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[第四弾]妹に言われたいセリフ
- 446 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:29:02 ID:ij89ILEM
- 梨那は次の授業は教室を移動しなきゃならないとかで、五時間目の予鈴が鳴るまえに自分の教室に戻った。
『英語苦手なんだよぉー!!』とか、『国語なら得意なんだけどなぁー!!』などとボヤきながら。
俺も五時間目の英語の準備をしようと、机の中に手を入れると、
「さぁ、行こうぜ」
友人の一人が俺に声をかけた。
「行くって?何処へ?」
「聞いてないのか?今日、吉崎さんが風邪で休みだから……」
「あ。視聴覚教室で文型クラスと合同だったな?」
「そうそう。2組とな」
2組っていったら、梨那のクラスだ……。
っていうか、そんなに授業が遅れてる訳じゃないんだから、自習で良いのに……。
「でも、2組っつったら、あの坂野が教えてんだぜ?最悪だよ……」
「坂野か……生徒に人気無いよな、あの人」
「あーあ!いいよなぁー!!学年トップクラスのヤツは他人事で!!」
「どういうことだ?」
「知らない?アイツ、ワザと分からなさそうなヤツ当てて、んで勝手にキレるんだってさ」
「性格悪いな」
「だろ?あっ、もう時間ねぇな。早く行くぞ」
「ああ」
俺は英語の用具を持ち、視聴覚教室へ向かう。
一応、席は自由だったのだがチャイム擦れ擦れで入り込んだため、
ほとんど席は残っていなく、一番後ろの席に二人で座った。
「成績が良くないヤツは出来るだけ前のほうに来るように!!」
坂野が声を張り上げた。
なるほど……だから後ろが空いてるんだな……流石に一番後ろに行く度胸のあるヤツはいないか……。
そこで、周りを見渡すと、ご丁寧に一番前に座っている梨那という名のバカが一人……。
- 447 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:31:07 ID:ij89ILEM
- 「行く?」
友人が前を指差す。
「いや、いい」
「ま、お前は余裕だもんな、天才。当てられたときは頼むぜ?」
「ま、考えとくよ」
とまぁ、そんなこんなで授業が始まって……
「今日の問題は簡単だ。出来ないヤツは危機感を感じたほうがいいぞ」
ってなことを言いながらプリントを配る坂野。
……って、教科書使わねぇのか……じゃ、自習でもいいのにな。
「10分で目を通せ」
俺は前から回ってきたプリントに目を通す。
タイトルは『ニュートンとアインシュタインの物理』。
……正直、俺なら、こんなこと読まんでも知ってる事ばっかりだったが、文自体は結構難しい。
文系、理系にとっても、決して簡単な問題じゃない。まして10分で解ける問題ではないな。
んで、しばらくしているうちに10分経って、坂野は生徒を当て始めた。
情報によると、俺ぐらい成績が良ければ、まず指されないらしいので、
俺にとっては退屈極まりない授業だ。
そんな俺は頬杖をついて、ハラハラした顔で英文を読んでる梨那を見ていた。
───────────────────────
……弱い物虐め的授業も半分ほど終わった。
噂どおり、ワザと当てられそうにないヤツを選んでいるようで、意図的に成績のいいヤツを避けている。
んで、せめて何食わぬ顔をしてりゃ良いのに、当の本人はニタニタ笑ってるから、タチが悪い。
予習してなくて分からないのなら自業自得だが……
今初めて読んだ英文、しかもこれぐらいのレベルなのだから、分からなくても無理もないと思うのだが……。
ってなワケで、俺はモヤモヤした怒りを抱えながら、適当に授業を聞いていた。
「じゃ、次は……相川。下線部(3)を訳してみろ」
「にゃ……は、はい……」
梨那が緊張と不安で顔を強張らせながら立ち上がった。
下線部(3)って言ったら、多分一番難しいトコだな……。運が悪いねぇ……梨那くん。
- 448 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:32:08 ID:ij89ILEM
- 「えっと……しかし……うんと……アインシュタインは考えた……えっと……」
「何だ?相川、こんなのも出来ないのか?」
「は、はい……」
抑えろ抑えろ……。
「まったく、こんな簡単な文も訳せないと、今度は英語で赤点取るぞ」
「……」
我慢だ……大人になれ……。
「詩だか何だか知らないが、表彰されたぐらいで調子に乗ってもらったら困るな」
「……」
坂野の執拗な攻撃に、今にも泣き出しそうな梨那の顔。
バン!!
「ふぅ……」
俺は机を叩いて勢いよく立ち上がり、深い呼吸をする。
教室中が俺に注目するなか、隣の友人は、面白そうな顔をしている。
「な、何だ!?州田!?」
坂野は驚いた様子で、間抜けな声を出した。
あ、州田ってのは俺の名前ね。
俺はその質問を無視し、梨那の席へ歩いていく。
「お兄ちゃん……?」
俺は梨那に微笑み、その震える肩をポンと叩き、そして、ドアに向かう。
「ど、何処に行くんだ!?州田!?」
「あぁ、もう半分過ぎてるから、もう出席扱いっすよね?これ以上聞く価値ないんで教室で自習してます」
「お、おい!?いいのか!?ここ、次のテストに出すぞ!?」
「えっと……onlyによる倒置ですか?このthisが前文全体を指す事ですか?それとも、最後の省略ですか?
ま、なんにせよ俺には分からない問題じゃありませんよ」
- 449 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:34:18 ID:ij89ILEM
- 「う……」
「あ、先生。発音、三つほど間違ってましたよ?
しかも、その一回は、生徒が正しく発音したヤツをわざわざ直してましたよね?」
「……」
「簡単だって言いましたけど、客観的に考えても、この問題をそう思えるのは、英語が得意な物理マニアだけです」
「……」
「あと……授業をストレス解消に使うのはどうかと思いますよ?」
「……」
「何か言いたいことあるなら校長か学年主任か担任にどうぞ。では」
言いたい事を言い尽くし、ちょっとスカッとした俺はドアを開け、視聴覚教室を出て行く。
俺の背にある教室が騒がしくなったのを聞きながら……。
───────────────────────
授業の途中で教室に戻った俺は、皆から腫れ物扱いされると思っていた。
しかし……
「やるじゃん、州田!!」
「しゅーちゃん、スカッとしたよ!!」
予想に反して、俺は英雄だった。
坂野にはみんなムカムカしていたらしく、俺は惜しみない称賛を浴びることとなった。
結局、俺が出て行った後、授業は騒然となり、他の成績優秀者が続々と抜けて、
呆然としていた坂野は、もう誰かを指名せず、ただ答えのプリントを配るだけで終わったらしい。
その後、騒動の張本人として、俺は担任に呼ばれた。
俺が事情を話すと、担任は分かってくれて、坂野には後で注意をするらしい。
一応、俺の行動も褒められた物ではないとして厳重な注意を受けた。
ま、喧嘩両成敗といったところだろうか……。
「失礼しました」
俺は軽く礼をして、職員室から出る。
「お兄ちゃん……」
梨那が申し訳なさそうな顔をして、俺に声をかける。
「よぅ、梨那。一緒に帰るか?」
俺の問いかけに、梨那は黙って頷いた。
梨那にいつもの明るさがないので、俺も会話の糸口を失ってしまう。
しばらく沈黙が続いた。
- 450 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:35:23 ID:ij89ILEM
- 「ねぇ……」
先に沈黙を破ったのは梨那だった。
「何だ?」
「ゴメンなさい……梨那のせいで……」
「梨那のせい?」
「うん……お兄ちゃん、梨那を助けてくれたのに……お兄ちゃんだけが怒られて……」
別に怒られた訳じゃないけど……ま、いいか。
「ゴメンね……お兄ちゃん……ゴメンね……」
ポロポロと涙を流す梨那。
梨那との付き合いも長いが、もしかしたら、こんな悲しそうな涙は初めて見たかもしれない……。
「泣くなよ。梨那が悪いんじゃないって」
「で、でも……」
「体が勝手に動いたんだ。梨那の泣きそうな顔見たらさ」
「お兄ちゃん……?」
梨那は驚いて、潤んだ瞳で俺を見上げた。
「さ、帰るぞ!!」
結構マジのつもりだったが、梨那に見つめられると恥ずかしくなってきた。
ちょっと熱い頬を隠すため、俺は少し早足で歩き始める。
「お、お兄ちゃん!!」
「な、何だよ?」
「ありがとう!!」
梨那が涙を拭いて、笑った。
「ああ」
俺も梨那に笑いかける。
「あーあ……結局あの後、授業やらなかったんだって?」
「うん」
「折角、俺が全訳と単語メモ作って、こっそり渡してやったのに、無駄だったな」
「うん。でも、梨那、嬉しかったよ!!」
「そう思うなら……あー、いや、やっぱ止めとくわ」
- 451 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/15 21:36:32 ID:ij89ILEM
- 「いつものアレが欲しいの?」
「いいよいいよ。忘れてくれ」
「ううん。梨那が買ってあげる。お昼の分もあるしね?」
「いいのか?」
「うん。で、でも一個だけだからねっ!?」
「三つ……いや、二つだ!!」
「にゃっ!?ひ、ヒドいよぉ!!」
「ウソウソ。一個で良いよ」
情けない事だが、俺の弱点はいつだって梨那なのだ。
でも、それはそれで、俺は幸せなのである。
───────────────────────
♪言いたかないが 連チャンはキツい い・い・い・い 言うだけ無駄だよ 頑張ろう♪
もう、余韻ブチ壊す前に貼っとくよ。
構想段階では、梨那の兄と沙耶の兄を同一人物にする気だった。っていうのは秘密だ。
- 452 :前スレ921 :05/02/15 21:44:00 ID:MXfg2ugN
- リアルタイムで見れた━━(゚∀゚)━━!!
乙っス!!
- 453 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 21:46:25 ID:jYER33Ji
- (*´ー`*)ーЭ やっぱ最高です!
- 454 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 21:51:48 ID:ChVamTqL
- おい遊星さんよ〜
萌て死にそうだ!
- 455 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 21:54:45 ID:fPIYbZwL
- ネ申!
遊星さん最高ですよ!
英文わかんない…。
- 456 :前スレ921 :05/02/15 23:01:14 ID:MXfg2ugN
- ―コンコン
部屋をノックする音で目が覚めた。
いつの間にか寝ていたらしい。
うっすらと重い瞼を開くと夕焼けに軽く紅に染められた白い天井が見える。
窓からは烏丸の鳴き声が聞こえてきた。
どうやら今は夕方のようだ。
枕元には無造作に漫画が置いてある。
漫画を読んでいるうちに寝てしまっていたようだ。
―コンコン
「夢亜ー、起きろー」
もう一度ノックする音が聞こえた。今度は兄の声も聞こえてきた。
「んー、起きたぁー。」
ベッドに横になったまま寝起き特有のけだるさをたたえた声で返事をする。
- 457 :前スレ921 :05/02/15 23:03:12 ID:MXfg2ugN
- 「目が覚めたのと起きるのは違う!さっさと起きる!入るぞ?」
「起きてるってばぁ…」
とは言ったもののさすがは兄。長年一緒に居るだけあってこのままだと私が二度寝する事がわかっているのだろう。
考えているうちに部屋のドアが開き兄が入ってくる。
顔は整っているが美形と言う程でもなく、身長も170程度。性格も人当たり良く。至って普通。馴染み易い人間だ。
「おそよう夢亜さん。随分と気持ち良く寝ていたようですね。」
「お・は・よ・う・お兄ちゃん。」
ただ、少し…いや、かなりふざけた人間だ。
- 458 :前スレ921 :05/02/15 23:04:34 ID:MXfg2ugN
- いやにニヤニヤしながら話し掛けてくる。
「まだ寝ぼけてるのか?おはようは朝の挨拶だぞ?お・そ・よ・う・寝癖の素敵な夢亜お嬢様(笑)」
「なっ!!う、うるさいなぁ!!わざわざそんなコト言いに来たの!?」
慌てて寝癖を治しながらもとにかく反応しておく。
兄は私の反応を見て随分楽しそうな顔をしている。
「まさか。そろそろ夕飯にするから降りて来いよ。いつまでも寝てないで」
「いつまでもって…もう起きてるよ!」
兄はどう見ても私の反応を見て楽しんでいる。
からかわれているのがわかっていてもついつい反応してしまうのが悔しい。
- 459 :前スレ921 :05/02/15 23:09:30 ID:MXfg2ugN
- 「はいはい。先に降りてるから。」
そう言って兄は部屋を出て階段を降りていく音が聞こえてくる。
「もぉ〜、お兄ちゃんったらなんで人が気にするコトわざわざ言うかなぁ〜…」
あれさえ無ければ……なぁ……。
顔をしかめながらベッドから降りて服を治しながらリビングへ降りる仕度をする。
―――――――――――――――――
今日はこれだけ
今回はゆっくり書いてます。
キャラ
静原夢亜(しずはらゆあ)
静原星一(せいいち[兄])
この話しは一応この前にプロローグのような物がありますがスレ違いなのでカットしました。
続きはまた。
- 460 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:29:02 ID:jYER33Ji
- も、萌えました(*'∀`*) やっぱり上手いです。
……で、張っちゃいます。('A`)
- 461 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:30:13 ID:jYER33Ji
- 最後の日まで、あと4日。
「お兄ちゃん!ネクタイ曲がってるぅ!」
「え?……あ、ホントだ」
タキシードを着て譜面に没頭していた俺は、春香の声によって我に帰った。
首元で春香の手先が器用に動いている。ふと時計が目に入った。
午後7時。開演まであと30分だ。
今さらだが、俺の名前は真人。妹の名前は春香。天才音楽家の息子と娘だ。
これから市民ホールでオーケストラの演奏が行われる。
その指揮者として、俺も舞台に上がるのだ。
別に今回が初めてではない。まだ高校生だが、これも食っていくためだ。
もちろん春香を養うためでもある。
親父は自他ともに認める偏屈な奴で、自分の生まれ故郷であるこの町を気に入っていた。
理由は分からないが、親父はこの田舎町を拠点として音楽活動を始めたのだ。
……今や、町の誇りとして記念館まで作られていたりする。
その息子と娘。
…………我ながら波乱万丈な人生だ。
「お兄ちゃんってば!ほら、もう時間だよぉ!?」
わたわたと両手を振る春香に苦笑し、俺は椅子から腰を上げた。
7時10分。そろそろ舞台裏へ行くとするか。
「よし、行ってくる。春香は観客席に」
「りょー、かい!」
びしっ、と敬礼。そそくさとドアの前まで行き、ドアの影から顔を半分だけ覗かせて、
「が、頑張ってね、お兄ちゃん。春香、見てるから……」
「おう」
俺は親指を立てた。
- 462 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:31:29 ID:jYER33Ji
- 緊張はしない。慣れっこだ。
控え室廊下を通り、舞台の袖に到着する。
適当に挨拶をすませ、演奏のために意識を高めていく。
――音楽は心だ。何度か親父にそう言われたことがあるが、まさにその通りだと思う。
特に指揮者はそうだ。
オーケストラの演奏するすべての音を捉え、それらをより高く導かなければならない。
ただタクトを振るだけじゃダメなのだ。
「妹さん、今日も来ているのか?」
声をかけられ、その方向に振り向くと、今日の演奏をともにする女性が立っていた。
腰までの長さの黒髪、大きな瞳、整った顔立ち―――。要するに美人だ。
だが、天は二物を与えずというかなんというか。
彼女、立川要は外見とは裏腹にひどく男っぽいのだ。口調もしぐさも。
「ええ。期待に応えてやらないと」
俺は苦笑してタイを確認した。大丈夫、曲がっていない。
要さんはかなりの顔馴染みだ。仕事の都合で何度も会うし、家に来たりもする。
無論、春香も要さんのことをよく知っている。いいお姉さんだと思っているだろう。
まあそんな人だ。
「そうだな。兄の威厳をみせてやれ」
「それ、普段は俺が威厳がないような言い方じゃないですか」
「ははは!そうかもな。……よし、そろそろ時間だな。それじゃ」
「はい」
オーケストラは幕が上がる前に舞台上の席に座り、待機する。指揮者は後から入る。
一人舞台の袖に取り残され、俺は大きく息を吐いた。
照明と観客が待っている。……まずい、緊張してきた。
春香が待っている。……俺は心が落ち着くのを感じ、堂々と一歩を踏み出す。
ショータイムだ。
- 463 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:33:14 ID:jYER33Ji
- 幕が上がる。
舞台上にオーケストラの姿が現れた。かなめおねえちゃんの姿もある。
やがて舞台の袖からお兄ちゃんが歩いてきた。照明に照らされ、威風堂々と。
なのに、わたしはこんな場所で見守ることしかできない。
わたしはお兄ちゃんの重荷になっている。
けれど、そんなことは言えない。
わたしはお兄ちゃんの重荷であると同時に、心の支えなのだから。
自惚れじゃない。
わたしはお兄ちゃんのしぐさを一挙一動、見守った。
タクトが振り上げられる。
時が止まる。
いや違う。お兄ちゃんが時を律しているのだ。
タクトが振られる。
時は動き出し、音楽は時間との融合を試みる―――。
- 464 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:34:33 ID:jYER33Ji
- ……公演は成功だった。観客は総立ちだったし、満足してくれたようだ。
「ほう、退院したのか。それは良かったじゃないか」
市民ホールから少し離れたファミレスで、俺と春香と要さんは打ち上げに参加していた。
本来はもっと豪華な場所でしたりするのだが、ここは田舎だ。それは仕方ない。
というか、むしろうちのオーケストラは庶民的な輩が多い。……親父の影響だろうか。
ビールを持ち出したテーブルを尻目に、俺はジュースを飲み干した。
「ええ。こいつ、嬉しくて飛び跳ねてましたよ」
「お、お兄ちゃん!もうっ……」
赤面する春香。要さんは苦笑する。
「ははは。いいじゃないか。兄の前では甘えているようだな」
「そ、そんなことないですっ!わたしなんか、いつもお兄ちゃんに迷惑かけてばかりで……」
「女は少しくらい迷惑をかけたほうがいいのさ。なあ、真人」
「え?いや、それは俺にふられても……」
「なんだ甲斐性なしか?」
「か、要さん……」
昔からそうだが、この人には頭が上がらない。
「ほれほれ。酒でも飲め」
「俺まだ未成年ですって」
「いいから飲め。オレがお前くらいの頃はぐいぐい飲んでたぞ」
要さんは自分のことをオレという。……いや、要さん。あなたおいくつですか。
「アルコールはダメなんですってば!ほ、ほら、春香からも何か……って、寝るな!」
- 465 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:36:13 ID:jYER33Ji
- ファミレスを出て、夜風に体を預ける。火照った体には気持ちいい。
……結局、飲まされた。
「しかし……なんだ。相変わらずウソは下手だな」
春香を背負っての帰宅途中、要さんはいきなりそう言った。
「はい?」
「何を隠している?」
……はは。
本当に頭が上がらないや。
大丈夫。この人になら話してもいい。
「実は―――」
俺は少し酔っていたせいもあってか、春香の病気の調子をべらべらと喋っていた。
背中の春香は静かな寝息を立てている。
すべてを話したあと、要さんは深呼吸をした。
「この」
「この?」
「馬鹿野郎っ!!」
怒鳴られた。
「どうして早く言わないのだ!!馬鹿野郎!!」
「言えませんよ。簡単には。要さんだから話したんです」
ふっ、と要さんの表情が変わる。
「そうだな。……そうだった。すまない」
「いえ、いいんです」
俺たちは空を見上げた。月と星が輝いている。
「一人じゃないよ」
「え?」
「お前たちは、一人じゃないよ」
要さんはくすっ、と笑うと、背中の春香を眺めて呟いた。
「春香は一人じゃない。オレもお前もいる。オーケストラの連中だってそうだ。仲間だ」
「要さん…………」
「忘れるな、真人。お前には頼れる味方かいるということをな」
それだけ言うと、要さんはそれじゃと言ってきびすを返し、闇夜に消えていった。
- 466 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:37:32 ID:jYER33Ji
- 「春香、着いたぞ」
「……お兄ちゃん」
「なんだ?具合が悪いのか?」
「ううん。そうじゃないの」
「どうした?」
「…………春香、一人じゃないね」
「……ああ。今さら気づいたのか?」
「ううん。気づいてた。でも悲劇のヒロインを演じようとしてたのかも」
「ははは。そうかもな」
「だからね」
「ん」
「お兄ちゃんも一人じゃないから。もう抱え込まなくてもいいから」
「春香……」
「ありがとう、お兄ちゃん。大好き……」
口を閉ざし、春香は再び眠りに落ちた。
俺は玄関から再び空を見上げた。
妙な力強さが、そこにはあった。
あと、3日。
- 467 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/15 23:38:54 ID:jYER33Ji
- ('A`) もうこれ以上は無駄にスレ消費できない。
次回からお涙頂戴路線に入るので、どうかご容赦を…
- 468 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 23:49:08 ID:ChVamTqL
- くっ!目に涙が留まらなくなってきた!
- 469 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/15 23:58:49 ID:CT9VhLV6
- ……ええ話やわ〜。(感涙)
一日毎に貼られてくから毎日泣いてるよ俺…。
- 470 :前スレ931 :05/02/16 00:10:03 ID:y+5xjefp
- 遊星さんや海中さんの後に貼るのは心苦しいんすけど、忘れられるのが怖いので…
_______________________________
「んっと」
寝転んで思いを巡らすのに飽きた和人はベッドから起き上がった。
リビングに下りるが雪乃はいない。
そうだ、買い物に行ったんだと思い出して、ソファに腰掛けると時計を見る。
時刻は7時を15分ほどまわっていた。
いつも時間はきっちり守る雪乃とはいえ、気にしすぎかと自分を戒める。
が、和人は何か落ち着かないものを感じた。
もしまた発作を起こしてたら…
腰を下ろしたままあれこれ考えていたが、やがてゆっくりとソファから立ち上がった。
「え……」
戸惑う雪乃に馴れ馴れしい調子で近づくニット帽。
「今ヒマっしょ?俺らとカラオケ行かねー?」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら話しかける。
「いえ、その…ごめんなさい…」
足早にその場を立ち去ろうとした雪乃の腕を、パーカー男の太い腕がしっかと掴んだ。
「!」
「待ちなって」
何ら表情を変えることなく、低い声で言う。
「そーそー、ゆっくりしてけって。ちょーっと付き合ってくれるだけでいいんだよ」
キャップの男もけたけた笑いながら近づいてくる。
「いやっ…!」
男たちの放つ圧迫感に耐え切れず、雪乃は悲鳴をあげた。
そのときニット帽の男が、腕をつかまれたままの雪乃にすっと近づく。
ぱしんという乾いた音が暗い公園に響いた。
- 471 :前スレ931 :05/02/16 00:12:44 ID:y+5xjefp
- 「黙れって」
ニット帽はにやついた顔を崩すこともなく、雪乃を張った手を泳がせた。
雪乃は頬に走った衝撃に、一瞬何が起こったかもわからないままへたりと座り込んでしまう。
「あ……」
立ち上がろうとしても膝に力が入らない。
胸の辺りに重たい痞えがあらわれたように、声も出なくなる。
「静かにしてりゃすぐ済むって」
誰かがそう言うと同時に、三人の男たちの顔に下卑た笑みが浮かんだ。
その時
「!!?」
ざざっと地を駆ける音が響き、次の瞬間ニット帽の男が吹き飛んだ。
「雪乃ちゃん!」
「…にい……さん」
ニット帽の背中に思い切りドロップキックを浴びせたのは和人だった。
「逃げるよ!」
突然のことに驚いた周りが膠着している間に、和人は雪乃の手をとり走り出そうとした。
しかし、
「…あっ」
雪乃は立ち上がることすら出来ずに崩れ落ちてしまう。膝が震えて動かないのだ。
「しまっ…」
和人がそう言いかけた時、パーカー男が巨体に似合わぬ俊敏な動きで走り寄るのが
一瞬目に入った。そして
「が…!」
パーカーは和人の鳩尾に岩のような右拳を打ち込んだ。
- 472 :前スレ921 :05/02/16 00:13:09 ID:gi7pBp3d
- 相変わらず素敵です(´∀`)
日常で汚れる心が浄化されるー(笑
明日からはハンカチ用意しときまつ。
あ、もし希望する方が居ましたら、プロローグぽいやつも貼ります。
て居ませんよね('A`)
- 473 :前スレ931 :05/02/16 00:15:36 ID:y+5xjefp
- 体を貫く凄まじい衝撃に和人は悶えて地に伏せる。
その横で、和人に蹴飛ばされたニット帽がゆっくりと立ち上がった。
和人をねめつけるその目は憎悪と怒りで真っ赤に染められている。そして
「このクソがぁっ!!」
怒号とともに、倒れている和人を狂ったように蹴り飛ばしはじめた。
「糞っ!クソっ!死ねや!死ね!死ね!」
顔を、腹を、背を、ニット帽のつま先がえぐるたび和人は声にならない悲痛なうめき声を漏らす。
「殺すなよーユージ君?あとがメンドーだからさ」
キャップの男がケータイを覗き込みながら言った。
「知ったこっちゃねえよボケ!!」
和人の頭を踏みつけにしながら怒号を飛ばすニット帽。
「こんな程度で死ぬか」
そう言うとパーカー男も、和人の顔面を蹴りつけた。
「んぐっ…」
和人の口の中はかみそりで切られたようにズタズタになっていた。
唇の端から血がつつとたれる。
視界に霞がかかり、もはや自分が何を見ているのかもわからなかった。
しかし、朧な視線の先にただひとつ確かなものをとらえる
座ったままがくがく震えている雪乃の姿だった。
和人はありったけの声――実際には蚊の鳴くような声だったが――で叫ぶ。
「……ゆき………の…ちゃ……逃げ…ろ…」
しかし雪乃は動けない。
彼女の心の奥底に繋がれた錆びた鎖は今なお、その体をも繋ぎ止めて離そうとはしなかったのだ。
- 474 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 00:17:58 ID:SN4wM2aa
- よし!パーカーの男
こ ろ し に い く わ !
って思うくらいいいできですね
- 475 :前スレ931 :05/02/16 00:19:45 ID:y+5xjefp
- 「逃げろじゃねーっつのタコ」
和人のわき腹に蹴りを入れながらせせら笑うニット帽。
海老のように丸まってもがく和人の無惨な姿に少し気が晴れたのか、男達は次の標的――雪乃に目を向けた。
彼らの放つおぞましい視線に、雪乃は後ずさる。
しかしそんな態度もよけいに男達の嗜虐心を煽るだけだった。
始終にたにた笑っていたキャップの男が、懐から無機質な鉄の塊を取り出しながら
雪乃の近づき腰を落とした。
「怖い?」
顔に亀裂のような笑みを浮かべて、心底意地の悪い声で尋ねた。
手元の鉄の塊から刃を引き抜き、雪乃の前に晒す。
かざされたナイフの冷たく重たい輝きに、雪乃は硬直した。
「そーそー、大人しくしてるんだよ〜」
白刃の放つ妖しい輝きに射抜かれたかのように身動きできない雪乃のコートのボタンを
キャップ男はひとつずつ切り落としてゆく。
「あは」
狂った獣のような声がキャップの口から漏れた。と、
「や…め……ろぉ!」
突然和人は踏みつけていたニット帽の男の足を払いのける。
無様に転ぶニット帽を尻目に、和人はキャップ男に走りよって突き飛ばし雪乃の前に立ちふさがった。
- 476 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 00:20:50 ID:y+5xjefp
- 「この子には……触れさせない…!」
しかしすぐさま起き上がったニット帽は血走った目で和人を睨み付ける。
「ざけんなゴミがぁ!」
ニット帽は和人を横合いに思い切り殴りつけると、倒れた体に馬乗りになる。
そして懐からバタフライナイフを取り出すと逆手に構えて天にかざした。
「にいさん!」
「?!」
雪乃は震える身体を奮い立たせ、いきなりニット帽のナイフを持った腕に飛びかかった。
必死に腕にしがみつく雪乃。しかし
「邪魔だっ!」
男の勢いに振り解かれ、そのか細い体は壁に叩きつけられる。
「ぁ…ぅ…」
「雪乃!」
ニット帽は悲痛な声を上げる雪乃から視線を和人に戻す。
最早その血走った目に宿るのは唯ただ狂気のみだった。
「死ねや」
男は凍えるように冷たい声で言い放つと、唇をきゅうとつり上げた。
そのときだった。
宵闇を切り裂くような強く澄んだ風が、公園内を駆け抜けた。
「やめろ」
それは静かな声だった。
- 477 :前スレ931 :05/02/16 00:23:00 ID:y+5xjefp
- その場にいた者全てが声のした方を振り返る。
夜で満たされた公園内に、闇を纏う2つのシルエットがあった。
不意に雲の切れ間から覗いた満月の光に照らされ、影の主が浮かび上がる。
ひとりは少女。栗毛のショートヘアをした美しい少女。
ひとりは青年。静かな、しかし激しい怒りをその目に宿す青年。
「やめろ」
青年はもう一度口を開いた。
一見女性とも思えるような優男の青年が発したその言葉はしかし、その場にいた
男達を沈黙させるに十分な威圧感を持っていた。
月光を浴びて立つ青年の姿を認めた和人は、よく見知ったその名を呼んだ。
「れ………ん…」
- 478 :前スレ931 :05/02/16 00:26:53 ID:y+5xjefp
- 何故かあがっちゃったっす…すいません… OTZ
一応ここまでにしときます
もし眠らずにいられたら今夜中に残り投下しますね
(さっさと自分の消化しないと神の邪魔になっちゃうんで…)
- 479 :前スレ921 :05/02/16 00:33:25 ID:gi7pBp3d
- >>前スレ931氏
乙です!!
申し訳ない……SSの途中にカキコっちまった……orz
不覚……
- 480 :前スレ931 :05/02/16 00:42:51 ID:y+5xjefp
- >>479
いえとんでもないっす
プロローグ楽しみに待ってますよう
>>474
あんまり気分いい展開じゃなくてすんません…
- 481 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 00:49:47 ID:xsc/15bI
- >>480
ほんとに
ネ申すぎますな!!
- 482 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 01:11:16 ID:ww+h8xNV
- もう素晴らしい作品ばかりで
つづきが気になって気になって寝れなくて寝不足気味ですよ……
- 483 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 03:09:17 ID:YKj41IZf
- おれなんか確実に忘れられてるぜ! 神々、超お疲れ夏!
あー、寝ちゃったかな。 起きろ! K神! がんがりなさい!
- 484 :コンズ :05/02/16 03:37:24 ID:nsB2sVfc
- 遊星すゎん、海中時計すゎん、前スレ921すゎん、前スレ931すゎん、乙です!萌えさせていただきました!!続きを期待しております!!
前スレ921すゎん>プロローグお願いしまふ!
- 485 :前スレ931 :05/02/16 23:45:17 ID:bERi+v2a
- よかった…とりあえず今回は海中さんの邪魔にならずにすみそう
昨日寝ちゃったもんで、今夜こそ続きいきますね
- 486 :前スレ931 :05/02/16 23:46:26 ID:bERi+v2a
- 最初に硬直を解いたのはキャップの男だった。
「なんだお前。刺されたいの?ねえ」
手に持ったナイフを蓮に向け、ゆっくり近づいてゆく。
蓮はその姿を見ると、隣の少女に向けて言った
「柚葉、あの子を」
その言葉に、柚葉と呼ばれた少女はうなずくと雪乃の元に走りよってその手をとった。
「キミ、大丈夫?立てるかい?」
突然の展開に唖然としていた雪乃はその言葉に我に返った。
「あ…はい…」
一生懸命立ち上がろうとする。
「ボクと一緒にちょっと離れてるんだよ、危ないからね」
「で、でも…!」
にいさんと鷹梨さんが…そう言い掛けた雪乃に
「大丈夫」
少女は胸を張って自信たっぷりに言った。
「蓮にいは強いんだから!あんなやつらに負けたりしないよ」
「なあ。ナメてんのかお前。なあ?」
挑発的な口調で蓮の顔先にナイフをかざすキャップの男。
その刃先が蓮の頬に触れようとした時
「!!!」
刹那の出来事だった。
蓮はナイフが握られた方の腕を一瞬の内にとって捻り、キャップの男を地面に叩き伏せた。
そして間接を極めたままその肩に足をかけ、もう一度ぐいと捻った。
ごきり
といやな音がした。
「ぃあアぁaァ亜ァぁァあァ!!!」
肩をはずされたその痛みに、キャップ男は薄汚い叫び声を上げて転がりまわる。
蓮はそんなキャップ男の首の後ろを目掛け、横蹴りを止めとばかりに打ち込んだ。
キャップはびくんと一瞬跳ねると、やがてぴくりとも動かなくなった。
- 487 :前スレ931 :05/02/16 23:48:11 ID:bERi+v2a
- 辺りは森閑と静まりかえった。
残された男たちは顔を見合わせる。
人間としての本能が、彼らに万に一つの勝ち目もないことを伝えていた。
だが悲しいかな。
彼らはそれに従えるほど冷静でも、そして賢明でもなかった。
「シッ!」
短く息を吐きながら地を蹴り一瞬で距離をつめたパーカーが、疾風の勢いの左ジャブを蓮の顔面に向かって繰り出す。
蓮はそれを頭の動きだけで避ける。耳元を通り過ぎた拳がびゅんと風切音を鳴らした。
次いでハンマーのような右ストレート。それは顔面を確実に捉えたかに見えた。
しかし
蓮はストレートを右の腕部で凪ぐように受け流しながら相手の右側へステップイン、
同時にガラ空きの脇腹に強烈な左フックをめり込ませた。
ぼごんという鈍く重たい音が響き、蓮の左拳には骨を叩き折った感触が鮮やかに残る。
「げぇ…ぁ…」
予期せぬ衝撃と痛み、そして肋骨を折られたという意識が、パーカーから戦意を完全に
そぎ落とした。
一瞬前まで軽快なフットワークを刻んでいた膝はがくりと折れ、地に着く。
だが蓮は容赦しなかった。
脇を抑えて呻くパーカーの顔面に思い切り膝蹴りを叩き込む。
奇妙にひんまがった鼻から血を噴き出しながら、パーカーは地面に崩れ落ち、
動かなくなった。
蓮の怒りに燃えた目は最後に残ったニット帽の男に向けられる。
- 488 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/16 23:49:27 ID:PPU/yGED
- (゜Д゜)カッコイイ!!
- 489 :前スレ931 :05/02/16 23:50:18 ID:bERi+v2a
- 「ひっ」
今度こそ、ニット帽は慄いて悲鳴をあげた。
醜態を晒す男に、蓮は一歩一歩ゆっくりと近づいてゆく。
狼狽しながら辺りをせわしなく見回すニット帽。その視界の隅に二人の少女が眼に入った。
雪乃と少女は男の目線にぎゅっと身を引きしめる。
「!しまっ」
蓮がニット帽の、そのあまりにも愚劣な意図に気付いたときは遅かった。
ニット帽はにぃぃっと下卑た笑みを浮かべると、彼女らに襲い掛からんと走り出す。
そのとき
「!?」
急に何かに足をとられ、無様に地を舐めた。自分の足元に目を移すと、自分が先ほどまで蹴り続けていた男の右手が自分の左足を万力のように締め上げているのが見えた。
「テメェっ!は、離せコラぁ!」
ニット帽は和人の頭を片足で何度も蹴り飛ばすが、その手は決して離れようとはしない。
そして和人が右足も掴んでゆっくりと立ち上がったとき、ニット帽は自分がこれから何をされるのかを正確に理解した。
「や…やめろっ」
ひりついた声で哀願するが和人の耳には届かない。
和人はすうと大きく息を吸うと
「うおぉぉおぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ニット帽の両足を抱え込んだまま、独楽のように回転を始めた。
独楽の先端から悲鳴が上がるが、回る勢いは止まらない。
そしてどごんっという激しい音と共に独楽が電灯に叩きつけられると、
潰れた虫のように地面に落ちたニット帽は二、三度痙攣し、やがて沈黙した。
「ぷはぁっ…はぁ…」
肩で息をしながら地面に倒れこんだ和人に蓮は歩み寄って声をかけた。
「おみごと」
「どーも…」
にやりと笑いながら返答すると、和人は差し伸べられた蓮の手に甘えた。
- 490 :前スレ931 :05/02/16 23:58:24 ID:bERi+v2a
- _________________________
「…悪いね、蓮。また肩借りちまって…」
「まったくだ。次からは貸し賃取るから覚悟しとけ?」
「世知辛いねぇ…」
帰りの夜道で軽口を叩き合う青年たちを、少し前を歩いていた二人の少女は振り返った。
「いーお兄さんだね♪」
傷だらけの和人の様子をみた柚葉は、俯く雪乃の顔を覗き込むようにして言った。
「…はい」
悲しそうな、うれしそうな、様々な感情が入り混じった顔で雪乃は小さく答えた。
「雪乃ちゃん」
突然の和人の呼ぶ声に、雪乃はふっと振り向いた。
「雪乃ちゃんは大丈夫だったかい?」
「私は平気です。それよりにいさんの方が…」
「俺はだいじょぶだって。丈夫いからねぇ俺は」
「丈夫い、ねぇ…」
やせ我慢をする和人の様子に蓮はくっくと笑いをこらえた。
「何が可笑しいんだよ蓮。てか何でお前、あの時あんなトコにいたわけ?」
「いや、柚葉にせがまれてさ。食事がてら映画見に瑠々伊駅来てたんだよ。
それでついでに公園に寄ったら…ってわけ」
「ついでに公園に?何でまた?」
「ん?あー…その…」
言葉に詰まる蓮に変わって柚葉が代わりに話を進めた。
「あの公園はね、ボクと蓮にいが結ばれた思い出の場所なんだよ♪」
「むっ…結ば…れ…?」
聞いていた雪乃の顔が真っ赤になる。
「な、なに口走ってんだ柚葉!いや違うぞ和人、その…」
「おやおやまあまあ。やっぱりそーゆーことだったんですね?蓮君。参ったねぇこりゃ」
「いや勝手に参るなそこコラ!」
月夜の晩に四人の嬌声が響いた。
- 491 :前スレ931 :05/02/17 00:02:05 ID:KlB7x/MG
- 夜空を覆っていた雲は晴れ、満月が辺りを照らしている。
結晶をちりばめたかの様な星空を見上げる蓮に、和人は言った。
「…ありがとな、今日は」
「なに。大したことじゃない」
蓮は顔を上げたまま答えた。
「あの時」
和人は冗談めかして言う。
「俺にはお前がジークフリートに見えたよ、蓮」
「バカ言え。俺は舞台をかき乱しただけだよ」
「デウスエクスマキナってか?気取っちゃってまあ…」
「ブリュンヒルトを守ったのはお前さんだよ」
蓮の科白に和人は、少し前を柚葉と並んで歩く雪乃を見つめる。
そして天を仰ぐと、淡く輝く満月に手をかざしながら呟いた。
「我ながら頼りない英雄だよ……まったく」
- 492 :前スレ931 :05/02/17 00:07:59 ID:KlB7x/MG
- とりあえず今はここまでっす
- 493 :雨音は紫音の調べ ◆cXtmHcvU.. :05/02/17 00:12:38 ID:kwDjySo7
- リアルタイムで!
初めてリアルタイムで読みました!!
ありがとうございますっ!
- 494 :前スレ921 :05/02/17 00:27:15 ID:1fTUDrHw
- 二日連続のリアルタイム(・∀・)
乙です〜。
ニヤニヤしちゃう('A`)
俺もそろそろ貼りますね。
とりあえず昨日の続きをあと2、3日くらいで貼ってその後プロローグ、エピローグ貼りますね。
- 495 :前スレ921 :05/02/17 00:28:53 ID:1fTUDrHw
- 夕飯の仕度をしながら夢亜が降りてくるのを待つ。
仕度と言っても、既に夕飯は作り終えてるから箸や皿を運ぶだけだ。
そうこうしてる内に夢亜が降りて来た。
整った顔立ちに透き通るような白い肌、身長は150程度、天然でマイペースなところがある。かなり華奢な体格だ。
ちなみに今日の服装は黒のパーカー、赤と黒のチェックの短めのスカートにニーソックスだ。
「あれー?お父さんはぁ?」
「俺の記憶が正しければ昨日から出張のはずだが。」
「そうだったね。忘れてたよ」
リビングの火燵に収まってまだ少し眠そうに会話を続ける。
- 496 :前スレ921 :05/02/17 00:31:25 ID:1fTUDrHw
- 「自分の父親の事を忘れる妹を持ってなんて兄さん悲しいぞ。小さいのは体だけにしてくれ」
「なっ…私の体は関係ないでしょっ!!そんなコトより早くご飯!!」
そんなコトとは夢亜の体の事なのか父親の事なのか、問いただしたいところだ……
今日のところは火燵をバンバン叩いている育ち盛りの為に夕飯にしてやろう。
「それにしても寝起きですぐご飯食べられるのか?今日はなんとカレーだ!」
「もっちろん♪カレーは夢亜ちゃんの大好物だよぉ♥」
他愛のない会話をしながら兄妹二人で夕飯を食べた。
- 497 :前スレ921 :05/02/17 00:32:59 ID:1fTUDrHw
- 「いやぁ〜、やっぱりお兄ちゃんの作ったカレーは最高だよ〜♪満腹満腹♥」
「そう言って貰えると作った甲斐があるってもんだ。じゃ、片付けは頼んだぞ。」
「はぁ〜い♪お兄ちゃんはテキトーに寛いでて〜」
夕飯も食べ終わり、片付けは夢亜の仕事だ。
普通は逆なのだろうが、夢亜は不器用だ。
夢亜もあまり自分からは料理はしようとしない。
そのかわりこうして片付けや掃除は進んでやってくれる。夢亜は夢亜なりに気にしているんだろう。
- 498 :前スレ921 :05/02/17 00:35:17 ID:1fTUDrHw
- 「夢亜のおかげで食後に楽ができて俺は幸せだよ。じゃあ俺はゆっくりテレビでも見させていただくよ。」
と、さりげなくフォローをしつつテレビをつけた。
夢亜は台所で洗い物をしてるのでもちろん大きめの声で話した。
が、返事が来なかった。まぁ聞こえなかったのなら聞こえなかったでいいだろう。
俺は火燵に潜り込み黙ってテレビを見る事にした。
テレビでは調度夜景の特番がやっていた。星が綺麗なところを紹介する特番らしい。
俺は夜空もそうだが昔から空を見るのは好きな方だ。
- 499 :前スレ921 :05/02/17 00:36:48 ID:1fTUDrHw
- 火燵の暖かさもあってか、ぼーっとしながら暫くテレビを眺めていると夢亜が片付けが終わったのだろうか、台所の方が少し騒がしくなった。
「はーい!食後のおっ茶でっすよ〜♪」
「おぉ、サンキュー。気が効くなぁ」
「食後にゆっくり出来て、お茶まで出てきて、可愛い妹を持って幸せでしょ〜♥」
片付けが終わった夢亜が二人分のお茶を持って俺の隣に割り込んできた。
随分とご機嫌なようだ。
さっきの言葉はしっかり聞こえていたらしい。
こんな事で機嫌が良くなるなんて可愛い妹を持ったものだ。
- 500 :前スレ921 :05/02/17 00:38:44 ID:1fTUDrHw
- だが俺はそんな事を素直に言うような出来た人間になった覚えはない。
「狭い。」
「そんな事ないよ!私痩せてるからねー♪それに、ここに座った方がテレビが見やすいんだよ♪」
夢亜は俺がからかおうとしたのを上手く返したと思い、得意な顔になってみせた。
甘い。
「そうだなー。夢亜は痩せてるもんなぁー。胸とか」
夢亜の顔が一気に赤くなる。漫画ならボッ!!と擬音が出てるだろう。
「な…べ、別に大きければ良いってもんでもないもん!!」
「じゃあ小さい方が良いのか?」
「う……それは……やっぱり、大きい方が良いのかなぁ……?」
- 501 :前スレ921 :05/02/17 00:40:12 ID:1fTUDrHw
- なんて単純なんだ……
「冗談だ。小さくても可愛いと思うぞ。」
「……ホントに??」
頬を赤らめながら上目使いに怖ず怖ずと聞いてくる。
この顔はやばい。さっさと話題を変えるべきだな。
「あぁ。大きければ良いってもんじゃない」
夢亜は顔を上げ、満面の笑みになる。
勢いよく顔を上げたせいで体も動いて火燵が少し揺れた。
「そうだよね!!さっすがお兄ちゃん!わかってるぅ♪」
「ところで夢亜、テレビ見る為にここに座ったのに見なくていいのか?」
- 502 :前スレ921 :05/02/17 00:42:30 ID:1fTUDrHw
- と言ったが実はもうとっくに終わっていて、テレビではホッカイロのCMが流れていたりする。
元々夢亜が来た時にはもう番組も終盤だったが。
「あぁーっ!!終わってる……そんなぁ……」
表情がころころと変わる夢亜は見ていて飽きない。
- 503 :前スレ921 :05/02/17 00:45:16 ID:1fTUDrHw
- 火燵に顔を乗せるかたちになっていてわかりずらいが、夢亜の顔は少し膨れていた。
「お兄ちゃんのせいだよぉ…お兄ちゃんが変なコト言うから夜景見れなかったよぅ……」
夜景の特番が終わってから暫く経つが、夢亜はまだふてくされている。
そんな事を言いつつもちゃっかり未だに俺の横に座っている。
「だから悪かったって。」
もう何度謝っただろうか。二人ともすっかりお茶も飲み干し、暇を持て余している。
夢亜は火燵の中で足をバタバタさせたり、火燵に乗っている顔を膨らませたままぶつぶつ俺の文句を言ったりしている。
- 504 :前スレ921 :05/02/17 00:47:50 ID:1fTUDrHw
- 「ごめんで済んだらこの世には警察も法律も殺し屋もいらないよ……」
殺し屋は全く関係ないと思うのだが、ツッコミを入れるのは間違いだろう。
「じゃあデザートをおごってやるよ。これならどうだ?」
夢亜は大が付いても足りない程の甘党だ。これで大低は機嫌を治す。
現に言った瞬間表情が緩み足のバタバタも止まっている。
「うーん…どうしようかなぁ……」
……おかしい。普段はこの一言でケリがつくのだが、今日はいまいち効き目が薄いようだ。
「とりあえず夢亜に損はないんだし、今から買いに行こう?」
「うん。そうだね…」
- 505 :前スレ921 :05/02/17 00:51:48 ID:1fTUDrHw
- 今日はここまで。
……てこんなヘタレが500踏んじまったorz
清次郎の人っていなくなっちゃったんスかねぇ……
降臨キボン
- 506 :雨音は紫音の調べ ◆cXtmHcvU.. :05/02/17 00:54:07 ID:kwDjySo7
- またしてもリアルタイムで!
今日の僕はものすごく付いてる!!
ありがとうございます!
- 507 :前スレ931 :05/02/17 02:19:54 ID:KlB7x/MG
- 最後です
____________________________
「よいしょ…痛っ…てて」
蓮たちと別れ、家に帰った和人はソファににぐったりともたれた。
「…ちょっと沁みますけど、我慢してくださいね」
雪乃は擦り傷だらけの和人の顔をそっとぬぐう。
「ふう。まったくあいつら、無茶苦茶やんなぁ」
ぼやくように言う和人の傍で、雪乃が目を伏せた。
「…ごめんなさい………わたしの…せいで…」
途切れ途切れに言う彼女を見て、和人は呟く。
「雪乃ちゃんのせいじゃない。それに…」
目を伏せた。
「俺は…何もしてないよ。出来なかった」
「そんなことないです。にいさんは私を…」
「俺は無力なんだよ」
雪乃の言葉をさえぎり、和人は自嘲した。
「結局雪乃ちゃんを守れなかった。つらい思いさせて…はは、何が英雄だ
御笑い種もいいとこだよ」
「…」
- 508 :前スレ931 :05/02/17 02:25:07 ID:KlB7x/MG
- 「優だって………あの子は…俺が殺したも同然だよ。あの子の苦しみも寂しさも辛さも
わかってたのに…俺が守ってやらなきゃいけなかったのに…俺は逃げたんだ。
あの時…何もしなかった自分に後悔してたはずなのに…今度は雪乃ちゃんまで傷付けて、
守ってやることも出来なくて……俺は…」
そこまでいいかけて
不意に唇に走った暖かく柔らかな感触は、和人から言葉を奪った。
それが雪乃からのキスだと気付くのには少し時間が必要だった。
「…!」
そして永遠とも思えた一瞬の後
その唇は、名残惜しそうにゆっくりと離れた。
「ごめんなさい…」
雪乃は消え入りそうな声で言った。
- 509 :前スレ931 :05/02/17 02:27:24 ID:KlB7x/MG
- 「私…ずっと不安だった……私は優さんの代わりなんじゃないかって……でも…それでもよかったんです…
…にいさんはずっと私を守ってきてくれたから…」
ずっと内に秘めていた想いが、言葉が、堰を切ったように溢れ出る。
「だけど…もう我慢なんてできない。誰よりにいさんの近くにいたい……にいさんの
傷を癒してあげられるようになりたい…にいさんが私にしてくれたみたいに……
…だから」
顔を上げ、涙をいっぱいにためた鳶色の瞳で、雪乃は和人を見つめた。
「…ずっと…傍にいてください……」
瞑った目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
和人はその真摯な瞳を受け止めていたが、ふいにふっと目線を下げた。
「俺は…」
下を向いたまま呟く。
「ずっといろんなものから逃げ続けて……それでいろんな人を傷つけて……だから俺はそれをずっと背負って生きなきゃいけないんだと思う……でも」
すうと大きく息を吸う
「………それでも…もし許されるなら」
「…あ」
硝子細工のように華奢な雪乃の身体を、和人はそっと引き寄せ抱きしめる。
「ずっとこうしていたい」
「にい…さん……!」
「俺が雪乃を守るよ……もう…二度と後悔しないために…」
「………はい…………」
拭えども拭えども溢れ出る涙にぬれた雪乃の頬を、和人が指でそっとなぞると
二人は再び口づけを交わした。
そしていつまでもいつまでも
夜が明けるまで抱きしめあっていた。
- 510 :前スレ931 :05/02/17 02:31:27 ID:KlB7x/MG
- …………………………………………………………………………………………………………
その日見た夢を 俺は決して忘れない
始まりは いつものような白い闇
しかし
闇は まるでそれが幻であったかの様に消え失せる
そして瞳に映し出された世界は いのちで溢れていた
ぬけるような青空に浮かぶ雲はどこまでも高く
地をなぜる風は優しく穏やかで
世の果てまで続く紺碧の草原を太陽は鮮やかに、暖かく照らしていた
そんな世界の真中に
彼女は──まるで一輪の花の様に──美しく咲いていた
「優」
- 511 :前スレ931 :05/02/17 02:32:32 ID:KlB7x/MG
-
俺の呼ぶ声に、彼女はゆっくり顔を上げた
柔らかな唇の動きが 言葉を編んだ
「泣かなくても いいんだよ」
その言葉に
俺ははじめて 頬を滴が伝っていることに気付いた
驚きと安堵が生まれた
ああ 俺の涙は 枯れて果ててなんかいなかったんだ
いつのまにか 拭いきれないほどの涙が目に映る景色を虚ろに染め上げていた
わかっていた
彼女と言葉を交わすのは これが最期だということを
朧な視線の先で 優はそっと言葉を紡いだ
それはわかれのことば
俺は答えを返すことが出来ない
胸の奥に何か詰まってしまったかのように 声を出せない
言わなくちゃいけないのに
答えなくちゃいけないのに…
そのとき
俺のすぐ傍に 暖かな ひとの温もりを感じた
そうだ 俺は……俺には
- 512 :前スレ931 :05/02/17 02:33:49 ID:KlB7x/MG
-
「守ってあげたいひとがいるんだ」
気付けば 言葉はあふれていた
「非力な俺を必要としてくれたひとがいるんだ…」
「こんな俺でも…愛してくれたひとがいるんだ……!」
嗚咽にむせぶ俺の言葉は ちゃんと届いていただろうか
「お前のために泣くのはこれで最後にするから……だから」
だから涙は拭かない
「…さよなら」
それはわかれのことば
滲みゆく世界の中で
まばゆい輝きに照らされながら
優は太陽のような笑顔で
俺がずっと思い出すことの出来なかった その笑顔で
ちいさくそっと手を振った
- 513 :前スレ931 :05/02/17 02:37:20 ID:KlB7x/MG
- 終わりです…
長いこと付き合って下さってありがとうございました
- 514 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 02:43:31 ID:Jploycs3
- なんてこったーーーー!!
GJ持つ彼神様!! この野郎!!
全然長くなんか感じなかったぞ!! もっとだ!! もっとよこせ!!
(´・ω・`)ハイハイ
とにかく乙可憐様々!! あんた最高!! あいしてる!!
- 515 :前スレ921 :05/02/17 02:45:35 ID:1fTUDrHw
- 激しく乙です!
涙を流さずにはいられねぇ(。つд;`)
- 516 :('A`) 清次郎の人って自分ですか? :05/02/17 03:09:59 ID:Jploycs3
- そういえば誰かが呼んだような・・・。 ずっといましたけどー。
SSは貼ってませんがー。
- 517 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 03:27:32 ID:UdHGKjV2
- >>516
あなたはもしやおっぱいのかたですか?
- 518 :Σ('A`) :05/02/17 03:40:49 ID:Jploycs3
- おぱい?!
えと、多分そう。
- 519 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 03:48:56 ID:UdHGKjV2
- >>518
よかったですあってて
俺は5人(正確には6人)の創造主です
SS期待してますよ
- 520 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 03:58:16 ID:Jploycs3
- ('A`)キタイサレチャタ・・・。
んでも暫くはネタもないんで神々のSS見てます。
いやネタならいくらでもあるんだけどあのヒトらに混じって貼れるようなモンでもなし。
彼らのSSが終わったら保守代わりにでも貼っときます。
だから安心して! 神々のは荒らさない素直なヒト! 暫くは貼らないから!
- 521 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 04:01:30 ID:UdHGKjV2
- た、じゃなくて(′A’)さん
自信をもってください
無理ならエロ版に
- 522 :コンズ :05/02/17 04:18:30 ID:KJeDfM3c
- 513>乙だす!次回作期待してますっ!
もう誰でもイイから書いて暮れぇぇ〜い!!
- 523 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:52:44 ID:FvZh8m1m
- 最期の日まで、あと3日。
太陽が一番高くのぼった頃、俺は病院を訪ねていた。
見慣れた白いドアをノックすると、すぐに返事が返ってきた。ドアノブを回す―――。
「やあ」
春香の担当医は片手を上げ、俺に力無く微笑んだ。
「どうも」
軽く答えてから、差し出されたイスに腰をおろす。
「……妹さんの調子はどうですか?」
「最近は良いです。それでも時々、苦しそうな素振りを……」
「そうですか……。今、どこに?」
「姉に預けています」
「姉?お姉さんなんておられましたっけ」
「はあ……まあ、姉みたいな人です」
「そうですか。……話が逸れましたね。それで、妹さんの病気のことなのですが―――」
「何か分かったんですか!?」
思わず身を乗り出してしまう。担当医は苦笑し、それから重い口を開いた。
「……いいえ。やはりあと3日が限界です。それ以後は再びこちらに置かせてもらいます」
「そうですか……」
少しでも期待していたために、がくっと肩の力が抜ける。
「申し訳ない。君から両親を救えなかった挙句、妹さんまで……」
「いえ……仕方ないですから」
仕方ない。
本当にそうなのか?
お前はそう言って、すべてを諦めているんじゃないのか。
春香に後悔のない人生を送らせる、だと?
それは単に諦めてくれ、ということじゃないのか。
俺たちはうなだれたまま、しばらく黙り込んでいた。
- 524 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:54:15 ID:FvZh8m1m
- 「かなめおねーちゃん!今のずるいよ〜っ」
「ははは。対処できなかった春香が未熟なのだ」
「む、むう……。あっ!?またそんなところをっ!?」
「ほれほれ」
「ああっ……やだ……やめてよぉ……」
「ほれ、どうした?いつも真人にやられているんじゃないのか?」
「お、お兄ちゃんはそんなことしないもんっ!!」
「なんだ?まだなのか。つまらんな。……今度、真人に教えてやるか」
「え?」
「春香の弱点を真人に教えてやる、と言ったんだ」
「えええっ!?や、やめてよぉ!!」
「はははっ!!ほら、行くぞ!!」
- 525 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:55:28 ID:FvZh8m1m
- 原因不明の心臓病。万一、発作が起きれば助からない。
俺は担当医に言われた言葉を、頭の中で何度も反芻していた。
状況はあの時からちっとも変わっていない。
空を見上げた。……白いな雲がゆっくりと流れている。
「……いいよなぁ、お前は」
コンビニ弁当の入った袋を掲げ、ぶらぶらと堤防を歩いていく。
「ただ下界を見下ろすだけだもんな。苦しみも悲しみも、何もないもんな」
『そんなことないよ』
声が聞こえた―――ような気がした。
「え?」
『私たちが見下ろせるのは、あなたたちの世界だけだから』
俺は顔を上げた。真っ白な雲がふわふわと泳いでいる。
「……幻聴?」
『嫌でも、目を背けることはできないの』
嫌でも目を背けることができない。
その通りだ。オレは春香から目を背けることはできない。それでも……。
「それでも……俺にはどうしようもないんだ……」
『そんなことないよ』
透き通った、よく響く声は淡々と聞こえてくる。
「……え?」
『真人君ならきっとできるよ』
これはもう、幻聴じゃない!
「だ、誰なんだっ!?お前、どうして俺を知っているんだ!?」
『私は―――』
何か。
ひどく懐かしい声を聞いたような気がした。
急に世界が大きく傾き、重力が無くなったかのような錯覚を覚え……。
「あ」
俺は堤防を転げ落ちていた。
- 526 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:56:41 ID:FvZh8m1m
- 「ただいま」
俺はよろよろと玄関に倒れこんだ。ぱたぱたと足音が近づいてくる。
「おかえりっ、お兄ちゃ……だ、大丈夫っ!?」
「ああ……平気……」
「どうした、春香?なんだ真人か。おかえり」
「ただいま」
重い体を起こし、ふと春香に訊いてみる。
「あのさ、春香。俺たちがものすごく小さい頃、知り合いに女の子なんていたっけ?」
「女の子?」
春香は少しだけ悩んだような素振りをみせ、
「かなめおねーちゃんのこと?」
と言って、首をかしげた。要さんはきょとん、と目を丸くしている。
やっぱり……知らないか……。
「なんでもない。春香、いい子にしてたか?」
「うんっ!春香、いい子にしてたよっ♪」
「要さんに何かされなかったか?」
「……された……」
なんですとっ!?
「か、要さん!?」
「いやあ……なかなか春香もやるよ」
なに!?その意味ありげな目配りは!?
- 527 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:57:54 ID:FvZh8m1m
- 春香と要さんは格ゲーで対戦していて、悪質なハメをされ、春香はへこんでいたらしい。
……良かった。ちょっと残念というか、いや、とにかく良かった。
「ふむ。オレは真人が何を想像していたのか気になるな」
……この人は。
「お兄ちゃん?なに考えてたの?」
「ん、なんでもないよ。ほんと」
それから春香の用意してくれたお茶を飲み、一息つく。
「お兄ちゃん……どうだった?」
「ん……特に何も」
「そっか……」
特に何も、とは何も成果はなかった、ということだ。
……くそっ!!春香をどうにかして救えないのか?
あと3日で春香は病院に戻る。そうなれば、春香は死ぬまで病室にいることになる。
それはまさに生き地獄といっても過言ではない。戻れば終わりなのだ。
ハッ……何をいまさら。そのために、担当医は春香をうちへ帰したんだろう?
俺に何かできるわけがないだろう。身の程知らずのガキめ。
「お兄ちゃん」
顔を上げると、春香はにへっと笑った。
「わたし、お兄ちゃんの妹だから。考えてることなんて、すぐに分かっちゃうから」
そう言って、俺の頭を自分の胸に押し付けた。優しく髪を撫でてくる。
「大丈夫。お兄ちゃんのせいじゃないよ」
「春香……」
その、すべてが、愛しい。―――俺はそれを諦めることなどできなかった。
「オレの立ち入る隙が無いぞ……二人とも」
- 528 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 04:59:35 ID:FvZh8m1m
- 夜。要さんが帰ったあと、俺と春香は遅めの夕食を取っていた。
「うわあっ♪オムライスだーっ!」
「ははは。今度も自信作だぞ」
「お、おかわりあるっ?」
「もちろん。全部食べたっていいぞ」
「えへへ……♪」
春香はぎらぎらと目を輝かせ、スプーンを手に取った。
「いただきます」「いただきま〜すっ!!」
一口食べてみる。うん、美味い。やっぱり腕はどんどん上がってきているようだ。
「どうだ、春香?美味いだ―――」
そして見た。
……最初は何かの冗談だと思った。
ずっと予測していたこと。ずっと恐れていたこと。何より見たくなかったこと。
だけど、ついにそれは。
現れた。
手のつけられていないオムライス。その手から滑り落ちるスプーン。真っ青な―――。
「春香っ!?」
- 529 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:00:48 ID:FvZh8m1m
- 『当たり前だが、病気は正確ではない。わずかな誤差はあるに決まっている。
わずかな誤差。それが何日なのかは分からない。もしかしたら、何週間なのかもしれない。
……ある程度、覚悟はしておかなきゃ、な……』
―――とうとう、終わりが始まったのだ。
- 530 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:02:24 ID:FvZh8m1m
- 「春香っ!?」
俺は椅子から立ち上がり、急いで春香の肩を抱いた。
顔色は真っ青で、心なしか痙攣していて、何より目つきは虚ろで―――。
春香は泣いていた。
瞳からぼろぼろと涙をこぼし、かつ声にならない悲鳴を上げている。
ぎりりっ、と春香の手に力が込められる。爪先が軽く肉に食い込む。
「きゅ、救急車……!!」
俺は電話に駆け寄り、すばやく短縮ボタンを押す。
電話を終えて振り返ると…………春香はすでに呼吸を止めていた。
「―――くそっ!春香ぁ!!返事しろっ!!」
ひゅっ、と春香の口から風がもれる。
「春香ぁ……!!」
……顔色は真っ青を超えて、今や蒼白になっている。
―――死人のそれだ。
俺は愕然とした。
- 531 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:03:38 ID:FvZh8m1m
- 『お兄ちゃんは普段通りの暮らしを続けて。春香は家でいい子にしてるから』
そんなこと、できるわけないだろ?必ず春香を救ってみせる。
『ずっとお兄ちゃんといたいよぉっ!!ひっく……やだよぉ……!!』
俺がいるから。春香を死なせはしないよ。
『は、春香の胸に飛びついてくるなんてっ!ばかっ!エッチ!!』
飛び込んできたのは春香だろ!?……なあ。
『わたしの命、お兄ちゃんに預けたっ!』
…………なあ、どうして……。
『ありがとう、お兄ちゃん。大好き……』
……どうして、こんなものを見せるんだ……。
……春香との記憶がこぼれ落ちていく。絵画のように切り取られた思い出が消えていく。
嫌だ。……やめろ。もうやめてくれ。……もう、やめてくれ……。
「ああ……春香ぁ……息……しろよぉ……」
沈黙。瞳から、つう、と一筋の涙が頬を伝った。すべてが終わりを告げていく。
……闇夜を裂いて、サイレンが響いてくる―――!
- 532 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 05:10:49 ID:FvZh8m1m
- _| ̄|○ 行数制限だと?おかげで何回も書き込んじまったじゃないですか!!
ええと、もちろん続きます。
- 533 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/17 05:26:49 ID:UdHGKjV2
- 早く俺にSSを寝たくても寝れないじゃねーか!
どーしてくれるんだよ!海中さん!
ネ申SSすぎます!
- 534 :前スレ921 :05/02/17 12:58:17 ID:1fTUDrHw
- 「うぅ〜、寒いぃ〜」
もうすぐ3月と言ってもやはり夜風はまだまだ冬の寒さを称えている。
「すぐそこのコンビニだから我慢してくれ」
そうは言っても兄はダッフルコートにマフラー、手袋、帽子と完全防備なのに対して夢亜は起きた時のスカート、パーカーにマフラー、手袋、キャスケットを被っただけで、どちらが寒いかは一目瞭然だった。
「こんなコトなら手抜きするんじゃなかったよぉ……」
すぐそこだし一度仕舞ってしまったので面倒だからとコートを着ないで外に出た事に後悔せずにはいられなかった……。
- 535 :前スレ921 :05/02/17 13:00:23 ID:1fTUDrHw
- 「だから着た方がいいって言っただろ?ま、デザートの為に頑張ってくれ。」
「うん〜……でもやっぱり寒いよぉ〜」
すぐそこまでと言ってもせっかく兄と出掛けるのだ。
一緒に歩こうと思っていたが、寒さに負けた。
夢亜はパタパタ小走りに先にコンビニに行き暖まる事にした。
後ろで笑われた気もするが今は目的地に着く事の方が先決だった。
―――コンビニのドアを開けると途端に人工的な暖かさに包まれる。
「あ、いらっしゃい」
- 536 :前スレ921 :05/02/17 13:02:01 ID:1fTUDrHw
- この店員さんは兄の友達。名前は塚原広司。普段はやる気のない人だが仕事はちゃんとやる人で、変わった性格の持ち主だが笑顔を絶やさぬいい人。
暇らしくカウンターの無駄に細かい所を掃除している。
流石にこの寒さの中外に出歩く人も居ないらしく、客は夢亜だけだ。
「こんばんわ〜。暖かぁ〜い♥」
店内の暖かさを噛み締めながら軽く挨拶しデザート売場へ向かう。
「今日は一人で買い物?」
「すぐお兄ちゃんも来ますよー。」
- 537 :前スレ921 :05/02/17 13:04:01 ID:1fTUDrHw
- 今日は・というのはしょっちゅう来ている証拠だ。
兄があの性格なので夢亜が拗ねる。兄が甘い物おごる。というのはいつもの事だったりする。
「今日は新規でエクレアが入ったよ。クリームもしっかり入ってて美味しかったよ。」
新しい商品が入るといつも教えてくれる。
しかもいつも一言簡単な感想を付けて。彼もまた甘党なのだ。
「よ。広司。いつ来ても居るなー。」
置いて来た兄が着いた。
私より先に友達に話し掛けたのが少し淋しかったりする……
「いや俺週6で入ってるから当たり前。星と夢亜ちゃんも負けてないぞ?」
- 538 :前スレ921 :05/02/17 13:08:02 ID:1fTUDrHw
- 兄は友達からは星(ほし)と呼ばれている。
私は兄の名前は気に入っているけどこのあだ名も結構お気に入り……
「そうか?じゃあ常連の俺らに暖かい飲み物でもおごってくれ。」
実はもう何を買ってもらうか決まっているのだが、兄と話したい反面、友達との会話を邪魔したくない。
私は未だにデザート売場に立っている。
「それより夢亜ちゃんの方行ってやれよ。暇そうだぞ」
「俺の話しは無視かよ……。夢亜ー、何買うか決まったかー?」
広司さんはいつもさりげなく気を使ってくれる。
やっと兄が私の方へ来た。
- 539 :前スレ921 :05/02/17 13:09:49 ID:1fTUDrHw
- 「うん!エクレアがいい!!新しいやつなんだって!!お兄ちゃんは?」
「じゃあ俺も夢亜と同じで。」
こういう時兄はいつも夢亜と同じ物だ。夢亜と星一は食べ物の好みが合うからそれでいいのだろう。
夢亜はエクレアを二つ取りレジへ向かった―――
「広司さーん!お願いしまぁ〜す♪」
「はいはーい♪」
広司さんはもうこのコンビニで二年以上働いている。
エクレア二つでも手際のよさが違う。普段のだらけきった姿からは想像出来ない姿だ。
「あ、これは俺から二人にプレゼント。夢亜ちゃん寒そうだしね。」
- 540 :前スレ921 :05/02/17 13:11:44 ID:1fTUDrHw
- 広司さんは暖かいミルクティーのホットペットを二本袋に入れてくれた。
広司さんは女の子には優しいのだ。
「ありがとぉ〜!苦あれば楽ありとはこのコトだね♪」
寒い思いをして来て得をした。やはり彼はいい人だ!
「流石広司!やっぱり広司は俺の無二の親友だ!」
「どういたしまして。ホットペット二本で友情を再確認されてもねぇ……」
広司さんは少し複雑な笑顔を浮かべた。
「まぁ、また来てよ。じゃ、気をつけて〜。ありがとうございましたー。」
これだけ普通に話しても店員としての挨拶は忘れないところが偉い。
- 541 :前スレ921 :05/02/17 13:20:49 ID:1fTUDrHw
- 「じゃ、頑張れや。」
「頑張って下さいね〜♪」
買い物も済み、夢亜と星一はドアへと向かう。
この時、夢亜はすっかり外の寒さを忘れていた……
――――――――――――――――――――――――――――――
今日は休みなので神たちが降臨する前に……。
次で一応今回の分(プロローグ・エピローグ除く)は終わりですのでもう少しお付き合いお願いします。
- 542 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/17 21:01:30 ID:nr6Me8VF
- ちょっと見てないだけでスレの伸びが凄い……。
神々のパワーってのは恐ろしいねぇ……。
しかし、こんなこと、第三弾中盤じゃ全く考えられなかったよ……感無量だね。
- 543 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:14:03 ID:SqAW3MX4
- 終わりの始まり。
「…………」
薄暗い廊下。リノリウムの床は冷たく、無機質な微笑みを俺に投げかけていた。
そっと、ドアの隙間から中を覗く。
蛍光灯の明かりの下で、いくつもの白衣がせわしなく動き回っていた。
その間隙から……一瞬だけだが、見えた。
様々なパイプに繋がれ、口に呼吸器を付けた―――春香の姿。
小さなその体を侵すように、病魔はじわじわと奪いにかかっている。
春香の命を。
これほどまでに、たった一人の命が……重いなんて。
「うう……」
いつしか呻き声がもれていた。はっ、と顔を上げる。
春香は相変わらず口に呼吸器をはめているし、意識が戻ったようには見えない。
これは、俺の呻き声だ。
「ううう…………」
ぼろぼろと涙がこぼれおちていく。
誰でもいい。
天使でも、悪魔でも、神でも仏でも、なんでもいい。
どうか……春香を救ってください……。
俺は泣いた。
- 544 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:15:04 ID:SqAW3MX4
- 夜の街は暗く、やはり田舎なのだという事実を改めて思い知った。
病院の屋上。俺は一人、手すりにもたれかかって空を眺めていた。
あの後、担当医にもう少しかかると言われ、しばらく休んだほうがいいと背中を押された。
実際その通りで、俺の体はへとへとに疲れていた。
ふらつく足取りで階段をのぼり、屋上に出て手すりに体を預けたものの。
そこから動く力は、もはや残っていなかった。
今、俺はどんな顔をしているんだろう。
ほら、笑え。春香の意識が戻ったら、まず手を握ってやれ。
それから優しく頭を撫でる。大丈夫だよ、春香。お兄ちゃんはここにいるよ。
…………何が、大丈夫なんだ?
「ちくしょう……」
夜の闇に向かって、ぽつりと呟く。それから夜空を見上げた。
―――月も星も、なにひとつ出ていなかった。
「出てこいよ……頼むよ……」
俺は見えないタクトを振りかざす。そのまま力無く振り下ろす。
空は変わらない。
俺は、魔法使いじゃない。
あれは偶然だったんだ。
俺はどこにでもいる、ちょっとひねくれたガキにしか過ぎない。
自嘲気味に笑う。まったく、お前は本当に馬鹿だな……。
『起きたよ』
「……え?」
「真人君っ!!」
背後からの大声に、俺はびっくりして振り向いた。
屋上の入り口に担当医が立っていた。
「意識がもど―――」
言い終わる前に、俺の体はバネ仕掛けのように動いていた。
- 545 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/17 23:16:05 ID:SqAW3MX4
- 「春香っ!!」
病室に転がり込む。春香に繋がれていたパイプは消え、呼吸器もなくなっていた。
背後で担当医が医者に出ていくように告げる。すぐに病室には俺たちふたりだけになった。
「……お兄ちゃん……」
「春香っ!!ここだよ!!ここにいるよ!!」
「……あは……分かるよ。目、見えるもん……」
ぎゅっ、と強く手を握る。春香は弱弱しい笑みを浮かべた。
「……春香、もうがんばれない……」
「そんなこと言うなよ!!まだ、まだ頑張れるだろ!?」
「ううん……春香、分かるの……」
それからゆっくりと、本当にゆっくりと呼吸をして、春香は呟いた。
やめろ。
言うな。
「次に眠ったら……もう……起きられないと思う……」
―――つう、と頬を涙が伝う。
「春香……幸せ……だったよ。後悔……してないから……」
嗚咽をもらす。
「だから、泣かないで……お兄ちゃん……」
分かっている。泣いちゃいけない。でも、止められない。
「春香まで……泣いちゃう……から……」
俺は涙を必死でこらえた。それから春香の頭を撫でる。
春香は気持ち良さそうに目を細め、やがて言った。
「お兄ちゃん……お願いが……あるの……」
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