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[第二弾]妹に言われたいセリフ
- 831 :751 Part1 :03/02/15 14:45 ID:???
- >>751-752、>>763-766ですが、一日遅れのバレンタインSSつくってみました。
暇つぶしにどーぞ。
「あーあ……どうしよっかな、これ……」
ベッドの上に寝転がりながら、少女は大きな溜め息を付いた。
時計を見ると、8時を回っていた。とっくに陽は落ち、静けさが街を
支配し始めていた。
少女の手には、一つの箱が握られている。ピンク色のリボンが結ばれ、
綺麗なラッピングの施された可愛らしい箱が。
その中に入っているのは、少女手作りのチョコレートだった。
少女は去年まで、店で買ったチョコレートを兄に手渡していた。しか
し今年は、自分の手でチョコを作って、兄に渡そうとしたのだ。そのた
め、料理学校に通う同級生に頼みこみ、数日前からチョコの作り方を教
わってきたのだ。さすがに「兄に渡す」とは言いにくいから、「近所の
幼なじみに渡す」とごまかしてきたが。
少女は何度も失敗しながら、一生懸命にチョコを作り続けた。そして
数時間後、やっと納得のいくチョコを作り上げた少女は、友人に礼を言
うのも忘れて、自分の家へと急いだ。一刻も早く、大好きな兄にチョコ
を渡したくて、全速力で家路を走ったのだ。
ところが……。
- 832 :751 Part2 :03/02/15 14:48 ID:???
- 『お兄ちゃん!』
空が赤らみ始めた夕方、少女はリビングへ続くドアを開けた。
ソファの上に、少女の兄である少年が座っていた。少女はすぐにチョコ
を渡そうとして、カバンの中に手を入れた。
……だが。ふと、テーブルの上に目を移した少女は、ハッと息をのんだ。
テーブルの上には、チョコが置かれていた。それも一つや二つではない。
テーブルを埋め尽くすほどの量のチョコが、山になって置かれていたのだ。
『お、お兄ちゃん……どうしたの、これ?』
うわずる声を必死で抑えながら、少女はそう尋ねた。
『ああ、学校でもらったんだよ。ほら、今日はバレンタインデーだろ? そ
のチョコレートだ』
『こんなにいっぱい……? みんな学校で貰ったチョコなの?』
『まあな。持って帰るの、大変だったんだぜ。重いしかさばるし、おかげで
腕の筋肉が張っちまったよ』
『そ、そうか……お兄ちゃん、サッカー部のキャプテンだもんね。バレンタ
インにチョコをもらうのは、当然だよね……』
女生徒の間で、兄が絶大な人気を誇っているという話は、何度か聞いたこ
とがある。同級生から「お兄さん、カッコいいよねー!」「ねえ、今度紹介
してよ!」と言われたことも、何度もあった。
しかし少女は、今ひとつ実感を持てなかった。あまりに身近すぎて、客観
的な視点を持てなかったのかもしれない。あるいは、他の女子に取られるの
が嫌で、兄の人気を認めたくなかったのかもしれない。
だが、こうして大量のチョコを見せつけられると、兄の人気の程を認めざ
るを得ない。多くは市販のチョコにラップをかけただけのものだが、中には
手作りの本命チョコと思しきものまで含まれている。中には、ラブレターを
挟んだものまであった。
『ところで、どうしたんだ? 何か用でもあるのか?』
『え? い、いや……何でもないよ! ごめん、お邪魔しました!』
少女はそう言うと、リビングから走り出ていった。
その様子を見ていた少年は、軽く首を傾げ、呟いた。
『なんだあいつ……変なヤツだな』
- 833 :751 Part3 :03/02/15 14:52 ID:???
- 「結局、渡せなかったな……チョコレート」
少女は自作のチョコを眺めながら、何度目かの溜め息を吐いた。
格好良くて、優しくて、誰からも好かれる兄。少女は昔から、兄だけを見
つめていた。他の男子に浮気することなく、ただずっと、兄だけを想い続け
ていた。
少女は心の中で、自分は世界で最も兄のことを愛している、と思い込んで
いた。それだけに、さっき見た大量のチョコは、ショッキングだった。少女
の他にも、兄のことを好きでいる女の子はいっぱいいる、という現実を見せ
つけられたからだ。
兄はきっと、自分のことを「ただの妹」としか見ていない。だから自分達
は、永遠に恋人同士にはなれない。どんなに自分が想い続けても、兄は振り
向いてくれない。自分を愛してくれない……。
少女の頬を、一筋の涙が伝った。天井を見つめる虚ろな目から、涙が玉に
なって流れ出た。
と、そのとき。
「おい、入っていいか?」
トントンと扉をノックする音とともに、少年の声が聞こえてきた。
「いるんだろ? ちょっと入らせてもらうぜ」
「あっ……ま、待って、お兄ちゃん!」
少女は手に持っていたチョコを、とっさにベッドの中に隠した。その直後、
少年はドアを開いて部屋に入ってきた。
「ん……? どうしたんだ? なんか目が赤いぞ」
「え? あ、ちょっと居眠りしてたの。お兄ちゃんの声で起きたけどね」
とっさに思いついた嘘を言いながら、少女は作り笑いを浮かべた。「お兄
ちゃんにチョコを渡せなくて、悲しくて泣いてたの」なんて言えるわけがな
い……。
「それで、お兄ちゃん。あたしに何か用?」
「ああ、用ってほどのことじゃないけど……」
そう言うと少年は、頬を少し赤らめ、視線を泳がせた。その仕草に、少女
は「?」という顔になり、少年の顔を覗き込んだ。
- 834 :751 Part4 :03/02/15 14:57 ID:???
- 「? どうしたの、お兄ちゃん?」
「いや、その……今年は貰えないのかな、って思ってさ……」
「貰えないって、何が?」
「だから、その……チョコレートだよ。バレンタインの」
「えっ……?」
少女はハッと息をのみ、口に両手を当てた。
「去年も一昨年も、チョコくれただろ? 今年はどうして貰えないのか、気
になってたんだよ。ちゃんと用意してあるんだろ? なんでくれないんだよ?」
「だって……お兄ちゃん、いっぱい貰ってきたじゃないの。あんなに沢山の
チョコを見たら、渡しにくくて……それで……」
「なんだ。お前、ヤキモチ焼いてたのか?」
少年は目を細め、フフッと笑った。
「安心しろよ。あんなの、みんな義理だ。気にすることねえよ」
「義理? そんなことないよ。だって、どう見たって本命チョコばかりだっ
たじゃない。ラブレターが添えられてるのもあったし……」
「それは渡す側の気持ちだろ? オレはあいつらのことなんか、何とも思っ
ちゃいないよ。オレにとって、学校で貰うチョコなんか、みんな義理チョコ
だ。オレにとっての本命チョコは……」
少年は少女の両肩に手を置き、顔を真っ直ぐ見つめた。
「オレにとっての本命は……お前からのチョコだけだよ」
「えっ……!?」
「だから、早くチョコをくれよ。お前からのチョコがなかったら、落ち着か
ないんだよ。だから、頼むよ。な?」
「えっ……あっ……」
- 835 :751 Part5 :03/02/15 14:58 ID:???
- 少女は少年の腕を振りきり、後ずさった。
少女の目元に、熱いものが走る。それは涙となって溢れだし、少女の頬を
濡らした。
「お、おい、どうした? オレ、何か悪いこと言ったか?」
「……違うの」
「え?」
「あたし、嬉しいの。やっとお兄ちゃんにチョコを渡せるようになって、す
っごく嬉しいの。なのに……涙が出てくるのよ。どうしてかな……おかしい
よね……」
少女は必死になって、目元を何度も拭った。なのに、後から後から涙が溢
れてくる。嬉しくて笑いたいはずなのに、どんどん涙が流れ出てくる……。
少女は今まで、兄への想いは「片想い」でしかないと思っていた。兄は自
分のことを、ただの妹としか見ていない。血が繋がっている以上、恋愛の対
象にはなれない……そう思っていた。しかし、それは間違いだった。本当は
兄も、自分のことを好きでいてくれたのだ。妹としてじゃなく、一人の女性
として……。そのう嬉しさに、少女は溢れる涙を抑えることができなかった。
数分経って、ようやく涙が収まると、少女はベッドの下に隠していたチョ
コを取り出し、少年に差し出した。
「お兄ちゃん。これ、受け取ってくれるね?」
「もちろん。お、今年は手作りか?」
「うん。友達に作り方を教えてもらったの。今までお料理なんかしたことな
かったから、ちょっと下手だったかもしれないけど……」
「気にするなよ。お前がオレのために、一生懸命つくってくれたんだろ?
なら、これはオレにとって、世界一のチョコレートだよ」
「……ありがとう、お兄ちゃん」
少年と少女は、互いの手を握りあい、無言で見つめ合った。
兄の手の温かさを感じながら、少女は静かに目を閉ざし、心の中で呟いた。
神様、ありがとう。お兄ちゃんにチョコを渡せて、良かったです。
どうかこの幸せが、いつまでも続きますように……。
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0ch BBS 2004-10-30