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[第七弾]妹に言われたいセリフ

69 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2007/05/11(金) 02:31:18 ID:XX17KPmi
正直なところ、走るのはそんなに好きじゃない。冬は寒いし、夏は暑いし、何よりも疲れるし。
努力すればしただけの記録が出る。そこは好きかもしれない。
「お疲れ様!はい、タオル」
「ありがとうございます」
先輩が差し出してくれたタオルで汗を拭く。
「なんで先輩が私のタオル持ってるんですか」
「勿論、鈴夏ちゃんのバッグから取ってきたからだよ?」
またこの人は。まぁ、ありがたくない訳ではないけど。
「勝手に人のバッグ漁らないでくれませんか?」
「まぁまぁ♪それにしても、相変わらずそんなに走っても涼しい顔してるのが信じられないよ」
「そうでもないです。結構疲れてます」
「でも、この調子なら今度の大会が楽しみだね」
「……そうですね」
「あれ?浮かない顔ー。楽しみじゃないのかな?」
大会。そんなものに興味はない。
私には人と競う事の何が楽しいのか理解できないし、する気もない。
私が走ってる事と他人と競う事は関係ないから。
「そんな事ないです。その為に練習してるんですから」
「そっか。鈴夏ちゃんの足なら一位取るのは当たり前かな?」
「そんな事ないです。やるからには全力でやりますけど」
「謙遜謙遜♪それにしても、遂に公式戦デビューだね!初・体・験♥」
楽しそうに先輩が笑う。
「はぁ」
いつもの事だから呆れて溜息だって出てしまう。
「酷ーい。先輩に向かってそーゆー態度取っちゃうんだ?」
「ねぇ先輩?」
「ん〜?」
「帰りにどっか寄ってきません?」
「いいよ〜?珍しいね。鈴夏ちゃんの方から誘ってくるなんて」
「そうですか?」
そういえば珍しいかもしれない。なんとなく誘っただけなんだけど。

70 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2007/05/11(金) 02:31:49 ID:XX17KPmi
「うんうん。珍しいよ。もしかして……」
「なんですか?」
何か予定でもあったんだろうか。それなら無理に誘ったりしないけど。
「私に惚れたなっ!?」
「そんな訳あるはずないじゃないですか」
「あれれ。違った?」
バカかこの人は。女が女に惚れるはずがない。桜と一緒に脳細胞まで散ってるんじゃんだろうか。
「当たり前です。バカですか?」
「昔の偉い人がこんな事を言いました。『ムキになる そんなところが また怪し』」
「ああ。バカでしたね。バカにこんな事聞くのは失礼でした。すいません」
「酷いっ!」とかなんとか言ってる先輩をいつも通り溜息であしらい、なんとなく桜の方を見てみる。
「あ」
「私の魅力に気付いた!?」
あの人が桜の木の近くにあるベンチに座っていた。
最近兄さんとよくいる人。ゆな……だっけ?俯いて何か呟いてる。
「そうでしょう。そうでしょうとも。この話を聞いて私に惚れない訳が……」
「何の話ですか?先輩、意味分からないです」
「……どうせ私には魅力なんてないですよ。別にいいもんね。気にしてないもん」
「先輩」
「慰めなんていらないよ。私が欲しいのは愛なの。私を見て。read me!」
「いい加減うざいです」
「はい。ごめんなさい」
最近の兄さんの話にはよくあの人の名前が出てくる。あの人、兄さんの何なんだろう。
「さっきから何見てるの?……あぁ、ゆなちゃん?」
「先輩、あの人の事知ってるんですか?」
「知ってるも何もいつも騒いでるから有名だよ?」
「そうなんですか?」
敢えて先輩だっていつも騒いでるとは言わないでおく。また騒がれてもうるさいし。
「最近草薙君といるとこよく見るけど、あの二人って付き合ってるの?」
「なんで私に聞くんですか」
「兄妹だったらそういう話もするのかなーって思って」

71 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2007/05/11(金) 02:32:19 ID:XX17KPmi
「知りません。本人に聞けばいいじゃないですか」
私だって知りたい。最近の兄さんはよく分からない。
昔はなんでも分かったのに、いつの間にか分からない事の方が多くなってた。
「んー。それでもいいけど、鈴夏ちゃんに言ってないならまだ付き合ってないのかな?」
「まだってなんですか」
それじゃまるでもうすぐ付き合うみたい。兄さんにそんな話ある訳……
「ゆなちゃんのあの猛烈アタック受けてまんざらでもないみたいだし、付き合うのも時間の問題かなーって」
「……え?」
「え?って……え?もしかして気付いてなかった?」
「だって、なんで兄さんにそんな事するんですか」
「なんでって……好きだから、じゃない?」
「だから、なんで兄さんなんですか」
だって、兄さんは私の兄さんで。その兄さんが誰かと付き合うなんて考えた事ない。
「さすが草薙君の妹。鈍過ぎだね。草薙君は結構モテモテだよ?本人は気付いてないみたいだけど。あ、噂をすれば」
モテモテ?あの兄さんが?他の女の人と歩いてるとこなんて想像出来ない。
「待ち合わせかにゃ〜?……鈴夏ちゃん?」
本当に兄さんはあの人と?
そんな事……あるはずない。
あの兄さんが。私の兄さんが。
「おーい、鈴夏ちゃーん。私の事を好き好き大好きな鈴夏ちゃーん」
「……え?なんですか?」
「ツッコミもない……。どうしたの?」
「別に。急になんですか。意味分からないです」
「急じゃないんけど……もしかして、『きゃー!私の兄さんが他の女に取られちゃう!』なんて焦ってたり?」
「そんな訳ないです!別に兄さんは私のものってわけじゃないし、別に、兄さんが誰と付き合ったって……あ」
言ってから気付いた。先輩のいつもの悪ふざけ。それにムキになって反応するなんて……
「あ、あはははは……あ、ほら、なんて言うのかな?別にまだ付き合ってる訳じゃないみたいだし、よく見たら待ち合わせっていうより偶然会ったって感じだよ?ねっ!」
「…………」
先輩もまさか私がムキになると思ってなかったんだと思う。困ってる。
「その……ごめん」
「なんで謝るんですか」

72 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2007/05/11(金) 02:32:49 ID:XX17KPmi
ここからじゃよく見えないし、何話してるのかわからないけど、兄さんが楽しそうなのは分かる。
きっと、家であの人の事を話す時に見せる顔で笑ってるんだと思う。
昔は私と兄さんが話して、兄さんが私と話した事を笑いながら母さんたちに話してたのに。
いつの間にか、私が聞く立場になってる。
いつの間にか、私の居場所が変わってる。
きっとこのままじゃ、これからも変わってく。私の知らない所で。
「兄さんは。兄さんは、私の兄さん……ですよね?」
「え?そりゃあ、兄妹……だし」
「そうですよね。兄妹……なんだから」
「…………ねぇ、鈴夏ちゃん」
「なんですか」
「今日はもう練習終わりだよね?」
「はい」
「寄り道なんだけど、行き先は私が決めてもいいかな」
「どうぞ」
「よし、じゃあつけよう!」
「……は?」
「草薙くんとゆなちゃんを尾行するのですよ、ワトスンクン」
「アホですか?」
「春に桜の木の下でばったり会って何もないはずがない!今日、あの二人に何か起こると私の中の何かが告げている!」
バカなのは知っていたけど、遂に頭に妖精まで飼い始めたらしい。
「先輩、妖精は架空の生き物で現実には存在しませんよ」
「何言ってるの?そんなのあたりまえでしょ。鈴夏ちゃん、春だからって少し気が緩んでるんじゃないかな?」
「先輩がそれを言いますか」
「?」
『掛ける言葉が見つからない』とはこんな時の為にあるんじゃないだろうか。
「なんでもないです。尾行なんかしてどうするんですか」
「鈴夏ちゃん、気になるんでしょ?」
「それは……気にならなくはないですけど」
「つまり、私は可愛い後輩の為に一肌脱いであげようと思ってるんだよ!」
「必要ないです」

73 :すばる ◆9l4B6y7T.Q :2007/05/11(金) 02:33:20 ID:XX17KPmi
「本当は尾行なんてしちゃいけないこと……分かってる。分かってるよ。でもね、私には思い悩む鈴夏ちゃんを黙って見ているなんて出来ないの!」
「それって見つかったら全部私のせいにするってことですか?第一、別に悩んでないですし」
「あ、ちょうどホシの片方が動き出したね。これは中々グッドタイミングですぜ鈴夏さん。牛乳とあんぱんもお役目御免だね」
堂々と話を逸らされた。
……帰ろう。
「帰ります。勝手に一人でやっててください」
「なんで!?死ぬ時は一緒だよって言ってくれたじゃない!」
「言ってないです」
「じゃあ鈴夏ちゃんはあの二人が付き合う事になってもいいんだ?」
「それは……」

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0ch BBS 2004-10-30