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[第七弾]妹に言われたいセリフ
- 118 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2007/07/12(木) 21:01:00 ID:VZvtDdLR
- 人間の成長とはなんと無情なものだろう。
昔はよかった。なんていいたくは無いけど……。
この場合は、絶対に昔はよかったと自信を持って言える。
なぜなら……
「大河ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
豪邸の中にそんな声が響く。
あまりの大音量に窓がビリビリと震えている。
「またですか……」
ため息をつきながら、重い腰をあげる。
大きな音を立てないように静かに、それでいて急いで歩く。
静かさと速さ、なかなかバランスが難しい。
俺を呼ぶ声のする部屋まで、つま先立ちで跳ねるように歩いていく。
「お呼びですか。ひかるお嬢様」
ドアを開けるとそこには、
「遅い!!」
目を吊り上げた少女が仁王立ちで俺を待っていた。
「呼んだら三秒で来なさいっていつも言ってるでしょ!?」
「……申し訳ありません」
「あと、ノックぐらいしなさいよ!!」
「……申し訳ありません。以後気をつけます」
ストレス……。
「まぁ、いいわ。早速だけど、大河!かぼちゃのプリンを買ってきなさい!!」
「は?」
「食べたくなったの!!昨日テレビでやってたでしょ!?アレが食べたいの!!」
「あの……」
「何よ!?」
「その店までは一時間はかかりますよね?さすがに今から一時間後には、お店は閉店してるかと……」
- 119 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2007/07/12(木) 21:01:45 ID:VZvtDdLR
- 「だったら、もっと早く家出ればいいでしょ?」
「はぁ……?」
「大河は仮にも私の付き人でしょ?それぐらい察して、夕食後には買ってくるとか気を回せないの!?」
「……てめぇ……」
「いいのよ別に。大河は借金が大好きなのねー?」
「分かったよ!!行くよ!!行けば良いんだろ!!」
「行けば良いのよ」
もう静かにとか言っていられない。
ボロボロのスニーカーを装着し、一目散に駅に走る。
電車は完璧に把握している。
目的地に向かう電車まであと五分。
俺の足なら急げば間に合う。
しかし、問題は別のところに。
「あ……」
……電車代足りるか……?
───────────────────────
ひかる……いや、ひかるお嬢様は俺の従妹。
昔はホントに可愛くて素直で、俺のことをお兄ちゃんと慕っていたような女の子。
……でも、あくまでそれは昔の話。
今は見ての通りの暴君っぷりで。
親父の借金を肩代わりしてもらう代わりに、俺は住み込みでひかるお嬢様の付き人をやっている。
……住み込みといっても、家賃は納めてるし、食べ物だって自分持ち。決してラクではない。
まぁ、無利子で借金を立て替えてくれるんだから文句は言えないけどさ。
「……貧乏生活も楽じゃねぇな」
大通りをトボトボ歩きながら呟く。
閉店には間に合った。お目当てのプリンも最後の一個を買えた。
ただ、電車代が少し足りなかったばかりに、一駅分歩くことになってしまった。
「よかったよ、一個しかなくて……」
プリン=電車賃三駅分。いや、もっとか。
急がねばせっかく買ったプリンが温まってしまうと言うに。
- 120 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2007/07/12(木) 21:02:31 ID:VZvtDdLR
- いや、やっぱり問題はそこじゃねぇ。
「バイトの給料日まであと三日……」
……一応米ならある。
逆に言えば、米しかない……。
「三日白米か……」
キツいなぁ……。
……せめてチャーハンにならないかなぁ。
そんなことを考えながら歩いていくと、いつの間にか家の前。
……感じる。ひかるお嬢様の怒りのオーラを……!!
ドアを開けるのを躊躇ったが……仕方ない。借金、棲家、そして部屋の米を背負って、ドアを開ける。
「……!?」
ドアを開けると、お嬢様が立っていた。
さぞ怒っているかと思いきや、
「た、大河っ……!」
ちょっと嬉しそう……。
そんなにプリンが食べたかったのか……。
驚いたのも束の間。
「お、遅かったじゃない!!」
いつものお嬢……。
「すみません。ちょっと電車が……」
「まさか乗り遅れたなんて言うんじゃないでしょうね?」
「……いえ。申し訳ありません。言い訳は恥と肝に銘じます」
つーか、電車代足りなかったなんて恥ずかしくて言えねぇ……。
「まぁ、いいわ。それより大河!」
「はい。何でしょうお嬢様?」
「勉強見なさい。明日小テストなの」
「え?プリンは……」
「もう九時過ぎてるのよ?今から食べたら太るじゃない!」
……この女め……。
- 121 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2007/07/12(木) 21:03:17 ID:VZvtDdLR
- 「何よ?」
「……いいえ、なにも……」
……胃に穴開きそう……。
「さ、行くわよ。誰かさんのせいで待たされたんだから」
……この溜まりに溜まったストレスよ……。
───────────────────────
「……何よ、自分は分かるー、みたいな顔してさ」
「僕が分からなくてどうするんです……」
「むぅ……」
数学は苦手なお嬢様。
ちょっと優越感。いやぁ、数学っていいですね!
「……」
「ほら、そこ計算ミス」
「……う、うるさい!分かってるわよ!!」
「それはよかった」
「何でよ……」
お嬢様のペンが止まる。
「え?だから、さっき言ったとおり、辺CDを……」
「そうじゃない……」
「は?」
「そんなに頭良いのに、何で就職なんてするのよ……」
「は……?」
「聞いてないよ、就職するなんて……」
「あぁ、進路調査書……か」
机の上の一枚の紙切れに目をやる。
「そんなこと言わなくても察して欲しいのですが」
「一人暮らしするの……?」
「それが理想ですね」
今でも半ば一人暮らしだけど。
「……」
「……?」
- 122 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2007/07/12(木) 21:04:02 ID:VZvtDdLR
- 沈黙。
ガタッ。
そして、突然お嬢様が無言で席を立つ。
何か声をかける暇も無くおもむろに机の上の紙を掴んで……や、破ったっ!?
「な、何をするんですか!?」
「いいの、こんなのいらないんだから!!」
「いや、必要ですから!!」
「うるさいの!大河のものをどうしようと私の勝手でしょ!!」
「だからって……」
「うるさい!うるさーい!!就職なんて、絶対許さないんだから!!」
「え……?」
「大河は大学に行って、私も次の年に同じトコに入って、で、大河と一緒に勉強して、一緒にご飯食べて……
だから就職なんてダメなの!!絶対ダメなの!!」
「お嬢様……?」
だからってどこにそんな金があるのさ……。
「あの……別に就職するのはここが嫌いだからじゃないですよ」
「え……?」
「早く借金返さないと、旦那様に申し訳が立ちませんからね」
「だったら……だったら、なおさらダメ!!」
「何で?」
「……借金が無くなったら、大河が私のこと忘れちゃう……
私と大河の繋がりが完全になくなっちゃう……」
んー……弱いなぁ、こういうの。
「大丈夫だよ、ひかる」
見られないようにそっと涙をこぼす彼女の前では、俺はあのときの『お兄ちゃん』に戻る。
「お兄ちゃん……」
「俺はひかるのこと忘れないし、いつだってひかるの傍にいる」
「ホント……?」
「もう少し、ひかるが素直になってくれたらな」
「……意地悪」
「え……」
「なんでもないっ……!」
- 123 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :2007/07/12(木) 21:04:48 ID:VZvtDdLR
- 慌てて誤魔化すひかる。
俺はそんなひかるを見て、
「それで、今日はご機嫌斜めだったんだな……」
「……ゴメンなさい……大河お兄ちゃんと離れ離れになるって思ったら……」
打って変わって、しおらしいひかる。
「……ねぇ、大河お兄ちゃん。やっぱり大学行こうよ」
「でもなぁ……」
「お父さん、大河お兄ちゃんに期待してるんだよ?
だから、一杯勉強してすごく頭よくなってお父さんのお仕事手伝って……それからでも借金返せるよ」
「……うーん……」
「ね?」
いや、条件より何より
……この笑顔に勝てるものか……。
「わかった。大学……行くよ」
……言っちゃった。
「うん。お父さんに伝えとくよ」
嬉しそうなひかる。
しばらくニコニコしていたが
「ふぅ、安心したらお腹すいちゃった。大河、プリン持ってきてよ」
恥ずかしいのか、いつものお嬢様に戻る。
「食べるんスか?」
「うん。大河も半分食べる?」
「いや……自分は……」
「あら、大河に拒否権はないのよ?」
「……いただきます」
「そうそう。素直なのは良いことよ」
お嬢様とひかる。付き人と兄の間を行ったり来たりの二人。
どう考えたって前途多難以外になりそうにもないけど……
まぁ、人が言うほど、この暮らしも悪くはない気がしてきたよ。
───────────────────────
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0ch BBS 2004-10-30