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[第四弾]妹に言われたいセリフ
- 598 :前スレ921 :05/02/19 07:53:16 ID:fwguD8yi
- ドアを開けた瞬間、笑顔で広司に手を振っていた夢亜の表情が凍り付いた。
「どうした?」
この質問の返答はわかっているが一応聞いておく。社交事例のようなものだ。
「……さ……さぶぅい……」
予想以上の反応。ついさっきまで笑顔で手を振っていたのに今はその細い両腕を自分を抱き締めるようにして震えている。
俺達をカウンターから見送っていた広司も密に吹き出していた。
こういう事をされるとツッコミたくなってしまう……折角テレビでの件を忘れたようだしここで夢亜の機嫌を損ねるような事はしない方が良いだろう。
- 599 :前921 :05/02/19 07:55:21 ID:fwguD8yi
- ともあれ夢亜と星一は家へと歩き始めた。
「夢亜、寒い中悪いが、寄り道してもいいか?」
「お兄ちゃん……私を殺す気なの……?」
夢亜から早く帰りたい・という雰囲気が漂ってくる。
自分の体を両腕で抱え込み、細い体はぶるぶると震えている。
だが、今ここで夢亜を帰らせる訳には行かない。
星一は着ているダッフルコートを脱ぎ、夢亜に掛けてやる。
「っ!?……え?」
「それ貸してやるから少し寄り道に付き合ってくれ。」
「でも、それじゃお兄ちゃんが寒いよ!!」
「俺はいいから。付き合ってくれるよな?」
- 600 :前スレ921 :05/02/19 07:56:57 ID:fwguD8yi
- 「う…うん。ありがとう。」
夢亜は訳のわからない。という顔をしている。
「サンキュー。この寄り道は夢亜と一緒じゃなきゃ意味がないからな。」
「そ、そうなの……?ねぇ、どこ行くの?」
夢亜は相変わらずきょとんとしている。俺の普段とは違う態度に戸惑っているのだろう。
「……着けばわかる。」
そう言って俺は家とは違う方向へ歩き始めた。
―――10分程度して星一は歩みを止めた。夢亜もワンテンポ遅れて、星一の横で止まる。
「着いた。」
「着いたって……ここ、海だよ?」
- 601 :前スレ921 :05/02/19 07:58:18 ID:fwguD8yi
- そう。ここは海だ。
家からさほど離れていないが、この辺りは民家も無く、普段から人通りも少ない静かな所だ。
調度風も止み、穏やかな波の音だけが辺りに響く……
「上だ。」
「上??……あっ」
兄に促されて見上げて空は、雲一つない夜空に無数の星とほんの少し掛けた穏やかな月が佇んでいた。
「うわぁ〜〜〜……」
家から見る夜空とは比べものにならない。
うっすらと軟らかな蒼みを帯びた銀の月。
夜空に宝石をちりばめたような星……いや、ちりばめたというより敷き詰めたと言った方が正しいかもしれない。
そして穏やかな波の音。
- 602 :前スレ921 :05/02/19 08:00:17 ID:fwguD8yi
- 夢亜は思わず感嘆の声を漏らし、見とれてしまった。
「まぁ…アレだ…テレビを見れなかったお詫び……だな。どうだ?」
「凄い!!こんなに綺麗な星空初めてだよ!!」
我を取り戻した夢亜は感激の言葉と共に兄の方へと向き直る。
と、兄がいつもと違う事に気付いた。
普段は何でも冷静にこなしてしまう兄が、もどかしそうな、歯痒そうな顔をしている。
普段しなれない事をして、照れているのだろう。
長年同じ家で暮らしている夢亜でも初めて見る。
「そっか。それは良かった。ここは俺のお気に入りの場所だからな。」
- 603 :前スレ921 :05/02/19 08:02:50 ID:fwguD8yi
- 星空を見上げた兄の口調はとても穏やかなものだった。
こんな兄の姿は初めてだった。いつもの冷静な顔でもふざけた顔でも無く、少し子供っぽさの漂うぎこちないが軟らかな照れ笑い。
「お兄ちゃんのお気に入りの場所なのに、私に教えちゃっていいの?」
余り自分の事を話さない兄の秘密を知ってしまったみたいで、少し不安になる……
「言ったろ?夢亜と一緒じゃなきゃ意味がない・って。夢亜だから教えたんだよ……」
そう言った兄の顔からはぎこちなさはもうなく、穏やかな優しい顔で私を見ていた。
- 604 :前スレ921 :05/02/19 08:04:19 ID:fwguD8yi
- いつも私の前に居た兄。追い掛けても追い掛けてもいつも私の前にいた兄が今、私を見ている。これが兄ではなく、本当の星一の姿……
そう思ってしまったら急に恥ずかしくなってきた。
「そ、そんな……あ…ありがとう……」
それだけ言って兄から顔を反らす。
冬なのに顔が熱い。頭がぼーっとしてしまって立っているのも辛い……
「……折角だからそこに座って広司がくれたミルクティーでも飲んでくか。」
そう言いながらスタスタと防波堤の方へと歩いて行く。
「お兄ちゃん!!」
- 605 :前スレ921 :05/02/19 08:06:45 ID:fwguD8yi
- 夢亜は防波堤へ向かう兄へ向かって走り出した。
そして兄が振り向く間もなく背中に飛び付く。
「だぁーい好きっっっ♥」
言葉にすればたった一言……それでもぼーっとする頭の中で考えた私の精一杯の気持ち……
「俺もだ……夢亜…大好きだよ」
聞き逃してしまいそうな程、穏やかな波の音よりも小さな声、それでも私にはしっかりと聞こえた―――ずっと聞きたかった。たった一言―――
夢亜は力一杯兄を抱き締める。離れないように……精一杯の笑顔の瞳から流れる涙が見えないように……
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0ch BBS 2004-10-30