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[第三弾]妹に言われたいセリフ

288 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:39 ID:???
  「ただいま」
俺は玄関の重いドアを開けた。靴を乱雑に脱ぎ捨て、どかどかと上がる。
コンビニ袋をぶら下げてリビングに入るが、そこに俺以外の人の姿は無かった。
……いや、誰もいないことは分かっていた。俺は一人暮らしをしているのだから。
テーブルの上にジュースやら何やら入った袋を置き、テレビのスイッチを入れた。
明るいバラエティ番組が流れる。
  「アイツ、寂しくて泣いてなんかいないだろうな」
無表情でぽつりと呟いた。


 俺には三歳年下の妹がいる。今は離れ、家族と一緒に暮らしている。
まだ俺が家族の元にいたころ、深夜によく「眠れないよぅ……」とか「怖いよぅ……」とか
涙声で部屋を訪れてきたものだった。
他にも、料理が下手なくせに「任せなさ〜い♪」とか見栄を張って、キテレツな料理を
創り出したこともあった。ずいぶん世話好きな奴だった。
そして今、俺はアイツがいてくれたことの有難さを、身をもって痛感していると言うわけだ。
本音を言うと寂しい。やっぱり誰かと一緒にいたいという気持ちはある。
しかし、何故アイツが頭に中に出てくるのか、俺にはよく分からなかった。


289 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:39 ID:???
 「そろそろ夕飯でも作るか……」
テレビから顔を上げ、壁時計に目を移す。時計の針はもう六時をさしていた。
やれやれと腰を上げると、ケータイの着メロが鳴り響いた。
誰だ?
 「もしもし」
 「あ、お兄ちゃん!?私〜!」
懐かしい声。
 「おう、久しぶりじゃないか。どうした?」
 「えへへ、今日はね、お兄ちゃんに夕食を作ってあげようと思って♪」
はあ?
 「何言ってんだお前。そこからウチまで何時間かかると―――」
 「思ってんだ?」
その声は電話越しでは無かった。
 「う、うわああぁぁぁぁぁっ!」
驚いて振り向くと、そこには懐かしい姿が立っていた。
妹だ。
 「あはははは♪かっこ悪ぅ、お兄ちゃん」
 「な、なんでお前がここにっ!」
 「あ〜、何よ?たまに遊びに来ちゃいけないって言うの?」
 「いや、そういう訳じゃ無いけど……」
 「だったらいいじゃない♪ほら、夕食作ってあげるから!」
すっかりペースを乱され、ソファに座らされる。その間に妹はキッチンへ向かう。
……ここは俺の家だぞ。


290 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:42 ID:???
 「で、なんでここにいるんだ?」
 「兄妹愛に理由なんて要らないよ、お兄ちゃん♪」
 「適当に流すな」
 「……ちょっと家出」
 「家出?」
 「うん……だから、少しだけここにいさせて。お願い……」
背中越しでも充分に悲しみが伝わってきた。やれやれ。
 「少しだけだぞ。それより、何か手伝うよ」
立ち上がり、妹の隣に並ぶ。小声で何か聞こえたような気がしたが、あえて問わないでおこう。
しばらくして料理が出来上がった。出来栄えは……それなり。
テーブルを挟んで向かい合う。自然と会話が弾む。こういうのは何ヶ月ぶりだろう。
 「どう?お兄ちゃん」
 「ん〜……まあ、前に比べれば進歩したかな」
 「やった〜♪あのね、あれから一生懸命努力したんだよ!」
 「分かった!分かったから口に物を入れてしゃべるな!」
 「あ……ごめんなさい」
 「それで、お前が親とケンカなんて珍しいな」
 「悩み多き乙女なのよ」
 「どこが乙女だ。お前はどっちかと言うと魔女」
 「ひ、ひどい!繊細な女の子のハートというものを……!」
 「警棒持った奴に襲われるなよ〜」
 「なぁに、それ?」
 「こっちの話」
こうして夕食は楽しい時間が過ぎていった。


291 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:43 ID:???
 俺は食器を拭きながら、隣で洗っている妹に言った。
 「一応、家には連絡しとくぞ?」
 「うん……」
神妙な面持ちで返事をする。どうやら本気で帰りたくないらしい。
俺は食器を拭く手を止め、そっと頭を撫でてやった。
ボッ、と赤くなる。
 「なっ……!」
 「我慢するなよ」
なるべく優しい口調で言う。
 「俺も寂しかったんだから、さ」
 「え……てっきり迷惑かと思ってた……」
 「そう見えたか?」
 「うん……」
 「赤の他人ならともかく、俺の前では無理するな」
言いながら優しく撫でてやる。すると、頬を何か伝うのが見えた。
ギュッと抱きしめてやる。妹は泡だった手のまま、抱き返してきた。
 「ありがとう……」
涙声はそのまま嗚咽に変わった。


292 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:45 ID:???
 夜も更けて。
俺はベッドの上で寝転んでいた。風呂場の方から鼻歌が聞こえる。
のん気なものだ。まだ体調が優れてないくせに。
しばらくして脱衣所から出てきた。ふと視線を向けてみる。
相変わらず出てないところは出ていない。俺は少しだけ悲しくなって目をそらす。
 「なによ?」
 「別に」
 「あ〜!まさか、『小さいな』とか思ってたんでしょ!?」
図星。
 「そ、そんな訳無いだろ!誰がお前なんかの……!」
 「お前なんかの……なぁに?」
 「………」
 「私の何なのよ……?」
 「………胸」
拳骨が飛んだ。
 「痛ってぇ……」
俺は頭をおさえてうずくまる。すると、頭上から予想外のものが降ってきた。
妹は泣いていた。意外だった。
 「私だって……もう少し経てば立派になるもん!なのに……」
 「あああ、悪かった!悪かったよ……」
 「うう……ひっく」
 「ほら、昔お前が好きだった子守唄を歌ってやるからさ」
 「ほ、本当?」
現金な奴だ。
 「ああ。好きだったろ?この歌」
そう言って俺は歌い始める。それを制する。
 「ま、ままま待って!」
どうしたのかと眺めていると、急いで髪を乾かし、歯を磨き、布団にもぐった。
 「いいよ」
 「………」
……ダメだこいつは。


293 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:46 ID:???
 カーテンの隙間から綺麗な夜空が見える。
俺は妹と二人、ベッドに並んで横になっていた。一人用なので密着している。
ふいに、妹が呟いた。
 「ありがとう……」
 「ん?」
 「ありがとう……。私、こんなに優しくしてくれるお兄ちゃんがいて、嬉しいよ」
急に言われて、俺は動揺した。強気な妹からは今まで一度も聞いたことが無かった。
 「どうした?なんか変だぞ?」
 「変……かな。やっぱり」
 「?」
 「でもね、私は後悔してないよ。自慢できるお兄ちゃんがいて……」
 「……?」
 「本当にありがとう……お兄ちゃん……」
俺は顔を向ける。月明かりに照らされ、垂れる涙が見えた。
 「大好きだよ……お兄ちゃん……!」
ようやく分かった。
俺が寂しいとき、コイツのことが頭に浮かんだ理由。
 「ああ、俺もだ。……大好きだ」
月と星星に祝福され、俺たちは口づけた。
甘い、甘い香りがした。柔らかな感触が伝わってくる。
いつしか俺は眠っていた。


294 :名無しくん、、、好きです。。。 :04/03/29 19:47 ID:???
 朝。
俺はケータイの音で目を覚ました。寝癖のついた頭のまま電話に出る。
 「ふわい」
 「……おはよう」
母さんからだった。
 「どうした?……ああ、コイツのことだろ?」
俺は言いながら隣に視線を落とす。しかし、そこに妹の姿は無かった。
あれ?と思っていると、向こうから耳を疑う言葉が聞こえてきた。
 「昨夜……亡くなったの」
 「え?」
え?
亡くなった?
 「昨日の朝から急に具合が悪くなってね……それで、その日の……夜に……」
待ってくれ。
 「ちょ、待てよ!亡くなったって……誰が!?」
本当は聞きたくなかった。
ずっと、昨夜のまどろみに浸っていたかった。
無情だった。


 妹は死んだ。
もともと病気がちで、よく風邪をひいては両親を困らせていた。
俺も何度か看病をしたことがある。ものすごく感謝されてたっけ。
話によると、妹は昨日の朝、急に体調不良を訴えたそうだ。
そのまま運ばれた病院で昏睡状態に陥った。
その間に母親は俺に連絡をしようとしたが、何故か電話が繋がらなかったそうだ。
そして……昨夜。
亡くなった。
原因は不明。知りたくもなかった。
ただ、ひとつだけ言える。昨日、ここに遊びに来た妹……。
あれは、間違いなく俺の妹だということは……。


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0ch BBS 2004-10-30