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[第四弾]妹に言われたいセリフ
- 506 :雨音は紫音の調べ ◆cXtmHcvU.. :05/02/17 00:54:07 ID:kwDjySo7
- またしてもリアルタイムで!
今日の僕はものすごく付いてる!!
ありがとうございます!
- 507 :前スレ931 :05/02/17 02:19:54 ID:KlB7x/MG
- 最後です
____________________________
「よいしょ…痛っ…てて」
蓮たちと別れ、家に帰った和人はソファににぐったりともたれた。
「…ちょっと沁みますけど、我慢してくださいね」
雪乃は擦り傷だらけの和人の顔をそっとぬぐう。
「ふう。まったくあいつら、無茶苦茶やんなぁ」
ぼやくように言う和人の傍で、雪乃が目を伏せた。
「…ごめんなさい………わたしの…せいで…」
途切れ途切れに言う彼女を見て、和人は呟く。
「雪乃ちゃんのせいじゃない。それに…」
目を伏せた。
「俺は…何もしてないよ。出来なかった」
「そんなことないです。にいさんは私を…」
「俺は無力なんだよ」
雪乃の言葉をさえぎり、和人は自嘲した。
「結局雪乃ちゃんを守れなかった。つらい思いさせて…はは、何が英雄だ
御笑い種もいいとこだよ」
「…」
- 508 :前スレ931 :05/02/17 02:25:07 ID:KlB7x/MG
- 「優だって………あの子は…俺が殺したも同然だよ。あの子の苦しみも寂しさも辛さも
わかってたのに…俺が守ってやらなきゃいけなかったのに…俺は逃げたんだ。
あの時…何もしなかった自分に後悔してたはずなのに…今度は雪乃ちゃんまで傷付けて、
守ってやることも出来なくて……俺は…」
そこまでいいかけて
不意に唇に走った暖かく柔らかな感触は、和人から言葉を奪った。
それが雪乃からのキスだと気付くのには少し時間が必要だった。
「…!」
そして永遠とも思えた一瞬の後
その唇は、名残惜しそうにゆっくりと離れた。
「ごめんなさい…」
雪乃は消え入りそうな声で言った。
- 509 :前スレ931 :05/02/17 02:27:24 ID:KlB7x/MG
- 「私…ずっと不安だった……私は優さんの代わりなんじゃないかって……でも…それでもよかったんです…
…にいさんはずっと私を守ってきてくれたから…」
ずっと内に秘めていた想いが、言葉が、堰を切ったように溢れ出る。
「だけど…もう我慢なんてできない。誰よりにいさんの近くにいたい……にいさんの
傷を癒してあげられるようになりたい…にいさんが私にしてくれたみたいに……
…だから」
顔を上げ、涙をいっぱいにためた鳶色の瞳で、雪乃は和人を見つめた。
「…ずっと…傍にいてください……」
瞑った目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
和人はその真摯な瞳を受け止めていたが、ふいにふっと目線を下げた。
「俺は…」
下を向いたまま呟く。
「ずっといろんなものから逃げ続けて……それでいろんな人を傷つけて……だから俺はそれをずっと背負って生きなきゃいけないんだと思う……でも」
すうと大きく息を吸う
「………それでも…もし許されるなら」
「…あ」
硝子細工のように華奢な雪乃の身体を、和人はそっと引き寄せ抱きしめる。
「ずっとこうしていたい」
「にい…さん……!」
「俺が雪乃を守るよ……もう…二度と後悔しないために…」
「………はい…………」
拭えども拭えども溢れ出る涙にぬれた雪乃の頬を、和人が指でそっとなぞると
二人は再び口づけを交わした。
そしていつまでもいつまでも
夜が明けるまで抱きしめあっていた。
- 510 :前スレ931 :05/02/17 02:31:27 ID:KlB7x/MG
- …………………………………………………………………………………………………………
その日見た夢を 俺は決して忘れない
始まりは いつものような白い闇
しかし
闇は まるでそれが幻であったかの様に消え失せる
そして瞳に映し出された世界は いのちで溢れていた
ぬけるような青空に浮かぶ雲はどこまでも高く
地をなぜる風は優しく穏やかで
世の果てまで続く紺碧の草原を太陽は鮮やかに、暖かく照らしていた
そんな世界の真中に
彼女は──まるで一輪の花の様に──美しく咲いていた
「優」
- 511 :前スレ931 :05/02/17 02:32:32 ID:KlB7x/MG
-
俺の呼ぶ声に、彼女はゆっくり顔を上げた
柔らかな唇の動きが 言葉を編んだ
「泣かなくても いいんだよ」
その言葉に
俺ははじめて 頬を滴が伝っていることに気付いた
驚きと安堵が生まれた
ああ 俺の涙は 枯れて果ててなんかいなかったんだ
いつのまにか 拭いきれないほどの涙が目に映る景色を虚ろに染め上げていた
わかっていた
彼女と言葉を交わすのは これが最期だということを
朧な視線の先で 優はそっと言葉を紡いだ
それはわかれのことば
俺は答えを返すことが出来ない
胸の奥に何か詰まってしまったかのように 声を出せない
言わなくちゃいけないのに
答えなくちゃいけないのに…
そのとき
俺のすぐ傍に 暖かな ひとの温もりを感じた
そうだ 俺は……俺には
- 512 :前スレ931 :05/02/17 02:33:49 ID:KlB7x/MG
-
「守ってあげたいひとがいるんだ」
気付けば 言葉はあふれていた
「非力な俺を必要としてくれたひとがいるんだ…」
「こんな俺でも…愛してくれたひとがいるんだ……!」
嗚咽にむせぶ俺の言葉は ちゃんと届いていただろうか
「お前のために泣くのはこれで最後にするから……だから」
だから涙は拭かない
「…さよなら」
それはわかれのことば
滲みゆく世界の中で
まばゆい輝きに照らされながら
優は太陽のような笑顔で
俺がずっと思い出すことの出来なかった その笑顔で
ちいさくそっと手を振った
- 513 :前スレ931 :05/02/17 02:37:20 ID:KlB7x/MG
- 終わりです…
長いこと付き合って下さってありがとうございました
- 514 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 02:43:31 ID:Jploycs3
- なんてこったーーーー!!
GJ持つ彼神様!! この野郎!!
全然長くなんか感じなかったぞ!! もっとだ!! もっとよこせ!!
(´・ω・`)ハイハイ
とにかく乙可憐様々!! あんた最高!! あいしてる!!
- 515 :前スレ921 :05/02/17 02:45:35 ID:1fTUDrHw
- 激しく乙です!
涙を流さずにはいられねぇ(。つд;`)
- 516 :('A`) 清次郎の人って自分ですか? :05/02/17 03:09:59 ID:Jploycs3
- そういえば誰かが呼んだような・・・。 ずっといましたけどー。
SSは貼ってませんがー。
- 517 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 03:27:32 ID:UdHGKjV2
- >>516
あなたはもしやおっぱいのかたですか?
- 518 :Σ('A`) :05/02/17 03:40:49 ID:Jploycs3
- おぱい?!
えと、多分そう。
- 519 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 03:48:56 ID:UdHGKjV2
- >>518
よかったですあってて
俺は5人(正確には6人)の創造主です
SS期待してますよ
- 520 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 03:58:16 ID:Jploycs3
- ('A`)キタイサレチャタ・・・。
んでも暫くはネタもないんで神々のSS見てます。
いやネタならいくらでもあるんだけどあのヒトらに混じって貼れるようなモンでもなし。
彼らのSSが終わったら保守代わりにでも貼っときます。
だから安心して! 神々のは荒らさない素直なヒト! 暫くは貼らないから!
- 521 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 04:01:30 ID:UdHGKjV2
- た、じゃなくて(′A’)さん
自信をもってください
無理ならエロ版に
- 522 :コンズ :05/02/17 04:18:30 ID:KJeDfM3c
- 513>乙だす!次回作期待してますっ!
もう誰でもイイから書いて暮れぇぇ〜い!!
- 523 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:52:44 ID:FvZh8m1m
- 最期の日まで、あと3日。
太陽が一番高くのぼった頃、俺は病院を訪ねていた。
見慣れた白いドアをノックすると、すぐに返事が返ってきた。ドアノブを回す―――。
「やあ」
春香の担当医は片手を上げ、俺に力無く微笑んだ。
「どうも」
軽く答えてから、差し出されたイスに腰をおろす。
「……妹さんの調子はどうですか?」
「最近は良いです。それでも時々、苦しそうな素振りを……」
「そうですか……。今、どこに?」
「姉に預けています」
「姉?お姉さんなんておられましたっけ」
「はあ……まあ、姉みたいな人です」
「そうですか。……話が逸れましたね。それで、妹さんの病気のことなのですが―――」
「何か分かったんですか!?」
思わず身を乗り出してしまう。担当医は苦笑し、それから重い口を開いた。
「……いいえ。やはりあと3日が限界です。それ以後は再びこちらに置かせてもらいます」
「そうですか……」
少しでも期待していたために、がくっと肩の力が抜ける。
「申し訳ない。君から両親を救えなかった挙句、妹さんまで……」
「いえ……仕方ないですから」
仕方ない。
本当にそうなのか?
お前はそう言って、すべてを諦めているんじゃないのか。
春香に後悔のない人生を送らせる、だと?
それは単に諦めてくれ、ということじゃないのか。
俺たちはうなだれたまま、しばらく黙り込んでいた。
- 524 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:54:15 ID:FvZh8m1m
- 「かなめおねーちゃん!今のずるいよ〜っ」
「ははは。対処できなかった春香が未熟なのだ」
「む、むう……。あっ!?またそんなところをっ!?」
「ほれほれ」
「ああっ……やだ……やめてよぉ……」
「ほれ、どうした?いつも真人にやられているんじゃないのか?」
「お、お兄ちゃんはそんなことしないもんっ!!」
「なんだ?まだなのか。つまらんな。……今度、真人に教えてやるか」
「え?」
「春香の弱点を真人に教えてやる、と言ったんだ」
「えええっ!?や、やめてよぉ!!」
「はははっ!!ほら、行くぞ!!」
- 525 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:55:28 ID:FvZh8m1m
- 原因不明の心臓病。万一、発作が起きれば助からない。
俺は担当医に言われた言葉を、頭の中で何度も反芻していた。
状況はあの時からちっとも変わっていない。
空を見上げた。……白いな雲がゆっくりと流れている。
「……いいよなぁ、お前は」
コンビニ弁当の入った袋を掲げ、ぶらぶらと堤防を歩いていく。
「ただ下界を見下ろすだけだもんな。苦しみも悲しみも、何もないもんな」
『そんなことないよ』
声が聞こえた―――ような気がした。
「え?」
『私たちが見下ろせるのは、あなたたちの世界だけだから』
俺は顔を上げた。真っ白な雲がふわふわと泳いでいる。
「……幻聴?」
『嫌でも、目を背けることはできないの』
嫌でも目を背けることができない。
その通りだ。オレは春香から目を背けることはできない。それでも……。
「それでも……俺にはどうしようもないんだ……」
『そんなことないよ』
透き通った、よく響く声は淡々と聞こえてくる。
「……え?」
『真人君ならきっとできるよ』
これはもう、幻聴じゃない!
「だ、誰なんだっ!?お前、どうして俺を知っているんだ!?」
『私は―――』
何か。
ひどく懐かしい声を聞いたような気がした。
急に世界が大きく傾き、重力が無くなったかのような錯覚を覚え……。
「あ」
俺は堤防を転げ落ちていた。
- 526 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:56:41 ID:FvZh8m1m
- 「ただいま」
俺はよろよろと玄関に倒れこんだ。ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「おかえりっ、お兄ちゃ……だ、大丈夫っ!?」
「ああ……平気……」
「どうした、春香?なんだ真人か。おかえり」
「ただいま」
重い体を起こし、ふと春香に訊いてみる。
「あのさ、春香。俺たちがものすごく小さい頃、知り合いに女の子なんていたっけ?」
「女の子?」
春香は少しだけ悩んだような素振りをみせ、
「かなめおねーちゃんのこと?」
と言って、首をかしげた。要さんはきょとん、と目を丸くしている。
やっぱり……知らないか……。
「なんでもない。春香、いい子にしてたか?」
「うんっ!春香、いい子にしてたよっ♪」
「要さんに何かされなかったか?」
「……された……」
なんですとっ!?
「か、要さん!?」
「いやあ……なかなか春香もやるよ」
なに!?その意味ありげな目配りは!?
- 527 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:57:54 ID:FvZh8m1m
- 春香と要さんは格ゲーで対戦していて、悪質なハメをされ、春香はへこんでいたらしい。
……良かった。ちょっと残念というか、いや、とにかく良かった。
「ふむ。オレは真人が何を想像していたのか気になるな」
……この人は。
「お兄ちゃん?なに考えてたの?」
「ん、なんでもないよ。ほんと」
それから春香の用意してくれたお茶を飲み、一息つく。
「お兄ちゃん……どうだった?」
「ん……特に何も」
「そっか……」
特に何も、とは何も成果はなかった、ということだ。
……くそっ!!春香をどうにかして救えないのか?
あと3日で春香は病院に戻る。そうなれば、春香は死ぬまで病室にいることになる。
それはまさに生き地獄といっても過言ではない。戻れば終わりなのだ。
ハッ……何をいまさら。そのために、担当医は春香をうちへ帰したんだろう?
俺に何かできるわけがないだろう。身の程知らずのガキめ。
「お兄ちゃん」
顔を上げると、春香はにへっと笑った。
「わたし、お兄ちゃんの妹だから。考えてることなんて、すぐに分かっちゃうから」
そう言って、俺の頭を自分の胸に押し付けた。優しく髪を撫でてくる。
「大丈夫。お兄ちゃんのせいじゃないよ」
「春香……」
その、すべてが、愛しい。―――俺はそれを諦めることなどできなかった。
「オレの立ち入る隙が無いぞ……二人とも」
- 528 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:59:35 ID:FvZh8m1m
- 夜。要さんが帰ったあと、俺と春香は遅めの夕食を取っていた。
「うわあっ♪オムライスだーっ!」
「ははは。今度も自信作だぞ」
「お、おかわりあるっ?」
「もちろん。全部食べたっていいぞ」
「えへへ……♪」
春香はぎらぎらと目を輝かせ、スプーンを手に取った。
「いただきます」「いただきま〜すっ!!」
一口食べてみる。うん、美味い。やっぱり腕はどんどん上がってきているようだ。
「どうだ、春香?美味いだ―――」
そして見た。
……最初は何かの冗談だと思った。
ずっと予測していたこと。ずっと恐れていたこと。何より見たくなかったこと。
だけど、ついにそれは。
現れた。
手のつけられていないオムライス。その手から滑り落ちるスプーン。真っ青な―――。
「春香っ!?」
- 529 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:00:48 ID:FvZh8m1m
- 『当たり前だが、病気は正確ではない。わずかな誤差はあるに決まっている。
わずかな誤差。それが何日なのかは分からない。もしかしたら、何週間なのかもしれない。
……ある程度、覚悟はしておかなきゃ、な……』
―――とうとう、終わりが始まったのだ。
- 530 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:02:24 ID:FvZh8m1m
- 「春香っ!?」
俺は椅子から立ち上がり、急いで春香の肩を抱いた。
顔色は真っ青で、心なしか痙攣していて、何より目つきは虚ろで―――。
春香は泣いていた。
瞳からぼろぼろと涙をこぼし、かつ声にならない悲鳴を上げている。
ぎりりっ、と春香の手に力が込められる。爪先が軽く肉に食い込む。
「きゅ、救急車……!!」
俺は電話に駆け寄り、すばやく短縮ボタンを押す。
電話を終えて振り返ると…………春香はすでに呼吸を止めていた。
「―――くそっ!春香ぁ!!返事しろっ!!」
ひゅっ、と春香の口から風がもれる。
「春香ぁ……!!」
……顔色は真っ青を超えて、今や蒼白になっている。
―――死人のそれだ。
俺は愕然とした。
- 531 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:03:38 ID:FvZh8m1m
- 『お兄ちゃんは普段通りの暮らしを続けて。春香は家でいい子にしてるから』
そんなこと、できるわけないだろ?必ず春香を救ってみせる。
『ずっとお兄ちゃんといたいよぉっ!!ひっく……やだよぉ……!!』
俺がいるから。春香を死なせはしないよ。
『は、春香の胸に飛びついてくるなんてっ!ばかっ!エッチ!!』
飛び込んできたのは春香だろ!?……なあ。
『わたしの命、お兄ちゃんに預けたっ!』
…………なあ、どうして……。
『ありがとう、お兄ちゃん。大好き……』
……どうして、こんなものを見せるんだ……。
……春香との記憶がこぼれ落ちていく。絵画のように切り取られた思い出が消えていく。
嫌だ。……やめろ。もうやめてくれ。……もう、やめてくれ……。
「ああ……春香ぁ……息……しろよぉ……」
沈黙。瞳から、つう、と一筋の涙が頬を伝った。すべてが終わりを告げていく。
……闇夜を裂いて、サイレンが響いてくる―――!
- 532 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:10:49 ID:FvZh8m1m
- _| ̄|○ 行数制限だと?おかげで何回も書き込んじまったじゃないですか!!
ええと、もちろん続きます。
- 533 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 05:26:49 ID:UdHGKjV2
- 早く俺にSSを寝たくても寝れないじゃねーか!
どーしてくれるんだよ!海中さん!
ネ申SSすぎます!
- 534 :前スレ921 :05/02/17 12:58:17 ID:1fTUDrHw
- 「うぅ〜、寒いぃ〜」
もうすぐ3月と言ってもやはり夜風はまだまだ冬の寒さを称えている。
「すぐそこのコンビニだから我慢してくれ」
そうは言っても兄はダッフルコートにマフラー、手袋、帽子と完全防備なのに対して夢亜は起きた時のスカート、パーカーにマフラー、手袋、キャスケットを被っただけで、どちらが寒いかは一目瞭然だった。
「こんなコトなら手抜きするんじゃなかったよぉ……」
すぐそこだし一度仕舞ってしまったので面倒だからとコートを着ないで外に出た事に後悔せずにはいられなかった……。
- 535 :前スレ921 :05/02/17 13:00:23 ID:1fTUDrHw
- 「だから着た方がいいって言っただろ?ま、デザートの為に頑張ってくれ。」
「うん〜……でもやっぱり寒いよぉ〜」
すぐそこまでと言ってもせっかく兄と出掛けるのだ。
一緒に歩こうと思っていたが、寒さに負けた。
夢亜はパタパタ小走りに先にコンビニに行き暖まる事にした。
後ろで笑われた気もするが今は目的地に着く事の方が先決だった。
―――コンビニのドアを開けると途端に人工的な暖かさに包まれる。
「あ、いらっしゃい」
- 536 :前スレ921 :05/02/17 13:02:01 ID:1fTUDrHw
- この店員さんは兄の友達。名前は塚原広司。普段はやる気のない人だが仕事はちゃんとやる人で、変わった性格の持ち主だが笑顔を絶やさぬいい人。
暇らしくカウンターの無駄に細かい所を掃除している。
流石にこの寒さの中外に出歩く人も居ないらしく、客は夢亜だけだ。
「こんばんわ〜。暖かぁ〜い♥」
店内の暖かさを噛み締めながら軽く挨拶しデザート売場へ向かう。
「今日は一人で買い物?」
「すぐお兄ちゃんも来ますよー。」
- 537 :前スレ921 :05/02/17 13:04:01 ID:1fTUDrHw
- 今日は・というのはしょっちゅう来ている証拠だ。
兄があの性格なので夢亜が拗ねる。兄が甘い物おごる。というのはいつもの事だったりする。
「今日は新規でエクレアが入ったよ。クリームもしっかり入ってて美味しかったよ。」
新しい商品が入るといつも教えてくれる。
しかもいつも一言簡単な感想を付けて。彼もまた甘党なのだ。
「よ。広司。いつ来ても居るなー。」
置いて来た兄が着いた。
私より先に友達に話し掛けたのが少し淋しかったりする……
「いや俺週6で入ってるから当たり前。星と夢亜ちゃんも負けてないぞ?」
- 538 :前スレ921 :05/02/17 13:08:02 ID:1fTUDrHw
- 兄は友達からは星(ほし)と呼ばれている。
私は兄の名前は気に入っているけどこのあだ名も結構お気に入り……
「そうか?じゃあ常連の俺らに暖かい飲み物でもおごってくれ。」
実はもう何を買ってもらうか決まっているのだが、兄と話したい反面、友達との会話を邪魔したくない。
私は未だにデザート売場に立っている。
「それより夢亜ちゃんの方行ってやれよ。暇そうだぞ」
「俺の話しは無視かよ……。夢亜ー、何買うか決まったかー?」
広司さんはいつもさりげなく気を使ってくれる。
やっと兄が私の方へ来た。
- 539 :前スレ921 :05/02/17 13:09:49 ID:1fTUDrHw
- 「うん!エクレアがいい!!新しいやつなんだって!!お兄ちゃんは?」
「じゃあ俺も夢亜と同じで。」
こういう時兄はいつも夢亜と同じ物だ。夢亜と星一は食べ物の好みが合うからそれでいいのだろう。
夢亜はエクレアを二つ取りレジへ向かった―――
「広司さーん!お願いしまぁ〜す♪」
「はいはーい♪」
広司さんはもうこのコンビニで二年以上働いている。
エクレア二つでも手際のよさが違う。普段のだらけきった姿からは想像出来ない姿だ。
「あ、これは俺から二人にプレゼント。夢亜ちゃん寒そうだしね。」
- 540 :前スレ921 :05/02/17 13:11:44 ID:1fTUDrHw
- 広司さんは暖かいミルクティーのホットペットを二本袋に入れてくれた。
広司さんは女の子には優しいのだ。
「ありがとぉ〜!苦あれば楽ありとはこのコトだね♪」
寒い思いをして来て得をした。やはり彼はいい人だ!
「流石広司!やっぱり広司は俺の無二の親友だ!」
「どういたしまして。ホットペット二本で友情を再確認されてもねぇ……」
広司さんは少し複雑な笑顔を浮かべた。
「まぁ、また来てよ。じゃ、気をつけて〜。ありがとうございましたー。」
これだけ普通に話しても店員としての挨拶は忘れないところが偉い。
- 541 :前スレ921 :05/02/17 13:20:49 ID:1fTUDrHw
- 「じゃ、頑張れや。」
「頑張って下さいね〜♪」
買い物も済み、夢亜と星一はドアへと向かう。
この時、夢亜はすっかり外の寒さを忘れていた……
――――――――――――――――――――――――――――――
今日は休みなので神たちが降臨する前に……。
次で一応今回の分(プロローグ・エピローグ除く)は終わりですのでもう少しお付き合いお願いします。
- 542 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/17 21:01:30 ID:nr6Me8VF
- ちょっと見てないだけでスレの伸びが凄い……。
神々のパワーってのは恐ろしいねぇ……。
しかし、こんなこと、第三弾中盤じゃ全く考えられなかったよ……感無量だね。
- 543 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:14:03 ID:SqAW3MX4
- 終わりの始まり。
「…………」
薄暗い廊下。リノリウムの床は冷たく、無機質な微笑みを俺に投げかけていた。
そっと、ドアの隙間から中を覗く。
蛍光灯の明かりの下で、いくつもの白衣がせわしなく動き回っていた。
その間隙から……一瞬だけだが、見えた。
様々なパイプに繋がれ、口に呼吸器を付けた―――春香の姿。
小さなその体を侵すように、病魔はじわじわと奪いにかかっている。
春香の命を。
これほどまでに、たった一人の命が……重いなんて。
「うう……」
いつしか呻き声がもれていた。はっ、と顔を上げる。
春香は相変わらず口に呼吸器をはめているし、意識が戻ったようには見えない。
これは、俺の呻き声だ。
「ううう…………」
ぼろぼろと涙がこぼれおちていく。
誰でもいい。
天使でも、悪魔でも、神でも仏でも、なんでもいい。
どうか……春香を救ってください……。
俺は泣いた。
- 544 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:15:04 ID:SqAW3MX4
- 夜の街は暗く、やはり田舎なのだという事実を改めて思い知った。
病院の屋上。俺は一人、手すりにもたれかかって空を眺めていた。
あの後、担当医にもう少しかかると言われ、しばらく休んだほうがいいと背中を押された。
実際その通りで、俺の体はへとへとに疲れていた。
ふらつく足取りで階段をのぼり、屋上に出て手すりに体を預けたものの。
そこから動く力は、もはや残っていなかった。
今、俺はどんな顔をしているんだろう。
ほら、笑え。春香の意識が戻ったら、まず手を握ってやれ。
それから優しく頭を撫でる。大丈夫だよ、春香。お兄ちゃんはここにいるよ。
…………何が、大丈夫なんだ?
「ちくしょう……」
夜の闇に向かって、ぽつりと呟く。それから夜空を見上げた。
―――月も星も、なにひとつ出ていなかった。
「出てこいよ……頼むよ……」
俺は見えないタクトを振りかざす。そのまま力無く振り下ろす。
空は変わらない。
俺は、魔法使いじゃない。
あれは偶然だったんだ。
俺はどこにでもいる、ちょっとひねくれたガキにしか過ぎない。
自嘲気味に笑う。まったく、お前は本当に馬鹿だな……。
『起きたよ』
「……え?」
「真人君っ!!」
背後からの大声に、俺はびっくりして振り向いた。
屋上の入り口に担当医が立っていた。
「意識がもど―――」
言い終わる前に、俺の体はバネ仕掛けのように動いていた。
- 545 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:16:05 ID:SqAW3MX4
- 「春香っ!!」
病室に転がり込む。春香に繋がれていたパイプは消え、呼吸器もなくなっていた。
背後で担当医が医者に出ていくように告げる。すぐに病室には俺たちふたりだけになった。
「……お兄ちゃん……」
「春香っ!!ここだよ!!ここにいるよ!!」
「……あは……分かるよ。目、見えるもん……」
ぎゅっ、と強く手を握る。春香は弱弱しい笑みを浮かべた。
「……春香、もうがんばれない……」
「そんなこと言うなよ!!まだ、まだ頑張れるだろ!?」
「ううん……春香、分かるの……」
それからゆっくりと、本当にゆっくりと呼吸をして、春香は呟いた。
やめろ。
言うな。
「次に眠ったら……もう……起きられないと思う……」
―――つう、と頬を涙が伝う。
「春香……幸せ……だったよ。後悔……してないから……」
嗚咽をもらす。
「だから、泣かないで……お兄ちゃん……」
分かっている。泣いちゃいけない。でも、止められない。
「春香まで……泣いちゃう……から……」
俺は涙を必死でこらえた。それから春香の頭を撫でる。
春香は気持ち良さそうに目を細め、やがて言った。
「お兄ちゃん……お願いが……あるの……」
- 546 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:17:05 ID:SqAW3MX4
- 真夜中の駐車場を、ひとつの影が走っていく。
いや。
よく見ると、それはふたつの影が重なってひとつになっていることが分かる。
背中に誰かを背負った誰かは、駐輪場に近づいていく。
錆び付いた自転車を引っぱり出し、背負っていた誰かを後部に乗せる。
自分は前に座り、ゆっくりと向きを変えていく。
そして。
かなりの速さで、自転車は走り出していった。
「…………」
それを一人の男が見つめていた。白衣を着て、メガネをかけている。
担当医だ。
彼はポケットから本来は使用禁止のはずの携帯電話を取り出すと、どこかへかけ始めた。
しばらく何かを話し、通話を切る。
「私にできることは……これで精一杯だ。すまない……」
ぽつりと呟き。その場に崩れ落ちた。
- 547 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:18:06 ID:SqAW3MX4
- 闇夜の中、とある部屋の女性が動き出した。
一人の女性が電話で何かを叫び、室内を走り回っている。
しばらくして電話を切ると、車のキーを掴み、部屋から飛び出していった。
闇夜の中、死んだ街が動き出した。
数々の民家から人が飛び出していき、次第にそれは周囲に広がっていく。
人影が民家を訪ね、そこからまた人影が飛び出して、さらにまた隣の家へ―――。
それらを繰り返し、どんどんと人影は増えていく。
闇夜の中、死んだ空が動き出した―――。
- 548 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:20:25 ID:SqAW3MX4
- _| ̄|○ 長い間つまらない駄文を読んでいただいて感謝しています。
次回でやっと最終回です。
……これ、萌える話じゃないや。
- 549 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 23:23:57 ID:UdHGKjV2
- 続きをはやく!飢えてる!涙がでそう!
続きを…早く俺にネ申SSを…!
- 550 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 23:25:29 ID:AjGjRSZr
- 俺にも続きを…
ダム決壊寸前
- 551 :堕天使は紫音の調べ ◆cXtmHcvU.. :05/02/17 23:34:44 ID:kwDjySo7
- もう…今にも大泣きしそうな状態です…… (ノд`)゜。゜
- 552 :前スレ931 :05/02/17 23:46:29 ID:zNcO6j6I
- あ、ダメだ。どうやら完全に俺の負けみたいです、海中さん
ラストが気になって気になってしょうがないんで続きくださいっす…
- 553 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 23:56:25 ID:6sYkCy8Y
- ……漏れを殺す気かぁ〜!
懐中殿ぉ!早く…早く最終話を見せて下され〜!
- 554 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/18 01:58:57 ID:8ltRfqlH
- すげぇ・・・。
今日中に見れるのかな・・・?
- 555 :前スレ921 :05/02/18 04:18:01 ID:RChPIumj
- やばい……凄過ぎる……やっぱあなた神だ。゚・(ノд`)・゚。
とゆーわけで海中さんの邪魔をしたくないので明日は貼るの控えようと思います。
- 556 :コンズ :05/02/18 10:37:54 ID:iLYM7GZf
- 海中時計様すんばらしすぎます!自分も早く続きがぁ!!
前スレ921様もお願いしまふ
- 557 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/18 18:13:03 ID:puWRS2Hx
- 。・゚・(ノД`)・゚・。
そういや、海中時計様のネタをパク……いや、影響されて俺の双子のSSが出来たんだよな……。
ホントに頭が上がらねぇよ……。
- 558 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/18 20:57:57 ID:/rC7efZR
- ああ、こう言うの俺弱いんだ・・・。
読み終えたら数日間は鬱状態と食欲不振が続く。
- 559 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:03:29 ID:wJObKQim
- ( ´−`) .。oO(長かった。でもここまで書けたのはみなさんのおかげです。ありがとう)
あらすじ
7日前 332-336 340-345
6日前 367-373
5日前 400-408
4日前 461-466
3日前 523-531
終わりの始まり 543-547
それでは泣けるBGMをおかけになって、どうか最後までお読みになってください。
- 560 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:04:32 ID:wJObKQim
- 終わりの終わり。
「はあっ……はあっ……!」
息も絶え絶えに、俺は春香を乗せて自転車をこいでいた。
急な坂道を全力でのぼっていく。てのひらに汗が滲みだし、ハンドルを握る手が滑る。
しかも病院で盗んだ自転車は錆び付いていて、今にも自壊しそうだった。
「お兄ちゃん……」
春香は俺の腰に手を回し、しっかりと抱きついている。
「大丈夫……!きっと……たどり着ける……!」
真っ暗な空の下、街灯の明かりを頼りに、自転車は進んでいく。
目指す先はもちろんあの場所。
この街で、最も空に近い場所。
あの丘だ。
俺は病室での春香の言葉を思い返していた。
「お兄ちゃん……お願いが……あるの……」
「な、なに!?なんでも言って!!なんでもしてやるから!!」
「あのね……春香、お星様が見たい……」
「お星様?」
「うん。……あと、お月様も……」
春香は首を傾け、窓の外を見た。空は真っ暗だ。
「お兄ちゃんの魔法……見たいな……」
- 561 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:05:37 ID:wJObKQim
- 「はあっ……ふうっ……!」
全力でペダルを踏みつける。自転車は失速しながらも、少しずつ坂道をのぼっていく。
全身の骨が軋んでいる。肺が活動することを拒んでいる。
だけど、そんなものは今の俺にとっては微々たる問題にしかすぎなかった。
そして、たどり着いた。
あの丘だ。
「は、春香……着いたぞ……」
「うん……。ありがとう、お兄ちゃん……」
「ま、まだ……お礼は早いって……」
俺は無理矢理、呼吸を整える。肺が悲鳴を上げるがなんとか我慢する。
「よ、よし……!いくぞ!」
俺は春香から少し離れ、草むらの上に立つ。
……周囲を風が駆け抜けていく。空は相変わらず真っ暗だ。
俺は両手を広げる。風をその身に受ける。……大丈夫、やれる。
- 562 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:06:40 ID:wJObKQim
- ―――なあ。
俺たちが見えるか、親父、母さん。
春香、死にそうなんだぞ。
力を貸してくれよ。頼む。
春香はいい妹なんだ。誰にでも優しくて、明るくて。家事も万能だし、文句無しだ。
それに、可愛いし。
そんな春香が、あの時の空を見たいって言っているんだ。
あの時の空だよ。宝石箱をひっくり返したような、あの空。
頼む。
力を、貸してくれ。
親父、あんた天才音楽家なんだろ。
この世のすべてを……奏でてみせろよ。
俺は見えないタクトを振り上げる。
―――振り下ろす!
- 563 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:07:43 ID:wJObKQim
- そして真っ暗な空は―――――――――――――――――――――何も変わらなかった。
「あ…………」
俺は膝をつく。もはや動けなかった。
……すべてが終わってしまった。
ゆっくりと春香に振り返る。
春香は俺の目を見て、にへっと微笑み……。
……そのまま涙をこぼした。
「ううっ……」
俺は春香に近寄り、優しくその体を抱きしめる。
ぎゅっと抱きしめる。
「もう離さないよ、春香」
「…………うん」
春香は呟き、顔を上げる。
そっと、俺の唇にキスをした。
「ありがとう、お兄ちゃん。今も、昔も、これからも…………ずっとずっと大好きです」
「ああ……」
春香にキスを返す。
「俺も好きだよ。大好きだよ……春香」
春香はうっとりと表情を緩ませ、ぎゅむっ、と俺の胸に顔をうめた。
「えへへ……両想い……だね……」
「ああ…………」
そして。
「…………さよなら…………お兄ちゃ…………」
ゆっくりと。
その瞳を。
閉じ―――。
- 564 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:08:46 ID:wJObKQim
- ようとしたとき、大地は輝いた。
まず我が目を疑った。
一面に広がる、光、光、光。まさに光の海だ。
そう。
街が、街が光っていた。
「……お、お兄ちゃん……」
「ああ……これは……」
ぶるるるる。
自転車のカゴの中の携帯電話が揺れた。ふたりは呆然とそれを眺める。
しばらくして留守電に切り替わり、メッセージが流れる―――。
「もしもし?私だ。妹さんは無事か?無事じゃなかったら君を殴らせてもらう。
星が見たいんだって?聞かせてもらった。さっき、件のお姉さんに電話した。
あいにく、巨大ライトと懐中電灯とすべての家を利用した地上の星しか作れなかったよ」
担当医だ。担当医はそれだけ言うと、じゃ、と切ってしまった。
ぶるるるる。
「もしもし!?オレだ!!あの医者から話は聞いたぞ!!
町の連中をすべて駆り出した!!どうだ!?すごいだろ!!」
要姉さん。
電話から、様々な励ましの声が語られる。
がんばれ。死ぬな。諦めるんじゃないよ。おまえら、最高だよ。がんばれよ、真人、春香!
俺はよろよろと立ち上がり、携帯電話の電源を切った。
俺たちは。
俺たちは、決してふたりきりじゃなかった―――!
- 565 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:09:50 ID:wJObKQim
- 「すごいな」
「……ん……」
圧倒的な光。まるで空をはやしたてるかのように、大地が光っている。
俺は空を見上げた。……うん。今度は俺の番だ。
みせてやろう。
もう一度、タクトを振り上げる。
どうしてここまでしてくれるのか。
俺たち本川家は天才音楽家だ。
この寂れた町の名前を、一瞬で世界に広めたのだ。
町の誇り。
この街が生んだ天才音楽家の息子、真人とその妹、春香。
ならば、期待に答えなければ。あの頃のように。
あの頃?
視界が、真っ白に染まっていく。
………………そして思い出した。
俺の名前は本川真人。―――双子だった。
双子の妹の名前は、はるか。
もうひとりの妹だ。
俺と双子で生まれたはるかは、小さい頃から俺に懐いていた。
- 566 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:10:53 ID:wJObKQim
- 「おにいちゃん!待ってよーっ!」
「あははっ!早くこいよ、はるかっ!」
「待ってよーっ!……ううっ……ぐすっ……」
「あ、泣くなよ!もう、僕がお父さんに怒られるだろ?」
「ううっ……だって……」
「しょうがないなぁ……。ほら、はるか。みてごらん」
「……え?」
そう。俺はタクトを振り下ろす。
たちまち空には星が溢れ、月が輝く。
「うわあ!すごい、すっごーい!」
「えへへ。すごいだろ」
「うんっ!ありがとう、おにいちゃん!」
えへっと笑う、はるか。
「……そして数年で、はるかは死んでしまった。交通事故だった。
悲しみに暮れた親父と母さんは、養子をもらうことに決めた。
それは偶然というか奇跡というか。同じ年に春香という子どもが生まれていた。
親父と母さんは春香を養子にして、悲しみを愛情に変えて、注ぎ込んだ」
息を継ぐ。
「ははっ……。だから小さい頃、俺は春香があまり好きじゃなかったんだ。
オムライス、嫌いだったし。俺の反感を買ってたわけだ」
そして、俺は見た。
真っ白な世界に立つ、魂を分かち合った、双子の妹の姿を。
- 567 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:11:56 ID:wJObKQim
- 「久しぶりだね、はるか」
「うん」
「やっぱり、運命かな。春香ははるかにそっくりだ。……はは、言ってて混乱する」
「そうだね」
「元気?ああ、失礼だよな、それは」
「そうかも」
「くそっ。なんではるかのこと、忘れていたんだろうな?」
「私が死んで、春香ちゃんを養子にして、それからお父さんとお母さん、亡くなったから」
「ああ、そうだった。だから記憶に鍵をかけたんだった」
「本当はね。お父さんとお母さんが憎かったの。私のこと、忘れていたから」
「ああ」
「春香ちゃんも憎かった。おにいちゃんを独り占めしていたから」
「ああ」
「でも、おにいちゃん、春香ちゃんのこと好きなんだよね?」
「ああ」
「……負けちゃった」
「はは」
言葉はいらなかった。
ありがとう、はるか。
- 568 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:13:00 ID:wJObKQim
- 大丈夫。
俺は“僕”に戻れる。
あの日に失った力も、取り戻せる。
僕は半身のカケラを再び手に入れた。
ほら、タクトが見えるようになった。
タクトを振りかざす。
―――僕は、タクトを振り下ろした。
瞬間。
ようやく、空は輝いた。
- 569 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:14:03 ID:wJObKQim
- 「わ……」
春香は目を丸くして、ぼうっ、と空を見上げた。
数多の星々と見事な満月が、優しく世界を照らしていた。
「どうだい?」
僕は春香に振り返る。
「……あはは……やっぱり……お兄ちゃんはすごいよ……」
歩み寄り、その体を抱きしめ、改めて周囲を見回した。
……すごい光景だ。空と地上は呆れるほどの光を放っていた。
「春香」
僕は春香の顔を両手で挟み、固定する。
「好きだ」
「……うん」
そして―――。
「ありがとう……お兄ちゃん。わたし、幸せでした……」
そして、長い長い物語は……僕らの、長い長い物語は。ようやく終わりを告げたのだった。
- 570 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:15:06 ID:wJObKQim
-
ジリリリリ。
……目覚まし時計が鳴っていた。
僕は腕を伸ばし、乱暴に止める。
昨日で連休は終わり。今日からは登校だ。
ふと、空になった左腕を見る。数日前までは春香の頭があった、左腕。
今は誰もいない。
僕はベッドから上体を起こし、思いっきり背伸びをした。
欠伸をしながら階段を下りる。
半ば意識が覚醒しないまま、リビングのドアを開けた。
「おはよう、春香」
「おはよう、お兄ちゃん」
春香はエプロン姿でくるりと振り向き、両腕をぶんぶんと振った。
「ほらほらぁっ!早く食べないと学校に遅れちゃいますよ?」
「ああ、早く食べないとな」
テーブルに座る。春香はエプロンを外し、向かいの席に座った。
「それじゃ、いただきます」
「はいっ、お水」
「お。さんきゅ」
「えへへ……。一人前のお兄ちゃんますたーだもん。当然だよ」
「なにそれ」
- 571 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:16:10 ID:wJObKQim
- ふたつ、変わったことがある。
ひとつめは春香の病気。もともと原因不明だったけれど、これまた原因不明に治ってしまった。
町の住民はわしたちの活躍のおかげじゃ!と信じて疑わなかったりする。
……おそらくあの時、はるかが何かをしたのだろう。
今や春香は一人で眠るようになり、家事のすべてを取り仕切るようになっていた。
そしてふたつめ。僕たちは―――。
……いや、話さないでおこう。何だか分かるはずだろうし。
そうそう。最近、新曲を書き上げた。春香が入院していた頃から作曲していたやつだ。
来週、要さんたちと初合わせが行われる。そのうち僕も練習しておかないとな。
そして。
僕が名づけた、この曲のタイトルは―――。
『パンドラ』 ―――終わり。
- 572 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/18 23:17:03 ID:q7aCQjGo
- リアルタイムGJ
全米が泣いた!
- 573 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/18 23:28:21 ID:regz0yie
- ネタがだせない…むしろ自分がちゃんとかきこめてるかもわからない
目の前がぐしゃぐしゃだし自分でなに書いてるかわかんない
とにかく神「海中時計さん」に感動をありがとうございました!
- 574 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/18 23:43:17 ID:wJObKQim
- >>572
ありがとうございます。嬉しいです。
>>573
正直、感動してくれる人がいたら嬉しすぎです。
俺も涙でキーボードが見5jpy
- 575 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/18 23:57:33 ID:W+yB/ujZ
- GJ!
いや〜、久しぶりに感動しました
- 576 :前スレ921 :05/02/18 23:58:38 ID:RChPIumj
- 乙でした!
アレ?目が霞んでよく見えない(つд⊂)
(。゚д゚)……
(つД`)・゚。
俺から言える事は二つだけ……
萌えと感動をありがとう。
次回作待ってます。
涙が止まらねぇ(。ノД`)。゚。
- 577 :[○]総会屋 ◆dlxMjaHjk6 :05/02/19 01:06:13 ID:bFOsHtzX
-
\ _n /
\ ( l _、_ グッジョブ /
.\ \ \ ( <_,` ) /
\ ヽ___ ̄ ̄ ) /
_、_ グッジョブ \ / / / _、_ グッジョブ
( ,_ノ` ) n \∧∧∧∧/ ( <_,` ) n
 ̄ \ ( E) < の .グ >  ̄ \ ( E)
フ /ヽ ヽ_// < ッ > フ /ヽ ヽ_//
─────────────< 予 .ジ >────────────────
∩ . < ョ >
( ⌒) ∩ good job! < 感 .ブ >. |┃三
/,. ノ i .,,E /∨∨∨∨\. |┃ ガラッ 話は聞かせて
./ /" / /" / .\ |┃ ≡ _、_ もらった
./ / _、_ / ノ' / グッジョブ!! \__.|ミ\___( <_,` )< グッジョブ!
/ / ,_ノ` )/ / /| _、_ _、_ \ =___ \
( / /\ \/( ,_ノ` )/( <_,` )ヽ/\≡ ) 人 \
ヽ | / \(uu / uu)/ \
- 578 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/19 03:03:39 ID:Kg1TqN/8
- すげーとしか言えないです。
コレの後じゃ誰も貼れなくなるかもですよ・・・・。
本当、すげー。 すげー。 すげー。
バグった。 しかしすごい。
- 579 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/19 04:45:09 ID:Kg1TqN/8
- よし、余韻をぶち壊して貼るぞ! じゃないと誰も貼れなくなるからな!
僕を踏み台にしてくれ! コレでも読んで自身を付けるんだ!
「下には下がいるもんだな」 って!
- 580 :1:ただの日曜日SS :05/02/19 04:48:12 ID:Kg1TqN/8
- 日曜の朝日を浴びながら、浅い息を繰り返し、小刻みに、跳ねる様に、前へ、前へ。
約800mの折り返し地点。
スピードを落とさずターン。
今まで追い抜いてきた風景が再び現れる。
また、前へ、前へ。
時速制限の看板、曲がり角のミラー、すれ違い際に交わす新聞配達員との挨拶―――。
数年前からずっと変わらない、俺のジョギングの風景。
と、ふいに現れる見慣れない、見慣れた後姿。
短めの黒髪に小さなリボン。
あれは、翔華(しょうか)?
何故翔華がここに?
いつもの朝の散歩――いやそれは無い。
数年来、ジョギング中に会ったことは無い。
俺のジョギングも、翔華の散歩も別の時間、それぞれの時刻を外れることなく続けられてきた。
だったら、何故。
辺りをキョロキョロと見回し、何かを探している様だ。
段々と距離が縮まり、声が聞こえ始める。
「――ゃん、健兄ちゃん!」
- 581 :2:過去と現在のSS :05/02/19 04:49:13 ID:Kg1TqN/8
- 『二人とも、待ってよぉ〜』
『何やってんだ、翔華!』
『翔華、こっちだ急げ!』
『そんなに早く走れないよぉ〜』
小さい頃のことだ。
俺は一組の兄妹に出会った。
毎日毎日同じ公園で会ううちに、いつの間にか俺も兄妹の一員になっていた。
兄の名は健一郎。 妹の名は翔華。
『よ〜し、ここまで来れば大丈夫だな』
『健、翔華がまだ来てないぞ』
『大丈夫だって。 すぐに――ほらな』
『はぁ、はぁ、ひどいよ〜っ。 二人とも翔華のこと置いてくんだもん』
『あのなぁ翔華・・・・今回の作戦は素早い行動がモノを言うんだ。 お前に合わせてたら確実に失敗しちゃうだろ』
『ふえぇ・・・健兄ちゃん、ひどいよぉ〜』
『健、ちょっと言いすぎじゃないか』
『甘やかすな、洋介。 別にオレは翔華をいじめてる訳じゃないんだ。
翔華はやれば出来るんだ。 翔華、もう大丈夫だよな?』
『う、うんっ』
兄は誰よりも妹を理解していて、それを知っている妹は誰よりも兄を信頼していた。
俺も早くそうなりたい。 そう願ってやまなかった。
けれども、兄は、今―――。
- 582 :3:兄妹+1SS :05/02/19 04:50:13 ID:Kg1TqN/8
- 「健兄ちゃ――んっ!」
余程懸命なのか、大分近づいても俺に気付く気配は無い。
「翔華、どうした」
殆ど真後ろに立って声を掛ける。
「あ・・・・洋兄ちゃん!」
若干、涙目なのに気付く。
「あの・・・健兄ちゃんが、昨日からいないの・・・・」
「・・・またか」
気付かれないよう、小さく溜め息。
「放って置いても、今晩辺りにひょっこり帰ってくるだろ?」
週に一度はふらっと出て行き、一晩もすれば帰ってくる。
それがアイツの行動パターンだ。
「でも・・・・事故とかに遭ってるかも・・」
その度に心配する翔華。
「大丈夫だよ。 生まれたばっかの仔犬じゃないんだからさ」
――その度になだめる俺、なだめられる翔華。
「でも・・・なんか、胸騒ぎが・・するの」
しかし、今日の翔華は引かなかった。
「すごく・・嫌な予感、するの・・・・怪我とかしてるのかも」
何故――と思い、一つの変えようの無い事実に思い当たる。
そうか。 明日なのか。
「どうしよう・・・・健兄ちゃんに何かあったら・・・私、私・・・っ」
「――分かった。 俺も探そう」
「あ・・・うん、お願い、洋兄ちゃん」
- 583 :4:ココロ前向きSS :05/02/19 04:51:17 ID:Kg1TqN/8
- 『誰にも見付かってないか?』
『うん、多分大丈夫だよ』
『本当かぁ?』
『う、うん・・・・多分、大丈夫・・・』
『健、やめろって。 それより早く行ったほうがいいんじゃないか?』
『そうだな。 ここでうだうだやってたら見付かっちまう』
『ほら翔華、そこ、気を付けて』
『うん、洋兄ちゃん』
『ほらお前ら、急げよ』
『分かってるって。 ・・・・でもさ健、本当に在ったのか?』
『ああ、間違いないって。 あれはダイヤモンド、ってやつだ』
『ダイヤモンドか・・・重いのか、やっぱり』
『ああ。 でなきゃ翔華なんか連れてかないって。 猫の手も借りたい、ってやつだよ』
『うぅ〜、健兄ちゃんひどい〜』
『いいからしっかり働けよ、翔華。 お前も洋介が家族になったら嬉しいだろ?』
『う、うんっ。 お母さんにダイヤモンドあげて、洋兄ちゃんを家族にして下さい、って頼むんだよね?』
『ああ! それで洋介はオレたちの本物の家族だ!』
『二人とも、ゴメンな・・・・オレのために・・』
『何言ってんだ、洋介。 弟のために一肌脱ぐ、ってやつだぜ』
『そうだよ、洋兄ちゃん』
『・・・えぇ〜、オレが弟なのかよ』
『当たり前だ。 お前が一番新入りなんだからな。
本当はお前が一番下なんだけど、どう見ても翔華よりしっかりしてるから二番目な』
『うぅ〜・・そうだけどぉ。 やっぱり健兄ちゃんひどい〜』
『・・ま、いっか。 じゃあ悪いけど二人とも、オレのために力を貸してくれ!』
『おう!』
『うん!』
- 584 :5:過去に囚われたSS :05/02/19 04:53:23 ID:Kg1TqN/8
- 学校、商店街、駅前。 辺りを見ながら回っていく。
「・・・・見付からないね」
「やっぱり公園だな」
「うん・・・急ご」
気ばかり焦っている様だ。
理由のない焦燥感。
翔華・・・お前は、今も―――。
「健兄ちゃん・・・・」
- 585 :6:廃屋探検SS :05/02/19 04:54:28 ID:Kg1TqN/8
- 廃屋の危なっかしい階段を登り、三階へ。
廊下を箸まで歩いて、健が止まる。
『ここだ』
右手に指差す古めかしい扉。
『すげぇボロいな。 開くのか?』
『思いっきりやればな。 洋介、手伝え』
『おう』
二人掛かりで戸をこじ開ける。
がたん。
『あ、開いたよ』
『よし、中に入るぞ・・・あ、入り口のとこ、気を付けろよ』
見ると、床が今にも崩れそうになっていた。
ひょい、と健が飛び越えていく。
俺もそれに続いた。
『翔華、跳べるか?』
『う、うん、やってみる』
危なっかしく、ぴょん、と跳ぶ。 しかし、着地際にバランスを崩し転びそうになる。
『危ない!』
とっさに手を掴み、引っ張って抱き寄せる。
『翔華、大丈夫か?』
『う、うん・・・ありがとう、洋兄ちゃん』
『気にすんなって』
カァー、カァー。
いきなり響く烏の鳴き声。
振り向くと、俺の身長位ある窓ガラスの向こう、木の枝に烏が止まっていた。
『あはは、笑われちゃったな』
『あはは、そだね』
『おい、お前ら何やってんだー?』
奥から健の声。
『悪い、すぐ行く』
- 586 :7:萌え無しSS :05/02/19 04:55:31 ID:Kg1TqN/8
- 無駄に広い公園を、文字どうり草の根分けて探していく。
一分、十分、三十分。 時間が積み重なるうちに、随分無駄なことをしている様な気がしてくる。
「健兄ちゃん・・・無事でいてね・・・・」
翔華の悲痛とも言える願いが、かろうじて俺を繋いでいた。
きらっ。
視界の隅に映る光の反射。
歩み寄り、それを拾い上げる。
「洋兄ちゃん・・?」
それはアイツがいつも首にかけているタグプレートだった。
「そ、それって・・・・け、健兄ちゃんの・・・っ!
健兄ちゃん、何か事件とか、事故とかに巻き込まれたの!?」
動揺する翔華。
「落ち着け、翔華。 コレ、いつも外れやすいってぼやいてたやつだろ?」
「う、うん・・・健兄ちゃんのことだから、落としたの気付かなかったんだよね?」
自分に言い聞かせるように、翔華は呟いた。
「健兄ちゃん・・・・大丈夫、大丈夫だよね・・・・・」
アイツの無事を祈る翔華は、最早悲痛そのもので―――。
「健兄ちゃん・・・・!」
翔華・・・・お前は今も―――健一郎に縛られている。
- 587 :8:トラウマSS :05/02/19 04:56:41 ID:Kg1TqN/8
- 『うわぁ・・・すごーい!』
『こりゃあ・・・すごい量だな』
『な? これだけあればきっとお母さんも許してくれるぜ』
『そ、そうだねっ』
『しかし・・重いってのは量が多い、てことだったのか』
『ああ。 コレなら分けて運べるから翔華でも役に立つだろ』
『うん、翔華も頑張る!』
持って来た鞄に、ガラス細工のダイヤモンドを詰めていく。
それが俺たちの願いを叶える魔法の石だと信じて。
『よし・・・翔華、それ背負って立ってみろ』
『え・・・まだ入るよ?』
『いいから』
『う、うん・・・わわ、重いよぉ・・・』
『やっぱりな・・・ほら、こっちに入れなおせ』
『う、うん・・・この位かな』
『健、こっちは詰め終わったぜ』
『よし・・・こっちもオッケーだ』
『結構重いな・・・・翔華、あの床跳べるか?』
『多分・・・』
『まず洋介から行け。 で、鞄だけ渡してその後に翔華が跳ぶんだ』
『よし、それでいこう』
『せ〜の、よっと・・・・と』
『洋兄ちゃん、大丈夫?』
『おう。 よし翔華、鞄渡せ』
『うん―――』
ぎしっ。
軋んだ床の音を、今でも憶えている。
- 588 :9:物理的SS :05/02/19 04:57:45 ID:Kg1TqN/8
- 『あ――』
崩れる床。
手を伸ばす俺。
届かない。
健一郎の手が、翔華に届いた。
そのまま引っ張り寄せて――。
何も無い方向へ翔華を送り出す。
物理法則に作用反作用というものがある。
いわく、力が作用するときには必ず反対方向に同等の力が発生するという。
また、同じ加速度のときならば、質量が多いほど力は増す。
リュックいっぱいにガラス細工を積んだ健一郎は、その力を制御出来る訳もなく――。
ガラス窓を突き破り、宙を舞った。
―――鈍い音。
時が止まった。
何が起こったのか、分からなかった。
- 589 :10:ココロの時SS :05/02/19 04:58:47 ID:Kg1TqN/8
- 『健にい・・・・ちゃん・・・・?』
数秒後か、数分後か。
翔華の声が俺を現実に引き戻した。
『け・・・健!』
廃屋を駆け下りていく。
『健! 健!』
あの木の根元。
『健、け――』
赤。 赤。 赤。
赤にまみれた、人形が一体。
『け・・・・ん・・・・・・?』
虚ろな目で、ただ宙を見つめて。
『おい・・・嘘だろ・・・・・?』
『けんにいちゃん・・・・・?』
上から、翔華の声。
『翔華! 見るな!!』
見せてはいけない。 何故か真っ先にそれが浮かんだ。
『けんにい・・・・』
『翔華! 見るな!! 翔華っ!!』
『う・・そ・・・・けんにい・・ちゃん・・・・・?』
人形は動き出すこともなく。
『う・・・・わぁぁぁ――――っ!!!』
ただ翔華の慟哭を聞き続けて。
そして、彼女の時が止まった。
- 590 :11:犬SS :05/02/19 05:00:02 ID:Kg1TqN/8
- がさがさっ。
草むらから物音。
「あ・・・健兄ちゃん!?」
「・・・・・・・」
「健兄ちゃんでしょっ!? 健兄ちゃん!!」
「・・・・ほら、出て来いよ」
がさがさ、がさっ。
「健兄ちゃん!!」
駆け寄り、抱きつく。
「心配したんだから・・・健兄ちゃんに何かあったら・・・私、私ぃ・・・っ!!」
「・・・・・?」
きょとん、とした顔。 なぜ翔華が泣いているのか分かっていないようだ。
ぺろっ、と涙を舐め取る。
「健兄ちゃん・・・・無事で、ひっく、無事でよかった・・」
想いが伝わったのか。 ようやく口を開く。
「わうっ」
元気を出して、とでも言うように、その犬は翔華の涙を、頬を舐め続けた。
- 591 :12:PTSDSS :05/02/19 05:01:12 ID:Kg1TqN/8
- 兄は誰よりも妹を理解していて、それを知っている妹は誰よりも兄を信頼していた。
兄を失った妹の心は、粉々に砕けた。
何をするでもなく、兄の名を呼び続けていた。
俺はといえば、何も出来ない自分を憎むことしか出来なかった。
ある日、妹に一匹の犬があてがわれた。
何でもいい、生きるという行為に復帰するきっかけになれば――。
そう願ってのことだった。
妹は、粉々になった心を辛うじて繋ぎ止めた。
そして、その犬は彼女の兄になった。
「健兄ちゃん・・・良かった・・・・よかったよ・・」
泣き続ける翔華を、俺は直視することが出来なかった。
憐憫、後悔、怒り。 全てのような、どれでもないような感情を持て余していた。
「また・・・・居なくなるのは・・やだよ、健兄ちゃん・・」
それは、ただ単にこの犬の放浪癖へのつぶやきだったのかもしれない。
だが、俺には――二度目の別れに対する怯えに聞こえた。
- 592 :13:流れ出す時のSS :05/02/19 05:02:32 ID:Kg1TqN/8
- 泣き止み、帰り道。
俺は聞かずには居られなかった。
「翔華・・・・明日は何の日か知ってるか?」
答えて欲しかった。
健一郎のために。
翔華のために。
俺のために。
「明日・・・・? なんだろ? 分かんないや」
けれども、願いは叶わなかった。
「・・・・・そっか」
「何の日なの?」
「いや・・・・何でもないよ」
翔華・・・それが翔華の望みなら・・・・俺はそれに従うよ。
「何だろ〜・・・? 何かあった気もするんだけど」
「いいんだ。 忘れてくれ」
それが、きっと翔華のためなんだ。
「でも・・・何か気になる・・・・・あれ?」
「翔華・・・?」
「あれ? あれれ?」
泣いていた。
声もあげず、ただ涙を流していた。
「あれ? な、なんで? 何で涙が・・・?」
―――それが、俺を動かした。
あるいは無意識の悲しい記憶が揺さぶられただけかもしれない。
けれども、俺には翔華が今の自分を嘆いているように見えた。
- 593 :14:俺の屍を超えていけSS :05/02/19 05:07:32 ID:Kg1TqN/8
- 「な、何で泣いてるんだろ? え、えへへ、おかしいね、健兄ちゃん?」
「わうっ」
「あれれれ? ま、また涙が・・・」
翔華・・・そろそろ歩き出そうか。
俺も、勇気を出すよ。
「・・・・・・翔華、明日暇か?」
健一郎が死んだ、明日。
その日から止まった時を、動かそう。
「え? う、うん、暇だよ」
兄は誰よりも妹を理解していて、それを知っている妹は誰よりも兄を信頼していた。
俺も早くそうなりたい。 そう願ってやまなかった。
「ちょっと付き合ってくれないか?」
「え・・・へへ〜、で〜とのお誘い?」
けれども、兄は、今はもう居ない。
だから、俺が兄になるんだ。
「まぁそんなとこかな」
誰よりも翔華を理解して。
「え・・・・? あ、う、うん、そうなの? じゃ、じゃあ準備しておくね」
誰よりも翔華を想って。
「そんなに準備とかはいらないぞ。 色気の無いところだからな」
誰よりも翔華と一緒にいて。
「え、何処行くの?」
「墓参り、かな」
「おはか・・・?」
「ああ。 一緒に、行こう――」
健一郎、見ていてくれ。
お前以上の兄になってみせるよ。
明日、俺たち三人の、時が動き出す。
- 594 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/19 05:17:05 ID:Kg1TqN/8
- 以上です。
マネして真面目な話を書いてみました。 出来はあぼーん。 ('A`)
ふふふ、これならばみんな自身を持って貼れるハズだ。
自分なりにせいいっぱいSS的なものを書いたつもりですが、出来はあぼーん。 (AA略
台本でいいです、もう。 そっちのが楽だし。
ってかこれPTSDじゃないね、トラウマだけど。
てかてか、血のつながったあにいもうとモノ書いたことないや。 このスレ的にあぼ(ry
まぁいつもどうり「:」をNGにしておけばおkですから。 多分。
では、次回からはもっといいSSが貼られる予定なので、職人ならびに神さま、あとはよろしく。
へたれ台本をたれ流してるお姉さんは逃げますから。
言い訳がウザいね。 あぼーん。 逃げ逃げ。
- 595 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/19 05:21:59 ID:b/5C8TBX
- 愚痴っていいですか?
さらにはりづらく感じるのは決して俺だけじゃないな
もうエロ妹スレのSS書くのいやになってきたわ俺
三人の神SS+神SS見せられたら書けないよ(´;ω;`)
マジで…
- 596 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/19 07:22:46 ID:PyVdSitL
- 今さら言う必要もないだろうけど、言わずにはいられない
ここのSS、ヘタな小説やゲームより泣ける(さらに萌える)
- 597 :前スレ921 :05/02/19 07:52:00 ID:fwguD8yi
- 甘いですよ清次郎の人!
下には下がいるもんです!
何を隠そう一番下はこの漏れさorz
一番下というものをお見せしましょう
……貼りづらい('A`)
- 598 :前スレ921 :05/02/19 07:53:16 ID:fwguD8yi
- ドアを開けた瞬間、笑顔で広司に手を振っていた夢亜の表情が凍り付いた。
「どうした?」
この質問の返答はわかっているが一応聞いておく。社交事例のようなものだ。
「……さ……さぶぅい……」
予想以上の反応。ついさっきまで笑顔で手を振っていたのに今はその細い両腕を自分を抱き締めるようにして震えている。
俺達をカウンターから見送っていた広司も密に吹き出していた。
こういう事をされるとツッコミたくなってしまう……折角テレビでの件を忘れたようだしここで夢亜の機嫌を損ねるような事はしない方が良いだろう。
- 599 :前921 :05/02/19 07:55:21 ID:fwguD8yi
- ともあれ夢亜と星一は家へと歩き始めた。
「夢亜、寒い中悪いが、寄り道してもいいか?」
「お兄ちゃん……私を殺す気なの……?」
夢亜から早く帰りたい・という雰囲気が漂ってくる。
自分の体を両腕で抱え込み、細い体はぶるぶると震えている。
だが、今ここで夢亜を帰らせる訳には行かない。
星一は着ているダッフルコートを脱ぎ、夢亜に掛けてやる。
「っ!?……え?」
「それ貸してやるから少し寄り道に付き合ってくれ。」
「でも、それじゃお兄ちゃんが寒いよ!!」
「俺はいいから。付き合ってくれるよな?」
- 600 :前スレ921 :05/02/19 07:56:57 ID:fwguD8yi
- 「う…うん。ありがとう。」
夢亜は訳のわからない。という顔をしている。
「サンキュー。この寄り道は夢亜と一緒じゃなきゃ意味がないからな。」
「そ、そうなの……?ねぇ、どこ行くの?」
夢亜は相変わらずきょとんとしている。俺の普段とは違う態度に戸惑っているのだろう。
「……着けばわかる。」
そう言って俺は家とは違う方向へ歩き始めた。
―――10分程度して星一は歩みを止めた。夢亜もワンテンポ遅れて、星一の横で止まる。
「着いた。」
「着いたって……ここ、海だよ?」
- 601 :前スレ921 :05/02/19 07:58:18 ID:fwguD8yi
- そう。ここは海だ。
家からさほど離れていないが、この辺りは民家も無く、普段から人通りも少ない静かな所だ。
調度風も止み、穏やかな波の音だけが辺りに響く……
「上だ。」
「上??……あっ」
兄に促されて見上げて空は、雲一つない夜空に無数の星とほんの少し掛けた穏やかな月が佇んでいた。
「うわぁ〜〜〜……」
家から見る夜空とは比べものにならない。
うっすらと軟らかな蒼みを帯びた銀の月。
夜空に宝石をちりばめたような星……いや、ちりばめたというより敷き詰めたと言った方が正しいかもしれない。
そして穏やかな波の音。
- 602 :前スレ921 :05/02/19 08:00:17 ID:fwguD8yi
- 夢亜は思わず感嘆の声を漏らし、見とれてしまった。
「まぁ…アレだ…テレビを見れなかったお詫び……だな。どうだ?」
「凄い!!こんなに綺麗な星空初めてだよ!!」
我を取り戻した夢亜は感激の言葉と共に兄の方へと向き直る。
と、兄がいつもと違う事に気付いた。
普段は何でも冷静にこなしてしまう兄が、もどかしそうな、歯痒そうな顔をしている。
普段しなれない事をして、照れているのだろう。
長年同じ家で暮らしている夢亜でも初めて見る。
「そっか。それは良かった。ここは俺のお気に入りの場所だからな。」
- 603 :前スレ921 :05/02/19 08:02:50 ID:fwguD8yi
- 星空を見上げた兄の口調はとても穏やかなものだった。
こんな兄の姿は初めてだった。いつもの冷静な顔でもふざけた顔でも無く、少し子供っぽさの漂うぎこちないが軟らかな照れ笑い。
「お兄ちゃんのお気に入りの場所なのに、私に教えちゃっていいの?」
余り自分の事を話さない兄の秘密を知ってしまったみたいで、少し不安になる……
「言ったろ?夢亜と一緒じゃなきゃ意味がない・って。夢亜だから教えたんだよ……」
そう言った兄の顔からはぎこちなさはもうなく、穏やかな優しい顔で私を見ていた。
- 604 :前スレ921 :05/02/19 08:04:19 ID:fwguD8yi
- いつも私の前に居た兄。追い掛けても追い掛けてもいつも私の前にいた兄が今、私を見ている。これが兄ではなく、本当の星一の姿……
そう思ってしまったら急に恥ずかしくなってきた。
「そ、そんな……あ…ありがとう……」
それだけ言って兄から顔を反らす。
冬なのに顔が熱い。頭がぼーっとしてしまって立っているのも辛い……
「……折角だからそこに座って広司がくれたミルクティーでも飲んでくか。」
そう言いながらスタスタと防波堤の方へと歩いて行く。
「お兄ちゃん!!」
- 605 :前スレ921 :05/02/19 08:06:45 ID:fwguD8yi
- 夢亜は防波堤へ向かう兄へ向かって走り出した。
そして兄が振り向く間もなく背中に飛び付く。
「だぁーい好きっっっ♥」
言葉にすればたった一言……それでもぼーっとする頭の中で考えた私の精一杯の気持ち……
「俺もだ……夢亜…大好きだよ」
聞き逃してしまいそうな程、穏やかな波の音よりも小さな声、それでも私にはしっかりと聞こえた―――ずっと聞きたかった。たった一言―――
夢亜は力一杯兄を抱き締める。離れないように……精一杯の笑顔の瞳から流れる涙が見えないように……
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