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[第四弾]妹に言われたいセリフ

821 :中華:第四話 1 :05/03/10 01:34:32 ID:uRJdAEi+
 さてさて、僕がこの店に来て一週間と三日。
 お客さんも段々と増えてきた手ごたえが感じられる。
「ん〜・・・もう三時過ぎか・・・・」
 ちょっと半端な時間だ。 休日だからこんな時間に来る人もあんまりいないだろうけど、かと言って来ない訳でもない。
「ん〜・・・仕込みでもしとこうかな・・・」
 がた――んっ!
「わ?! な、何だ!?」
 店の方から大きな音。 な、何かあったのかな・・・?
 僕は急いで厨房を出た。
「・・・るアル! おマエに売るモノはないアル!」
「はぁ?! お前、何言ってんだ?!」
 口論が聞こえる・・・ま、まさか・・・・。
「ど・・・どうしたのさ・・・?」
「あ・・・お兄ちゃん! 出てきちゃダメアル! ココは危険アル!」
 藍が僕を追い返そうとする。
「お、おいアンタ! 責任者か!?」
 お客さんらしき男の人が、それを止める。
「放すアル! お兄ちゃんは渡さないアル!!」
「てめ、変なこと言うんじゃねぇ!」
「あ、あの!! 二人とも落ち着いて!!」
「あ・・・はいな」
「・・・・・む」
「そ、それで・・・どうしたんですか?」
「この女、いきなり俺に売るモノぁねえとか言い出したんだよ」
「ふん、どうせお兄ちゃんを狙うオンナの手先ね! オンナの匂い、するよ!」
「このアマ、さっきから調子乗りやがって・・・!!」
 ああ・・・・またなんだね、藍・・・。
「藍・・・誰彼構わず喧嘩売るのやめなさい」
「む・・お兄ちゃんがそう言うなら・・・」

822 :中華:第四話 2 :05/03/10 01:35:58 ID:uRJdAEi+
「あの、すみません・・・本当に・・・」
 頭を下げる。
「いや・・・アンタに謝られても・・・」
「あ、ほら、藍も・・・」
「わ、わたしは謝らないよ! だてそいつ、ウソ吐いたよ!」
「ウソ・・・?」
「わたし聞いた! オンナ連れてるな、て。 でもそいつ、オンナなんて連れてない言うたよ!」
「そ、それじゃあ連れてないんだよ。 藍の勘違いだったんだよ」
「ち、違うよ! そいつからオンナの匂いするよ! ホントよ!」
「・・・俺、そんな匂うか・・?」
「あ、す、すいません!!」
「あ、いや・・・女連れってのは・・間違いじゃないんだよ。 外に待たせてるから」
「ほら! やぱりウソ吐いてたアル!」
「あんなぁ、普通いきなり女連れか、って聞かれたら恋人とかそういうもんだと思うだろ? 待たせてんのは妹だよ」
「む・・・・その妹がお兄ちゃん狙てるに違いないアル」
「こ、こら藍!」
「あ〜・・もういいわ。 何か疲れた・・・・」
「あ、す、すいません! そ、それでご注文の方は・・・」
「肉まん一個」
「お一つでよろしいのですか?」
「食欲失せたわ」
「あ、はい、で、では、御代は要りませんので・・・・」
「ん? そうか? なら貰っとくぞ」
「毎度有り難うございましたー」
 ふぅ・・・・さてと・・。
「藍・・・・またやったね?」
「ら、藍はお兄ちゃんのためを思てやたアル!」
「僕のことを思うなら、喧嘩はよしてよ・・・」
 これでもう・・・あーもう、何回目だろう、藍が客に喧嘩売ったのは。 僕が居ると女の人が来るだけで喧嘩腰だもんなぁ・・・。
「ねぇ・・・僕のこと狙う人なんて居ないんだから・・・もうちょっと落ち着いてよ」

823 :中華:第四話 3 :05/03/10 01:37:10 ID:uRJdAEi+
「甘いよ・・・甘いアル、お兄ちゃんは・・・一瞬の油断が死を呼ぶよ」
「な、何言ってるのさ・・・」
「でも、お兄ちゃんが迷惑なら・・・」
「迷惑って言うか・・・まぁ、喧嘩は止めてよ」
「・・・・・・はいな。 それなら、これ持つアル」
「・・・・何コレ?」
「護身用の武器ね」
 柄からずっしりと来るその重み。 すらっとした美しい刃。
 ゆるやかにカーヴを描いた刀身は、日本刀のそれよりもずっと幅がある。
「・・・・何コレ?」
 僕は思わず同じ言葉を発していた。
「青竜刀アル」
「・・・お返しします」
「な、なんでアル? ナギナタみたいなののがよかたか?」
「いや・・・あのね藍、日本には銃刀法というものがあってね、こういうものは持ち歩いちゃいけないの」
「そ、そうなのか?」
「うん。 だから、コレはしまっといてね。 気持ちはありがた〜く、受け取るから」
「むぅ・・・明日までに代わり探しとくアル」
 いりません。

 まぁこんな感じで、藍が客に喧嘩を吹っ掛けること以外、概ね問題は無かったんだ。 ただ・・・。

「お兄ちゃん、今日も泊まてくアル!」
「あ、いや・・・きょ、今日は流石に・・・」
「だ、ダメか・・・?」
「あ、いや、その・・・・」
「お願いアル・・・・」
「・・・・・・・う〜・・・うん・・・」
「やた! 今日も一緒アル!」
 ・・・・と、あの日以来、この家の厄介になってます・・・。

824 :中華:第四話 4 :05/03/10 01:38:15 ID:uRJdAEi+
「おやぁ? アンタ、また泊まってくのかい?」
「は、はい・・・すいません」
「あたしゃ構わんさね。 それよりアンタんとこの親御さんにゃ連絡してるのかい?」
「いえ、家は出てるんで・・・」
「そうかい。 ま、あたしゃあの娘がよけりゃそれでいいさ」
「は、はぁ・・・」
 一緒の寝てるなんて言えないよなぁ・・・。
「お兄ちゃん、今日も一緒に寝るアルーっ!」
「わ―――っっ!!」
「・・・・ほう」
「あ、や、その、こ、これには訳がっ!!」
「あ・・・ば、ばばさま居たのか?!」
「居たともさ」
「あ、あう、わ、わたし、ご飯作てくるアル!!」
 わ、ぼ、僕を置いて逃げたっ!!
「一緒に、ねぇ・・・」
「あ、その、なんて言うか・・・」
 や、ヤバくないか、コレ!?
「・・・・・あたしはね、あの娘が望むんなら何だっていいのさ」
「え・・・?」
「あたしはあの娘に何にも出来なかったからね・・・」
「ば、ばあさん・・・?」
「あの娘・・・・何か言ってなかったかい? ・・・・寝言とかで」
 寝言・・・毎晩繰り返される、寝言・・・・。
「言って・・・ました。 中国語で、なんか・・・・」
「・・・・そうかい。 まだ夢に見るのかい、あの娘は」
「あ、あの・・・・何か・・・あったんですか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

825 :中華:第四話 5 :05/03/10 01:39:47 ID:uRJdAEi+
「ご飯出来たよーっっ!!」
 沈黙は藍の声に破られた。
「わ、ら、藍、随分早かったね」
「へへー、今日のめにゅうはコレね!」
「お・・・うどんだね」
「はいな。 下準備軽くしとけばちょちょいのちょいよ」
「それじゃあ、いただきます・・・・・うん、コレも美味いよ」
「へへーん、当然アル! アイジョウたっぷりそそいだアル!」
「あ、あはは、ありがとう」
「・・・ふむ。 あたしの好みを言わせて貰えば、もう少しコシが欲しいところだね」
「ふむふむ、コシが足りないか。 お兄ちゃんもそう思うアルか?」
「ん〜、そうだね。 今のままでも十分美味しいと思うけど、僕もコシの強いのが好みかな」
「分かたアル。 次はもとコシ入れるアル!」
「ん、頑張れ藍」
「はいなっ」
 満面の笑みとガッツポーズ。 うん、やっぱり藍はこういう顔が似合う。
 夢にうなされる藍は・・悲しそうで、辛そうで・・・・。
「(・・・・明るくなったね、この娘も)」
 聞こえるか聞こえないかの、ばあさんのつぶやき・・・やっぱり、この娘は、何かを抱えてるんだ。
「(僕は・・・この娘に何か出来るのか? 僕にその何かを・・・・藍と共有出来るだけの、器があるのか?)」
 無いのかも・・・知れない。
 けれども・・・・・僕は、藍のために、何かをしてやりたかった。

「ご・・・・んだく・・・! まま、ばば・・・・ご・・らう・・・じょい・・!!」
「・・・・よしよし・・・大丈夫、大丈夫だから―――」
 僕には、撫で続けることしか出来ないんだろうか?
 彼女を救ってやることは出来ないんだろうか?
「おにい・・・ちゃん・・・」
 僕は―――――藍を、救いたい。
 この娘の、「お兄ちゃん」として――――。


826 :中華:第四話 6 :05/03/10 01:41:26 ID:uRJdAEi+
「た、大変アルーっ!! 遅れてしまうアルー!!」
 大きな声で目を覚ます。
「ん・・・? 藍・・・・・? どうしたの・・?」
「あ、あう、遅れてしまいそうアル!! お兄ちゃん、いってきます!! アル!!」
「・・・・い、いってらっしゃい」
 言い終わる前に・・というか言ったのも分かんなかっただろうな、藍は出てってしまった。
「・・・・? 何なんだろう・・・?」
 僕は着替えて下に降りた。
「あ、ばあさん・・・おはようございます」
「ん、おはよう」
「あの・・・藍、どこに行ったんですか?」
「あの娘かい? 仕入れさ」
「へぇ・・・今日は藍が行ったんですか?」
「いつもあの娘さ。 今日は寝坊した様だがね」
「寝坊って・・・わ、まだ五時になってない・・。 どうりで薄暗いわけだ・・・・」
「本当はもう少し後でもいいんだがね、アンタに食わせる晩飯の材料も仕入れてくるんだとさ」
「え・・・僕の? わざわざ・・・?」
 ・・・そんなことまで・・・・。
 藍・・・なんで、なんでキミは・・・・。



827 :中華:第四話 7 :05/03/10 01:42:47 ID:uRJdAEi+
「あの・・・どうして藍は・・・・そうまで僕に・・?」
「・・・・アンタを好いてるんだろうさ」
「そ、そういう話じゃないんです!」
「照れ隠しかい?」
「ふざけないで下さい!! あの娘は・・・何か、何かあるんでしょう?! 何かを抱え込んでるんでしょう!?」
「・・・・・アンタ、あの娘のなんなんだい?」
 僕は―――僕は、あの娘の・・。
「僕は、あの娘の、兄です」
 驚くほどに・・・素直にその言葉が言えた。
 まだ、ホンの数日だけれど・・・確かに藍は僕にとって大きな存在になっていた。
 僕の・・・・・妹として。
 大切な片翼として・・・・・。
 忘れえぬ痛みと供に。
「・・・・・・・そうかい。 聞いて・・くれるかい? あの娘の支えになってやってくれるのかい?」
「はい・・・・」
 僕は、今度こそ、苦しみから彼女を解き放ってやりたかった。

 一日が始まる。
 藍と、僕が、本当の兄妹になるために―――。



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