無かったんだけど」
「ううん、いいよ」
楽譜を閉じ、立ち上がる葵。そして、大きく伸びをする。

485 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/10/08(日) 22:14:48 ID:gbCW+2p8
「でも、どうしたんだ?こんなトコでピアノなんて」
「別に。芸術の秋……でしょ?」
「芸術ねぇ……」
……そういうのがどうしても理解できない人間にとっては、なんか胡散臭い言葉ではあるのだが……。
「なんてね。合唱の伴奏の練習だよ」
「ほぅ、葵が伴奏やるのか」
「うん、ピアノ弾けるの私しか居なくて……っていっても、私もかなりブランクあるんだけど……」
「へぇ……でも、ピアノ弾けるなんてカッコいいな?」
「そう……?そんなこと……無いよ……えへへ……」
褒められてるはずの葵が、妙に恥ずかしがっている。
ブランクがあるというのは、どうやら本当らしい……。
「そっか。じゃ、邪魔しちゃ悪いから、俺は帰るよ」
「えっ!?」
「どうした?」
「えっと……その……だから……」
大きな声を出したかと思ったら、何だか急に言葉に詰まる葵。
「……?」
「ピアノ、聴いてて欲しいんだけど……」
「俺が?」
「うん……」
「まぁ、いいけど……音楽とか、俺全然わかんないよ?」
「いいよ。私は、お兄ちゃんがいれば……」
「はは、まぁ、俺がいれば遅くなっても少しは安心だしな」
……一瞬の間。

486 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/10/08(日) 22:15:20 ID:gbCW+2p8
「まぁ……こんなものか……」
「え……?」
「ううん……じゃ、始めるね」
「あぁ……」
俺の返事に答えるように、目を閉じ大きく息を吸い込む葵。
葵の細くて長い指が、舞うように、鍵盤の上を駆ける。
先ほどとは違う。というよりも、先ほど以上の美しい旋律が、直接頭の中に響くように聞こえた。
それに、葵の楽しそうな顔が、なによりも目を惹きつける。
そのまま時が止まってしまったかのような錯覚。
ただのピアノの音が、葵の声にすら感じられる不思議……。
もしかして俺は……。
「お兄ちゃん……お兄ちゃん……!!」
葵の声……。
「葵……?」
「どうしたの、ボーっとしちゃって……?」
「え?……あぁ、ゴメン。あんまり上手かったからさ」
「あはは。お世辞なんて、お兄ちゃんらしくないなぁ」
あの時とは違う葵の屈託の無い笑顔。
……ん?あの時……?
「俺……何考えてたんだっけ……」
「うーん……さすがにそれは分からないけど……」
と言いながらも、一応考えてくれる素振りは見せる葵。
「何か大事なこと考えてた気がするんだけどな……」
「あはは。わかるよ、その気持ち。でも思い出すと意外と呆気ないんだよねぇ」
「まぁ……そうかもな……」
……やっぱり思い出せない。
確かに葵の言うとおり、どうでも良いことだったかもしれない。そんな気がしてきた。

487 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/10/08(日) 22:15:55 ID:gbCW+2p8
「ん?私の顔、何か付いてる?」
「え?」
「いや、ジッと私の顔見てたから……」
「あぁ……ゴメン……」
……無意識って恐ろしい……。
「ううん、いいのっ!」
「……やっぱ、俺何か変だ……帰るわ」
「あ、じゃあ私も帰るー」
「いいのか、練習は?」
「うん、一時間もやれば十分だよ」
……そんなに時間がたってたのか……。
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん」
ピアノの蓋を閉じて、俺の隣に並ぶ葵。
「……」
「……?どうしたの?」
葵が俺の顔を覗きこむ。
その何気ない表情に俺は……
「やっぱ変だぁぁぁぁ!!」
「……え!?ちょっとお兄ちゃん!!待ってよー!!」

……後で思い返して恥ずかしい出来事がまた一つ。
そのきっかけになった葵への感情は、今となっては、もはや誰にも分からない……。
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