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[第六弾]妹に言われたいセリフ

123 :前スレ260 :2005/12/24(土) 22:52:12 ID:DnXxEcaI
という訳でちょうど前回の投下から一月メリークリスマスです。
なんとかイブの内に投下完了。
クリスマスという事で話は気持ち甘めにしたのですが如何だったでしょうか?
そんなこんなで今年も後わずか、神々のクリスマスssに期待しております。
ええ、本気で楽しみにしております、遊星様。

124 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/12/24(土) 23:00:09 ID:B46v4i9M
萌えました。グッジョブ!!

125 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:01:39 ID:dQ915QoI
【相川梨那編】

今日は十二月ニ十四日。
ここ日本では、くりすますというお祭りが行われるらしい。
「ま、オレの知ったこっちゃないわな」
木枯らし吹く窓の外を見ながら呟き、
また一つ冬休みの宿題の問題集を埋めていく。
まぁ。このペースなら、今日中に終わるだろう。
俺が一息入れようかと思ったとき、
カンカン
甲高い音がどこかから聞こえた。
ノックかと思ったが、ドアの方からじゃない。
この音は、窓の方から……
「やっほー♪お兄ちゃん」
窓の向こうには、何だかよく知っている女が。
「……よぅ、梨那」
俺は体を縮ませ、のっそりと窓のそばに歩き、いや、もとい這っていく。
「うぅー!!さむーい!!開けて開けて!!」
梨那は足踏みをしながら、ガラスをバンバンと叩く。
「そしたら俺が寒いじゃん。玄関から入ってこいよ」
「玄関に行く前に、凍死しちゃうよー!!」
「大丈夫だ。人間はそれぐらいじゃ死なない」
「ヒドい……ヒドすぎるよー!!幼馴染がこうして寒さに震えてるんだから、少しは優しくしてよー!!」
「つーかさ、人の家のベランダに勝手に入ってくるなよ」
「もー!!そんなことはいいから、早く入れてよー!!」
「ヤダね」
「むー、しょうがない……作戦その1だ」
「作戦?」
俺が聞き返した瞬間……

126 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:02:13 ID:dQ915QoI
「あーるーはれたーひーるーさがりー いーちーばーへつづーくみちー……」
梨那がこの世の終わりのような顔をして、歌を歌い始める。
しかし、クリスマスソングとかじゃなくて、ドナドナっ!?
何だ、この異様なプレッシャーはっ!?
「どなどなどーなーどーなー……」
「や、やめろよ!!」
「こうしをのーせーてー……」
「やめろって!!」
「にばしゃがゆーれーるー……あ、終わっちゃった」
「ふぅ……俺の勝ちだな」
「むぅ、やるなー」
腕を組んで少し考える梨那。
そして、
「こうなったら、泣くぞー!!」
「泣け」
俺がそういうと、ガラスの向こうの梨那は大きく息を吸い込み……
「わぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!!!」
大声で叫びだした。
……マジか。
震えるガラス。ほえる近所の犬。そして、騒がしくなる階下……。
勘弁してくれよ……。
「分かった!!入れてやるから!!止めろ!!」
俺は窓を開き、梨那を引っ張り込む。

127 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:02:47 ID:dQ915QoI
「わーい!!ありがとぉ!!」
冷たい風と共に、俺の部屋へと侵入する梨那。
そして、エアコンの風が直撃する場所で、意味も無くくるくると回る。
「で……何か用?」
俺はベッドに座りながら、ぶっきらぼうに尋ねる。
「ああ、そう!!梨那、お兄ちゃんにお願いに来たの!!」
回転運動をやめ、両手を体の後ろで組んで、俺を見上げる梨那。
これは、目一杯の可愛いポーズ(のつもり)。
つまり、このポーズをしたときは、最っ高にロクでもないことを要求されるのだ。
「……宿題なら見せんぞ」
この状況で、そんなワケはない。
これからの要求を考えたら、この程度なら安いもんだ。
「ううん、今日はそうじゃなくてぇ……」
コートのポケットから、ゴソゴソと何かを取り出す。
「じゃーん!!クリスマスパーティー!!」
「行かねぇ」
こういうのも「二つ返事」と言うのだろうか。
俺は、間髪いれずに即答した。
「何でー!?まだ梨那何も言ってないぃー!!」
「梨那が、俺にとって魅力的な条件を提示してくるとは考えられない」
俺は机に向かい、答える。
話しながらでも、この程度の問題なら解ける。

128 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:03:20 ID:dQ915QoI
「分かんないよー?」
「いや。分かる。まぁ、仮にそうだとしても、行くか行かないか迷うのが面倒だ。だから、知らないまま断る」
「にゃぁ……それは面倒くさがり過ぎるよー」
「短い冬休みを有効に活用したいだけだ。迷う時間が勿体無い」
「で、でも!!きっとパーティー、楽しいよー!!」
「知らん。そもそも、そんなとこ行ったら、今日中に宿題終わらんだろうが」
「え?もう終わるのっ!?」
「このペースならな。だから帰れ」
「……」
急に黙る梨那。
「どした?」
俺が問題集から目を離し、そちらを見ると、相当ヘコんでる梨那が。
「あーあ、梨那も行きたかったな……」
「一人で行きゃ良いのに」
「でも、みんなカレシ連れてくるって言うんだよ?梨那一人じゃ行けないよ……」
「あ、そう……って、おい。俺を彼氏として連れてく気だったのか!?」
「うん」
意外と強かなヤツだ……。
よかった。行かないって言って。
「行きたいなぁ……」
「あのな、梨那。そんな見栄張りたいだけだったら、行くのやめとけよ」
「別に見栄張りたいわけじゃないもん」
「じゃ、何?何でそこまでして行きたいの?」
「だって、せっかくのクリスマスなのに、何の予定もなくなっちゃうよ……」
「……ったく」
俺はシャーペンを机にたたきつけ、床にペタンと座る梨那の手を掴む。

129 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:03:53 ID:dQ915QoI
「じゃ、今夜は何か食いに行こう、二人でさ」
「……え?」
あっけに取られたように、俺の目を見つめる梨那。
え、何、このリアクション?
「何だよ?」
「お兄ちゃん、すごい優しい……」
ぶん殴るぞ、このアマ。
とはいえ……この雰囲気でそんなことは出来ない。
「優しいのはイヤか?」
怒りを抑えるため、少しキザめにしてみました。
どうでしょう、お客さん。
「ううん……好き」
お気に入りのようですね。
「その代わり、パーティー断わっとけよ」
「……やっぱり、パーティーはダメなの?」
「別に誰かの男自慢なんて聞きたくないだろ?つーか、さすがに知らんヤツと同じ時間を過ごすのはイヤだ」
「うん……そうだね。だって、梨那のお兄ちゃんが一番だから」
「当然だ」
梨那の頭をポンポンと叩く。
「さてと……じゃあ、ペース上げなきゃな」
「うん、じゃあ梨那は帰るね?」
「おぅ。何か良い店ないか調べてくれよ」
「はーい!じゃ、また後でねー?」
小さく手を振り、ベランダに戻る梨那。
俺は小さく手を挙げ、それに答える。
愛用のシャーペンをくるくる回しながら見る問題は、
いつもよりも簡単で、いつもよりも早く解けてしまう。

俺は結局、何だかんだで、クリスマスに巻き込まれてしまった。
まぁ、それが良いか悪いかは、今夜しだい……か。

130 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:04:25 ID:dQ915QoI
【霧島羽音編】

俺の母は、姉妹の仲が非常に良い。
年に数回は、俺の母とその姉妹、そしてそれぞれの家族が集まって、宴会を行う。
今日も、その一つ、クリスマスパーティー。
まぁ、毎年言ったり行かなかったりだが、今年は絶対に行きたい理由があった。
それは……
「お兄ちゃん、メリークリスマスです」
「あ、羽音ちゃん。メリークリスマス」
彼女は、俺の彼女の霧島羽音。
母の姉の娘なので、俺の従妹ということになる。
「いらっしゃい。もう皆来てるわよ。さ、あがってあがって」
伯母さんに丁寧に挨拶され、ゾロゾロと羽音ちゃんの家に上がっていく母。
伯母もその母についていき、羽音ちゃんに何か耳打ちしてリビングへと消えた。
そして、顔を真っ赤にする羽音ちゃん。
「何を言われたの?」
「え!?え……っと、何でもないんですけど!!」
「ならいいけど」
「えっと、あ、あがってください」
「うん。お邪魔します」
羽音ちゃんに言われるままに、靴を脱ぎリビングに向かう。
しかし……
「可愛い……」
羽音ちゃんが、ホント可愛くて、もう……。
今、かなり理性が頑張ってます。
「何か言いました?」
「うん、ちょっと独り言」
俺の気持ちも知らず、俺の顔を覗き込んでくる羽音ちゃん。
ヤバい……これじゃ、俺の理性も長くは持たないぞ……。
このままでは、『可愛い』を連発する生き物になってしまう。

131 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:04:58 ID:dQ915QoI
「ねぇ、羽音ちゃん?」
「何ですか?」
「少し、いいかな?」
「あ、はい……いいですよ」
「じゃ、ちょっと外行こうか?」
「はい」
というわけで、先ほど入ってきたばかりなのに、羽音ちゃんと二人で庭に出る。
だが、外に出た瞬間、冷たい風が急速に俺の体温を奪われ、思わず身を縮ませる。
そしてやっと、「しまった」と思ったが、もう遅い。
「あ、ゴメンね。寒いのに」
「ううん。私、こう見えても寒いの平気なんですよ」
何て言いながらも、スカートは流石に寒そうだ……。
「あ、羽音ちゃん」
俺は急いで着ていたジャケットを脱いで、羽音ちゃんに着せてあげる。
「お、お兄ちゃん……」
羽音ちゃんは、凄く恥ずかしそうな顔をしていたが、突然フッと笑い出し、
「張り切ってますね?」
と、悪戯っぽく微笑む。
こんな顔されたら、ちょっとコッチが哀れに思えてきて……
「あ、というより……ちょっといっぱいいっぱいかも」
自分の不安を正直に言ってしまう。
羽音ちゃんは、その言葉を少し考えていたようだが、
「えへへ、嬉しいなー」
「え、嬉しい?」
「うん。お兄ちゃんが私のために凄く一生懸命になってくれてる。そう考えたら、嬉しくて」
そういって、俺の肩に寄り添う羽音ちゃん。

132 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:05:31 ID:dQ915QoI
「お兄ちゃん……ありがとう……」
小さく俺にだけ囁く。
「え、そんな……」
「ううん。お兄ちゃんがそばにいるだけで幸せだよ……」
「うん。俺もそうみたい」
そっと羽音ちゃんの肩を抱き寄せる。
「さっき会ったときからさ、ずっと羽音ちゃんが可愛くてしょうがなくてさ……」
「うん」
「だから、頭一杯になって皆の前で言っちゃう前に、羽音ちゃんだけに言いたかった言葉があるんだ」
「……はい」
「羽音ちゃん。俺は、キミのことが……」

さて、今宵はクリスマス。
聖なる夜に、大好きな羽音ちゃんと過ごす。
もしこれが奇跡というなら……この冬は、将来きっと良い思い出になるだろうね。

133 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:06:04 ID:dQ915QoI
【三上沙耶編】

「暗いよみちは〜♪ピカピカのおまえの鼻が〜♪役に立つのさ〜♪」
今日は一二月二十四日。
俺は新聞を読みながら、隣で妹の沙耶が歌うクリスマスソングに耳を傾けている。
沙耶は、嬉しそうに笑いながら、歌にあわせ体をゆする。
ゆったりとした空気の流れる我が家。
しかし、
「買い物行きたくないなぁ……」
そう。
これから夕飯の買出しに行かないと思うと、気が滅入る。
とはいえ、今日はクリスマスイブ。
沙耶が楽しみにしている以上、残り物でなんとか。というワケにも行かないだろうし……
……そうだ、沙耶に行ってもらおうか。
いや、恐らくかなりの荷物になるだろう。沙耶に行かせるのは無理だろうな。
「仕方ないな……」
天気予報によれば、雪が降るとか降らないとか。
とにかく、雪の降る前に、買い物に行きたいところだ。
「沙耶」
「あめはよふけすーぎーにー♪……はわ?なーに?」
「俺、ちょっと買い物に行って来るよ」
「あー、サヤも行きたいー!!」
「沙耶が?」
「うん!!今日はね、好きな人と一緒にいなきゃいけないんだよ〜?」
どっから聞いたんだよ、そういうこと……。
「サヤね、おにぃちゃんのこと好きだから、一緒に行くの」
「そっか。じゃ、一緒に行こうか」
「うん!!」
「ほら、外は寒いから、コート着てきな」
「うん!!」
───────────────────────

134 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:06:37 ID:dQ915QoI
というわけで、沙耶と一緒に近所のスーパーへ。
「ねぇねぇ、おにぃちゃん、おにぃちゃん!!」
モコモコしたコートに、フードをすっぽり被った沙耶が俺の隣でスキップしながら言う。
「んー?」
「今日の晩御飯はなーに?」
「んー……何にしようかなー。クリスマスだし、何か美味しいもの食べたいよなー?」
「うん!!」
「作るの面倒だし、何かお惣菜でも買っていこうか?」
「うん。サヤね、ハンバーグが食べたいよー!!」
「そうだな。ハンバーグも買おうな」
「わーい!!ねぇねぇ、ケーキは!?ケーキは!?」
「ああ、後で買おう」
「うん!!」
「そうだ、何かジュースとか、お菓子も買わなきゃな」
「うん!!えへへ、楽しみだなー!!」
沙耶は、嬉しそうにいつもより高く、ピョコピョコ跳ね回る。
「沙耶、迷惑になるから少し大人しくしような?」
「はわ……ゴメンなさい」
「分かればよろしい。さ、行こう」
「うん」
沙耶に手を差し出すと、沙耶は嬉しそうに俺の手を握り締める。
そして、いつもより賑やかで、活気のある食品売り場へ向かうのだった。
───────────────────────

135 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:07:11 ID:dQ915QoI
「えへへ、いっぱい買ったねー?」
ビニール袋両手で重そうに下げている沙耶が、ニコニコした顔で俺に話しかける。
「ああ。それより、沙耶、重くないか?」
「ううん。だいじょーぶだよ」
とは言うものの、相当歩きづらそうに見える。
「やっぱり、俺が持つよ」
「だ、ダメだよー!!サヤだって、できるんだからー!!」
……こうやって、人は大人になっていくのだなぁ……。
などとしみじみ思っていると、
「あれ?」
隣にいたはずの沙耶の姿が見えない。
重い荷物をぶら下げながら、後ろを振り返ると、呆然と何かを眺めている沙耶が。
「沙耶ー?」
遠くから呼んでみる。
「はわー……」
ダメだ、聞いちゃいない。
仕方なく、俺は買い物袋をもうはや引きずるようにして、沙耶のところまで戻り、トントンと肩を叩く。
「沙耶?」
「は、はわっ!!」
驚いて、持っていた袋を落とす沙耶。
「何見てたんだ?」
俺が沙耶の見ていたあたりに目を向けると、
そこには、巨大な犬のぬいぐるみが……。
「デカい……」
沙耶よりも。
「うん。可愛いよねー」
「欲しいの?」
「うん。お年玉で買うんだー」
うわ……沙耶にしては、妙に現実的……。

136 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:07:58 ID:dQ915QoI
クリスマスプレゼントに買ってあげようか。って言いたかったんだが……。
せっかくの機会だ。しょうがない。ちょっと言いづらいが……
「ねぇ、沙耶」
「はわ?」
「コレ、俺から沙耶へのプレゼントにしても良いかな?」
「……?」
意味が分かりません。とでも言うかのように、首をかしげる沙耶。
「まぁ、いいか。すいません。これくださーい」
レジに持っていくのは面倒だと判断。
店員を呼び、会計をしてもらう。
「はわわっ!?い、いいよぉ、おにぃちゃん!!」
「まぁまぁ、コレ、欲しいんだろ?遠慮するなって」
「で、でも……」
「何?」
「サヤ、おにぃちゃんへのプレゼント買ってないし……」
何だ、そんなこと。
「沙耶。俺は、別にそんなもんが欲しいわけじゃないんだぞ?」
「はわ……?」
「俺は、沙耶に『ありがとう』って、笑ってほしいから、買うんだからな」
「おにぃちゃん……」
「ほれ、そういうときはさ」
「うん。ありがとう、おにぃちゃん」
「よーし、合格だ。帰るぞー?」
「うん!!」

両手に荷物一杯抱えて、家路を急ぐ。
途中、沙耶の歌う歌が、とても楽しげで、凄く楽しくなってきた。

そういえば、空が段々曇ってきている。雪が降るかもしれないな。

137 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:08:31 ID:dQ915QoI
【双子編】

「ねぇねぇ、千奈ちゃん?お兄ちゃんは?」
十二月二十四日。石川家リビング。
双子の姉、唯奈がドアを開けながら、双子の妹の千奈に話しかける。
「しーっ」
千奈は微笑みながら人差し指を唇に当て、唯奈を黙らせた後、その指を下に向ける。
その指の先を覗き込む唯奈。
「あ……」
その先には、ソファーで寝息を立てる彼女たちの兄、石川真司がいた。
「今寝ちゃったところだよ」
「なーんだ、つまんないの」
「何か用事?」
「ううん。ヒマだから、遊んで欲しいなーって」
「何だ、やっぱり」
「分かってた?」
「うん。何となくだけど」
そういって、微笑む千奈。
こういうところはやはり双子なのだろう。
「でも……よく寝るお兄ちゃんだなぁ……」
唯奈は、真司の頬をツンツン指で突きながら、小さな声で言う。
「や、やめようよ、唯奈ちゃん」
「でも、起きそうもないけどなぁ」
唯奈はさっきよりも強く指を押し付け、挙句の果てにその指をグリグリ。
それでも、真司は身動き一つせず、眠り続けている。
「すごいなぁ……」
さすがの唯奈も、そんな真司に呆れてしまった。
「お兄さん、そんなに疲れてるんだね」
千奈は、真司の頬の、さきほど唯奈にグリグリされた辺りを撫でながら言った。

138 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:09:04 ID:dQ915QoI
「でも、冬休みなのに何してるんだろうね?」
「そういえば、昨日も帰ってきたら寝てたよね」
「そうそう。怪しいなぁー!」
「何が?」
「ふむ。唯奈の推理が正しければ……」
思わせぶりな口調で、テーブルの上に置かれた真司の鞄を持ち上げる唯奈。
そして、中を見ると、
「やっぱり……」
「さっきから何がなの?」
「ほら、これ」
そういって、唯奈が中から取り出したのは、緑色の包装紙に包まれた小さな箱。
「クリスマスプレゼントだよ、これ」
それはマズいだろ、唯奈。
「……誰のかな?」
止めようよ、千奈。
「うーん……一個しかないところを見ると……」
「私たちのじゃないってこと?」
「多分」
「じゃあ、誰かな?」
「うーん……」
まったく同じポーズで考え込む二人。
すると……
「ん……ぅん」
真司が何か言葉を発する。
「「っ!?」」
今度も同時に、ビクッと体を震わせる二人。

139 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:09:36 ID:dQ915QoI
「わわわぁっ!!ご、ゴメンなさいぃー!!」
「お、落ち着いて唯奈ちゃん。お兄さん、まだ寝てるから!」
「え……あー、よかった」
ホッと胸をなでおろす唯奈。
千奈は真司の顔を覗き込んで、完全に無事であることを確認した後、
「とにかく、それ戻さなきゃ。怒られちゃうよ?」
「うん、そうだね」
唯奈は、プレゼントを真司の鞄の中に戻し、
「でも……誰へのプレゼントなんだろう……」
「唯奈ちゃん、もうやめようよ」
「でも、千奈ちゃんは気にならないの?」
「それは……気になるけど……」
千奈は言葉に困り、ふと窓の外を見る。
外はもう暗く、星が輝くのが見える。
そのまま少し、庭を眺めていると……
「え……」
突然、庭に植えてある大きなケヤキが輝き始めたではないか。
「わぁー……」
窓に駆け寄って、眺める唯奈。
ケヤキだけではない。庭に植えてある木全てが光を放っている。
「でも、いつの間に……」
「多分、お兄ちゃんだよ」
「うん」
分かってるという風に頷く千奈。
「ねぇ、千奈ちゃん。ちょっとお兄ちゃんをビックリさせちゃおうか?」
「え?」
「ちょっと耳貸して」
「……誰も聞いてないと思うけど」
「いいの、気分気分。じゃ、お耳を拝借っと…………」
───────────────────────

140 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:10:09 ID:dQ915QoI
すごい良い気持ちだ……。
ちょっと寒いけど……体も軽くて、今最高に良い気持ち……。
このまま寝ちゃおうかな……
…………
……
パン!!
「うぉっ!?」
突然、何かが破裂する音がして、俺は飛び上がる。
そしてソファーから見事に落下した。
「痛っ……」
もう何が何だか分からず、床の上に仰向けに寝転んでいる。
すると……
「きゃはははは!!お兄ちゃん、すごい驚いてるー!!」
「あの、お兄さん、大丈夫ですか?」
「え……?」
俺の視界に現れたのは……サンタクロースが二人。
俺の妹二人に非常に良く似ている。
「……」
えっと……コレは……。
寝ぼけた頭で色々考えてみた。
その結果、一つの結論に達する。
「夢か……」
「お、お兄ちゃん!!夢じゃないよ!!」
唯奈みたいなサンタが慌てて言った。
「ね、千奈ちゃん?」
「はい……現実ですよ、お兄さん」
千奈みたいなサンタが付け足す。

141 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:10:41 ID:dQ915QoI
「現実……」
現実……。
へぇ、現実なんだ。
あんま驚いてないな、俺。
つーか……
「お兄ちゃん」「お兄さん」
俺が呆然と寝転がっていると、二人に呼びかけられる。
「何?」
「パーティーしようよ!!」
「お菓子や、ジュースも買ってあるんですよ」
「パーティー?」
「うん。クリスマスだもん」
「楽しみましょう?」
唯奈の屈託の無い笑顔と、千奈の少しはにかんだ笑顔。
……そっか。
そうだよな。
どうして気付かなかったのかな。こんなに嬉しいのにさ。
「ああ。そうだな」
「うん、決まり!!」
「じゃあ、準備しましょうか」

……多分、千奈と唯奈は俺にとってなくてはならない存在なのだろう。
それを再確認した、今日、クリスマスイブでした。

「ところで、あのプレゼントは……誰のなの?」
「ゆ、唯奈ちゃん!!」
「お前ら……見たのか?」
「うん。ねぇ、誰の?」
「秘密だ」
ここまで期待されてるなんて……まさか自分のなんて言えないよなぁ……。

142 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:11:23 ID:dQ915QoI
【立花未来編】

外は闇の中。
闇夜を照らす街灯すらもロマンチックに感じられる今日はクリスマスイブ。
ここ立花家では、リビングのソファに俺と妹の未来が、たわいの無い話をしながら座っている。
「もう十一時四十五分ですか……」
未来が時計を見ながら呟く。
「思ったより早かったな」
俺はジュースを飲みながら答えた。
「そうですね……」
「朝からいろいろあったからね、今日は」
「ええ、本当ですよね」
じゃあ、今日のことを少しお話しようかな。
───────────────────────
というわけで、一二月二十四日の朝。
「未来ちゃん、今日の夜はどうする?」
味噌汁をフーフー冷ましている未来に話しかける。
「……と言いますと?」
未来ちゃんは、お椀を置いて、真面目な顔を見せる。
「いや、料理作る?それともどっか食べに行く?」
「料理、作りたいです」
未来が目を輝かせて答える。
「だよね。でも、それだと俺がヒマなんだよねぇ……」
「じゃあ、兄さんも一緒に作りましょうよ」
「いや……いい」
俺だって、未来ほどじゃないが料理は作れる。
でも、キッチンの中じゃ、未来にとって俺は邪魔でしかないようで、
最初は一緒に作っていても、ころあいを見て、未来に追い出されてしまう。
つーわけで、『男子厨房に入るべからず』を素で行ってます、ウチは。
「そうですよね」
未来が、予想通りといった感じで小さく頷く。

143 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:11:57 ID:dQ915QoI
「じゃあ、どこか食べに行く?」
「どこも一杯ですよ、今日は?」
「だよねぇ……」
「やっぱり家でやるしかないんじゃないですか?」
嬉しそうだな、おい。
「ま、しょうがないか」
「しょうがないですよ」
……凄い笑顔だよ、未来ちゃん。
「でも、兄さんにはやってもらうことがあるんですよ」
「……荷物持ち?」
「ええ」
「ですよね……」
「はい。さてと、午前中は計画でも立てましょうか」
微妙な表情を見せる俺を横目に、未来は鼻歌を歌いながら、また味噌汁を冷まし始めたのでした。

その後。
テーブルの上に並べられた未来特選の料理の本。
嬉しそうに、ペンを走らせる未来の横顔。
俺は、そんな未来を横目で見ながら、ソファーにぐったりと座る。
「あ!!」
ふと、俺は良いアイデアを思いつき、立ち上がる。
「どうかしました?」
未来はこちらを見ずに、声をかけた。
「そうだ、未来ちゃん。俺、プレゼント買ってくるよ」
「はい。でも、誰にプレゼントするんです?」
「誰って、未来ちゃんしかいないじゃない?」
俺がそういうと、未来はゆっくりと体をこちらに向け、
「何言ってるんですか、兄さん?お互いお金がないから、プレゼントは毎年買わないことにしてたじゃないですか」
「んー。まぁ、そうなんだけど……」

144 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:13:07 ID:dQ915QoI
「そんなにヒマですか?」
「うん。まぁ、それもあるけど、未来ちゃんはいつも頑張ってるから、たまにはご褒美をあげなきゃと思って」
「兄さん」
「え?」
俺が未来の方を向くと、未来は微笑みながら『こっちへ来い』と手で示す。
「何?」
俺が奇妙に思いながらも歩いていくと、
「まぁ、座ってください」
と、椅子を出す未来。
「え?何?」
俺が大人しく座ると、今度は未来が立ち上がってキッチンへ向かった。
そして、カップを二つ持ってきて、
「はい、どうぞ」
「あぁ……」
あっけに取られたままの俺に、暖かいお茶の入ったカップを手渡し、また椅子に座る未来。
「……何なの?さっきから?」
「ふふ。兄さん」
「何だよ?」
「プレゼントは、いりません」
「……やっぱり?」
「そんな残念そうな顔しないでください。何度も言いますが、家事は好きでやってるんですから
 それでご褒美を貰うわけには行きません」
「いや、でもね……」
「わかりました……じゃあ、ください」
「うん。何が良い?」
俺がそういうと、未来は少し俯きながら

145 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:13:41 ID:dQ915QoI
「兄さん……」
「何?」
「えと……そうじゃなくて……えっと……欲しいのは……兄さん……です」
にいさん。
ニーサン……?
兄さん……!?
「……えぇぇぇぇっ!?」
ちょっと待ってよ!!
いきなり!?まだ昼間だよ、未来ちゃん!?
「あ、変な意味じゃないんですよ!!えっと……ただ、兄さんはどこにも行って欲しくないっていうか……
 だから……!!」
顔を真っ赤にして、必死に言い訳をする未来ちゃん。
それなら言わなきゃ良いのに。とも思うが……可愛いから良し!!うん!!
「だから……えと……今日は一緒に……」
「分かった分かった。どこにも行かないよ、今日は」
「あ、はい!!ありがとうございます!!」
「その代わり……」
「何ですか?」
「料理作ってるときも、俺に冷たくしないこと!!」
「え?してますか?」
「してるしてる。言葉がすげぇ素っ気無いもん」
「そうですか?」
「自覚ないんだ、怖いねー、潜在意識って」
「怖くありません!!大丈夫です!!」
「じゃあ、約束する?」
「します!!」
「よし、言ったなー。覚えとけよー」
───────────────────────

146 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:14:28 ID:dQ915QoI
「……ま、相変わらずだったんだけどね」
「そ、そんなことないですよ?」
「そうかー?ちょっと話しかけただけなのに
 『黙ってください』とか『消えてください』とか、結構ショックだったけど?」
「え、そんなこと言いましたか?」
「言ってた言ってた。慣れてるとはいえ、ちょっと泣きたかった」
「え……嘘ですよね?」
「嘘じゃないって。だって、言い方もかなり棘があるんだもん」
俺が笑いながらそういうと、未来は急にしおらしくなって、
「兄さん、ゴメンなさい……」
小さく頭を下げた。
「いいよいいよ、気にしてないから」
「……でも」
「大丈夫、そんなことで未来ちゃんを嫌いになったりしないから」
と、冗談交じりで語る。
すると、未来ちゃんは、少し恥ずかしそうに
「はい……」
ちょっと予想外の反応に頭を掻く俺。
しかし!!やられっぱなしの俺ではない!!
「だけど……一つだけ俺のお願い聞いてくれない?」
「いいですよ、何ですか?」
かかった!!
……別にたいそうなモンじゃないですけど。
「膝枕して」
「ひ、ひざまくらっ!?」
「ダメか?」
「……どうぞ」
うっしゃあっっ!!
心の中でガッツポーズ。

147 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:15:07 ID:dQ915QoI
「じゃ、お言葉に甘えて」
そのまま、未来ちゃんの、ふわふわの、マシュマロの膝に倒れこむ。
……うわぁ、柔らかぃー。
上を見れば、未来ちゃんの顔。
逆光でよく表情が見えないけど、いつもの恥ずかしそうな顔だろうな。
「……そんなにいいんですか?」
「え?」
「凄く……なんていうんですかね、恍惚としてたから……」
「恍惚……?」
「はい。そんなに気持ち良いのかなーと思って」
「うん。ふとももはフワフワだし。未来ちゃんは可愛いし」
「……もう」
ニヤニヤしながら、未来ちゃんの顔を見上げる。
未来ちゃんの優しい笑顔がぼんやりと見えて……。
「幸せだなー」
「そうですね」
「あのさ、実は俺の部屋にプレゼントがあるんだけど……ゴメン、もうちょっとこのままでいたい」
「ふふっ。わかりました」
柔らかい微笑を見せる未来。
俺は、そんな笑顔に癒されながらも、この心地よさに流されてしまう。
今日はクリスマスイブ。
日本人の俺には全く関係ないはずだが……いいよねぇ、こういうのも。

148 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/24(土) 23:21:12 ID:dQ915QoI
【反省文】
まず20レスほど、ご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。
さえ、今回は時間(とネタ)が余りなかったので、ロクに推敲もしてない文章です、すいません。

えっと、最後に、先生の期待のはるか下を行く文章を書いてしまったことを、心よりお詫びします。

149 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2005/12/25(日) 02:09:22 ID:Wuo9mNci
>>260
乙です!
相変わらず文章が綺麗です。見習いたいものです

>>遊星氏
乙です!!
やはりネタがないと言いつつもしっかり仕上げてきますね
さすがです
でも、来年のクリスマスが少し心配ですw


気が付けばクリスマス…SS書くと言いつつなかなか投下しなくてすいません
レポートさえ…レポートさえ半年分も溜めなければ……


150 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/12/25(日) 02:52:55 ID:u+pCD5/N
ぐ、ぐふっっ!
何か久しぶりだから萌え耐性が低くなって…
HPガンガン削られたよ。
なにはともあれグッジョブァハッ! (←瀕死)

151 :前スレ260 :2005/12/26(月) 22:41:19 ID:4/Ooew3O
>>遊星さん
遊星さん的には期待を下回る出来なのですか。
ここまでの高いクオリティでそんな事言われてはこちらの立つ瀬がないですよw
個人的には真司兄さんが自分のプレゼントで千奈ちゃんと唯奈ちゃんをこの後
どう切り抜けたのかが気になる所ですね。
しかし、クリスマスイブに未来ちゃんの膝枕とはなんと羨ましい話か・・・
>>すばるさん
お褒めの言葉、ありがとうございます。
すばるさんのSSも期待してますよ。
何気に夢亜ちゃんの話を待ち続けていたりしています。
>>150さん
同様に羽音ちゃんにやられましたw
正直、可愛すぎる。


152 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/27(火) 20:44:09 ID:/SoYKRM5
>すばる様
もう、来年でクリスマスは四年目になりますからね。来年は相当ヤバイですねw
すばるさんのSS、楽しみにしてますよ。

>>150
そうだよね、凄いよね、260さんのSSは凄いよね。

>260様
いつもいつも、私なんぞには、もったいないほどのお褒めのお言葉をありがとうございます。
しかし、260先生のはいつ読んでもいいですよねぇ……。
そろそろコテハンとか、トリップとかつけたらどうですか?
先生がつけてなくて、俺がつけてるのは問題ですよ、問題。

153 :前スレ260 :2005/12/31(土) 00:32:21 ID:vqp8RoYf
>>遊星さん
そろそろそういったのをつけた方がいいですかね?
しかし、年間通して四作しか投稿してないのでまだまだ
という気もしますが。
今も神々には程遠い所にあると思ってます。

今年も後一日で終わりですね。
ちなみに今年一番萌えたの妹さんは羽音ちゃん。
特に萌えたSSは未来ちゃんのホワイトデー話でした。

最後に私のまだまだ稚拙なSSを読んで頂けた皆さんに
心からの感謝を。
来年は巴さんをより可愛く魅せられる様、精進致します。

154 :名無しくん、、、好きです。。。 :2005/12/31(土) 04:58:54 ID:APaHszl1
妹が携帯片手に近付いて来た
「お兄ちゃんちょっと携帯貸して?」
「へ?なんで?」
「いいから。」
「あぁはい。」
「ロックかけてんだ。」
「まぁ一応な。」
「ふーん。」
なにやら自分の携帯と俺の携帯を交互にいじってる
「はい、ありがと。」
「あぁ、何した?」
「あたしのアドとケー番入れといた。」
「別に使わないと思うけどなぁ。」
「まぁいいじゃん。」
「まぁいいけど。」
「ちゃんと入ってるか、一回メールしてくんない?」
「あぁはいはい。」
「うん、ありがと。」
…これはなんかのイベント発生か?

155 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/31(土) 20:42:16 ID:aHq9cToi
「今年も終わりなのか……」
「なんだか実感ありませんけどね、毎回のことながら」
「だね」
今日は大晦日。
俺の妹の未来とコタツに入りながら、のんびりと残された今年を過ごす。
「はぁ……でも、今年も大掃除が途中でした……」
「うーむ……まぁ、何だかんだ言っても年末は毎年忙しいからね」
「ですよねぇ……」
……たかがそれぐらいでちょっと暗くなってしまった。
雰囲気を変えるため、俺は違う話を振ってみる。
「しかし……結構食ったなぁ……」
「はは、私もです。太っちゃいますね」
そう言って、苦笑する未来。
しかし、俺が気になっているのは……
「大体、何で晩飯はすき焼きだったんだ?」
「あ、別に大した理由じゃないんですけど……ちょっと良いお肉が安かったから」
「しかも、その後に蕎麦が出てくるし」
「だって、やっぱり年越し蕎麦は必要ですよ?」
「じゃあ、すき焼きいらないじゃん」
「え……えっと、あ、でも、名古屋では大晦日には食べるんですよ?」
「おいおい、さすがにその嘘は苦しいぞ」
「いえ、これは嘘じゃないんですよ」
「マジで?」
「はい」
いや、ホントに食べるんですよ、何故か。

156 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/31(土) 20:42:49 ID:aHq9cToi
「これも文化ってヤツか……そういや、長崎の年越し蕎麦はちゃんぽんだと聞いたことが……」
「へぇ、面白いですね」
「まぁね」
俺がそう言って笑う。
会話が途切れたので、ふと時計を見ると、現在、十一時半。
今年もあと三十分で終わってしまう。
「そうだ、未来ちゃん。来年の目標とかは?」
「ふふ、鬼が笑いますよ?」
「まぁまぁ、あと三十分だし、笑ったとしても微笑くらいだろ?」
「ふふっ、そうですね」
「で、目標は?無いの?」
「んー……あるにはあるんですが、ちょっと秘密です。兄さんは?」
「……未来が言わないなら、俺も秘密にしとく」
「ふふ……」
「はは……」
お互い、少し残念そうな顔で笑う。
「ま、いいや。みかんちょうだい」
「はい、兄さん」
俺は未来からみかんを受け取り、剥きはじめる。
未来も俺を見て、みかんが欲しくなったようで、同じようにみかんを剥き始めた。
貧乏くさい話だが、俺はみかんの白い筋は取らない。そのまま食う。
だが、未来は丁寧に取ってから食べる。
……これも性格の違いなのだろうか。

157 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/31(土) 20:44:10 ID:aHq9cToi
「んー、あんまり美味しくないなぁ……」
「そう?私のは甘いですよ」
「あ、そう?じゃ、一つ頂戴」
といって、口を大きく開ける。
「に、兄さん!!そんなこと、しませんからね!?」
「けち臭いこといわないでさ。いいじゃない。みかんくらい」
「う……分かりました」
赤面状態のまま、恐る恐る俺の口にみかんを運ぶ未来。
……少し意地悪してやろうとも思ったが、流石にかわいそうなのでやめた。
「うん、美味しいね」
「……もう」
未来の羞恥心がとうとう限界に達してしまったようだ。
恥ずかしそうに、コタツの布団で顔を隠す未来。
あぁ、もう!!そういうのが、可愛いってのに!!
「来年もこんな感じなのかな……」
「でしょうね」
「なるほど。そりゃ楽しみだ」
「ふふ、はいっ」
微笑む未来。
俺もそんな未来を見て、幸せな顔になる。
エアコンやストーブとは違うコタツの温もりを感じながら、
もう一つみかんを頬張ってみた。
───────────────────────

158 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2005/12/31(土) 20:45:39 ID:aHq9cToi
大晦日の夜、いかがお過ごしでしょうか。
紅白の布施明に鳥肌ビンビンの遊星でございます。
構想含め、二時間で書いてしまいました。
まぁ、二時間で書いたなりの結果になっていると思ってます。

>260先生
トリップとか、コテハンとか別に難しく考えることは無いんですよ。
でも、自分じゃない人に自分の大切なキャラを、勝手に書かれてしまうのがイヤだから。
だから、書くとか書かないとか上手いとか下手とか関係無しに、
トリップをつけてるんだって。僕は都合よく思ってますけどねw


あと、ちょっと余談。僕のサイトに、未公開作品を追加しました。
妹ではないですが、よかったらどうぞ、っと。

159 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/01(日) 03:03:22 ID:eQDSVVMQ
あけおめ乙

160 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2006/01/07(土) 03:48:14 ID:HovilBMs
>260さん
260さんの期待に答えられる程のものを書けるかわかりませんが頑張ってみます
期待はしない方がいいかもしれないですw

>遊星さん
遊星さんならそう言いつつも、来年もしっかり仕上げてきそうですねw
俺のSSは上記の通りなので…楽しみにしてると出来て投下した時にがっかりするかもしれないですよw
もっとキャラ達を立たせてあげたいんですが…文章力が付いていけてないので orz

161 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/11(水) 19:36:24 ID:Ye0ZYc5U
あげますよ〜。

162 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 02:09:55 ID:R2fpzf4A
誰もいない…………かな?

163 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 02:18:19 ID:R2fpzf4A
捕れると思った…しかし、ボールはあっさり後ろに通り過ぎていった…

中学野球の地区大会決勝
俺はアイツとの約束を守れなかった。

アイツは…渚は両親が死んでからずっと泣いていた。
身寄りのない俺達は叔母夫婦に預けられた。
叔母さん達は本当に良くしてくれるが、渚は悲しみにくれて家から一歩も出ようとしなかった。
俺は叔母さん達に迷惑をかけないために…本音は渚に元気を出してほしくて
「次の試合、俺が勝ったらもう泣くなよ!だから見に来い。絶対勝つから!」
そう言った。
大会が始まり、試合に勝ち続けた。でも渚は見に来なかった。
そして、今日俺のエラーで負けた…
渚が初めて見に来たのに……

164 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 02:21:42 ID:R2fpzf4A
周りでチームメイトが泣いている。俺は泣くに泣けなかった…
エラーした自分と約束を守れなかった自分に呆れていたのかもしれない…

家への帰り道、あれこれと言い訳を考えながら帰る…夕陽が目にしみるぜ…
すると影が目線にはいり、誰が立ちはだかった。
「…お兄ちゃん。」
「!!」
渚だ。まったく予想外のことにパニックになる。「……。」
「……。」
そして、沈黙。
どれくらいだったかわからないがその沈黙はさらに俺を混乱させる。
考えがまとまらないまま声をかけようとしたところで
「カッコ悪い。」
「えっ!?」
「今日のお兄ちゃん、すっっっごくカッコ悪かった!!」
「うっ…」

165 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 02:24:31 ID:R2fpzf4A
分かってたがかなりキツい…。
そりゃあ、あのエラーさえなければ勝ってたのだが……。
「でも……。」
「えっ?」
「すっごく頑張ってた。」「……。」
そこまで言って俯いてしまう。
「えっと……その……ちょっとだけかっこ良かったよ…。」
そして顔を上げてとびきりの笑顔。
その笑顔は夕陽に染まって真っ赤だった。
「帰ろ。お兄ちゃん!」
そうして、差し出された手。
どうやら、立ち直ってくれたらしい。だから俺はその手をとって、こう言うんだ。
「そうだな。」

166 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 02:32:53 ID:R2fpzf4A
最初に全力を持って謝ります!
本当にすいませんでした!!
完璧なるスレ汚し。
3つも使っちまった……。
出来心ですいません。もうしません。
では、撤収します。
それでは。本当にすいませんでした!!

167 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2006/01/15(日) 02:53:15 ID:1eH+YdG3
これが噂の貼り逃げってやつですね!?

>>162-166
謝らないでくださいw
もうしないなんて言わずにどんどんやっちゃってくださいw

出番が少なくて妹のキャラをしっかりとは把握出来ないですがいい作品だと思いますよ
(多分)今までにない新鮮なネタですね
是非続けて欲しいです

もしやイメージはバンプのキャッチボールですか?

168 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 10:44:23 ID:R2fpzf4A
わかりにくくてすいません。
妹の最後の一言を言わせたいためだけに作って、貼ってしまいました。

あぁ、つくづく俺は駄目野郎だぁ。

169 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/15(日) 10:56:24 ID:R2fpzf4A
すばる様>
俺みたいに駄目な奴にありがとうございます。

出直します。

170 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/01/15(日) 21:13:20 ID:m7Wcyz4n
>>162-166
まぁまぁ、気を落とさないでくださいな。
兄はカッコよくあるべし。という信条を持つ拙僧には、大変面白く読ませていただきましたよ。
スポーツ系のSSは珍しい(と思う)ので、是非これからも書いていって欲しいですね。

偉そうですか、すいません。

171 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/18(水) 22:47:05 ID:9ICbKeW+
>遊星さん
偉そうなんてとんでもないです。
そう言ってくれる方々がいてくれて、嬉しいっす。
続きかけたら書きます
期待に添えられればいいのですが…orz

172 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/23(月) 22:23:19 ID:OYpU23Ck
age

173 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/25(水) 04:58:43 ID:8Rqu+gGy
妹「おにいちゃん」
ガチャリンコ
俺「お、おい、ノックくらいしろよ」
ガチャリンコ
妹「おかーさーん、おにいちゃんまた変なゲームしてるよー」

174 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/25(水) 20:08:08 ID:vnbsC5IP
ワロスw

175 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/27(金) 21:03:01 ID:eOKokHRw
>173またってコトは 一度覗かれている、と?

176 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/29(日) 16:23:30 ID:V+LIhJx4
妹の部屋にパソコンがあり、そこでギャルゲーしてますが、何か?

177 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/30(月) 01:43:11 ID:0afu9Lvd
>>176
君に勇者の称号をあたえよう

178 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/01/31(火) 20:06:27 ID:7rHt8ULX
妹「おにいちゃん」
ガチャリンコ
俺「何か用か、何も無いなら出ていってくれ」
ガチャリンコ
妹「おかーさーん、おにいちゃんが変なゲームやってて私のこと見てくれないよぉ」

179 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/04(土) 01:27:39 ID:P7k0B1hc
>>176
・・・凄ぇよ、アンタ。

180 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/04(土) 01:36:15 ID:YMTguEfd
>>176
ネ申

181 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/09(木) 00:34:19 ID:0QCnDwiA
スレ違いかもしれんが
ちょっときかせてくれ。
妹ではないんだが漏れの
姉の娘(小1)が最近、
一緒に風呂にはいりたいといってきた。
おまいらならドースル?

182 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/09(木) 12:24:48 ID:QDpkVAf+
普通に一緒に入ればいいじゃん

但しエロい目で見るのを止められないなら断れ
その子なんか感づいたら母親に報告行くと思っとけよ

183 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/09(木) 20:18:49 ID:seLFHUbg
姉の娘「お母さ〜ん おじさんの象さんおっきくなってカチカチだよ〜」

184 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/10(金) 04:05:32 ID:9+zhJRLS
つ調k(ry

185 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:29:11 ID:hJiyPpTM
バレンタインの夜いかがお過ごしでしょうか。もはや恒例、遊星(ryでございます。
えっと……反省文を後に書くとスレがマイナスエネルギーで満ちるので、今回は反省文を先に。

【反省文】
時間がないなか、大変努力しました。いや、努力はしました。
四年目のバレンタイン……辛かったッス……。

・サラ:彼女の性格を完全に忘れました……。
    確か、はっきりとしたツンデレじゃなかったような……という感じで書いてました。

・梨那:毎回一番最初に書きあがる(すなわち、ネタがひらめく)良い娘。
  その代わり、大体ウォーミングアップ代わりにされる……ゴメン。

・沙耶:大体、いつもネタが決まらず一番最後になる困った妹。
  名前間違えネタは、セイザーXより。別に意味は無い。

・双子:兄が出てこないと言う問題作。
    でも、自分としては悪くないと思うんだけど……

・未来:未来が一人で考え事。ってのは、すごく好き。
    恥ずかしくて、面と向かってはいえないけど……みたいな。

・羽音:期待のルーキー。完全に惚れました。チョコください。

186 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:30:00 ID:hJiyPpTM
「ここだったわね……」
ここに来れば、間違いなく会える。
この日のために用意したチョコもちゃんと持ってる。
なにしろ、この国では、今日は大切な日らしいから。


いつもの通学路を、俺は今一人で歩いている。
いつもは友達か妹が一緒だが……
なにせ今日はバレンタインデー。いつもと勝手が違うらしい。
「じゃ、いつもと変わらない俺は一体何なんだ」
実にくだらない独り言だと我ながら思う。
言って恥ずかしくなった俺は、誰もまわりにいないことを確認しつつ、少し歩くスピードを速めた。
そして、いつもの曲がり角を曲がったとき、
トントン。
何者かに、背中を叩かれる。
「……?」
俺が振り向くと、
「久しぶりね、マサト。元気だったかしら?」
「あれぇ、サラじゃないか!!」
俺の従姉の娘、サラが立っていた。
サラは遠くに住んでいて、なかなか会えない。
というか、このコと俺の妹を会わせたくないと言うか……。
「どうしたんだ、こんなとこで?」
俺は今日、妹と一緒でなかったことを感謝しつつ尋ねた。


187 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:30:32 ID:hJiyPpTM
「どうしたんだ、じゃないわよ。今日は、バレンタインデーでしょ?」
「あ、もしかして、チョコを持ってきてくれたの?」
「ええ、日本ではそうするんでしょ?」
「うん、よく知ってたな?」
「友達が言ってたわ。まぁ、イギリスでも贈り物くらいはするけれどね」
「ま、そりゃそうだ」
何気ない言葉だけど、サラの口から友達と言う単語が聞けて嬉しかった。
「そんなことよりも、はい。チョコ」
「うん、ありがたくいただきます」
サラからチョコを受け取る。
俺が嬉しさを噛み締めながら、チョコの箱を眺めていると、
「よく分からないけど、ホンメイっていうらしいわね」
「あ……そうなの?」
まさかの大告白にちょっと驚きながら答える。
「ところで、どういう意味なの?」
知らないのかよ……。
「え……えっと……まぁ、本気で好きな人にあげるチョコってことかな」
「……そ、そんなっ……」
恥ずかしそうに、俯くサラ。
そんなサラが久しぶりで、何だか可愛かった。
「……で、でも……間違っては……ないんだよ?」
「そっか、嬉しいよ」
「……嬉しいの?」
「うん。やっぱり俺も男だからね、本命チョコもらえると嬉しいんだよ」
「そうなんだ。……私も、そういってもらえると嬉しいよ!」
少しサラの口調が柔らかくなる。
大分、テンションが上がってきたようだな。
だけどねぇ……。

188 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:31:24 ID:hJiyPpTM
「さ、サラ。遅くなるといけないから、帰ろう?駅まで送るよ」
「え……もう?」
「うん。お父さんやお母さんが心配したらいけないだろ?」
「うん……そうだね」
少し残念そうだが、納得した様子のサラ。
俺はそんなサラに手を差し出して、
「行こう?」
「うん……」
サラは小さく返事をして、悲しそうに俺の手を取る。
「……また会えるよ」
「……」
「だって、日本にはホワイトデーっていうステキな日があるんだぜ?」
「うん……知ってる」
「その日にまた会おう」
「……うん。そうだね」
「約束だぞ」
「うん!!」
幼い笑顔を返すサラ。
俺はそんなサラの頭を優しく撫でる。
サラは少しだけ、噴出したように笑ってから、
「やめてよ、マサト。くすぐったいわ」
「イヤか?」
「べ、別に……そこまでは言ってないけどっ……」

ちょっとクールなサラと、可愛いサラ。
突然変わるから、ちょっとビックリする。
多分使い分けてるわけじゃないんだろうけど……。
どっちもサラ。……というよりも、それひっくるめてサラなんだろうね。

[END]

189 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:31:57 ID:hJiyPpTM
1、2、3、4、5。
机の上にチョコが五つ。
義理感全開の五つのチョコ。
本命チョコほどのプレッシャーも無く、甘党の俺には、最高のプレゼントである。
「どれから食おうかなー」
俺はそんなことを検討しながら、全てのチョコをひとまとめにしてみる。
すると、
「やっほー、お兄ちゃん」
窓を勢いよく開けて、幼馴染の相川梨那が俺の部屋に入ってくる。
「にゃ、開いちゃった……」
どうやら鍵をかけ忘れたようだ……。
俺は少し驚きながら、
「梨那か、何か用か?」
「今日はバレンタインデーだよ?何か用かって言い方は無いんじゃない?」
「ああ、チョコもらいにきたのか?だけど、それは無理だ」
「ぶぅ!!そうじゃないもん!!」
俺の言葉に、頬をぷぅっと膨らませ明らかに不満そうな顔をする梨那。
「何キレてんだよ?」
「キレてない!!」
キレてんじゃん。
「わかったわかった。ちょっとやるから」
「だから、そうじゃないの!!」
「ひょっとしてさぁ、お兄ちゃんってバカなのー?」
この人を小ばかにした態度……すっげぇムカつくな
「冗談に決まってんだろ。何だ、チョコくれるのか?」
「……欲しいの?」
自分から言っておいて、この態度は何だ、梨那。

190 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/14(火) 20:34:46 ID:r2mSVtw0
自己支援

191 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:34:58 ID:hJiyPpTM
「まぁ、一応」
「で、でも……今年もいつもとおんなじヤツだよ?」
「別に良いよ」
「ホントに?」
「ああ」
「じゃ、じゃあ……コレ……」
そういって梨那が恐る恐る差し出したのは、質より量の材料チョコ。
しかもラッピングすら無し。
こんなもんを毎年頂いてるわけですよ、僕は。
「ああ、ありがと。ありがたく受け取ります」
甘いものは好きだから、俺はこれぐらいのほうが嬉しかったりする。
「お、抹茶味なんてあるんだな」
ホワイトチョコとかイチゴ味のチョコは見たことあるが、抹茶は初めてだな。
ま、抹茶のチョコは大好物なので、かなり嬉しい。
俺が興味を持って梨那のチョコを眺めていると、
「……ねぇ、お兄ちゃん」
梨那が暗い声で呟く。
「ん?」
「やっぱり返して……」
「どうした?」
「だって、梨那だけそんなので恥ずかしいもん……」
「これ、気にしてんのか?いいよ、別に」
「でも……他の人に負けちゃってるから……」
「……見栄っ張りが」
「……」
「そりゃ、色気も何もあったもんじゃないけど……梨那は梨那なりに俺のこと考えてくれてるだろ?」
「……」
「しかも、俺はそれに十分満足してる。梨那はそれで何が不満なんだ?」

192 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:35:36 ID:hJiyPpTM

「……梨那は、お兄ちゃんが喜んでくれるのが嬉しい……」
「だろ?それなら、ほれ、顔上げろ」
「……うん」
顔を上げて、嬉しそうに笑う梨那。
俺は梨那の頭にポンと手を置いて、
「俺はお前のチョコ、毎年楽しみにしてるんだからな?」
「お、お兄ちゃん……それって……」
俺がそういうと、梨那は期待に満ちた瞳でそう聞き返した。
「……?言ったままの意味だが?」
意味が分からず、そう答える。
すると、
「にゃ!?えへへへ〜。そっかー、そうなんだー。てへへへ……」
梨那がおかしな笑いをしはじめたではないですか……。
「な、何?」
「んーん。なんでもないにゃー」
にゃー!?
え、何、何、何っ!?
ちょっと脳の許容範囲超えた!!
「……悪い。することあるから、今日はこれぐらいで……」
とりあえず、冷静に考えねば……。
「うん。ごめんにゃー」
また、にゃー。
「あ、ああ、また明日な」
「うん。ばいにゃー」
またまた、にゃー。

梨那が部屋を去って、数分後……
「おかしい!!何かおかしいぞ!!」
そんな叫びが、一時間ほど続いたそうな……。

[END]

193 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:36:10 ID:hJiyPpTM
「……」
とある朝、目覚ましが鳴る直前に目が覚めた。
「ほぅ……こういうこともあるんだな」
目覚まし時計を見ながら、妙に嬉しい気分になる俺。
すると、
「おにぃちゃーん!!朝だよー!!」
俺の妹、沙耶がドアをブチ破り、ベッドに飛び込んでくる。
「うぉっ!?」
俺は咄嗟に手を上に出し、沙耶を抱きとめる。
衝撃そのものは何とか防げたようだが、軽い重みが、体全体にかかる。
「はぁ……はぁ……」
そうか、これで早く目が覚めたのか……。
荒い呼吸をしながら、一人納得する俺。
そんな俺を横目に、俺の上の沙耶はニコニコ笑いながら、
「おにぃちゃん、おはよー!!」
「あぁ、沙耶、おはよう……久しぶりだな」
「はわ?サヤ、昨日の夜もおにぃちゃんに『おやすみなさい』したよー?」
「あ、そういう意味じゃなくて……」
「はゎ?」
首を傾ける沙耶。
「いや、もういい」
説明する気力も無いよ、もう。
沙耶は少し俺の言うことを理解しようとしていたが、
「ま、いっか」
諦めた。
「それよりねー、今日は、ばれんたいんでーだよ、おにぃちゃん!!」
「あぁ、知ってる」
今まで忘れてたけど。

194 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:36:44 ID:hJiyPpTM
「えへへ、はい!!おにぃちゃん、チョコー!!」
沙耶は寝そべっていた体を起こして俺にチョコを差し出した。
「あぁ、ありがと」
起き上がり受け取る俺。
「食べてー」
……え?
「ね?」
食べろって?
寝起きで?朝飯前なのに?チョコを?
俺の疑問は他所に、沙耶は嬉しそうに微笑んで、足をパタパタ動かしている。
……かなわねぇな。
「……わかりました、食べます」
「わーい!!はやくっ、はやくっ!!」
沙耶に急かされるように、箱を開ける。
中には、
「いぬ……」
手の込んだ犬型のチョコ。
多分、ゴールデンレトリバー。
「ブレンダだよー!!」
「ブレンダ……」
ブレンダ……。
もう名前がついてるってか……。
って言うか、それにしてもブレンダって……。
「食べてー」
「あぁ、うん」
言われるまま、ブレンダの頭を齧りつこうとすると、
「ブロンズぅ……」
悲しそうに沙耶が言う。
……今、ブロンズって……?
ま、いいか。
気を取り直してブレンダに……

195 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:37:17 ID:hJiyPpTM
「ブライダルぅ……」
ブライダル……。
まさか沙耶からこの単語を聞こうとは……。
「沙耶。沙耶がそんな目で見たら、チョコ食べられないだろ?」
「でも……ブリトニーが可哀想だから……」
「んー、まぁ、そうかもなぁ……」
俺はブなんとかの顔をジッと見る。
なるほど、賢そうな顔だ。
「……でも、多分、コイツは食べてもらいたいと思うな」
「え?」
「だって、コイツはチョコだろ?チョコは食べられるのが仕事。
 食べずに捨てたらもっと可哀想じゃないか?」
「……うーん」
「じゃあ、沙耶はお兄ちゃんから、『沙耶なんていらない』って言われたら、どう思う?」
「はわゎっ!!やだよぅ!!」
「だよな?だから、コイツ、食べてあげよう?」
「……うん、そうだよね」
頷く沙耶。
「バイバイ、ブルース」
沙耶はブレンダの顔を人差し指で撫でた。
結局、こいつの名前は分からずじまいだ……。
「じゃあ、いただきます」
沙耶に出来るだけ見せないように、一口で食べる。
甘みが口の中に広がる。

196 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:37:49 ID:hJiyPpTM
……ただ、やっぱり寝起きの時にはなぁ……。
「うん、美味しかったよ、ごちそうさま、沙耶」
そんなことは言えず、美味しかったといってしまう甘い俺。
「えへへ〜」
笑いながら、俺の胸に飛び込んでくる沙耶。
その勢いで、ベッドにまた倒れる。
「えへへ、甘くっていい匂いだよ〜!!」
「あぁ、そうだな」
「うん、おにぃちゃんの匂いとね、チョコの匂い〜。すごく良い匂いだよ〜」
「そっか」
俺はそんな沙耶の後頭部を撫でながら答えた。
「うん!!てへへ、おにぃちゃん、すき〜」
沙耶が頬を摺り寄せる。
俺は少し苦笑いをしながらも、沙耶を軽く抱き寄せるのでした。

[END]

197 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:38:22 ID:hJiyPpTM
パタン。
石川唯奈が、冷蔵庫のドアを閉める。
「うー、牛乳無いのかー」
唯奈がキッチンから出て行こうとすると、
「唯奈、ちょっといらっしゃい」
リビングのソファに座った彼女の母、恵が唯奈を呼ぶ。
恵の隣には、唯奈の双子の妹、千奈がいた。
「ん、なーに?」
「ま、座りなさい」
「うん」
言われるがままに、恵の隣に座る。
「……とうとう今日ね」
恵が小さな声で言った。
「何が?」
「バレンタインだよ?」
恵の向こうで、千奈が言う。
「あぁ」
納得した、というようにポンと拳を叩く唯奈。
「多分ね、真司君、今年も忘れてると思うのよ。だから、私が先に真司君にあげるから、早まっちゃダメよ?」
「うん!」「はい」
「よろしい。ところで、二人はどんなの用意したの?」
「お母さんは?」
「私はねー。コレよ」
そう言って紙袋から、小箱を一つ取り出す。
「何、コレ?」
「あ、このブランド、私テレビで見たことあるよ……これだけでも、二千円くらい……」
千奈が小箱を眺めながら、言う。

198 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:38:54 ID:hJiyPpTM
「二千円っ!?」
「ホントにこれ、高かったのよー。ま、真司君のは勇さんのついでだけどねー」
勇とは、真司の父親。恵の夫。唯奈千奈の義理の父だ。
「お母さん、すごーい!!」
「ま、オトナの財力ってヤツよねー」
偉そうに髪を撫でる恵。
「千奈は?何か作ったんでしょ?」
「え?私……?私は……チョコレートケーキを作ったんだけど……」
「あぁ、あの冷蔵庫に入ってる箱ね?」
「うん。思ったよりもね、上手くできたんだー」
嬉しそうに笑う千奈。
「唯奈ちゃんは?」
「……」
気まずそうに俯く唯奈。
「唯奈ちゃん……?」
不安そうに眺める千奈を、恵が手で制し、
「自分だけ、普通のチョコだって気にしてるの?」
「……うん」
「唯奈らしくないね」
「……そうかな」
「そうよ。だって、いつもの唯奈は明るくて、いいことも悪いことも考えずに突っ走っちゃうコでしょ?
 ねぇ、千奈?」
「うん、そうだよ」
「でも……唯奈のは、ブランドものじゃないし、手作りのすごいチョコじゃないし……」
唯奈が俯いたまま話し始める。
「唯奈」
恵がその話を中断させ、珍しく真剣な顔で、
「勘違いしちゃダメよ。千奈も覚えておきなさい。チョコなんてね、入れ物なの」

199 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/14(火) 20:39:37 ID:r2mSVtw0
自己支援

200 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:40:17 ID:hJiyPpTM
「「入れ物?」」
「そう。気持ちの入れ物」
恵が優しく語りかける。
「大きいのとか小さいのとか、凝ってるのとかシンプルなのもあるけど……
 結局はね、女の子の気持ちに合うか、合わないかなの」
恵はそこまで言うと、娘の肩を抱き、
「そのことはね、真司君が一番よく知ってるのよ。……本人は気付いてないけどね。
 だから、唯奈は安心して自分らしくしなさい。千奈もそれを忘れないようにね?」
「「うん」」
同時に返事をする二人。
恵は二人を優しく抱き寄せ、髪を優しく撫でる。
「良い娘たちね。真司君が羨ましいわ」
恵の言葉に対し
「へへ……そうかな……?」
照れ笑いをする唯奈と、
「……」
顔を真っ赤にする千奈。
「そうそう。唯奈と千奈にそんな顔されたら、真司君だって我慢できないわよ」
恵はそういって、立ち上がる。
そして、唯奈と千奈に向き直って、
「とにかく、今日はそれぞれ頑張りましょ?」
「うん!」「はい!」
手を合わせ、成功を祈りあう三人の女性たち。
そんな光景が平和な、石川家のバレンタインデーでした。

[END]

201 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:40:49 ID:hJiyPpTM
「はぁ……まさかこんなに遅くなるなんて思わなかったなぁ……」
二月十三日の夜。時刻は十一時半。
シンクの前で一人ため息をつく。
しょうがない。
洗い物をして、ゴミを片付けて、予習をして、宿題をして……。
なんてことをしているうちにいつの間にかこんな時間になってしまった。
「とにかく、兄さんのチョコを作らないと」
と、自分で言って、ちょっと恥ずかしくなる。
「兄さんの……ね」
口に出すのはちょっと恥ずかしいけど……悪い言葉じゃない。
思わず微笑がこぼれる。
「さ、急がないと」
もう一度時計を見る。
普段なら、もう寝ている時間。
私は、朝御飯やお弁当を作らなくちゃならないから、どうしても朝は早くなってしまう。
兄さんのためだから……辛くはないけど、もともと、眠らないとダメな人だし……。
その分のしわ寄せは他のところに来てしまう。
だから、その分、早く寝るしかない。
実を言うと、今も、ちょっと眠い……。
だけど、絶対に手抜きだけはしたくない。
だって、明日はいつもとは違う、特別な日だから……。
「未来は頑張りますよ、兄さん」
兄さんの顔を思い浮かべながら、いつものエプロンをパジャマの上に身に着ける。
さぁ、頑張らなくちゃ。
───────────────────────

202 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:41:21 ID:hJiyPpTM
「兄さん」
「ん?どうした、未来ちゃん?」
「はい、チョコレートです」
「くれるのか?」
「もちろんですよ、だって、兄さんのこと大好きなんですから」
「未来……」
「えへへ……そんなにみつめられると、恥ずかしいです……」
「俺も、未来のこと好きだよ」
「はい……嬉しいです」
「未来……」
「兄さん……」
未来……。
「夢かよ……」
夢でした。
時計を見ると2/14、2:00am。
「寒……」
俺は一度起き上がった体を、もう一度倒し、眠りへと就こうとしたが……
何故か目が冴えて、一向に眠れそうに無い。
「何か飲むか……」
乾燥した空気によってカラカラになった喉を潤すため、俺は上着を羽織って、キッチンへ向かう。
「!?……明かりが……」
キッチンに明かりがついている。
泥棒か……!?
俺は息を潜み、中の様子を伺う。
しかし、物音一つ聞こえない。
ま……未来が電気消し忘れたと考えるのが無難でしょうな。
「驚かせおって……」
俺が胸をなでおろし、キッチンの扉を開ける。
すると、冷蔵庫の前に思わぬものが。

203 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:41:54 ID:hJiyPpTM
「うぉっ!?」
思わず声を上げてしまう。
俺の目の前には、冷蔵庫にもたれて眠る人。つーか、未来。
寒そうに体を丸めて眠る未来。
……微かに聞こえる寝息が可愛い。
「って、何言ってんだか……おい、未来。未来」
未来の肩を掴んでガタガタ揺する。
「むぅ……にいさん……?」
ちょっと不機嫌そうに、目を細く開ける未来。
「風邪引くぞ」
「……すぅ……すぅ……」
また、寝てしまった……。
「しょうがねぇなぁ……」
俺はスヤスヤ眠る未来を、お姫様抱っこで抱きかかえ、キッチンを後にする。
持ち上げた未来の体は冷え切っていて、俺の体温までも奪われるようだった。
「……眠り姫ってどんな話だっけ……」
階段を上りながら、ついどうでもいいことを考えてしまう。
「……さ、お部屋に着きましたよ、お姫様」
当然だが、誰も聞いちゃいない。
……言わなきゃよかったよ。
一人で勝手に恥ずかしがりながら、俺は未来を未来のベッドの上に下ろす。
そして布団と毛布をかけてやろうとしたが……
「んぅ……」
未来が何か可愛らしい声と共に、体を縮ませる。
「寒いのか……」
まぁ、そりゃそうだなぁ……。
「こりゃ世話のかかる……」
未来の髪を優しく撫でる。
……フワッと、良い香りがした。
───────────────────────

204 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:42:30 ID:hJiyPpTM
ピピピピピピピピピ……
電子音が鳴り響く。
「……朝……」
布団の中身がモソモソ動いて、けだるい声を出す。
結局しばらくダルそうに動いていたが、ピタッと止まって、
「……って、えぇぇぇぇぇぇ!?」
「ん……未来……?」
「えっ!?えっ!?」
俺の部屋の様子や、自分の体をキョロキョロ見回す未来。
「に、兄さん!?え、兄さんの部屋っ!?何でっ!?」
「……いろいろとな」
俺も冗談をいってもよかったが、眠いためテンションが低い。
「いろいろって何ですかっ!?……も、もしかしてっ!!」
顔を赤らめる未来。
さすが未来たん、エロエロですなぁ……。
「……別に未来が想像してるようなのじゃないから」
「べ、別に想像なんてっ!!」
さらに顔を赤らめた未来、恥ずかしそうに両手を頬にあてる。
やっぱ、エプロンがそういう雰囲気を醸し出しているのだろうか……。
「ま、少し頭冷やせば、思い出せるだろ」
「思い出すって……?」
しばらく考え込む未来。
どうやら、記憶が蘇ってきたようで……

205 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:43:06 ID:hJiyPpTM
「……そういえば、私昨日、キッチンで……」
「そう。キッチンの床で寝てたから、連れてきた」
「でも……何で兄さんの部屋に?」
「寒そうだったから」
「そうなんですか……」
未来が、少し俯いて何か考える仕草をする。
そして、
「兄さん、ありがとうございます」
ペコリと頭を下げる。
「でもね、実は私、嬉しかったんですよ」
「何で?」
「……まさか、目が覚めてすぐに兄さんに会えるなんて、思いませんでしたから」
「うん」
「兄さん、昨日一生懸命作ったチョコ、冷蔵庫にあるんです……もらって……くれますか……?」
「もちろん。一年間ずっと楽しみにしてたんだぞ?」
「はい、ありがとうございます!!」
「行こうか?」
「はい!!」

ちょっとらしくない未来と、ちょっと落ち着いた俺。
今日はバレンタイン。
……やっぱり、いつもと違うみたいだ。

[END]

206 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:43:55 ID:hJiyPpTM
もっと早く準備をしていたら。
もっと早く走れたら、走っていたら。
そもそもお金を持ってきていたら。
いや、あの時、家まで自転車を取りに帰れば。
いや、お母さんが帰ってくるのを待っていれば……。
「寒ぃ……」
様々な仮定と後悔の波が打ち寄せる間も、北風が私の体温を残酷にも奪っていく。
だけど、
「頑張らなきゃ」
とにかく、ここまできたんだから、歩くしかない。
私は視線を落とし、バッグを見る。
これを絶対にあの人に届けるんだから……
───────────────────────
今年のバレンタインデーはいつもと違う。
……ハズだ。
俺は自宅のリビングで、意味も無くテレビのチャンネルを何回も変えてみる。
ま、時間帯も時間帯なので、夕方の情報番組が、バレンタイン特集なんかを組んでたりする。
なるほど、彼を落とすチョコ。片思いの相手に渡す本命チョコ……か。
「……ま、結局のところ、好きな人からもらえれば、チョコの種類なんて関係ないよね」
まさに天狗である。
しかし……
その『好きな人』に、まだもらえてないんだよなぁ……。
学校でもらえると思ったんだけど、そうでもないし……。
……もしかして、くれないのか……?
それとも、またいつか会ったときに?
「……それはやだなぁ」
だがしかし、それでも要求はしないのが男ってモンですよ。

207 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:44:57 ID:hJiyPpTM
「うーん……」
そう考えると……俺がカレシなのかどうかも疑わしく思えてきた。
確かに、俺は何度も好きだって言ってるし、言われてる。
だけど、いつまでたっても俺は『お兄ちゃん』だしなぁ……。
向こうにとっては遊びの延長みたいなものなのかも。
いや、まぁ、いまさら『お兄ちゃん』から変えられてもピンと来ないんだけど。
「……はぁ」
ため息をつく。
バレンタイン特集が今となっては憎い。
「あー、落ちつかねぇや!!」
テレビを消し、勢いよく立ち上がる。
「……チョコ欲しいな」
情けないことを言うな。と自分でも思った。
俺がソファの周りをぐるぐる回っていると。
ピンポーン。
インターフォンが来客を告げる。
「はーい」
俺が出て行くと……
「お兄ちゃん、こんにちは」
「あ……」
俺の待ち人、羽音ちゃんが彼女の通う中学校の制服を着て立っていた。
「は、羽音ちゃん……!!」
喜びと驚きで、一気に覚醒する脳。
しかし、次の瞬間、
「……やっと……会えたよ……」
そう呟いて、膝を落とす羽音ちゃん。
「は、羽音!?」
慌てて駆け寄る。

208 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:45:59 ID:hJiyPpTM
「あ、あはは……」
俺が羽音ちゃんの肩を抱くと、羽音ちゃんは恥ずかしそうな微笑を見せて、
「すいません……。ちょっと歩いたら、疲れちゃったみたいです……」
「歩いたって?」
「あ、学校終わった後、お兄ちゃんを探して、学校まで行ったんですけど、もう帰っちゃったみたいで……
 それで、そのままここまで……」
「……ってことは、羽音ちゃんの家から、ここまで!?体、大丈夫なの!?」
「あ、はい……お兄ちゃんの顔を見たら、安心して、力が抜けちゃいました……」
「なんで……」
「あ、忘れてました」
そういうと羽音ちゃんは鞄の中をゴソゴソと探り、真っ赤な箱を取り出す。
「……えっと、一応、本命チョコなんですけど。もらって……くれませんか?」
恥ずかしそうな顔で、チョコを差し出す羽音ちゃん。
それが嬉しくて、驚いて、でも、なんだか自分が情けなくて……。
「……ひぁ!?お、お兄ちゃん!?」
彼女を思わず抱きしめていた。
「ゴメン……羽音ちゃん、俺のために頑張ってたのに……俺、ずっと待ってばっかりだった……」
「お兄ちゃん……」
「しかも、最後には羽音ちゃんを疑ってた……本当にゴメン!!」
さらに強く抱きしめる。
「お、お兄ちゃぁん……」
顔は全く見えないが、羽音ちゃんは泣きそうな声で俺を呼ぶ。
「会いたかったよぅ!!歩いてる間、すごく不安だったよぉ……!!」
堰を切ったように泣き出す羽音ちゃん。

209 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2006/02/14(火) 20:47:07 ID:hJiyPpTM
「うん……」
「途中すごく寒かったし、暗くなったし、道にも迷っちゃって……怖かった……!!」
「ゴメンね……」
「違うの!!でも、お兄ちゃんに会えるから、私、頑張ったんだよ!!」
「羽音……」
「会えて……嬉しいよっ……!!」
俺の胸に抱きつき、涙を流す羽音ちゃん。
こんな羽音ちゃんをみたのは、俺は初めてで……
どうして良いか分からずに、ただ彼女を抱きしめ、髪を撫でていた。
それから、どれくらいそうしていただろうか。
しばらくして、少し落ち着いた様子の羽音ちゃんが、
「ゴメンね……絶対泣かないって決めてたのに……お兄ちゃん、優しいから……」
「ううん。そうやって、何でも言ってくれた方が嬉しいよ」
「……」
よほど取り乱したことが恥ずかしかったのだろうか。
赤面し、俯く羽音ちゃん。
「……羽音ちゃん。いや、羽音」
「はい」
「ありがとう。好きだよ」
「……うん。私も」
静かに目を閉じる羽音。
「おねだり上手め」
……これ以上は、何も言うまい。
今年は人生最高のバレンタインになったみたいだね。

[END]

210 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/14(火) 23:08:57 ID:gkKUQD/L
恵さんにチョコ貰いてぇ〜!

211 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/18(土) 20:45:39 ID:qjqO1jQV
流石としか言い様がありません!
サラかわいいな〜


212 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/02/25(土) 19:34:07 ID:sJhG9+Hj
青い青い空の下、蒼い蒼い海がある。
終わりが無いかのように見える蒼色は光に映え、まるで雪原のように煌いていた。
「本当に……乗っちまった……」
俺は手すりにもたれかかり、眼下を見下ろした。穏やかな波を立て、船は進んでいる。
「しおかぜが気持ちいいね」
ぽつりと呟かれ、ふと声のしたほうに顔を向けると、白いワンピースの少女が海を眺めていた。
「気持ちいいけどさ……ずっと景色はこのままなんだぜ?」
「優希としては、それもいいかな。えへへ」
「はぁ……元気でいいねぇ……」
「うんっ!だから、お兄ちゃんも元気になろっ?」
「努力するよ……」
満面の笑みをこぼす妹を尻目に、早くも俺は後悔の淵に突っ立っていた。

そもそもの発端は、医者である父だった。
優れた技術で名高い某病院に勤務していた父の元に、ある壮大な話が持ち上がったのだ。
海上都市『フリーダムシップ』。
その実はメガフロートを土台とした長期滞在型の超大型客船で、全長約1400メートル。
船上にはひとつの都市が丸ごと収まっており、学校・病院・デパート・飛行場・カジノ・
会社・遊園地など、ありとあらゆる施設が整っている。
三年かけて世界を一周する、超が三つくらい付くほどの豪華客船だ。
そして、親父が、そこに、勤務、する、ことに、なって、しまった、のだ。

213 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/02/25(土) 19:35:12 ID:sJhG9+Hj
「ありえねぇ……」
俺は今、船上のマンションの一室のベランダにいる。背後のまあまあ広い室内では、
浮かれた両親たちがこれからの物語に妄想を膨らませていた。
「お兄ちゃん、元気出してよぅ……酔ったりしないから、大丈夫だよ」
「いや、それは心配してないけどさ」
いきなり船の上で暮らせって言われても、無理がある。そもそも学校だって転校だ。
船の中の日本人学校に。
「ありえねぇ……」
自分の理解できる領域を遥かに超えたスケールに、俺はただただ呆然とするしかなかった。
「えと、それじゃあ散歩にでも行く?」
「散歩?船の中をか?」
「他にどこに行くのよ〜……。もう……」
「そういや、何でもあるんだってな。地図を頼りに行ってみるか」
そうだ、船上に何でもあるなんて楽しいじゃないか。そうだ、きっと楽しいぞ。
何しろ超豪華客船だもんな。珍しいものがたくさんあるぜ、きっと。
……きっと。
「えへへ〜♪よーし、しゅっぱーつ♪」
優希に引きずられながら、俺はのそのそと歩き出した。

214 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/02/25(土) 19:36:19 ID:sJhG9+Hj
探索に出かけた俺たちだが、俺の杞憂はあっという間に消し飛んでいた。
何しろすべてのスケールが半端じゃないのだ。部屋を出ると長い廊下が左右に続き、
展望室からは街の様子が一望できる。
おそらく中心と思われる広場には木々が生い茂り、まるで地上の公園のようだった。
「すげぇ」
「す、すごいね……」
二人してベンチに腰かける。辺りを見回すと、同じような日本人家族を何組か見かけた。
日本人居住区でもあるのだろうか。
「ねぇ、お兄ちゃん……」
「ん?」
優希は少しだけ唇をかみ締めたあと、ふっと小さく笑い、
「な、なんでもない……」
そう呟き、またガラスのほうへと顔を向けた。

街中は出航直後ということもあってか、物凄い人の数だった。
しかもすれ違う人ほぼ全員が外国人。アジア系も何人か見かけるが、それでも金髪が多い。
だが、それに臆する俺ではない。残念ながら、英語は得意なのだ。
親父が医者であり、さらに有名大学をサラッと出ている秀才のため、当然のことながら
勉強を強要されて、否応無しに学力は良くなっていた。まあ、そういう設定だ。
とにかく、これほどの国際的な都市で英語が話せるのは必須であり、その点では安心できた。

215 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/02/25(土) 19:37:25 ID:sJhG9+Hj
「わっ!ねぇ、アレ見てよお兄ちゃん!」
優希に腕を引かれ、人の波をかき分けながら進んでいく。頭上を見上げると、切り取られた空から
まばゆいばかりの日差しが降り注いでいた。
やがて俺たちは海面に最も近い港に辿り着いた。木馬の足のように、幾つかの発着場が
伸びている。二人はその先端まで歩き、縁に腰かけた。
水面がゆらゆらと揺れて、互いの顔を鏡のように映す。
「うわぁ〜!綺麗だね……」
「そうだな。海はもっと汚いと思ってたけど、意外と綺麗だな」
「うん……」
俺は動く水面をじっと見据える。優希はぽつりと漏らした。
「あと、三年だね……」
「ああ……」
三年、それは俺たちにとっては非常に重要なものだ。
「でもね。優希、最後にこんな旅行が出来るなんて、幸せだよ?」


216 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/02/25(土) 19:38:28 ID:sJhG9+Hj
「……最後なんて言うなよ……」
俺の妹、優希はおよそ三年後に死ぬ。
生まれたときから心臓に重い障害を宿していた優希は、生まれたときから死を知っていた。
成長するにつれて次第に身体に異常を覚え、小学生のときに病だと判明した。
原因不明の心臓病。医者の親父が全力で治療に当たったが、効果は得られなかった。
最先端の医療施設で分かったことといえば、冗談のような寿命だけだった。
これが。
これが、彼女の最後の旅になる。
次に日本に帰ってきたとき、彼女はもういない。生きていたとしても、ほんの少しの差でしかない。
「えへへ……そんな暗い顔しちゃダメだよ」
優希は俺の顔を覗きこみ、にっこりと笑った。
俺たちの足元では轟々と巨大な何かが唸り声を上げている。
決して逃れられない『何か』にたいして、俺は震えを感じた。
「……優希」
「……ん?」
青い青い空の下、蒼い蒼い海の上で、俺は立ち上がった。
「ありがとな。元気、出た」
「……!!」
手を差し出す。俺の手のひらは優希の手をしっかりと掴み、その身体を引き寄せた。
「えへへ……ありがとっ」
始まったばかりなんだ。何もかも、まだ。

2007年7月。その旅は始まった。


217 :海中 ◆xRzLN.WsAA :2006/02/25(土) 19:40:58 ID:sJhG9+Hj
絶対に忘れられていると思います、お久しぶりです。
いろいろと書き逃げしてきた前科があるのですが、今回だけは
しっかりと書き終えたいと思っています。

ちなみに「フリーダムシップ」自体はノンフィクションです。

218 :遊(ry ◆isG/JvRidQ :2006/02/26(日) 10:29:49 ID:zdEKP7KA
お久しぶりです。海中様。
ちょい悲しい感じのお話ですか……素敵な話の予感がしますねぇ

219 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/27(月) 01:40:14 ID:Q3YE6+1r
期待

220 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/02/27(月) 03:29:31 ID:ywWrEi/x
遊星様>>バレンタインSS読ませていただきますた
やはり姉妹イイッ!
真司君が羨ましいわw
遊星様の次回の登場はいつに?
これからも期待しております

海中様>>スゴい設定ですな!
船の上で普通の生活が……ありえねぇ(主人公風
これまた期待しております

221 :名無しくん、、、好きです。。。 :2006/03/06(月) 18:37:24 ID:7i9Mq4hP
SF的設定良いっすね。
でも、全長1400mで空港を入れるのは苦しいとか余計な突っ込みを入れてみたり。

あと、一回ageた方が良いかも?

222 :age職人 :2006/03/10(金) 03:50:52 ID:1aOBYDh4
age玉ボンバー

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