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[第四弾]妹に言われたいセリフ

401 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:44:31 ID:4S6cmlZI
夜が明けた。
カーテンの隙間から差し込む光が、俺の顔を照らした。ゆっくりと瞼を開ける。
「……はあ」
結局、疲労困憊で眠りに落ちたのが午前四時だ。おそらくはクマが出来ていることだろう。
今は七時だから、三時間しか寝ていないことになる。
ダメだ。やる気が出ない。
全身から力が抜けていくような感覚。俺は完全な無気力状態に陥っていた。
「……休もうかな」
ぽつりと呟き、春香の髪を撫でる。春香は、んっ、と小さな声をもらし、その頬を緩ませた。
やっぱり、俺には迷うことしか出来ない。春香を助けようとあがいて、余計に苦しんでいる。
ならばいっそのこと、春香を見捨てるか?
そんなこと出来るわけが無い。
ああ。そうなんだ。
俺に何か出来るわけが無いんだ―――。
俺は……何も……出来ない……。
「ちくしょう……」

402 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:46:10 ID:4S6cmlZI
「…………」
「…………」
気まずい朝食。テーブルを挟んでお互い向かい合ったまま、黙々と食べ続けていた。
春香は寝ぼけ眼でベーコンエッグを口に運んでいる。
そういえば春香はオムライスが好きだったっけ。
小さいころ、まだ両親が生きていたころ。春香は母さんのオムライスが大好きだった。
それはとても甘くて、美味しくて。それなのに栄養もきちんと考えてあって。
当時、俺はオムライスがあまり好きではなかった。理由は今でも分からない。
そのせいか、夕食がオムライスになるたびに、ことあるごとに春香に不満をぶつけていた。
春香にとってみればいい迷惑だろう。
いつの間にかオムライス=春香という図式が成り立っていたのだから。
そうだ。
オムライスを作ろう。
母さんのように美味しくは作れないかもしれないけれど。
違う。
ここだ。
母さんのように……美味しいオムライスを作ってみせよう。
「いいや……作ってやる」
勇気の使いどころは、ここなんだ。
「……え?」
春香は目を丸くして、俺の顔をしげしげと見つめた。

403 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:47:18 ID:4S6cmlZI
「……よし!」
完成したオムライスを前に、俺は一人ガッツポーズをした。
我ながらよく作れたと思う。味こそそっくり同じとは言わないものの、かなり美味しいはずだ。
そろそろ昼食の時間だ。俺はリビングのドアを開けた。
「はる―――か?」
いない。さっきまでは、ここでテレビを見ていたはずなのに。
しばらく室内を見回したあと、ふとテーブルの上に何かが置かれているのを見つけた。
書置きだった。

お兄ちゃんへ。ちょっと出かけてきます。お昼ご飯には帰ってきます。
春香より。

「……もう一時だよな」
俺は時計を見上げた。針は言葉通りの時刻を示している。
「行きますかね」
エプロンを投げ捨て、自転車の鍵を取った。

404 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:48:32 ID:4S6cmlZI
「―――ここにいたのか、春香」
俺の声に驚いた春香は、びくっ、と体を震わせて振り向いた。
辺りは緑一色。遠くを見ると、緑と青の境界線が伸びていた。
あの堤防だ。
「お兄ちゃん……」
春香はためらいながらも呟き、すぐに俺から目をそらした。
俺はずかずかと春香に歩み寄る。そのまま、わざと大きな動作で手を振り上げた。
「っ!?」
叩かれると思ったのだろう。春香は思わず反射的に肩を縮めた。
「これなんだ?」
想像していた衝撃は現れず、春香の顔が恐る恐る上がっていく。
そして、俺の手に掴まれていた弁当箱を見つける。
「……お弁当箱」
「うーん、ちょっと惜しいな」
がしっ。
「きゃっ!」
頭上に気をとられ、お留守になっていた春香の片手を掴む。
「お、お兄ちゃん?」
「さて、ここでヒント。春香の大好きな食べ物といえば。なんでしょう?」
「は、春香の大好きな……たべ……」
ようやく意図が分かったのだろう。春香はすぐに目の色を変えた。そして予想外の行動。
春香は片手を掴まれたまま、もう片方の手で弁当箱を奪おうと身を乗り出した。
当然、バランスは崩れて―――。

405 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 20:49:32 ID:i+xKpVrg
またも
リ ア ル タ イ ム !

406 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:49:56 ID:4S6cmlZI
「おわっ!」「わわっ!」
悲鳴は見事にハモり、ふたりはもつれ合い、緩やかな堤防をごろごろと転げ落ちていた。
「あぐ、あぐ、あぐ、あぐ……」
衝撃が背中を殴りつける。どうして俺が下のときに段差が来るのだろう?
どすん。
「あぐっ……」
止まった。同じく止まりかけた呼吸を必死で立て直し、目を開けた。
真っ暗だ。……何やら柔らかい感触。―――まさか。
「……あ……」
春香のか細い声。くい、と顔を上げると、春香の真っ赤な顔が目の前を覆っていた。
「春香……ちゃん?あの、もしかして……もしかしなくても……」
「お、おおお、お兄ちゃんのエッチ!!」
ものすごい勢いで飛び跳ねる。しかもちゃっかりと弁当箱を奪っている。
「は、春香の胸に飛びついてくるなんてっ!ばかっ!エッチ!!」
「おいっ!?誰が飛びついたんだよ、誰が!?」
「お兄ちゃんが飛びついてきましたっ!ちょっと嬉しかったんだか―――あ」
「……ほほう」
ぼん、と春香の顔が真っ赤に染まった。
「ち、違うのっ!あの……その……」
「ありがとう」
「……え?」
俺は春香のポケットの包みを指差す。
「チョコだろ、それ?俺のために買ってきてくれたから、こんなに遅くなったんだよな」
「あ…………」

407 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:51:14 ID:4S6cmlZI
「ありがとう、春香。お返しにそのオムライスやるよ」
「え?で、でも……お返しは、ホワイデーで……」
「ホワイトデーのお返しは、春香の命が欲しい」
思いがけない言葉。
「見ろよ、オムライス。上手く作れたんだぜ。だから、きっと大丈夫さ」
どういう理屈だ。オムライスひとつで人の命が救えるか。
「春香を死なせはしない。もしダメでも、きっと春香を幸せにしてやる」
―――ああ。
「嬉しくて、楽しくて、後悔のない、幸せだったと心から言える喜びを……春香にやる」
救って、みせる。
「だから。一応、ホワイトデーは春香の命が欲しい」
めちゃくちゃだ。でも、完璧なめちゃくちゃだ。
「……うん」
春香は――本当に久しぶりに――にへっ、と微笑んだ。
「わたしの命、お兄ちゃんに預けたっ!」

408 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:52:44 ID:4S6cmlZI
「お兄ちゃん、よくわたしがここにいるって分かったね」
「お前、遠くまで行けないだろ。だからまずはここかなぁ、と思って来たら、どんぴしゃ」
「あははっ。春香の行動パターン、お兄ちゃんにバレバレだね」
「そうとも。可愛い妹の行動パターンなんてすぐに理解できる」
「えへへ……ありがとう♪」
「ところで、オムライスの味はどう?美味いかな?」
「うん。美味しいよ。お母さんの味そっくり」
「そっか。これからもっと美味くなるから覚悟しとけよ」
「あは♪楽しみだなぁ♪大丈夫?そんなに大きく言っちゃって〜」
「ふふふ。この俺に後悔の文字など無いっ!」
「ほえ?後悔しないの?」
「ああ。反省はしてる、でも後悔はしてない」
「ふわぁ〜……なんかかっこいいね」
「昨日、寝ずに考えたからな」

堤防に腰を並べ、春香はオムライスを、俺はチョコレートを食べる。
ふと空を見上げた。青い、青い空が広がっている―――。
たとえ、救えないとしても。
「はい、あ〜ん♪」
「勘弁してください」
……誇れるだけの、人生を送ろう。


あと、4日。

409 :前スレ931 :05/02/14 20:56:48 ID:4iVAw1gf
同じくリアルタイム!やばいっすよ海中さん…

410 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 20:57:34 ID:4S6cmlZI
_| ̄|○ なんだ、ホワイデーって。

バレンタインなので意識してみました……が、大失敗のようですね。
夜は混みそうだから今のうちに貼っておきます。

411 :265 :05/02/14 21:03:51 ID:+wm+1esG
この和やかさと深刻さの混ぜ合わせ方・・・・神だ・・・。

412 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:08:03 ID:H9dKM/oJ
上手だねぇ……。
アンタこそ、神にふさわしいよ……。

413 :前スレ931 :05/02/14 21:13:45 ID:4iVAw1gf
どうしよう…俺のヤツ自粛した方がいいっすかね?
ちょっとバイオレンス入っちゃうんで、海中さんの綺麗な余韻に水差すかも…

414 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 21:20:03 ID:4S6cmlZI
俺にみなさんのSSという名のチョコをください。

俺?もちろん戦死したー。・゚・(ノД`)・゚・。

415 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:24:24 ID:H9dKM/oJ
今回はマジで欠席のつもりだったけど……海中時計様の作品見て気が変わったよ……。
俺も後悔しないように参戦しよう。もう、バッシングでも何でもしなさい。勇気こそ魔法だ!!

前スレ931様のが終わったら、貼りましょうか……。

416 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 21:26:27 ID:tF38l1fG
どなたか、ここのSSに合うBGMを作ってくれませんか?
俺の脳内BGMでは限界があるので…

417 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 21:28:51 ID:IXRlmSKH
>>416
歌手はKOTOKOがいいな

418 :前スレ931 :05/02/14 21:35:33 ID:4iVAw1gf
>>416
ラルクの「fourth avenue cafe」と「瞳の住人」がここでのマイBGMです。聞くだけで涙腺緩む…
わりとオススメですよー

>>415
次の俺のはホントにスレ汚しになっちゃうかもしれないんです…今日は自粛させて頂きますので
遊星さんの萌えSSを見せてください、お願いします!!

419 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 21:36:57 ID:+wm+1esG
ちょうど「Timeless-Mobius Rover-」と言う曲を知っていたり・・・。
良い曲ですよ。

420 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:37:41 ID:H9dKM/oJ
「千奈ちゃん、明日はバレンタインだけど、どうするの?」
「私はやっぱり何か作りたいな……えっと……お兄さんに……」
「そっかぁ。千奈ちゃんはお菓子作れるからなぁー」
「じゃあ、唯奈ちゃんも一緒に作る?」
「えっ?いいの!?……って、言いたいところだけど、遠慮しとくよ。唯奈は自分だけでやりたいんだ」
「ふふっ。唯奈ちゃんはそう言うと思ったよ」
「えへへ。そうだ!!勝負しようよ、千奈ちゃん!!」
「え?勝負?」
「うん。どっちがお兄ちゃんに喜んでもらえるか勝負するの!!」
「どうして?」
「え……?だ、だって、そっちのほうが楽しいじゃん!!」
「ふふっ、そうだね。じゃあ、負けた方はどうするの?」
「うーん、そうだなぁ……じゃ、勝ったほうにクレープを買ってあげるっていうのは?」
「うん。分かったよ」
「じゃあ準備開始だね!!千奈ちゃん、頑張ってね!!」
「うん。唯奈ちゃんも頑張ってね!!」
───────────────────────
[Tina's side]

「えっと……お兄さんは……甘い物好きなのかなぁ……」
好きならば、ミルクチョコやホワイトチョコにしたほうがいいし、
好きじゃないなら、ビターチョコとか、いっそチョコじゃないほうがいい。
「そういえば、私、全然知らないや」
お兄さんは私のお菓子を美味しそうに食べてくれるけど……それだけじゃ、何が好きかなんて分からない。
でも……自分で聞くのは恥ずかしいです……。
「うーん……困ったなぁ……」
「どうした?千奈?」
「えっ!?あっ!?お兄さんっ!?」
えっ!?独り言が聞かれてしまいました!?

421 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:38:43 ID:H9dKM/oJ
どうしましょう!どうしましょう!?
「よう。で、どうしたんだ?なんか困り事か?」
「いっ、いえっ!!そんな、お兄さんに言うほどの事ではっ!!」
あわわ……声が上ずってしまいました……。
「まぁまぁ。遠慮しないで、俺に相談してくれよ。俺に出来る事なら、何でもするからさ」
 バレンタインのチョコはどんなのがいいいですか……?
「そんなこと、聞けるわけありませんよぉ!!」
「えっ!?ちょっと、千奈!?」
頭の中が真っ白になって、顔が熱くなって……
情けない事に、お兄さんの前から逃げ出してしまいました……。
お兄さん、ゴメンなさい!!お兄さんは悪くないんです!!
───────────────────────
[Yuna's side]

『そんなこと、聞けるわけありませんよぉ!!』
「ん?千奈ちゃん?」
そんな声が聞こえたと思ったら、唯奈の隣を千奈ちゃんが凄いスピードで走っていった。
「すごぉい!!千奈ちゃん、唯奈より速いかもー!!」
でも……大人しい千奈ちゃんがあんなことになるなんて……何があったのかな?
そんなことを考えていると、ドアからお兄ちゃんが不安そうに顔を出した。
「えっと……千奈は?」
「すごいスピードで二階に行ったけど……お兄ちゃん、千奈ちゃんに変な事したの?」
「いや……そんなつもりはないんだけど……ただ、困った事があるなら相談してくれって言っただけで……」
「ふぅん……」
「も、もしかして、俺なんかマズいことしたのか……?」
お兄ちゃんがオロオロしてる……初めて見たよ。
「唯奈は、大丈夫だと思うけどなぁ」

422 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:39:51 ID:H9dKM/oJ
「そ、そうか……?」
「うん。と・こ・ろ・でぇ……お兄ちゃんの誕生日って2月10日だったよね?」
「あ、あぁ……」
「じゃあ、みずがめ座?」
「そうなるな」
「って、ことは……わぁーい!!ふたご座と相性良いみたいー!!」
「相性……。え、えっと……唯奈はふたご座なのか?」
「うん。千奈ちゃんもふたご座だよ」
「はは。そりゃそうだ」
「ふぇ?何で分かるの?私たちが双子だから?」
もしかして、双子の人はみんなふたご座なのかなぁ……?
もし、そうだったらスゴいなぁ……お兄ちゃん物知りー!!
「ん……?そりゃ、双子は普通誕生日同じだろ?」
「あ……そ、そうだよね!!誕生日同じだもんね!!あはははは……」
「ああ……」
ありゃ……お兄ちゃんがヒいてる……。
わ、話題変えなきゃ!!
「え、えーと……そうだ、お兄ちゃんの血液型を当ててあげる!!」
「あ、ああ……。やってみな」
「えっと……お兄ちゃんは……A型でしょ!?」
「ははっ。よく言われるけど、俺はBだよ」
「へぇ……意外……でも、相性はいい感じだね」
「また相性……。ま、つまり当たんないんだって、占いなんて」
「うん……分かってるけど……」
「でもまぁ、みんなでワイワイやるぶんには楽しいよな?」
「うん!」
「でも、血液型だけで人を判断したらダメなんだぞ」
「はーい!!」
───────────────────────

423 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:40:53 ID:H9dKM/oJ
[Tina's side] part2

「はぁ……どうしましょう……」
ちょっと頭がスッキリしてきました。
どうして、唯奈ちゃんみたいに出来ないんでしょうか……。
私も唯奈ちゃんみたいに積極的なら……今日みたいにお兄さんを困らせる事なんてなかったのに……。
「はぁ……」
お兄さん……本当にゴメンなさい……。
「あっ!!」
そ、そうです!!
いつまでも落ち込んでちゃダメなんですよね!!私も唯奈ちゃんみたいにならないと!!
で、でも!!お兄さんの好みが分からないし……。
何かいいアイデアは……
…………
……そ、そうです!!
───────────────────────
[Yuna's side] part2

「えっと……お兄ちゃんはKタイプか……」
コレは、『あなたのカレは何タイプ!?バレンタイン必勝チャート 20タイプ!!』
友達が当たるって言ってたから借りてきたけど……20タイプは多いと思うなぁ……。
そうそう。えっとKタイプの人は……。

    [Kタイプ]
真面目で面倒見のいいあなたのカレ。融通が利かず頭は固め。恋愛にはちょっと疎い!?
あなたに対しては優しくしてくれるのですが、それは持ち前の正義感から来るモノ。
カレが優しくしてくれるからと言って、カレにベッタリ甘えてしまってはいい関係になるのは難しいです。
かといって、世話を焼きすぎると、カレもあなたのことを避けがちになってしまいます。
ちょっと控えめな態度で接し、カレのパートナー的な関係から始めるのがベスト!?
そんなカレへのプレゼントは、手作りよりも売り物の方がベター。
奇抜な物よりも、ベーシックなモノのほうが良さそうです。


424 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:42:27 ID:H9dKM/oJ
「唯奈との相性は60%か……あっ!!千奈ちゃん99%だって!!すごーい!!」
なるほど……お兄ちゃんのパートナーか……。
そういえば、お兄ちゃんと千奈ちゃん、たまに、二人でマジメな話してるしなぁ……。
私とはどうでもいいような話ばっかり……。
お兄ちゃんには千奈ちゃんみたいなコがいいのかなぁ……。
ううん!!お兄ちゃんだって『当たんないんだって、占いなんて』って言ってたし、
まだ唯奈でも大丈夫だよねっ!?バレンタインで頑張れば、大丈夫だよね!?
「よし、そうと決まれば、チョコ買いに行くぞー!!」
───────────────────────
──二月十四日。夜。我が家のリビングにて。
「真司君。はい、コレ」
俺の義母、唯奈千奈の母、恵さんが何かの箱を俺に手渡す。
「え?何ですか?」
「チョコだけど……こんなオバさんのチョコはいらない?」
「あ、今日はバレンタインだったんですね。ありがとうございます」
「えっ、知らなかったの!?」
「えぇ、まぁ……」
「学校の娘たちから貰わなかった?真司君モテそうなのに」
「ま、理系のクラスですしね。女子自体が少なくて」
「そうなの?大変なのね……私が最初でよかったわ……」
「最初?」
「いやっ、こっちの話……ところで、私はお邪魔なのかしらね?」
「邪魔?なんでです?」
「あれ……」
恵さんが指差した先を見ると……ドアのガラス部分にベッタリ張り付いている唯奈と千奈が……。
「な、何ですか……アレは……」
「さぁ……でも真司君に用みたいよ。じゃあ、私は失礼するわ」
そう言って、恵さんは二人が張り付いているドアに向かう。
怒られると思ったのか、磁石が反発するようにサッとドアから飛び退く二人。
しかし、恵さんは二人に何か囁いて、どこかへ行ってしまう。

425 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:43:29 ID:H9dKM/oJ
代わりにリビングに流れ込んでくる二人。
「お兄ちゃん!!」
「お……お兄さん!」
「どうした?二人して?」
「お兄ちゃん、今日は何の日か知ってる?」
「ああ、さっき恵さんに教えてもらった」
「えっと……じゃあ……私たちがここに来た訳……分かりますよね?」
「あー……チョコをくれるため……って言ったら自惚れてるか?」
「ううん。大正解だよ」
「まずは私から……」
千奈は精一杯手を伸ばして俺に大きめの箱を差し出した。
「私、お兄さんの好みが分からなかったんですけど……一応、色々な味のものを作って……」
「うん」
「えっと……!!お口に合うかどうか分かりませんけど……一生懸命作りましたからっ!!」
「あぁ。ありがとう。千奈」
俺は千奈の肩をポンポンと軽く叩く。
千奈は一気に緊張が解けたようで、優しく微笑んだ。
「次は唯奈ね……はい、コレ、唯奈からのチョコだよ」
唯奈が小さめの深緑色の箱を俺に差し出した。
「私は不器用だから、千奈ちゃんみたいに手作りなんて出来ないけど……お兄ちゃんのために頑張って選んだんだよ」
唯奈は珍しく、控えめにそう言った。
「あとは……えっと……お兄ちゃん、前にこの色が好きって言ってたから」
「うん。嬉しいよ、唯奈」
「えへへ……」
唯奈は薄く頬を紅潮させて、照れくさそうに笑う。
「二人ともホントにありがとう。バレンタインなんて、俺には関係ない物だと思ってたから、嬉しいよ」
「えへへ……」
「へへ……」
で、俺はそこで立ち去ろうとしたら……。

426 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:44:30 ID:H9dKM/oJ
「お兄ちゃん!!」
「お兄さん」
「ん?今度は何?」
「お兄ちゃん、千奈ちゃんと唯奈、どっちが嬉しかった!?」
「遠慮しないで言ってくださいね」
「……は?」
「唯奈と千奈ちゃんのどっちのチョコがお兄ちゃんに喜んでもらえるのか勝負してるの!!」
「だから、お兄さんが決めて下さい」
「……いや、二人とも良かったってのはダメ?」
「ダメ!!クレープが懸かってるんだから!!」
「はい!」
あ、なるほど。負けたほうがクレープを奢るとか、そんな感じね……。
しかし、まぁ……妹たちは仲が良いもんだと思ってたから、勝負ってのはなぁ……。
「なぁ……その勝負がなかったら、俺にチョコくれなかったのか?」
「「えっ……」」
「あ……俺、また自惚れてるな……気にしないでくれ」
二人の肩を叩いて、俺はその場から離れようとする。
「そんなことないよ……」
唯奈が呟いた。
「どっちの話だ?」
「どっちもです」
今度は千奈が言う。

427 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:45:32 ID:H9dKM/oJ
「唯奈は……お兄ちゃんに喜んで欲しかったから……」
「私も……です」
「二人とも、それだけ言えれば、俺の言いたい事は分かるだろ?」
俺の問いかけに、二人は同時にうなずいた。
「ま、どうしても白黒つけたいって言うのなら……俺の負けだね」
「「えっ……」」
「明日、クレープ食いに行こう。三人で。俺が奢るからさ」
「お兄ちゃん……」
「お兄さん……」
「仲良きことは美しきかな……だな」
「うん。お兄ちゃん……好きだよ」
「私も……すき……」

また一つ、楽しみにするイベントが増えた。
全く、いい妹たちだよ……。
───────────────────────
ホント薄っぺらだね……余韻ブチ壊し。
つーことで、今年のバレンタイン台本は、双子。
こんな台本でも、俺は、やっと満足する双子モノが書けたと思ってるんだけど、どうだろう……。

あと、[Tina]はワザとやってます。
[China]じゃ、俺にはチャイナとしか読めないからねぇ……

428 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:52:23 ID:H9dKM/oJ
二月十四日。バレンタインですよ。
「ねぇ、兄さん。今日はバレンタインですよ?」
学校への道を妹の未来と一緒に歩いている。
「今年もチョコ、作りますからね?」
「あぁ、楽しみだ」
「兄さんは、どんなのが好きですか?」
「そうだなぁ……」
ちょっとからかってやるかな。
「未来の体にチョコ塗って……んで、俺が隅から隅まで味わわせてもらうと。どう?」
「だ、ダメに決まってるじゃないですか!!何言ってるんですか!!」
公衆の面前でそんな事を言われて、未来ちゃんの顔も紅さ三割増し。やっぱり可愛い!!
「でも、未来はチョコも美味いからな。何でもいいよ」
「ありがとうございます。じゃあ、頑張って作りますね?」
「ああ、楽しみだ。……じゃ、今年はチョコ全部断っちゃおうかな!!」
「だ、ダメですよ、そんなの!!」
意外だな……喜ぶと思ったのに……。
「何で?」
「気持ち……分かりますから……」
「気持ち……?」
「はい。その中には、本命の人もいるわけですから……その人の勇気とかを無駄にするのって酷いと思うんです……」
「んー。俺にはその辺はよく分からんなぁ……」
「でも……その人のこと大切にしてほしいんです……」
「ああ。分かったよ。未来がそこまで言うなら」
「はい!ありがとうございます!!」
そんな感じで、仲睦まじく歩いていると……

429 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:53:28 ID:H9dKM/oJ
「よ、未来ちゃん。おはよ」
何者かが後ろから未来に声をかける。
「あっ、おはようございます」
未来の声が聞こえたかどうか知らんが、その声の主は自転車であっという間に俺たちを追い抜いてしまった。
「で……誰?」
「クラスの人ですね」
「ほぅ……しかし、相当未来に期待してる感じだな……」
「期待って、何ですか?」
「チョコに決まってるだろ?アイツにあげるのか?」
「あ、あげるわけないじゃないですか!!大体、話したことだってそんなにないですし……」
「義理も?」
「はい……そういえば、聞いてください!!あの人、お弁当がいつも美味しそうなんですよ!!」
「べ、弁当……?」
「はい!!冷凍食品とかあんまりないし、彩りもキレイですし!!きっと、お母さんが頑張ってるんですね!!」
ああ、なるほど。
多分、未来はあの彼の弁当がついつい気になっちゃうんだろう。
そして、彼は未来が自分に興味があると勘違いして……。
俺が言うのも難だが、あの少年に幸有れ!!
「ま、未来ちゃんの本命チョコは俺のものだしね」
「もう……兄さんったら……」
そう呟いて、顔を赤くした未来は少しだけ歩く速度を速めた。
───────────────────────
今日は一日があっと言う間だった。
気付いてみればもう夕方。周りも薄暗くなった。
「ただいま」
家の中が甘い匂いで満ちている。未来がチョコを溶かしているのかな……。

430 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:54:30 ID:H9dKM/oJ
「あっ、お帰りなさい。兄さん」
エプロン姿の未来が玄関に出てきて言う。
「ああ、ただいま」
「あっ、兄さん。丁度良かった!!ご飯できましたよ」
「ああ。着替えてから行く」
「はい!早く来てくださいね!!」
未来がそういうので、俺は手っ取り早く着替えを済ませキッチンに行く。
「へぇ……チーズフォンデュか……美味そうだな」
「ふふっ。違いますよ、兄さん」
「違うって?何が?」
「食べてみれば分かりますって」
未来に言われるがままに、金串をパンに刺し、チーズに浸して口に運ぶ。
「何コレ!?甘っ!?」
「ホワイトチョコですよ。って、こんなに匂いがしてるじゃないですか……」
「ま、そりゃそうなんだが……思い込みって怖いな」
「ふふっ、そうですね。それで……美味しいですか、兄さん?」
「うん。美味いよ、未来」
「ありがとうございます。……でも、これデザートのつもりなんですけどね」
「ま、流石にこれメインじゃ飯は食えないよな……」
「はい。ご飯、今持ってきますから待っててくださいね」
「ああ、頼む」
「今日は兄さんの好きなもの作ったんですよ?」
「へぇ、何?」
「じゃーん!!兄さんの大好きなピザです!」
「おぉ!未来が作ったのか!?」
「はい。生地からソースまで全部、未来特製ですよ!」
「ほぅ。じゃあ、早速食べようかな」
「はい。熱いですから、気をつけてくださいね」
───────────────────────

431 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:55:31 ID:H9dKM/oJ
「ごちそうさま」
「はい。お粗末さまでした」
まぁ、未来の料理について語る事はないだろう。とにかく見事の一言であった。
例のデザートも、ホワイトチョコだけでなく普通の黒い(?)チョコも出てきて、なかなか美味しかった。
「さ……課題でもやるか」
ドアに手をかけた俺を未来が呼び止めた。
「あ、あの……ちょっといいですか?」
「ああ。いいけど?」
「すいません……。あの……兄さん言いましたよね……?えっと……」
何を言うつもりかは知らんが、未来は顔を真っ赤にして俯いている。
「わ、私の体にチョコ塗って食べたいって……」
「ま、まぁ……言った事は言ったけど……」
何!?する気なの!?チョコレートフォンデュはその伏線!?
「ちょ、ちょっと未来ちゃん!?」
「えっと……」
溶けたチョコが入った鍋を掴み、その白い人差し指を褐色の液体で染める。
そして……
「み、未来……?」
口の中が甘くて暖かい……。
気付くと、俺は未来の指を口に含んでいた……。
「えっと……私は……兄さんのためなら……何でもしてあげたいけど……」
「み、みく……?」
俺は驚き、間抜けな声を出してしまう。
「私には……これが精一杯です……でも……こんな私でもいいなら……」
未来の途切れ途切れの言葉。……そっか、コレが勇気ですか?未来ちゃん。
「ったく……お前は冗談が通じねぇヤツだな!!」
俺は未来を抱き寄せ、頭をクシャクシャに撫でる。
「可愛いぞ、このヤロー!!」
「に、兄さん……や、やめてくださいよぉ!!」
微笑みながら、くすぐったそうに体をよじらせる未来。

432 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 21:56:33 ID:H9dKM/oJ
「未来……最高だったよ。ありがとな」
「ふふっ、兄さん。まだ早いですよ」
「えっ?」
「えっと……はい……」
未来が小さな箱を差し出す。
「何、コレ?」
「チョコレートです……」
「何で?」
「えっと……私も……他の女の子たちの仲間に入れて欲しかったから……」
今の未来の様子を改めて言うこともないだろう。
「私も……ドキドキしたかったから……」
そう。いつも通りの未来なのだ。
何度見てもあまりに可愛すぎて……
「じゃ、俺の部屋でもっとドキドキしようか!?」
つい意地悪してしまう。
「わ!!に、兄さん!?な、何言ってるんですか!!」
「はははっ!!冗談だって」
「もう……兄さんってば……」

ラブラブな雰囲気ってのも理想と言えば理想なんだが……。
バカ言って、突っ込まれての生活も捨てたモンじゃないと思うよ、俺は。
───────────────────────
なんつって、今年はまだまだ終わらないよ。
二作目は未来。
なりきりは散々だったけど、台本の方はどうだろうか……。

433 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 21:58:05 ID:i+xKpVrg
またも
リアルタイム!!!

GJ!!最高です!!


未来ちゃん最高!
双子も最高!

434 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 22:00:01 ID:H9dKM/oJ
今日は二月十四日。バレンタイン神父撲殺記念日です。
……いや、別に僻んでる訳じゃないんだけど、俺、三上修二はやっぱりこの日は好きじゃない。
何故かこの日はクラスみんながソワソワしていて、俺だけ取り残された気分になる。
そして……そのソワソワは、今年は学校の中だけの物ではなかった。
「おにぃちゃーん!!」
パジャマ姿の沙耶が俺のベッドに飛び込んでくる。
「うぉっ!?」
間一髪、俺は沙耶のフライングボディープレスを回避。スプリングがきしみ、沙耶はその場でバウンドした。
「おにぃちゃん、おはよー!!」
俺の隣で寝転がってる沙耶が俺に能天気な笑顔を向ける。
「沙耶……俺を永遠の眠りに就かせる気……?」
逆に、悪気はないとはいえ朝っぱらから殺されかけた俺は機嫌が悪い。
「ううん。おにぃちゃんを起こしに来たんだよー!!」
テンション高ぇ……。
「……で、何?」
「おにぃちゃん、知ってるー!?」
「何を?」
「今日はバレンタインなんだよー!!」
……は?
それは、今日がバレンタイン、つまり、二月十四日であることを知っているのかと聞いているのか?
それとも、二月十四日にバレンタインと言う行事があることを知っているのかと聞いているのか?
……ま、どっちにしろイエスだが。
「あぁ……一応……」
「えへへ。おにぃちゃん、サヤのチョコ欲しい?」
「学校で一杯貰うから要らない……」
あっ……マズいっ……!!

435 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 22:01:03 ID:H9dKM/oJ
沙耶に冗談は通じない。
全てを本気にして、今も涙が臨界点に達しようとしている。
「あ……そ、そっか……ご、ゴメンなさい……」
「沙ー耶ー!!冗談だってば!!俺、沙耶のチョコが欲しいなぁ!!」
「おにぃちゃん……」
「いや、実は俺、チョコ大好きなんだよ!!」
いや、心にもないことを言ってるわけじゃないけど……なんか白々しいのは何でだろ……。
「わぁーい!!おにぃちゃん、サヤのチョコ欲しいのー!?」
「ああ。下さい。是非下さい」
「わぁーい!!やったやったぁー!!」
すさまじいテンションでベッドの上で飛び跳ねる沙耶……。
まだ眠い頭には響くってば……。
「沙耶……飯でも食うか?」
「うん。食べるー!!」
俺は沙耶の暴走を止めるべく、食事と言う手段を用いて、沈静化を試みた。
……今日は、もしかしたら頭痛薬が要るかもしれない……。
───────────────────────
もう夕方だが……学校での出来事を特に言う必要はないと思う。
まぁ、敢えて要約するなら、
『三上クン、これあげるー!!』とか『しゅーちゃん!はい、チョコ!!』とか……。
……まぁ、つまり、俺にチョコをくれるのは女友達ばっかりだ。義理100%。
だからと言って、どうしたということはないんだがな。
しかし、まぁ……俺は特別甘い物が好きなわけでもないので、正直、チョコなどいらないのだが、
知らない人からの本命チョコよりも、友人からの義理チョコのほうが千倍は断りにくいと俺は思う。
まぁ……沙耶からのチョコが一番断りにくいのだが。
……そんなことを考えながら、リビングへ続く扉の前で、俺はちょっと身構える。
それなら、別にリビングに入る必要などないだろう。と思うかもしれないが……甘い!!

436 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 22:02:07 ID:H9dKM/oJ
朝の沙耶を見れば分かるように、今日のテンションはかなりのものだ。
もしかしたら深刻なダメージを受ける可能性もある。
しかし、一回顔を会わせておけば、その後しばらくはリスクは少なくなる。
つーことで、最初の一回を身構えて受ける事で、後々のダメージを最小限に抑えられるのだ!!
……って言うのは、話が飛躍しすぎかもしれないが。
「ふぅ……」
俺は大きく深呼吸して覚悟を決めた。
すると……
ガッシャーン!!
「わわわぁっ!!」
ドアの向こうの更に向こう。キッチンから沙耶の声がした。
「わわわっ!!こぼれちゃったよぅ!!」
沙耶がなんかやってるみたいだな……。
助けてあげてもいいけど……このまま様子を見ていてもいいような気がする。
「はわっ!!床が水浸しだよぉ!!」
……めんどぃ。
もうちょっとピンチになってからでもいいか……。
「ひゃっ!!」
まだ余裕だな。
「きゃん!!」
まだまだ。
「くぅーん……」
そろそろか。
俺は静かにドアを開け、わざと足音を立てながらキッチンに向かう。
「ただいま、沙耶」
「はわ……おかえりなさい……」
沙耶はグチャグチャになったキッチンの床にペタンと座っていた。
「ずいぶん汚れてるな……。ほれ、立ちな」
俺は手を差し出して、沙耶を立たせてやる。
「うん……」

437 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/14 22:03:17 ID:H9dKM/oJ
朝のノリはどこへやら。沙耶はすっかり気を落としていた。
「どうしたんだよ、沙耶?」
「サヤ……おにぃちゃんにチョコを作ろうと思ったのに……失敗……しちゃった……」
「まったく……」
今にも泣き出しそうな沙耶の頭にポンと手を置く。
「大丈夫?ケガはないか?」
「うん……でも……」
「いいんだよ、沙耶が無事なら」
俺は沙耶の頭を優しく撫でる。居心地がよさそうに、涙目ながらも、沙耶は次第に俺に身を寄せて来た。
そこで、ふと調理台の上に目をやると……
「あ、美味そうなチョコがあるじゃないか。これ、俺の?」
「わわっ!!それは、ダメだよぉ!!」
「何で?」
「だって……変になっちゃったから……」
まぁ、言われてみると、ハート型にちょっと突起物がついたような不思議な形をしてるし、
ホワイトチョコで書いてある字も一応読めるが、かなり下手糞だ。
「でも、沙耶が一生懸命作ったんだろ?嬉しいよ」
「おにぃちゃん……」
「後で、二人で一緒に食べような?」
「うん!!」
沙耶のとても明るい笑顔は、俺にまで微笑を浮かべさせた。
「おにぃちゃん!!サヤね、おにぃちゃんのこと大好きだよっ!!」
「そっか」
「ねぇねぇ!!おにぃちゃんは……サヤのこと……好き……?」
「そうだなぁ……嫌いじゃないかな」
「ホント!?わーい!!わーい!!」

……出来れば、沙耶にはいつまでもこの純真さを持ち続けてほしいもんだな。
───────────────────────
バレンタイン、最後の妹は沙耶。マジで疲れた……。
文句なら何でも聞くよ。今回はそれに値する事をしたからね。なんなら、このトリップを晒してもいいけど。

438 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 22:03:21 ID:IXRlmSKH
沙耶キタ−−(゜∀゜)−−−−−−−−−−−−!!

439 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 22:06:46 ID:DHw18aLu
も、萌え死ぬ…orz

440 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 22:08:49 ID:j8ugAql5
未来ちゃんキタ――(゚∀゚)――!
俺も未来ちゃんの指ちゅぱしたい……。
もちろんそこからセkk(以下自主規制

441 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/14 23:04:22 ID:XW2+TTCB
ラブリィだぜ……

442 :前スレ921 :05/02/15 00:26:40 ID:MXfg2ugN
遊星氏、海中時計氏
乙ですー。
危うく萌え死んじゃうとこでした('A`)

443 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 02:18:50 ID:vvYwIzAB
神だ!

444 :コンズ :05/02/15 05:57:37 ID:5+/wilB1
くっはぁ〜!!遊星さん最高でふた!!
やっぱり双子のお話わイイっ(・∀・)


445 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 17:59:50 ID:ChVamTqL
ゆ、遊星さん…沙耶たんもらっていい?
もう俺的キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

446 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:29:02 ID:ij89ILEM
梨那は次の授業は教室を移動しなきゃならないとかで、五時間目の予鈴が鳴るまえに自分の教室に戻った。
『英語苦手なんだよぉー!!』とか、『国語なら得意なんだけどなぁー!!』などとボヤきながら。
俺も五時間目の英語の準備をしようと、机の中に手を入れると、
「さぁ、行こうぜ」
友人の一人が俺に声をかけた。
「行くって?何処へ?」
「聞いてないのか?今日、吉崎さんが風邪で休みだから……」
「あ。視聴覚教室で文型クラスと合同だったな?」
「そうそう。2組とな」
2組っていったら、梨那のクラスだ……。
っていうか、そんなに授業が遅れてる訳じゃないんだから、自習で良いのに……。
「でも、2組っつったら、あの坂野が教えてんだぜ?最悪だよ……」
「坂野か……生徒に人気無いよな、あの人」
「あーあ!いいよなぁー!!学年トップクラスのヤツは他人事で!!」
「どういうことだ?」
「知らない?アイツ、ワザと分からなさそうなヤツ当てて、んで勝手にキレるんだってさ」
「性格悪いな」
「だろ?あっ、もう時間ねぇな。早く行くぞ」
「ああ」
俺は英語の用具を持ち、視聴覚教室へ向かう。
一応、席は自由だったのだがチャイム擦れ擦れで入り込んだため、
ほとんど席は残っていなく、一番後ろの席に二人で座った。
「成績が良くないヤツは出来るだけ前のほうに来るように!!」
坂野が声を張り上げた。
なるほど……だから後ろが空いてるんだな……流石に一番後ろに行く度胸のあるヤツはいないか……。
そこで、周りを見渡すと、ご丁寧に一番前に座っている梨那という名のバカが一人……。

447 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:31:07 ID:ij89ILEM
「行く?」
友人が前を指差す。
「いや、いい」
「ま、お前は余裕だもんな、天才。当てられたときは頼むぜ?」
「ま、考えとくよ」
とまぁ、そんなこんなで授業が始まって……
「今日の問題は簡単だ。出来ないヤツは危機感を感じたほうがいいぞ」
ってなことを言いながらプリントを配る坂野。
……って、教科書使わねぇのか……じゃ、自習でもいいのにな。
「10分で目を通せ」
俺は前から回ってきたプリントに目を通す。
タイトルは『ニュートンとアインシュタインの物理』。
……正直、俺なら、こんなこと読まんでも知ってる事ばっかりだったが、文自体は結構難しい。
文系、理系にとっても、決して簡単な問題じゃない。まして10分で解ける問題ではないな。
んで、しばらくしているうちに10分経って、坂野は生徒を当て始めた。
情報によると、俺ぐらい成績が良ければ、まず指されないらしいので、
俺にとっては退屈極まりない授業だ。
そんな俺は頬杖をついて、ハラハラした顔で英文を読んでる梨那を見ていた。
───────────────────────
……弱い物虐め的授業も半分ほど終わった。
噂どおり、ワザと当てられそうにないヤツを選んでいるようで、意図的に成績のいいヤツを避けている。
んで、せめて何食わぬ顔をしてりゃ良いのに、当の本人はニタニタ笑ってるから、タチが悪い。
予習してなくて分からないのなら自業自得だが……
今初めて読んだ英文、しかもこれぐらいのレベルなのだから、分からなくても無理もないと思うのだが……。
ってなワケで、俺はモヤモヤした怒りを抱えながら、適当に授業を聞いていた。
「じゃ、次は……相川。下線部(3)を訳してみろ」
「にゃ……は、はい……」
梨那が緊張と不安で顔を強張らせながら立ち上がった。
下線部(3)って言ったら、多分一番難しいトコだな……。運が悪いねぇ……梨那くん。

448 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:32:08 ID:ij89ILEM
「えっと……しかし……うんと……アインシュタインは考えた……えっと……」
「何だ?相川、こんなのも出来ないのか?」
「は、はい……」
抑えろ抑えろ……。
「まったく、こんな簡単な文も訳せないと、今度は英語で赤点取るぞ」
「……」
我慢だ……大人になれ……。
「詩だか何だか知らないが、表彰されたぐらいで調子に乗ってもらったら困るな」
「……」
坂野の執拗な攻撃に、今にも泣き出しそうな梨那の顔。
バン!!
「ふぅ……」
俺は机を叩いて勢いよく立ち上がり、深い呼吸をする。
教室中が俺に注目するなか、隣の友人は、面白そうな顔をしている。
「な、何だ!?州田!?」
坂野は驚いた様子で、間抜けな声を出した。
あ、州田ってのは俺の名前ね。
俺はその質問を無視し、梨那の席へ歩いていく。
「お兄ちゃん……?」
俺は梨那に微笑み、その震える肩をポンと叩き、そして、ドアに向かう。
「ど、何処に行くんだ!?州田!?」
「あぁ、もう半分過ぎてるから、もう出席扱いっすよね?これ以上聞く価値ないんで教室で自習してます」
「お、おい!?いいのか!?ここ、次のテストに出すぞ!?」
「えっと……onlyによる倒置ですか?このthisが前文全体を指す事ですか?それとも、最後の省略ですか?
 ま、なんにせよ俺には分からない問題じゃありませんよ」

449 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:34:18 ID:ij89ILEM
「う……」
「あ、先生。発音、三つほど間違ってましたよ?
 しかも、その一回は、生徒が正しく発音したヤツをわざわざ直してましたよね?」
「……」
「簡単だって言いましたけど、客観的に考えても、この問題をそう思えるのは、英語が得意な物理マニアだけです」
「……」
「あと……授業をストレス解消に使うのはどうかと思いますよ?」
「……」
「何か言いたいことあるなら校長か学年主任か担任にどうぞ。では」
言いたい事を言い尽くし、ちょっとスカッとした俺はドアを開け、視聴覚教室を出て行く。
俺の背にある教室が騒がしくなったのを聞きながら……。
───────────────────────
授業の途中で教室に戻った俺は、皆から腫れ物扱いされると思っていた。
しかし……
「やるじゃん、州田!!」
「しゅーちゃん、スカッとしたよ!!」
予想に反して、俺は英雄だった。
坂野にはみんなムカムカしていたらしく、俺は惜しみない称賛を浴びることとなった。
結局、俺が出て行った後、授業は騒然となり、他の成績優秀者が続々と抜けて、
呆然としていた坂野は、もう誰かを指名せず、ただ答えのプリントを配るだけで終わったらしい。
その後、騒動の張本人として、俺は担任に呼ばれた。
俺が事情を話すと、担任は分かってくれて、坂野には後で注意をするらしい。
一応、俺の行動も褒められた物ではないとして厳重な注意を受けた。
ま、喧嘩両成敗といったところだろうか……。
「失礼しました」
俺は軽く礼をして、職員室から出る。
「お兄ちゃん……」
梨那が申し訳なさそうな顔をして、俺に声をかける。
「よぅ、梨那。一緒に帰るか?」
俺の問いかけに、梨那は黙って頷いた。
梨那にいつもの明るさがないので、俺も会話の糸口を失ってしまう。
しばらく沈黙が続いた。

450 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:35:23 ID:ij89ILEM
「ねぇ……」
先に沈黙を破ったのは梨那だった。
「何だ?」
「ゴメンなさい……梨那のせいで……」
「梨那のせい?」
「うん……お兄ちゃん、梨那を助けてくれたのに……お兄ちゃんだけが怒られて……」
別に怒られた訳じゃないけど……ま、いいか。
「ゴメンね……お兄ちゃん……ゴメンね……」
ポロポロと涙を流す梨那。
梨那との付き合いも長いが、もしかしたら、こんな悲しそうな涙は初めて見たかもしれない……。
「泣くなよ。梨那が悪いんじゃないって」
「で、でも……」
「体が勝手に動いたんだ。梨那の泣きそうな顔見たらさ」
「お兄ちゃん……?」
梨那は驚いて、潤んだ瞳で俺を見上げた。
「さ、帰るぞ!!」
結構マジのつもりだったが、梨那に見つめられると恥ずかしくなってきた。
ちょっと熱い頬を隠すため、俺は少し早足で歩き始める。
「お、お兄ちゃん!!」
「な、何だよ?」
「ありがとう!!」
梨那が涙を拭いて、笑った。
「ああ」
俺も梨那に笑いかける。
「あーあ……結局あの後、授業やらなかったんだって?」
「うん」
「折角、俺が全訳と単語メモ作って、こっそり渡してやったのに、無駄だったな」
「うん。でも、梨那、嬉しかったよ!!」
「そう思うなら……あー、いや、やっぱ止めとくわ」

451 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:36:32 ID:ij89ILEM
「いつものアレが欲しいの?」
「いいよいいよ。忘れてくれ」
「ううん。梨那が買ってあげる。お昼の分もあるしね?」
「いいのか?」
「うん。で、でも一個だけだからねっ!?」
「三つ……いや、二つだ!!」
「にゃっ!?ひ、ヒドいよぉ!!」
「ウソウソ。一個で良いよ」

情けない事だが、俺の弱点はいつだって梨那なのだ。
でも、それはそれで、俺は幸せなのである。
───────────────────────
♪言いたかないが 連チャンはキツい い・い・い・い 言うだけ無駄だよ 頑張ろう♪

もう、余韻ブチ壊す前に貼っとくよ。
構想段階では、梨那の兄と沙耶の兄を同一人物にする気だった。っていうのは秘密だ。

452 :前スレ921 :05/02/15 21:44:00 ID:MXfg2ugN
リアルタイムで見れた━━(゚∀゚)━━!!
乙っス!!

453 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 21:46:25 ID:jYER33Ji
(*´ー`*)ーЭ やっぱ最高です!

454 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 21:51:48 ID:ChVamTqL
おい遊星さんよ〜











萌て死にそうだ!

455 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 21:54:45 ID:fPIYbZwL
ネ申!
遊星さん最高ですよ!






英文わかんない…。

456 :前スレ921 :05/02/15 23:01:14 ID:MXfg2ugN
―コンコン

部屋をノックする音で目が覚めた。
いつの間にか寝ていたらしい。

うっすらと重い瞼を開くと夕焼けに軽く紅に染められた白い天井が見える。

窓からは烏丸の鳴き声が聞こえてきた。
どうやら今は夕方のようだ。

枕元には無造作に漫画が置いてある。
漫画を読んでいるうちに寝てしまっていたようだ。

―コンコン
「夢亜ー、起きろー」
もう一度ノックする音が聞こえた。今度は兄の声も聞こえてきた。

「んー、起きたぁー。」
ベッドに横になったまま寝起き特有のけだるさをたたえた声で返事をする。

457 :前スレ921 :05/02/15 23:03:12 ID:MXfg2ugN
「目が覚めたのと起きるのは違う!さっさと起きる!入るぞ?」

「起きてるってばぁ…」
とは言ったもののさすがは兄。長年一緒に居るだけあってこのままだと私が二度寝する事がわかっているのだろう。
考えているうちに部屋のドアが開き兄が入ってくる。

顔は整っているが美形と言う程でもなく、身長も170程度。性格も人当たり良く。至って普通。馴染み易い人間だ。

「おそよう夢亜さん。随分と気持ち良く寝ていたようですね。」

「お・は・よ・う・お兄ちゃん。」
ただ、少し…いや、かなりふざけた人間だ。

458 :前スレ921 :05/02/15 23:04:34 ID:MXfg2ugN
いやにニヤニヤしながら話し掛けてくる。

「まだ寝ぼけてるのか?おはようは朝の挨拶だぞ?お・そ・よ・う・寝癖の素敵な夢亜お嬢様(笑)」

「なっ!!う、うるさいなぁ!!わざわざそんなコト言いに来たの!?」
慌てて寝癖を治しながらもとにかく反応しておく。
兄は私の反応を見て随分楽しそうな顔をしている。

「まさか。そろそろ夕飯にするから降りて来いよ。いつまでも寝てないで」

「いつまでもって…もう起きてるよ!」
兄はどう見ても私の反応を見て楽しんでいる。
からかわれているのがわかっていてもついつい反応してしまうのが悔しい。

459 :前スレ921 :05/02/15 23:09:30 ID:MXfg2ugN
「はいはい。先に降りてるから。」
そう言って兄は部屋を出て階段を降りていく音が聞こえてくる。

「もぉ〜、お兄ちゃんったらなんで人が気にするコトわざわざ言うかなぁ〜…」
あれさえ無ければ……なぁ……。
顔をしかめながらベッドから降りて服を治しながらリビングへ降りる仕度をする。

―――――――――――――――――
今日はこれだけ
今回はゆっくり書いてます。
キャラ
静原夢亜(しずはらゆあ)
静原星一(せいいち[兄])

この話しは一応この前にプロローグのような物がありますがスレ違いなのでカットしました。
続きはまた。

460 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:29:02 ID:jYER33Ji
も、萌えました(*'∀`*) やっぱり上手いです。


……で、張っちゃいます。('A`)

461 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:30:13 ID:jYER33Ji
最後の日まで、あと4日。


「お兄ちゃん!ネクタイ曲がってるぅ!」
「え?……あ、ホントだ」
タキシードを着て譜面に没頭していた俺は、春香の声によって我に帰った。
首元で春香の手先が器用に動いている。ふと時計が目に入った。
午後7時。開演まであと30分だ。
今さらだが、俺の名前は真人。妹の名前は春香。天才音楽家の息子と娘だ。
これから市民ホールでオーケストラの演奏が行われる。
その指揮者として、俺も舞台に上がるのだ。
別に今回が初めてではない。まだ高校生だが、これも食っていくためだ。
もちろん春香を養うためでもある。
親父は自他ともに認める偏屈な奴で、自分の生まれ故郷であるこの町を気に入っていた。
理由は分からないが、親父はこの田舎町を拠点として音楽活動を始めたのだ。
……今や、町の誇りとして記念館まで作られていたりする。
その息子と娘。
…………我ながら波乱万丈な人生だ。
「お兄ちゃんってば!ほら、もう時間だよぉ!?」
わたわたと両手を振る春香に苦笑し、俺は椅子から腰を上げた。
7時10分。そろそろ舞台裏へ行くとするか。
「よし、行ってくる。春香は観客席に」
「りょー、かい!」
びしっ、と敬礼。そそくさとドアの前まで行き、ドアの影から顔を半分だけ覗かせて、
「が、頑張ってね、お兄ちゃん。春香、見てるから……」
「おう」
俺は親指を立てた。

462 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:31:29 ID:jYER33Ji
緊張はしない。慣れっこだ。
控え室廊下を通り、舞台の袖に到着する。
適当に挨拶をすませ、演奏のために意識を高めていく。
――音楽は心だ。何度か親父にそう言われたことがあるが、まさにその通りだと思う。
特に指揮者はそうだ。
オーケストラの演奏するすべての音を捉え、それらをより高く導かなければならない。
ただタクトを振るだけじゃダメなのだ。
「妹さん、今日も来ているのか?」
声をかけられ、その方向に振り向くと、今日の演奏をともにする女性が立っていた。
腰までの長さの黒髪、大きな瞳、整った顔立ち―――。要するに美人だ。
だが、天は二物を与えずというかなんというか。
彼女、立川要は外見とは裏腹にひどく男っぽいのだ。口調もしぐさも。
「ええ。期待に応えてやらないと」
俺は苦笑してタイを確認した。大丈夫、曲がっていない。
要さんはかなりの顔馴染みだ。仕事の都合で何度も会うし、家に来たりもする。
無論、春香も要さんのことをよく知っている。いいお姉さんだと思っているだろう。
まあそんな人だ。
「そうだな。兄の威厳をみせてやれ」
「それ、普段は俺が威厳がないような言い方じゃないですか」
「ははは!そうかもな。……よし、そろそろ時間だな。それじゃ」
「はい」
オーケストラは幕が上がる前に舞台上の席に座り、待機する。指揮者は後から入る。
一人舞台の袖に取り残され、俺は大きく息を吐いた。
照明と観客が待っている。……まずい、緊張してきた。
春香が待っている。……俺は心が落ち着くのを感じ、堂々と一歩を踏み出す。
ショータイムだ。

463 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:33:14 ID:jYER33Ji
幕が上がる。
舞台上にオーケストラの姿が現れた。かなめおねえちゃんの姿もある。
やがて舞台の袖からお兄ちゃんが歩いてきた。照明に照らされ、威風堂々と。
なのに、わたしはこんな場所で見守ることしかできない。
わたしはお兄ちゃんの重荷になっている。
けれど、そんなことは言えない。
わたしはお兄ちゃんの重荷であると同時に、心の支えなのだから。
自惚れじゃない。
わたしはお兄ちゃんのしぐさを一挙一動、見守った。
タクトが振り上げられる。
時が止まる。
いや違う。お兄ちゃんが時を律しているのだ。
タクトが振られる。
時は動き出し、音楽は時間との融合を試みる―――。

464 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:34:33 ID:jYER33Ji
……公演は成功だった。観客は総立ちだったし、満足してくれたようだ。
「ほう、退院したのか。それは良かったじゃないか」
市民ホールから少し離れたファミレスで、俺と春香と要さんは打ち上げに参加していた。
本来はもっと豪華な場所でしたりするのだが、ここは田舎だ。それは仕方ない。
というか、むしろうちのオーケストラは庶民的な輩が多い。……親父の影響だろうか。
ビールを持ち出したテーブルを尻目に、俺はジュースを飲み干した。
「ええ。こいつ、嬉しくて飛び跳ねてましたよ」
「お、お兄ちゃん!もうっ……」
赤面する春香。要さんは苦笑する。
「ははは。いいじゃないか。兄の前では甘えているようだな」
「そ、そんなことないですっ!わたしなんか、いつもお兄ちゃんに迷惑かけてばかりで……」
「女は少しくらい迷惑をかけたほうがいいのさ。なあ、真人」
「え?いや、それは俺にふられても……」
「なんだ甲斐性なしか?」
「か、要さん……」
昔からそうだが、この人には頭が上がらない。
「ほれほれ。酒でも飲め」
「俺まだ未成年ですって」
「いいから飲め。オレがお前くらいの頃はぐいぐい飲んでたぞ」
要さんは自分のことをオレという。……いや、要さん。あなたおいくつですか。
「アルコールはダメなんですってば!ほ、ほら、春香からも何か……って、寝るな!」

465 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:36:13 ID:jYER33Ji
ファミレスを出て、夜風に体を預ける。火照った体には気持ちいい。
……結局、飲まされた。
「しかし……なんだ。相変わらずウソは下手だな」
春香を背負っての帰宅途中、要さんはいきなりそう言った。
「はい?」
「何を隠している?」
……はは。
本当に頭が上がらないや。
大丈夫。この人になら話してもいい。
「実は―――」
俺は少し酔っていたせいもあってか、春香の病気の調子をべらべらと喋っていた。
背中の春香は静かな寝息を立てている。
すべてを話したあと、要さんは深呼吸をした。
「この」
「この?」
「馬鹿野郎っ!!」
怒鳴られた。
「どうして早く言わないのだ!!馬鹿野郎!!」
「言えませんよ。簡単には。要さんだから話したんです」
ふっ、と要さんの表情が変わる。
「そうだな。……そうだった。すまない」
「いえ、いいんです」
俺たちは空を見上げた。月と星が輝いている。
「一人じゃないよ」
「え?」
「お前たちは、一人じゃないよ」
要さんはくすっ、と笑うと、背中の春香を眺めて呟いた。
「春香は一人じゃない。オレもお前もいる。オーケストラの連中だってそうだ。仲間だ」
「要さん…………」
「忘れるな、真人。お前には頼れる味方かいるということをな」
それだけ言うと、要さんはそれじゃと言ってきびすを返し、闇夜に消えていった。

466 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:37:32 ID:jYER33Ji
「春香、着いたぞ」
「……お兄ちゃん」
「なんだ?具合が悪いのか?」
「ううん。そうじゃないの」
「どうした?」
「…………春香、一人じゃないね」
「……ああ。今さら気づいたのか?」
「ううん。気づいてた。でも悲劇のヒロインを演じようとしてたのかも」
「ははは。そうかもな」
「だからね」
「ん」
「お兄ちゃんも一人じゃないから。もう抱え込まなくてもいいから」
「春香……」
「ありがとう、お兄ちゃん。大好き……」
口を閉ざし、春香は再び眠りに落ちた。
俺は玄関から再び空を見上げた。
妙な力強さが、そこにはあった。


あと、3日。

467 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:38:54 ID:jYER33Ji
('A`) もうこれ以上は無駄にスレ消費できない。
次回からお涙頂戴路線に入るので、どうかご容赦を…

468 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 23:49:08 ID:ChVamTqL
くっ!目に涙が留まらなくなってきた!

469 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 23:58:49 ID:CT9VhLV6
……ええ話やわ〜。(感涙)
一日毎に貼られてくから毎日泣いてるよ俺…。

470 :前スレ931 :05/02/16 00:10:03 ID:y+5xjefp
遊星さんや海中さんの後に貼るのは心苦しいんすけど、忘れられるのが怖いので…
_______________________________

「んっと」
寝転んで思いを巡らすのに飽きた和人はベッドから起き上がった。
リビングに下りるが雪乃はいない。
そうだ、買い物に行ったんだと思い出して、ソファに腰掛けると時計を見る。
時刻は7時を15分ほどまわっていた。
いつも時間はきっちり守る雪乃とはいえ、気にしすぎかと自分を戒める。
が、和人は何か落ち着かないものを感じた。
もしまた発作を起こしてたら…
腰を下ろしたままあれこれ考えていたが、やがてゆっくりとソファから立ち上がった。


「え……」
戸惑う雪乃に馴れ馴れしい調子で近づくニット帽。
「今ヒマっしょ?俺らとカラオケ行かねー?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら話しかける。
「いえ、その…ごめんなさい…」
足早にその場を立ち去ろうとした雪乃の腕を、パーカー男の太い腕がしっかと掴んだ。
「!」
「待ちなって」
何ら表情を変えることなく、低い声で言う。
「そーそー、ゆっくりしてけって。ちょーっと付き合ってくれるだけでいいんだよ」
キャップの男もけたけた笑いながら近づいてくる。
「いやっ…!」
男たちの放つ圧迫感に耐え切れず、雪乃は悲鳴をあげた。
そのときニット帽の男が、腕をつかまれたままの雪乃にすっと近づく。
ぱしんという乾いた音が暗い公園に響いた。

471 :前スレ931 :05/02/16 00:12:44 ID:y+5xjefp
「黙れって」
ニット帽はにやついた顔を崩すこともなく、雪乃を張った手を泳がせた。
雪乃は頬に走った衝撃に、一瞬何が起こったかもわからないままへたりと座り込んでしまう。
「あ……」
立ち上がろうとしても膝に力が入らない。
胸の辺りに重たい痞えがあらわれたように、声も出なくなる。
「静かにしてりゃすぐ済むって」
誰かがそう言うと同時に、三人の男たちの顔に下卑た笑みが浮かんだ。
その時
「!!?」
ざざっと地を駆ける音が響き、次の瞬間ニット帽の男が吹き飛んだ。
「雪乃ちゃん!」
「…にい……さん」
ニット帽の背中に思い切りドロップキックを浴びせたのは和人だった。
「逃げるよ!」
突然のことに驚いた周りが膠着している間に、和人は雪乃の手をとり走り出そうとした。
しかし、
「…あっ」
雪乃は立ち上がることすら出来ずに崩れ落ちてしまう。膝が震えて動かないのだ。
「しまっ…」
和人がそう言いかけた時、パーカー男が巨体に似合わぬ俊敏な動きで走り寄るのが
一瞬目に入った。そして
「が…!」
パーカーは和人の鳩尾に岩のような右拳を打ち込んだ。

472 :前スレ921 :05/02/16 00:13:09 ID:gi7pBp3d
相変わらず素敵です(´∀`)
日常で汚れる心が浄化されるー(笑
明日からはハンカチ用意しときまつ。


あ、もし希望する方が居ましたら、プロローグぽいやつも貼ります。
て居ませんよね('A`)

473 :前スレ931 :05/02/16 00:15:36 ID:y+5xjefp
体を貫く凄まじい衝撃に和人は悶えて地に伏せる。
その横で、和人に蹴飛ばされたニット帽がゆっくりと立ち上がった。
和人をねめつけるその目は憎悪と怒りで真っ赤に染められている。そして
「このクソがぁっ!!」
怒号とともに、倒れている和人を狂ったように蹴り飛ばしはじめた。
「糞っ!クソっ!死ねや!死ね!死ね!」
顔を、腹を、背を、ニット帽のつま先がえぐるたび和人は声にならない悲痛なうめき声を漏らす。
「殺すなよーユージ君?あとがメンドーだからさ」
キャップの男がケータイを覗き込みながら言った。
「知ったこっちゃねえよボケ!!」
和人の頭を踏みつけにしながら怒号を飛ばすニット帽。
「こんな程度で死ぬか」
そう言うとパーカー男も、和人の顔面を蹴りつけた。
「んぐっ…」
和人の口の中はかみそりで切られたようにズタズタになっていた。
唇の端から血がつつとたれる。
視界に霞がかかり、もはや自分が何を見ているのかもわからなかった。
しかし、朧な視線の先にただひとつ確かなものをとらえる
座ったままがくがく震えている雪乃の姿だった。
和人はありったけの声――実際には蚊の鳴くような声だったが――で叫ぶ。
「……ゆき………の…ちゃ……逃げ…ろ…」
しかし雪乃は動けない。
彼女の心の奥底に繋がれた錆びた鎖は今なお、その体をも繋ぎ止めて離そうとはしなかったのだ。

474 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 00:17:58 ID:SN4wM2aa
よし!パーカーの男
こ ろ し に い く わ !
って思うくらいいいできですね

475 :前スレ931 :05/02/16 00:19:45 ID:y+5xjefp
「逃げろじゃねーっつのタコ」
和人のわき腹に蹴りを入れながらせせら笑うニット帽。
海老のように丸まってもがく和人の無惨な姿に少し気が晴れたのか、男達は次の標的――雪乃に目を向けた。
彼らの放つおぞましい視線に、雪乃は後ずさる。
しかしそんな態度もよけいに男達の嗜虐心を煽るだけだった。
始終にたにた笑っていたキャップの男が、懐から無機質な鉄の塊を取り出しながら
雪乃の近づき腰を落とした。
「怖い?」
顔に亀裂のような笑みを浮かべて、心底意地の悪い声で尋ねた。
手元の鉄の塊から刃を引き抜き、雪乃の前に晒す。
かざされたナイフの冷たく重たい輝きに、雪乃は硬直した。
「そーそー、大人しくしてるんだよ〜」
白刃の放つ妖しい輝きに射抜かれたかのように身動きできない雪乃のコートのボタンを
キャップ男はひとつずつ切り落としてゆく。
「あは」
狂った獣のような声がキャップの口から漏れた。と、
「や…め……ろぉ!」
突然和人は踏みつけていたニット帽の男の足を払いのける。
無様に転ぶニット帽を尻目に、和人はキャップ男に走りよって突き飛ばし雪乃の前に立ちふさがった。

476 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 00:20:50 ID:y+5xjefp
「この子には……触れさせない…!」
しかしすぐさま起き上がったニット帽は血走った目で和人を睨み付ける。
「ざけんなゴミがぁ!」
ニット帽は和人を横合いに思い切り殴りつけると、倒れた体に馬乗りになる。
そして懐からバタフライナイフを取り出すと逆手に構えて天にかざした。
「にいさん!」
「?!」
雪乃は震える身体を奮い立たせ、いきなりニット帽のナイフを持った腕に飛びかかった。
必死に腕にしがみつく雪乃。しかし
「邪魔だっ!」
男の勢いに振り解かれ、そのか細い体は壁に叩きつけられる。
「ぁ…ぅ…」
「雪乃!」
ニット帽は悲痛な声を上げる雪乃から視線を和人に戻す。
最早その血走った目に宿るのは唯ただ狂気のみだった。
「死ねや」
男は凍えるように冷たい声で言い放つと、唇をきゅうとつり上げた。


そのときだった。

宵闇を切り裂くような強く澄んだ風が、公園内を駆け抜けた。

「やめろ」

それは静かな声だった。

477 :前スレ931 :05/02/16 00:23:00 ID:y+5xjefp
その場にいた者全てが声のした方を振り返る。
夜で満たされた公園内に、闇を纏う2つのシルエットがあった。
不意に雲の切れ間から覗いた満月の光に照らされ、影の主が浮かび上がる。
ひとりは少女。栗毛のショートヘアをした美しい少女。
ひとりは青年。静かな、しかし激しい怒りをその目に宿す青年。

「やめろ」

青年はもう一度口を開いた。
一見女性とも思えるような優男の青年が発したその言葉はしかし、その場にいた
男達を沈黙させるに十分な威圧感を持っていた。

月光を浴びて立つ青年の姿を認めた和人は、よく見知ったその名を呼んだ。

「れ………ん…」


478 :前スレ931 :05/02/16 00:26:53 ID:y+5xjefp
何故かあがっちゃったっす…すいません… OTZ

一応ここまでにしときます
もし眠らずにいられたら今夜中に残り投下しますね
(さっさと自分の消化しないと神の邪魔になっちゃうんで…)

479 :前スレ921 :05/02/16 00:33:25 ID:gi7pBp3d
>>前スレ931氏

乙です!!

申し訳ない……SSの途中にカキコっちまった……orz
不覚……

480 :前スレ931 :05/02/16 00:42:51 ID:y+5xjefp
>>479
いえとんでもないっす
プロローグ楽しみに待ってますよう

>>474
あんまり気分いい展開じゃなくてすんません…

481 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 00:49:47 ID:xsc/15bI
>>480
ほんとに















ネ申すぎますな!!

482 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 01:11:16 ID:ww+h8xNV
もう素晴らしい作品ばかりで
つづきが気になって気になって寝れなくて寝不足気味ですよ……

483 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 03:09:17 ID:YKj41IZf
おれなんか確実に忘れられてるぜ! 神々、超お疲れ夏!
あー、寝ちゃったかな。 起きろ! K神! がんがりなさい!

484 :コンズ :05/02/16 03:37:24 ID:nsB2sVfc
遊星すゎん、海中時計すゎん、前スレ921すゎん、前スレ931すゎん、乙です!萌えさせていただきました!!続きを期待しております!!
前スレ921すゎん>プロローグお願いしまふ!

485 :前スレ931 :05/02/16 23:45:17 ID:bERi+v2a
よかった…とりあえず今回は海中さんの邪魔にならずにすみそう
昨日寝ちゃったもんで、今夜こそ続きいきますね

486 :前スレ931 :05/02/16 23:46:26 ID:bERi+v2a
最初に硬直を解いたのはキャップの男だった。
「なんだお前。刺されたいの?ねえ」
手に持ったナイフを蓮に向け、ゆっくり近づいてゆく。
蓮はその姿を見ると、隣の少女に向けて言った
「柚葉、あの子を」
その言葉に、柚葉と呼ばれた少女はうなずくと雪乃の元に走りよってその手をとった。
「キミ、大丈夫?立てるかい?」
突然の展開に唖然としていた雪乃はその言葉に我に返った。
「あ…はい…」
一生懸命立ち上がろうとする。
「ボクと一緒にちょっと離れてるんだよ、危ないからね」
「で、でも…!」
にいさんと鷹梨さんが…そう言い掛けた雪乃に
「大丈夫」
少女は胸を張って自信たっぷりに言った。
「蓮にいは強いんだから!あんなやつらに負けたりしないよ」

「なあ。ナメてんのかお前。なあ?」
挑発的な口調で蓮の顔先にナイフをかざすキャップの男。
その刃先が蓮の頬に触れようとした時
「!!!」
刹那の出来事だった。
蓮はナイフが握られた方の腕を一瞬の内にとって捻り、キャップの男を地面に叩き伏せた。
そして間接を極めたままその肩に足をかけ、もう一度ぐいと捻った。
ごきり
といやな音がした。
「ぃあアぁaァ亜ァぁァあァ!!!」
肩をはずされたその痛みに、キャップ男は薄汚い叫び声を上げて転がりまわる。
蓮はそんなキャップ男の首の後ろを目掛け、横蹴りを止めとばかりに打ち込んだ。
キャップはびくんと一瞬跳ねると、やがてぴくりとも動かなくなった。

487 :前スレ931 :05/02/16 23:48:11 ID:bERi+v2a
辺りは森閑と静まりかえった。
残された男たちは顔を見合わせる。
人間としての本能が、彼らに万に一つの勝ち目もないことを伝えていた。
だが悲しいかな。
彼らはそれに従えるほど冷静でも、そして賢明でもなかった。
「シッ!」
短く息を吐きながら地を蹴り一瞬で距離をつめたパーカーが、疾風の勢いの左ジャブを蓮の顔面に向かって繰り出す。
蓮はそれを頭の動きだけで避ける。耳元を通り過ぎた拳がびゅんと風切音を鳴らした。
次いでハンマーのような右ストレート。それは顔面を確実に捉えたかに見えた。
しかし
蓮はストレートを右の腕部で凪ぐように受け流しながら相手の右側へステップイン、
同時にガラ空きの脇腹に強烈な左フックをめり込ませた。
ぼごんという鈍く重たい音が響き、蓮の左拳には骨を叩き折った感触が鮮やかに残る。
「げぇ…ぁ…」
予期せぬ衝撃と痛み、そして肋骨を折られたという意識が、パーカーから戦意を完全に
そぎ落とした。
一瞬前まで軽快なフットワークを刻んでいた膝はがくりと折れ、地に着く。
だが蓮は容赦しなかった。
脇を抑えて呻くパーカーの顔面に思い切り膝蹴りを叩き込む。
奇妙にひんまがった鼻から血を噴き出しながら、パーカーは地面に崩れ落ち、
動かなくなった。
蓮の怒りに燃えた目は最後に残ったニット帽の男に向けられる。

488 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 23:49:27 ID:PPU/yGED
(゜Д゜)カッコイイ!!

489 :前スレ931 :05/02/16 23:50:18 ID:bERi+v2a
「ひっ」

今度こそ、ニット帽は慄いて悲鳴をあげた。
醜態を晒す男に、蓮は一歩一歩ゆっくりと近づいてゆく。
狼狽しながら辺りをせわしなく見回すニット帽。その視界の隅に二人の少女が眼に入った。
雪乃と少女は男の目線にぎゅっと身を引きしめる。
「!しまっ」
蓮がニット帽の、そのあまりにも愚劣な意図に気付いたときは遅かった。
ニット帽はにぃぃっと下卑た笑みを浮かべると、彼女らに襲い掛からんと走り出す。
そのとき
「!?」
急に何かに足をとられ、無様に地を舐めた。自分の足元に目を移すと、自分が先ほどまで蹴り続けていた男の右手が自分の左足を万力のように締め上げているのが見えた。
「テメェっ!は、離せコラぁ!」
ニット帽は和人の頭を片足で何度も蹴り飛ばすが、その手は決して離れようとはしない。
そして和人が右足も掴んでゆっくりと立ち上がったとき、ニット帽は自分がこれから何をされるのかを正確に理解した。
「や…やめろっ」
ひりついた声で哀願するが和人の耳には届かない。
和人はすうと大きく息を吸うと
「うおぉぉおぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ニット帽の両足を抱え込んだまま、独楽のように回転を始めた。
独楽の先端から悲鳴が上がるが、回る勢いは止まらない。
そしてどごんっという激しい音と共に独楽が電灯に叩きつけられると、
潰れた虫のように地面に落ちたニット帽は二、三度痙攣し、やがて沈黙した。
「ぷはぁっ…はぁ…」
肩で息をしながら地面に倒れこんだ和人に蓮は歩み寄って声をかけた。
「おみごと」
「どーも…」
にやりと笑いながら返答すると、和人は差し伸べられた蓮の手に甘えた。

490 :前スレ931 :05/02/16 23:58:24 ID:bERi+v2a
_________________________

「…悪いね、蓮。また肩借りちまって…」
「まったくだ。次からは貸し賃取るから覚悟しとけ?」
「世知辛いねぇ…」
帰りの夜道で軽口を叩き合う青年たちを、少し前を歩いていた二人の少女は振り返った。
「いーお兄さんだね♪」
傷だらけの和人の様子をみた柚葉は、俯く雪乃の顔を覗き込むようにして言った。
「…はい」
悲しそうな、うれしそうな、様々な感情が入り混じった顔で雪乃は小さく答えた。
「雪乃ちゃん」
突然の和人の呼ぶ声に、雪乃はふっと振り向いた。
「雪乃ちゃんは大丈夫だったかい?」
「私は平気です。それよりにいさんの方が…」
「俺はだいじょぶだって。丈夫いからねぇ俺は」
「丈夫い、ねぇ…」
やせ我慢をする和人の様子に蓮はくっくと笑いをこらえた。
「何が可笑しいんだよ蓮。てか何でお前、あの時あんなトコにいたわけ?」
「いや、柚葉にせがまれてさ。食事がてら映画見に瑠々伊駅来てたんだよ。
それでついでに公園に寄ったら…ってわけ」
「ついでに公園に?何でまた?」
「ん?あー…その…」
言葉に詰まる蓮に変わって柚葉が代わりに話を進めた。
「あの公園はね、ボクと蓮にいが結ばれた思い出の場所なんだよ♪」
「むっ…結ば…れ…?」
聞いていた雪乃の顔が真っ赤になる。
「な、なに口走ってんだ柚葉!いや違うぞ和人、その…」
「おやおやまあまあ。やっぱりそーゆーことだったんですね?蓮君。参ったねぇこりゃ」
「いや勝手に参るなそこコラ!」
月夜の晩に四人の嬌声が響いた。

491 :前スレ931 :05/02/17 00:02:05 ID:KlB7x/MG
夜空を覆っていた雲は晴れ、満月が辺りを照らしている。
結晶をちりばめたかの様な星空を見上げる蓮に、和人は言った。
「…ありがとな、今日は」
「なに。大したことじゃない」
蓮は顔を上げたまま答えた。
「あの時」
和人は冗談めかして言う。
「俺にはお前がジークフリートに見えたよ、蓮」
「バカ言え。俺は舞台をかき乱しただけだよ」
「デウスエクスマキナってか?気取っちゃってまあ…」
「ブリュンヒルトを守ったのはお前さんだよ」
蓮の科白に和人は、少し前を柚葉と並んで歩く雪乃を見つめる。
そして天を仰ぐと、淡く輝く満月に手をかざしながら呟いた。
「我ながら頼りない英雄だよ……まったく」


492 :前スレ931 :05/02/17 00:07:59 ID:KlB7x/MG
とりあえず今はここまでっす

493 :雨音は紫音の調べ ◆cXtmHcvU.. :05/02/17 00:12:38 ID:kwDjySo7
リアルタイムで!
初めてリアルタイムで読みました!!
ありがとうございますっ!

494 :前スレ921 :05/02/17 00:27:15 ID:1fTUDrHw
二日連続のリアルタイム(・∀・)
乙です〜。
ニヤニヤしちゃう('A`)


俺もそろそろ貼りますね。
とりあえず昨日の続きをあと2、3日くらいで貼ってその後プロローグ、エピローグ貼りますね。

495 :前スレ921 :05/02/17 00:28:53 ID:1fTUDrHw
夕飯の仕度をしながら夢亜が降りてくるのを待つ。
仕度と言っても、既に夕飯は作り終えてるから箸や皿を運ぶだけだ。

そうこうしてる内に夢亜が降りて来た。
整った顔立ちに透き通るような白い肌、身長は150程度、天然でマイペースなところがある。かなり華奢な体格だ。
ちなみに今日の服装は黒のパーカー、赤と黒のチェックの短めのスカートにニーソックスだ。

「あれー?お父さんはぁ?」

「俺の記憶が正しければ昨日から出張のはずだが。」

「そうだったね。忘れてたよ」
リビングの火燵に収まってまだ少し眠そうに会話を続ける。

496 :前スレ921 :05/02/17 00:31:25 ID:1fTUDrHw
「自分の父親の事を忘れる妹を持ってなんて兄さん悲しいぞ。小さいのは体だけにしてくれ」

「なっ…私の体は関係ないでしょっ!!そんなコトより早くご飯!!」
そんなコトとは夢亜の体の事なのか父親の事なのか、問いただしたいところだ……
今日のところは火燵をバンバン叩いている育ち盛りの為に夕飯にしてやろう。

「それにしても寝起きですぐご飯食べられるのか?今日はなんとカレーだ!」

「もっちろん♪カレーは夢亜ちゃんの大好物だよぉ♥」

他愛のない会話をしながら兄妹二人で夕飯を食べた。

497 :前スレ921 :05/02/17 00:32:59 ID:1fTUDrHw
「いやぁ〜、やっぱりお兄ちゃんの作ったカレーは最高だよ〜♪満腹満腹♥」

「そう言って貰えると作った甲斐があるってもんだ。じゃ、片付けは頼んだぞ。」

「はぁ〜い♪お兄ちゃんはテキトーに寛いでて〜」
夕飯も食べ終わり、片付けは夢亜の仕事だ。

普通は逆なのだろうが、夢亜は不器用だ。
夢亜もあまり自分からは料理はしようとしない。
そのかわりこうして片付けや掃除は進んでやってくれる。夢亜は夢亜なりに気にしているんだろう。

498 :前スレ921 :05/02/17 00:35:17 ID:1fTUDrHw
「夢亜のおかげで食後に楽ができて俺は幸せだよ。じゃあ俺はゆっくりテレビでも見させていただくよ。」
と、さりげなくフォローをしつつテレビをつけた。
夢亜は台所で洗い物をしてるのでもちろん大きめの声で話した。
が、返事が来なかった。まぁ聞こえなかったのなら聞こえなかったでいいだろう。
俺は火燵に潜り込み黙ってテレビを見る事にした。

テレビでは調度夜景の特番がやっていた。星が綺麗なところを紹介する特番らしい。
俺は夜空もそうだが昔から空を見るのは好きな方だ。

499 :前スレ921 :05/02/17 00:36:48 ID:1fTUDrHw
火燵の暖かさもあってか、ぼーっとしながら暫くテレビを眺めていると夢亜が片付けが終わったのだろうか、台所の方が少し騒がしくなった。

「はーい!食後のおっ茶でっすよ〜♪」

「おぉ、サンキュー。気が効くなぁ」

「食後にゆっくり出来て、お茶まで出てきて、可愛い妹を持って幸せでしょ〜♥」
片付けが終わった夢亜が二人分のお茶を持って俺の隣に割り込んできた。
随分とご機嫌なようだ。
さっきの言葉はしっかり聞こえていたらしい。
こんな事で機嫌が良くなるなんて可愛い妹を持ったものだ。

500 :前スレ921 :05/02/17 00:38:44 ID:1fTUDrHw
だが俺はそんな事を素直に言うような出来た人間になった覚えはない。

「狭い。」

「そんな事ないよ!私痩せてるからねー♪それに、ここに座った方がテレビが見やすいんだよ♪」
夢亜は俺がからかおうとしたのを上手く返したと思い、得意な顔になってみせた。
甘い。

「そうだなー。夢亜は痩せてるもんなぁー。胸とか」
夢亜の顔が一気に赤くなる。漫画ならボッ!!と擬音が出てるだろう。

「な…べ、別に大きければ良いってもんでもないもん!!」

「じゃあ小さい方が良いのか?」

「う……それは……やっぱり、大きい方が良いのかなぁ……?」

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0ch BBS 2004-10-30