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[第四弾]妹に言われたいセリフ
- 270 :前スレ921 :05/02/09 14:03:24 ID:FPAQKMEw
- >>265
コウ兄ぃ頑張ってぇ〜!!
凄い期待して読んでたら途中で終わりって……(´_ゝ`)
続きキボンヌ
SS書くといったのに遅くてすいませんorz
暇が見つかった時に書きます
- 271 :期待に応えて265の続き :05/02/09 20:37:35 ID:EXHT4dOQ
- 「う〜ん、じゃあ一緒に勉強しようよ!」
「なんでそうなるんだ。」
「良いでしょ?ね、そうしよう!」
「断る。」
そう言った瞬間、妹が悲しげな顔をしたのを見て言いようのない罪悪感にとらわれた。
可哀想に思えてきたので気が乗らないフリをしながら承諾する。
「あ〜わかったわかった。但し条件がある。」
「条件?」
「今日の食器洗い、風呂掃除はお前が変わりにやること。」
「するする、だから一緒に勉強しよ!」
その飛び付きように正直驚いた。そして、そこまでして勉強したいものなのかと疑問も湧いてきた。
「取りあえず夕飯が終わった後にな、今の内に教科書調べて勉強の内容まとめておけ。」
そう言って追い払ったつもりだったが、黙ったまま動く気配がない。
少しの沈黙の後、突然唐突な質問をしてきた。
「ねぇ、コウくんって恋人とか居るの?」
「ん?居ないけど、そう言うお前はどうなんだ?」
「え?わ、わたし?居ないよ!」
「そうか。」
「(・・・・・・・・好きな人は居るけど)」
「ん、何か言ったか?」
「ううん、何でもない!それじゃあ後でね。」
そう言って慌てて部屋を出ていった。・・・変なヤツ。
------------------------------------------
ごめんなさい、高一のガキによる悪い妄想ですorz
いざ書き出してみると難しくてなかなか進みません・・・。
- 272 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/09 21:06:20 ID:fpehxfP4
- 期待しておるぞ
- 273 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/09 23:59:40 ID:k9STRtb2
- 名無しのかきこがすくないと、職人オンリースレみたいだぞ・・・・乙とか賭けよ、みんな
- 274 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/10 02:12:05 ID:+1nwNhpe
- GJ!!良いぞぃ!
- 275 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/10 02:16:12 ID:CwbhzFno
- 何故あげる・・・・まぁ、いいか。
おれもキャラ紹介が出来るくらいの大物になりたいもんだねぇ・・・・無理か。
- 276 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/10 20:26:37 ID:+1nwNhpe
- スマソ。誰か萌えパワーをオラに分けてくれぇぇぇ〜!!
- 277 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/10 21:07:03 ID:Ns5lqGBk
- >>271>>275
乙。
書くことの難しさを知るという事は、他人の書いたものの本当の価値を知ることなのですよ。少年。
……ヘタレ台本職人如きが偉そうだな。スマン。
>>276
全く……sageないヤツの頼みなど聞きたくもないが、こちらにも都合がある。そのうち貼る。暫し待て。
尤も、萌えるかどうかは分からんがね。
- 278 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/10 21:30:18 ID:nkFz+c2d
- >>277
カッカッコイイ…ポッ(″Д″)
- 279 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/10 22:32:21 ID:Ns5lqGBk
- キーンコーンカーンコーン……。
四時間目終了を知らせるチャイムが鳴り、教室中が重苦しい雰囲気から開放される。
俺は軽く伸びをして、友人たちと飯を食うためにバッグから弁当を出した。
すると……
「お兄ちゃん!!」
何者かに、軽くではあるが首を絞められる。
こんな所でこんな風に俺を呼ぶ人間は一人しかいない。
「……何か用か?」
極端に低いテンションで俺は振り返り、そいつを見る。
「ご飯食べよ?」
自分の弁当箱を俺に見せて、少女は笑った。
「飯ぐらい一人で食え」
……おっと、俺も人の事言えないな。
「いいじゃん!!お兄ちゃんとご飯食べたほうが美味しいんだよー!!」
「味が変わるワケない。あと、お兄ちゃんって言うな!!」
「何でー?」
「梨那……お前、俺の妹じゃないだろ……」
「えー!?妹じゃなきゃお兄ちゃんって呼んじゃいけないのー!?」
「別にそう言う訳じゃないけど……とにかくダメって言ったらダメ!!」
そろそろこいつの説明が必要かな……。
こいつの名前は相川梨那。俺の幼馴染。もちろん妹ではない。
だが、小二になるまで自分が俺の実の妹だと信じていたバカなヤツだ。
そのクセで、俺のことをお兄ちゃんと呼ぶのだが……。
「大体、一年も歳離れてないんだぞ、俺たち?しかも同じ学年だし」
ちなみに、梨那は俺と同じ学年である事に小一の三学期で気付いた。
- 280 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/10 22:32:32 ID:CwbhzFno
- ねえねえ、彼、いいと思わない?
なんてったて、神ですもの!
いい加減「神」しつこいな・・・。 ゴメンよ遊星さま。
でも、あなたはおれの永遠の師匠(せんせい)です。 ラブ。
- 281 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/10 22:33:21 ID:Ns5lqGBk
- 「でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよー?」
「それでもダメ!!」
「じゃあ、何て呼んだらいいのー?」
「周りのヤツらが呼んでるのと同じでいい」
「『しゅーちゃん』でいい?」
「ま、まぁ、それでもいいけど……」
「しゅーぅーちゃーん……」
「何だよ?」
「うにゃ……やっぱり、しゅーちゃんはヤだよー!!やっぱりお兄ちゃんがいいー!!」
周りの連中が一斉に俺たちを見た……。
しかし、実際ただ梨那が大声を出したのに驚いただけで、
皆は『またやってるよ、やれやれ』ぐらいにしか思ってないわけだが……。
「もう好きにしろ……」
「うん。そうするねー」
そう言いながら、俺の前の席に座り俺の机の上に弁当を広げる梨那。
「で……何をやってるのかね?君は?」
「にゃ?お兄ちゃんとご飯食べるんだよー」
「誰が梨那と食べるって言った?」
「お兄ちゃん、言ってなかったっけ?」
「言っとらん」
「じゃあ、言って?」
「……」
呆れてモノも言えない。
もし漫画なら俺のセリフの代わりに、グチャグチャの線が書かれてる所だろうな……
「ねぇねぇ、お兄ちゃん、おかず交換しようよ?」
もう一緒に食べる事になってるんだ……。
仕方ない……ここで断るのもカッコ悪いしな……って、もしかして、これは相手の作戦の内かも……。
「しょうがねぇなぁ……」
- 282 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/10 22:34:46 ID:Ns5lqGBk
- 「えへへ……あっ、お兄ちゃん、そのエビフライ美味しそー!!一個ちょーだい!!」
「いいけど……お前、その唐揚げと交換だぞ?」
「うん。いいよー」
梨那は無邪気に笑って、俺に箸を突き出す。
「はい。お兄ちゃん、あーんしてー」
「出来るか!!」
「いらないの?」
「いや、欲しいけど……」
「じゃあ、あーんしなきゃダメだよー?」
「いいよ。自分で取るから」
俺は梨那の箸に掴まれている唐揚げに箸を伸ばし、それを取ろうとする。
すると……
「あっ!!お兄ちゃん、ダメなんだよー!!」
「は?」
「一つのものを二つの箸で掴むのは縁起が悪いんだよー?」
「ふーん……」
仕方なく俺はその唐揚げを掴みかけた箸を引っ込め、そのまま梨那の弁当箱から唐揚げを奪う。
「にゃっ!!ドロボー!!」
「人聞きが悪い。お前がくれるって言ったんだろ」
そして、俺は唐揚げを口に運ぶ。
うん、美味い。さすが梨那の母さんだな。
「違うよー!!私の持ってる唐揚げはあげるっていったけど、お兄ちゃんの食べたのは違うよーだ!!」
「屁理屈言うな」
これでも、俺と同じ学年だと言うのだから……どうなってるんだか……。
「おっと忘れてた。俺のエビフライをやらなきゃな……って、お前、何してる?」
梨那はその小さな口を開いて、俺のエビフライを待ち構えている。
「あーん」
「だから、何してるんだ?」
- 283 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/10 22:35:59 ID:Ns5lqGBk
- 「ほにーひゃん、はへさへひぇ」
「いや、分からんって」
梨那は口を開けたまま何かを伝えようとしているが、そんなハ行だけの言葉で分かるワケがない。
そんなことを何度か繰り返したが、最終的には梨那は諦めたようで、口を閉じて
「お兄ちゃん!!『あーん』てして待ってるのに、何で食べさせてくれないの!?」
「あぁ、そういうことか……」
「そうそう。じゃあ、気を取り直して……あーん」
また梨那が口を開けた。
「いいけど、俺が食わせるのは特別料金だぞ?」
「にゃっ!?い、いくら!?」
「そうだなぁ……いつものアレ、三つぐらいかな?」
「にゃぁ!?高いよぉ!!」
「できなきゃ諦めろ」
「んー……二つじゃダメ……?」
どうしてそこまでこだわるんだか……。
つーか……冗談で言ったのに梨那は妙に乗り気だし……どうしよう……。
「ダメ……だよね……」
うわ……なんか泣きそうになってるし……。
っていうか、梨那の純粋な気持ちに付け込んでモノを要求するなんて……俺、嫌なヤツかもな。
「うるさい」
俺はムリヤリ梨那の口にエビフライを突っ込む。
「うにゃっ!?」
「休みが終わる。いいから早く食え」
「う、うん」
「美味いか?」
「うん!!お兄ちゃん、美味しいよっ!!」
「そっか」
心から幸せそうな梨那の笑顔を見ながら、俺もエビフライをかじってみた。
- 284 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/10 22:37:08 ID:Ns5lqGBk
- 「あーあ……」
突然梨那が顔を曇らせて呟いた。
「どうした?」
「梨那も、お兄ちゃんと同じクラスだったらなー」
「無理だろ。俺は理系でお前は文系なんだから」
「うん。梨那も理系にすればよかったな……」
「おいおい。数学28点のヤツがよく言うよな」
「にゃっ!?わ、忘れてたのにー!!」
「残念ながら、事実は事実だ。いつかは向き合わなければならないのだよ」
「にゃぁ……イジワルだよぉ……」
梨那の声が段々小さくなっていく。
俺はそんな梨那の肩を軽く叩いて、
「ま、お前には得意なモンがあるんじゃないか」
「えっと……詩のことかな?」
梨那は詩を書くのが得意で、校長から賞状を貰うほどの腕らしい。
『らしい』というのは、梨那に『恥ずかしいから見ないでよー!!』と言われ、梨那の詩を一度も見たことがないからだ。
「ああ。だから、数学がダメでも、梨那は自信持っていいんだぞ?」
「う、うん!!」
梨那はいつも通りの笑顔を取り戻し、最後の唐揚げを頬張った。
───────────────────────
ちょっと手違いがあって、こんなタイミングで新キャラ。
続きはバレンタイン以降になります。
ちなみに>>250であんな事書いてますが、実はこのキャラ自体は結構前から考えていました。
断じてパクリじゃないです。いや、ホントだってば!!
- 285 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/10 22:44:22 ID:p7rGCDI9
- 神よ…。
G J !
- 286 :280 :05/02/10 22:44:53 ID:CwbhzFno
- ナンテタイミングノワルサダ・・・。
二週間くらい書き込み禁止しよう。
いや、しかし、おれのは最後の
オチにもならないようなオチ(実は姉ですた)のためだけに書いたようなものなんで・・・。
こっちのが断然イイ!です。 せんせい! 一生ついてくッス! 乙可憐様々です!
- 287 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 00:26:31 ID:pekJazP4
- さて、新キャラ登場したばかりですがここで
第1回遊星さんキャラ人気投票〜♪
- 288 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 01:38:47 ID:yG1l3dE8
- じゃ、沙耶さん。
ええロリですとも。
- 289 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 10:29:01 ID:TLFKIyFK
- やっぱり未来ちゃんでしょ!
未来ちゃんモヘ〜〜〜(脱力)
- 290 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/11 14:30:22 ID:KszugETO
- 妹と同学年って設定が>265様とカブってた……すいません。
>>286
まぁまぁ。偶然とは恐ろしい物なのですよ。
>>287
ほぅ……面白い。
俺も今後の参考にしたいんで、是非協力して。
出来れば明日の夜ぐらいまでには……。
- 291 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 16:46:59 ID:n8fnkEih
- 未来ちゃんかな・・・。
身内(しかも兄妹)なのに謙虚なところがツボ
- 292 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 18:38:14 ID:eAXAJuC7
- 僕も沙耶たん
あの嘘を信じてしまう素直さに
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
- 293 :未来 ◆isG/JvRidQ :05/02/11 21:45:01 ID:KszugETO
- >>289
も、もう!!兄さん!!バカ言わないで下さいよ!!み、みんな見てるんですから……
え?俺は本気だ……?で、でもっ!!そ、そんなっ……!!
えっと……で、でも!嬉しいですっ!!ありがとうございますっ!!
>>291
こ、こっちの兄さんもですか……?
えっと……あっ、ありがとうございます。
でも、やっぱり……何度褒められても……恥ずかしいですね……。
- 294 :未来 ◆isG/JvRidQ :05/02/11 21:46:33 ID:KszugETO
- >>288
てへへ(つ〃∀〃)……ありがとう、おにぃちゃん。
でも、サヤはおにぃちゃんの妹だから、呼び捨てでいいんだよ?
はわっ!?Σ(゚д゚ でも、『沙耶ちゃん』って、呼ぶのは可愛いよね!?
>>292
サヤがキタよぉ━━━━(゚∀゚)━━━━!!……えへへ、おにぃちゃんのマネだよー。
>あの嘘を信じてしまう素直さに
ちがうよぅ!!おにぃちゃんはウソ言わないもん!!……たぶん(U・ω・ U)
- 295 :三上沙耶 ◆isG/JvRidQ :05/02/11 21:48:17 ID:KszugETO
- はわっ!?Σ(゚д゚
名前間違えちゃったよぉ!!
>288おにぃちゃん、>292おにぃちゃん、ゴメンなさい!!
- 296 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 22:14:05 ID:Pm2NwIXk
- おわったな・・・・
- 297 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/11 22:28:51 ID:n8fnkEih
- こう言うパフォーマンスもたまには良いんでない?
そりゃ、やり過ぎるのは良くないけど・・・
- 298 :コンズ :05/02/11 23:20:22 ID:oMEqZ4a7
- え〜、オレわ双子ちゅわんが一番イイけどなぁ。最後って三人一緒に勉強したトコで終ったのでしたっけ?ちなみに礼わイイぞぃ。
- 299 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/12 02:37:39 ID:HXDjkLx9
- 面白いですよ、この企画。
- 300 :289 :05/02/12 03:23:22 ID:IbMJ9Mdw
- うぉ!俺お兄ちゃんになってる!?
しかし、一日でも未来ちゃんの兄になれるのならば俺は死ねる!!(結構マジ)
つうわけで遊星神、これからも頑張って!
- 301 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/12 08:12:33 ID:SIiZqIQl
- 賛否両論……どちらかといえば否か。
ま、単なる気紛れ、暇つぶしなんで、二度とやる気はないですよ。ご安心を。
- 302 :ぬるぽ :05/02/12 09:29:30 ID:+u8tb8+H
- 遊星さんガンガレ
ぬるぽ
nurupo
- 303 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/12 12:45:22 ID:MbKyLhzL
- 沙耶タソかわいいよ沙耶タソ
\(゚∀゚)ノ ふぅーーー!!
- 304 :コンズ :05/02/12 16:53:48 ID:KTz2dCEo
- Give me 双子タソ!!(・∀・)
- 305 :前スレ931 :05/02/12 23:02:33 ID:/cWKof5X
- えっと…一応SS出来たのでうpさせて頂きますです
その前に、前口上と言い訳をば
@とにかく長いっす
A舞台は前スレで書いたの(誰も覚えてないでしょうけど…)と同じです
B萌えないと思います
それでは…
- 306 :前スレ931 :05/02/12 23:08:27 ID:/cWKof5X
- そこは虚ろな光に満ちた場所 視界を塗りつぶす白 白 白
まるで霧の牢獄 色褪せた白い闇の世界
俺は知っている ここは夢の中 あの日から幾たび目にしたかわからない 見知った光景
そこに 彼女の姿はあった
触れれば砕けてしまいそう 儚げなその姿を 俺は知っている
顔はわからない でもそれが誰だか 俺は知っている
「優」
彼女の名を呼ぶ
見えない彼女の唇が静かに言葉を紡ぐ
「お兄ちゃん…」
鈴をころがすような声で 俺を呼ぶ
その声はどこか切なげで 悲しげで 優しくて 俺の胸の奥はきゅうと締め付けられる
手を伸ばせば届きそうだけど 決して届かないことはわかっていた
それでも俺は彼女に向かって 手を伸ばす
しかし眼前は輝きに包まれて…………………………………………
- 307 :前スレ931 :05/02/12 23:10:46 ID:/cWKof5X
- __________________________________
静かに時を刻んでいた掛け時計がきっちり7度鳴った。
朝日の差し込む台所。まな板の上でトントン…とリズミカルな音を響かせていた少女は
包丁を置いた。幼さは残るが美しく整った顔、白雪のような肌、そしてどことなく無機的なその表情…見るものに人形を思わせるその少女は、ゆっくりと時計を仰ぎ見た。
後ろに結われた豊かな黒髪がさらりと波打つ。
「…にいさん起こさなきゃ…」
そう呟くと少女は台所を出て階段に脚をかけた。一歩一歩踏みしめるたびに刺すような冷たさが靴下越しに伝わる。
二階の、『KAZUTO』と書かれたネームプレートが下がる扉の、鈍く輝く銀色の取っ手に手をかけた。
「和人にいさん…起きてくださ――」
「やあ、おはよう雪乃ちゃん」
少女が扉の先に見たのは、窓からのまばゆい光を背に立つ青年の姿だった。
一見さわやかな、しかしどこか気だるさが見え隠れする顔に力いっぱいの笑みを浮かべたその姿は、
大概の人間なら顔をしかめること必至の不自然さだ。が…
「…ええ。おはようございます」
慣れているのだろうか、少女は眉一つ動かさずに淡々と言葉を返す。
「朝ごはん出来たから早く来てください。それと…」
「何だい?雪乃ちゃん」
「今度下履いてなかったらにいさんのごはんは、おじゃが一個になりますので
そのつもりで…」
「へっ?下?…あ」
そう言われて目線を下に落とした和人は小さく声を漏らす。
うん、履いてない。何も履いてない。見事にワイセツ物丸出しだった。
「をおっ、いやあの、これはなんていうかそのー」
言い訳を取り繕わんと必至で脳を回転させる和人。そして
「…雪乃ちゃんの…えっち…」
バターン!
和人一世一代の言い訳は、雪乃が思いっきり扉を閉める音に
かき消されてしまったのだった。
- 308 :前スレ931 :05/02/12 23:13:24 ID:/cWKof5X
- 「いやホントわざとじゃないんだって。俺はただフツーに着替えてただけでその…」
「…」
えんえんとしゃべり続ける和人と、それを半ば聞き流しながら無言で食事を口に運ぶ雪乃。
朝の食卓で向かい合う二人の姿は実に対照的だ。
「ちょっと寝ぼけてただけなんだってば。いやぁタイミングいいっていうか
悪いっていうか、ねぇ?まさかいきなり入ってくるとは
ムハンマド(注 預言者でも思わな」
「黙って食べてください」
「はい」
静かに一喝され、和人はいそいそと食事にもどる。
しかし、おとずれた静寂に耐え切れなかったのだろう、TVのチャンネルに手をかけスイッチを入れた。
「…にいさん、お行儀が悪いですよ…」
「まあいいじゃない、今日くらい」
「…もう…いくらお義父さんとお母さんがいないからって…」
そう、遡ること2日前。珍しく朝早くに目覚めた和人が二階から降りてゆくと、父と義母がなにやら大きなスーツケースを抱えているのが目に入った。
「父さん達、何やってんの?」
「おう和人。仕事入った。悪いが2週間ばかし家空けるぞ。」
「2週間?カウンセラーが2週間も何処行くってのよ?」
禿頭に濃い顎鬚の巨漢、一見するとカタギかどうかすら疑わしい父のメンタルカウンセラーとしての能力は確かにずば抜けたものではあった。が、長期出張というのには和人も首を傾げずにはいられない。
- 309 :前スレ931 :05/02/12 23:15:10 ID:/cWKof5X
- 「俺のカウンセリング法にカリフォルニア大の先生方が興味持ったらしくてなぁ。次の臨床心理学会での発表の参考にしたいんだと。ほんで、お呼ばれしたからちょっとアメリカまで行ってくるわ」
「アメリカってちょっ…」
「そぉなのよ〜。おとーさんすごいでしょ?」
脇から義母が口を挟む。
「義母さんは何処へ?」
「決まってるじゃない。おとーさんの付き添いよ。留守の間、雪乃のことお願いねカズ君」
「……………」
「付き添いはいらないよなぁ…やっぱ」
「?何の話です…?」
「や、なんでもない。っと、テレビテレビ」
他愛も無い朝のワイドショーに意識を戻しながら会話を続ける。
「雪乃ちゃん、中学はどう?もう慣れた?」
「…4月になったら、私もう3年生ですよ…?」
「あ、そーかそーか。もう2年生も終わりなんだっけ。雪乃ちゃんも大きくなったねぇうん」
「…にいさん、もっと考えてしゃべってください」
「はい…」
雪乃はクールな態度を崩さず言い放つが、不思議とそこに嫌味はない。
和人もその言葉を受けてもなお笑みを崩さない。
これがこの兄妹独特のコミュニケーションなのだろう。
2月の冷えた空気で満たされた食卓の雰囲気はどこか暖かだった。
- 310 :前スレ931 :05/02/12 23:17:24 ID:/cWKof5X
- 「…じゃあ、食器の後片付けだけお願いします…」
「ああ任せて、いってらっしゃい」
玄関先で靴紐を結びながら雪乃は言った
「あ…にいさん。私、今晩友達の家で勉強会あるから…」
「そっか、そろそろ学年末テストだもんねぇ」
勉強会という言葉の響きが中学生らしくてなんともほほえましい。和人は微笑を浮かべながら言葉を続ける。
「あんま遅くならないようにね。物騒だから、最近は」
雪乃は返事の変わりにこくりと小さくうなずいた。
「にいさんも遅刻しないように…」
「大丈夫。今日は雪乃ちゃんのおかげで早起きできたからね」
「あ………」
朝の光景を思い出して、雪乃は頬をほんのり赤く染めた。
「ん?どうしたの。忘れ物?」
「いえ、なんでもないです…行ってきます」
それ以上の詮索を避けるように、雪乃は足早に玄関を出て行った。
「いってらっしゃーい。さてと」
冷え切った外気が吹き込んでくる玄関の戸を閉めると、和人は再びリビングへと足を向けた。
- 311 :前スレ931 :05/02/12 23:19:33 ID:/cWKof5X
- 「で、なんで遅刻したんだ?和人」
「や、諸般の事情で」
時は正午過ぎ。にわかに騒がしくなった大学の広場の片隅で、青年二人が
問答を交わしていた。
「いい根性だな、まったく。2限のチャイ語、単語テストだったってこと
忘れてたわけじゃないんだろ?」
「あ」
「いや忘れてたのかよ」
「そう言うけどね、蓮。昨日のアンダーテイカーの活躍をビデオで
見ないことには俺の一日は始まらんのさ。とりゃークローズライン!」
奇声を上げながら繰り出された和人のラリアットを蓮はアッサリとかわす。そして
「ぐおっ」
逆に相手の額に掌底を浴びせた。
「何してんだか、まったく…。プロレスで単位落とす気かよ?お前」
「しょーがないだろ」
赤くなった額を撫でこすりながら、和人は口を尖らせる
「リアルタイムじゃ見れない俺の苦しみをちょっとでも理解しようとは思わないのかい?」
「ああ、確か義妹さん…」
そう言う蓮の顔が微かに陰りを帯びる。
「雪乃ちゃんにはあーゆーのはきついんだよ。テレビでもね」
「例の発作って奴か…………大変なんだな、お前」
和人は目でうなずく。
「…ま、かわいい義妹のためだからねぇ。そのためなら単語テストなんて
この際どーでも…」
「それは関係無い。全然」
「あ、やっぱり」
- 312 :前スレ931 :05/02/12 23:22:03 ID:/cWKof5X
- 和人のあくまでお気楽な態度に、蓮はふうっと大きくため息をついた。
「お前見てると、こっちまで一緒にだらけちまいそうになるよ」
「そぉか?ほんじゃあ午後の授業サボって遊びに行こーや」
「魅力的な提案だけど、3限の先生はちょいと神経質でね。サボると
後がきついんだよ」
「そりゃー残念」
「明後日なら付き合うよ。瑠々伊駅の近くに良さげな雑貨屋見つけたから行ってみようぜ」
「ウチの近所に?へー。ひょっとしてそりゃこの前、お前が女の子と
入ってった店かい?」
その言葉に蓮はぎょっと顔を上げる。
「なっ…!お、おま…見てたのかよ?!」
「ええ見てましたとも。あのしまりの無い顔、ケッサクと言わずして
何といおうか。ちゃあんとケータイで撮っといたよ」
和人は意地の悪い笑みを浮かべながら、妙に芝居がかった口調で答えた。
「ばっ馬鹿!ありゃ俺の妹だっての!」
「ほう?妹さん。ずいぶん可愛い子だったねぇ」
「何が言いたいんだよ、お前は…」
「さあね。それより、そろそろ3限始まるぞー?」
和人の言葉に合わせたように1時を知らせるチャイムが学校中に鳴り響く。
「ほれ」
「くっそぉ……おちおち道も歩けやしないな…」
「今度から後ろにも目ぇつけとくんだねぇ。何なら俺の目一個貸そーか?」
ぼやきながら教室に足を向ける蓮の背中にむかって、和人はけたけた笑いながら言った。
「視力の良さは折り紙つきだぜ」
- 313 :前スレ931 :05/02/12 23:26:22 ID:/cWKof5X
- かち、かち、かち、かち…
時計の針の音だけが静かに響く部屋で、和人はパソコンに向かってせわしなく指先を動かす。
「…であるっと。ふい〜〜〜〜〜〜。レポート終わりぃ〜!」
いすの背もたれに体重を預けて大きく背中を伸ばした。
「今何時だっけか?」
一人ごちながら目を向けた時計の針はもう少しで10時を指さんとしていた。
雪乃はまだ帰ってこない。友達との会話が弾んでいるのだろうか。
なんとはなしに和人は席を立って階段を下り、玄関へと足を向けた。
凍てつくような風が吹く表に出て、辺りを見回す。と、見慣れた人影を電柱の影に認めて、和人は手をふろうとした。
しかし、その様子は遠目にもはっきりわかるほどおかしい。
影の足取りはまるで千鳥足のようにおぼつかないものだったのだ。
「!まさか…」
和人は影に向かって走り寄る。
「雪乃ちゃん!」
「……にい………さ………」
影は和人に向かって倒れ掛かった。その息遣いは荒く、白雪のような肌は血の気が引いて、
青ざめてしまっている。
「くっ」
和人は雪乃を抱きかかえると急いで家に駆け込んだ。
- 314 :前スレ931 :05/02/12 23:28:40 ID:/cWKof5X
- 彼女の部屋のベッドにそっと横たえ、汗を拭く。
「はぁっ………はぁっ………」
未だ息の整わない雪乃の額に濡れタオルをのせながら、和人はそっと声をかける。
「大丈夫?今なんか飲み物を…」
「……にいさん」
台所に駆け出そうとするその袖を、雪乃は力なくつかんだ。
「?どうしたの?」
「…そばに………いて……ください……」
普段の雪乃からは想像もつかない弱気な台詞だった。
和人はうなずいて、その手を握りながらベッドの傍にゆっくり腰を下ろした。
「わかった。傍にいるよ」
その言葉に雪乃はふっと安堵の笑みを浮かべた。
「何があったんだい?」
ようやく生気の蘇り始めた雪乃に和人は尋ねた。
「…駅前で……喧嘩してる人たちがいて……血が…流れてて…それで…」
「それを見ちゃったのか」
雪乃は小さくうなずいた。
- 315 :前スレ931 :05/02/12 23:33:06 ID:/cWKof5X
- これが雪乃を蝕む発作であった。
血や暴力的な情景を見ることで引き起こされるこの発作は彼女の過去のトラウマに端を発している。
雪乃の父が亡くなったのは今から10年前。
彼女の目の前で暴漢に刺し殺された。
父の骸から溢れる鮮烈な紅の海の中で、わずか4歳だった少女が垣間見た世界は地獄そのものだった。
そして幼い彼女の心は砕かれ、永遠に癒えることの無い傷を負った。
初めて雪乃と会ったときのことを和人は忘れることが出来ない。カウンセリングを受けるために、
母親に手を引かれて和人の父の診療所を訪れた雪乃はまるで本物の人形のようだった。
まるで白亜で出来た彫像のようにその表情は変わることはなく、その両の瞳は虚無の他に何一つ
映してはいなかった。
「ゆっくり休むといいよ、雪乃」
「…はい。…ありがとうございます、にいさん…」
雪乃はそう弱々しく言葉を返し、やがて和人に手を握られたまま静かに寝息を立て始めた。
眠りに落ちた彼女の手を包みながら、和人は小さく笑みを浮かべる。そして
「ふうっ」
大きく安堵のため息をついた。緊張を解いて天井を見上げる。
「『にいさん』か…」
未だにその言葉に違和感を感じる自分がいることに、和人は驚く。
「(もう9年も一緒に暮らしてるのになぁ)」
まだ許してないんだ 俺自身を
蛍光灯が煌々と照らす部屋の中で、和人の顔にわずかに影が差した。
「また………あの日が来るんだね…」
- 316 :前スレ931 :05/02/12 23:36:59 ID:/cWKof5X
- うわ、俺一人でカキコしすぎだよ…
スレ汚しすんませんでした
あ、一応
途中で出てきた蓮は前スレで書いたヤツの主人公です
- 317 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/12 23:38:31 ID:MbKyLhzL
- いやおもろかったわ
- 318 :前スレ931 :05/02/12 23:47:12 ID:/cWKof5X
- あ、どーもです
でも、まだ続きあるんですわこれが…
すいません、お付き合いください
- 319 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/12 23:54:08 ID:MbKyLhzL
- 地の果てまでも
- 320 :コンズ :05/02/13 00:17:30 ID:yN8E6bOA
- ぷはーっ!!読み入ってしまいまふた。次の投下わいつ頃で?
- 321 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 00:24:40 ID:FlYVj91X
- >318
俺もつきあうぞ!
…俺って敬語の妹に弱いのかも……
- 322 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 00:39:15 ID:ZjvEf0aC
- すげぇ……
素晴らしすぎる……
- 323 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 00:53:45 ID:hgitM/xr
- 上手いですよねぇ。
羨望の念を隠しきれないです。
すごいの一言ですよ、ホント。
- 324 :前スレ931 :05/02/13 01:01:48 ID:DHB6+Sdf
- おおお…あんな駄文を読んでくださって、皆さんさんくすです
話はもう全部出来てるんで、よろしければ明日から順次投下させていただきまっす
- 325 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 01:58:19 ID:GxXFzcn6
- 今投下してはくれんのか〇| ̄|_
この続きが物凄く気になる気分で俺に寝ろと言うのか〇| ̄|_ 〇| ̄|_
- 326 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 03:27:07 ID:Ok1XGnJX
- 何故かかつての288氏を思い出した
…いや別にネタが被ってるとかではなく
- 327 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 03:35:10 ID:hgitM/xr
- >>326
それ、第何スレのヒトですか?
個人的に気になるんで、見て来たいんですが。
- 328 :コンズ :05/02/13 03:42:42 ID:yN8E6bOA
- Give me 全スレ931
もう気になって夜も眠れない(・∀・)
- 329 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 03:45:36 ID:z0HsnTpV
- 乙ですー
素晴らしいです。
どんどん続き投下しちゃってください!!
期待してますよ(´∀`)
- 330 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 04:03:45 ID:3EksoEle
- 遊星さんといい931さんといい
小説家めざせますよ?
同人誌ならず同人書で!
- 331 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/13 07:12:50 ID:DeVwSD31
- すっげぇ……。
俺とは比べ物にならんよ、マジで……。
>>326
確かに……。
って言ったら、気分を悪くするだろうか……。
- 332 :前スレ288 :05/02/13 16:15:09 ID:RtwTmGNA
- ……お前ら、パンドラの箱という神話を知っているか?
あらゆる不幸を閉じ込めた箱を与えられた、少女の話。
話それ自体は知らなくても、パンドラという名前くらいは耳にしたことがあるだろう。
この話の少女は、……結末を言ってしまうが、結局は好奇心から箱を開けてしまう。
慌てて箱を閉めたら、残っていたのは希望だけ。
その結果、あらゆる不幸が世界中にばら撒かれることになった―――というお話だ。
よく考えてみてくれ。おかしな話じゃないか?
不幸を閉じ込めておいた箱に、どうして希望なんてものが入っていたのだろう。
これは推測だが……それは未来というやつなんじゃないかと思う。
未来のことが事前に分かってしまう。気づいてしまう。そうしたら人は生きていけない。
だから箱に閉じ込めておいた。つまりはそういうことなんだろう。
だが、ここにその最後の不幸を与えられてしまった少女がいる。
………そう。例えるなら、これはそんな話だろう―――。
- 333 :前スレ288 :05/02/13 16:16:53 ID:RtwTmGNA
- 最後の日まで、あと7日。
「―――もう、長くありません」
無機質な部屋の中で、妹の担当医はそう告げた。
「病気に抵抗する力がないのでしょう。病状は悪くなる一方です」
担当医は額にシワを寄せ、カルテを真剣に見つめている。
「こちらとしては、打つ手がありません。持ってあと一週間でしょう」
担当医は本当にすまない、という表情をしながら俺に言った。
「……分かりました。ありがとうございます」
俺はイスから立ち上がり、部屋を出ようとする。
「―――あの」
振り向くと、担当医は俺をしっかりと見据えていた。
口が開く。
- 334 :前スレ288 :05/02/13 16:18:47 ID:RtwTmGNA
- 「春香、入るぞ」
「あっ!お兄ちゃん♪えへへ…いらっしゃ〜い」
「調子はどうだ?」
「うん、今日はいつもよりいいよ。春香、ちゃんといい子にしてたから」
「そっか。春香はいい子だな。……そんな春香にご褒美をあげよう」
「ほえ?ごほうび?」
「退院、おめでとう。春香」
「……え?」
「担当医の先生がさ、もう退院してもいいってさ」
「………」
「……春香?」
「―――う」
「う?」
「う……う……うわあああぁぁぁん!」
「はっ、春香!?ど、どど、どうした!?」
「うう……嬉しいよぉ!お兄ちゃん……ありがとう……!」
「あ、ああ……。俺の力じゃないよ」
俺の力じゃない。
春香は本当はもう助からないから、せめて長年帰っていなかった自宅に帰らせてやろう。
担当医が言ったんだ。俺の力じゃない。
すなわち、俺のせいじゃない。俺のせいじゃない。俺の………。
- 335 :前スレ288 :05/02/13 16:20:53 ID:RtwTmGNA
- 「えへへ〜♪」
「そんなに楽しみか?うちに帰るの」
「うん!だってだって、もう三年も帰ってなかったんだよ?」
「あ、もうそんなに経ってたっけ」
「もぉ〜!それくらい覚えておいてよぉ〜……」
「冗談だよ、冗談。ほら、着いたぞ」
夕暮れを背負った我が家を見上げる。春香は目を丸くしてそれを見上げた。
「……懐かしいなぁ。あ!あそこ春香の部屋でしょ?」
「ああ、そうだな。で、隣は俺の部屋だ」
「お兄ちゃんの部屋かぁ……。入るのも久しぶりだよね」
「昔はしょっちゅう来たけどな。夜中に怖くて眠れな〜いとか半べそになって」
「むかっ!春香ちゃん、今ので怒っちゃいました」
「え?あ、いや、ごめん」
「ダメです。もう怒っちゃいました。お兄ちゃんのベッドの下を調べるまで許しません」
「……置いてくぞ」
「ほえ?……あっ!あ、待ってよぅ!……って、図星?お兄ちゃん、図星なの〜っ!?」
- 336 :前スレ288 :05/02/13 16:22:58 ID:RtwTmGNA
- 玄関を開けた。俺にとっては見慣れた廊下が広がる。しかし―――。
「えへへ……帰ってきちゃった」
「ああ」
俺は靴を脱ぎ、フローリングの床に踏み出す。それから振り返り、
「春香。……おかえり」
「あ……うん。……ただいま、お兄ちゃん」
手を差し伸べる。春香は靴を脱ぎ、何のためらいもなく俺の手をとった。
「あ!」
「おわっ!?なんだ?」
「お父さんとお母さんにも、ただいま言ってこなきゃ!」
そう告げると、春香は俺の手を離し、廊下の奥へと小走りに駆けていく。
行き先はおそらく仏間だろう。そこに両親の仏壇がある。
俺たちの親はすでに亡くなっている。心臓病だ。
その病気が、今度は春香の命を奪おうとしている。
「……くそっ」
俺は空いた手を強く握り締め、春香の後を追った。
仏間に入ると、春香は両手を合わせて正座していた。無論、仏壇に向かってだ。
俺はそれを後ろから眺める。
……肩までの髪。華奢なそのシルエットはひどく痩せているように感じた。
ぼんやりと眺めていると、春香は立ち上がり、その可愛らしい顔を少し歪めて笑った。
―――無理して笑っている顔だ。
「あは……お父さんとお母さん、おかえりだって」
「ああ……」
- 337 :前スレ288 :05/02/13 16:24:53 ID:RtwTmGNA
- _| ̄|○ 書いちゃった。続きは書かない。
- 338 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 16:38:22 ID:3EksoEle
- >>337
許さん!書きなさい!この俺のもやもやどうしてくれんだよ〜(´;ω;`)
- 339 :前スレ931 :05/02/13 19:53:40 ID:e+kDRYFj
- ぬお、件の288氏じゃないですか
すんません。俺が前スレで書いたヤツの導入部、288氏のとメッチャ似てました…
パクったわけじゃないっすから許して下さい… m(_ _)m
- 340 :前スレ288 :05/02/13 19:58:16 ID:RtwTmGNA
- 「春香、そこのしょうゆ取って」
「これ?はい、お兄ちゃん」
「ああ、ありがとう」
何気無い日常。本来ならどこの家庭にもある、当たり前の風景。
俺はその重さを噛みしめていた。
やっと、やっと春香は我が家に帰ってこられた。ここまで、本当に長かった。
だけど―――。
あと、6日。
あくまでも予測で、今日を含めても7日。
それでもたった7日だ。それしか春香は生きることができない。
……明日から、学校は休もう。先生も分かってくれるだろう。
一週間だけ。残されたこの時間を、春香と一緒に過ごそうと思う。
「ダメだよ、お兄ちゃん」
「えっ!?」
何故か心の中を見透かされたような気がして、俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
春香はやっぱり、という表情になる。
「…………本当は分かってたの。春香、もうダメなんでしょ?」
俺は凍りついた。
「なんとなく気づいてた。お兄ちゃんにはウソついていたけど、体調は悪くなる一方だったし」
春香の口から、春香の心が紡がれる。
「春香、幸せだったよ。こんなに優しいお兄ちゃんがいてくれて」
言うな。その先は言うな。泣きそうな顔して、なに笑おうとしてるんだよ。
「だから……だから、もういいの。春香、どうせ死ぬから」
動けなかった。何も言えなかった。叱る言葉さえ出てこなかった。
そんな自分が、殺したいほど憎かった。
よくのん気に飯が食えるな、このクソ野郎。待ってろ。今、叩きのめしてやる。
「お兄ちゃんは普段通りの暮らしを続けて。春香は家でいい子にしてるから」
そこまで言って、春香はようやく作り笑いを浮かべることに成功した。
それが俺を動かした。
- 341 :前スレ288 :05/02/13 20:00:19 ID:RtwTmGNA
- ―――バチン。
俺は手加減せず、思いっきり春香の頬を叩いた。
「ふざけるなっ!何がどうせ死ぬから、だ!逃げるんじゃねえよ!!」
「う……」
「生きろよ!!最後なんだろ!?だったら……だったらしっかり生きてみろよ!!」
「……何も……何も分からないくせにっ!!」
春香はイスから転げ落ちるようにして俺から離れた。そのままドアへ走る。
「春香っ!!」
俺は後を追う。しかし―――。
目の前で、春香は自分の部屋の鍵をかけた。
しまった。その一言が頭に浮かんだ。
「お兄ちゃんのばかっ!!ばかばかばかばかっ!!」
俺はすでにその罵声を無視して、どうやって部屋に入るかの方法を考えていた。
「ばか……ばかぁ……」
だから、すぐには気が付かなかった。罵声はいつからか力無い泣き声に変わっていた。
「うう……ひっく……」
「春香……」
ドアの向こうで、ぐっ、と鼻水をすする声が聞こえる。
「あっちいって…………」
……待て。
やっぱり俺はバカだな。
部屋に入る方法なんて、すでに知っているじゃないか。
- 342 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/13 20:03:30 ID:RtwTmGNA
- 「―――春香。ここ、開けてくれないか?」
「やだ」
「外、綺麗だな」
「……外?」
「見てみろ、星が綺麗だぞ」
「…………あっちいってよ」
「言ったよな、春香。覚えてるか?小学校のときの……何年生かは忘れたけど、春休み」
「…………」
「お前、夜中にいきなり桜が見たいって言い出した。当然、俺は困ったよ」
次々と言葉が紡がれていく。
- 343 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/13 20:05:10 ID:RtwTmGNA
- 俺は悟った。何を、と訊かれると答えられないが、とにかく悟った。
きっと。
「でも、あまりに必死なお前の顔を見て、なんとしても叶えてやろうって思った」
人を最も傷つけることができるもの、最も癒すことができるもの。それは―――。
「家を抜け出して、そこの堤防まで行った。桜は咲いてたけど、暗くてまるで見えなかった」
言葉だ。
「お前はもういいよって言ってたけど、今度は俺がその気になっちゃって。帰ろうとしなくて」
ドアから返事は聞こえない。
「そしたら、雲が割れてさ。凄かったよな、空」
夜の空を覆っていた雲が突然割れ、隙間から爛々と輝く月と、無数の星が現れた。
その光は、壮大で、雄大で、何よりも綺麗で。
「その光のおかげで、桜、見れたよな」
そして、約束した。また今度、桜を見に来ようねって。
「春香」
言う。
「桜を見に行こう」
返事は聞こえない。だけど、俺は確信していた。
実はドアの向こうで春香は意識を失っていて、しばらくして病院に運ばれるけど―――。
春香はそんなことしない。
―――ガチャリ。
ドアが、開いた。
「……うん」
- 344 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/13 20:06:57 ID:RtwTmGNA
- 外は呆れるほど寒く、吐く息はことごとく白かった。
春香に厚いコートを着させ、俺のマフラーを首に巻かせた。手袋もさせる。
「大丈夫か?寒くないか?」
「……平気」
「そっか」
俺は手を差し出す。
「行こう」
「うん」
春香はその手を握った。
家から出て数分歩いたところで、もうその堤防まで辿り着いた。
「……もう、着いちゃったんだ」
「俺たちが大きくなったからな」
春香の手を引き、堤防をのぼる。力強く、握り締める。
そして、のぼりきった。
空には―――。
「…………」
「…………」
なにひとつ、輝いていなかった。
そんなバカな。さっきまではあんなに綺麗だったのに。
「……もういいよ、お兄ちゃん。帰ろ?」
春香が俺の手を引く。しかし、俺はふと思いついたようにその手を振り払った。
「お兄ちゃん?」
「見てろ、春香」
俺はさっと両手を上げる。真っ暗な空へ、目に見えない指揮棒を振り上げる。
「大事な大事なお客様だぞ。いいか、ヘマするなよ」
世界に告げる。
指揮棒を、振り下ろす。
―――瞬間。
- 345 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/13 20:09:11 ID:RtwTmGNA
- 空が輝いた。
雲は消え、月が現れ、星が光りだした。
夢なんかじゃない。
これは、現実の夢だ。
現実にしか作り出せない、夢なんだ。
「う、うわわ……わあ……」
春香は大口を開けてその光景に見入った。
『いいか?本当の音楽家ってやつはな、指揮棒一本で何でも操れるんだよ』
俺は人差し指を立てる。
『将来、お前がどう歩むかはお前の勝手だ。だが、これだけは覚えておけ。
エマーソンが言った。心の奥底に達して、あらゆる病を癒せる音楽。それは暖かい言葉だ。
俺のあとを継いで音楽家にならなくてもいい。だが、名前の通り、真の人間を目指せ。
いいな、真人。それだけは忘れるなよ』
俺は空を指差した。
「……覚えてるよ。天才音楽家の親父殿」
「……まこと……お兄ちゃん」
春香に向き直り、優しい笑みを浮かべる。
「はは。なに?」
「なんか……生き生きしてる」
「そうかな?ああ……そうかもしれない」
「……まこと兄ちゃん」
春香はそう言うと、俺の手を掴み、
「ありがとうっ!」
笑顔。
それが見たかったから、俺はいつも寝ているお前のために、音楽を始めたんだよ。
- 346 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/13 20:14:19 ID:RtwTmGNA
- >>338
すまぬ。これで許してください。 _| ̄|○
>>339
いや、むしろ俺がパク(ry
というか自分は下手なので、前スレ931さんのSSを期待しております。
- 347 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 20:25:52 ID:3EksoEle
- >>346
スマン…
俺は身内や友人の死になんどもたちあい泣く事許されず過ごした
もう何年も泣いてない俺が
目が潤んでしかたない
一言
良い作ありがとう
- 348 :前スレ931 :05/02/13 20:31:02 ID:e+kDRYFj
- ああ…切ねぇっすよ…ステキです…
ドコが下手ですか海中さん!
- 349 :遊星より愛を込めて ◆isG/JvRidQ :05/02/13 20:33:18 ID:DeVwSD31
- >海中時計 >前スレ931
あなた方、素晴らし過ぎ……もう言葉もないよ、マジで。
バレンタインSS?延期だ、延期!!来年まで延期!!!
- 350 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 20:50:06 ID:hgitM/xr
- 神が増えてる!
- 351 :前スレ931 :05/02/13 22:18:01 ID:e+kDRYFj
- >>349
神に褒められた!
てか延期しないで…お願いっすから
- 352 :前スレ931 :05/02/13 22:58:51 ID:e+kDRYFj
- 遊星さんへのテコ入れも兼ねて…続きいきまっす
_________________________________
空が茜色に染め抜かれ、道行く人の影が伸びゆく頃。
試験の張り詰めた空気がにわかに失せた教室で、蓮は和人に歩み寄った。
「よお和人。どーだった」
返事はない。
しかし、西に傾く夕日を見つめるそのうつろな瞳は、言葉以上のものを物語っていた。
「んぁあ〜もー!何なんだよあれはぁ…」
帰りの道すがら、和人は不満をぶちまけた。
「まあ確かにちょっとキツかったな、今日の試験」
「ちょっと?ちょっとと来たかい蓮?よゆーだねぇまったく。俺この単位やばいって…」
「ご愁傷様。つーかお前授業中ほとんど寝てたろうが。アレで単位取れたらこっちの立つ瀬がねえっての」
「う…」
「ま、今日で後期の試験は全部終わりだろ?明日から春休みだし、気晴らしに
飲みにでも行こーぜ」
「よっしゃー飲んだる!だから蓮…」
「ん?」
「…今夜は…帰さない…」
「よし黙れ」
- 353 :前スレ931 :05/02/13 23:01:22 ID:e+kDRYFj
- リビングに響くのはテレビから流れる流行りの歌謡曲。
独りきりの夕食を終え、ソファに腰かけた雪乃は静かに目を閉じた
音楽に耳を傾けているわけでは無い。
夜半の静寂を破るためだけにつけたテレビに、端から意識を向けてはいなかったからだ。
ただ、待ち焦がれていた。
ちらと見た時計はもうすぐ11時を指そうとしている
「(…にいさん…まだかな…)」
静寂は嫌いだった あの夜を思い出すから 鮮烈な赤に溺れた夜を
正直に言えば、そのときのことをはっきりと覚えているわけじゃない
ただ思い出さないようにしているだけかもしれない
でも、記憶の底に残る忌まわしい傷跡の疼きは私を捕らえて離そうとはしない
静寂はいや…
ひとりはいや…
そのとき不意にドアチャイムがリビングに響いた。
その音に思考を中断させた雪乃は、ふきんで手を拭いながら小走りで玄関へと向かった。
鍵を開け、がちゃりと扉を開ける。
「にいさ…」
「や、こんばんは」
そう言って、玄関口でひょいと左手を挙げたのは彼女も知っている人物だった。
- 354 :前スレ931 :05/02/13 23:04:41 ID:e+kDRYFj
- 「…鷹梨さん…?」
蓮は、どうもと小さく答えると背後に向かって話しかけた。
「しっかりしろ、和人。お前んちついたぞ」
「お〜う…」
蓮に半ば寄りかかるようにしながら、唸るような声で返事をしたのは和人だった。
その顔は赤く染まり、視線も虚ろ。何より漂ってくるアルコールの匂いが今の彼の状態を端的に表していた。
「ほら、立てるか?」
蓮の問いかけに行動で答えようとする和人。
しかし3歩も歩まぬうちに前のめりになり、玄関に崩れ落ちてしまう。
「あっ…だいじょぶです…か…?」
雪乃はおそるおそる尋ねるが、もはや和人の意識はまどろみの中に
沈んでしまったようだった。
「やれやれ、しょーがない。雪乃ちゃん、和人の部屋まで案内してくれる?」
蓮はそう言いながら、いびきをかき始めた和人を抱えあげた。
「よいしょっと」
二階の部屋にあるベッドに和人を寝かせた蓮はふうと息をついた。
「…ありがとうございました、鷹梨さん」
和人の顔をタオルでそっと拭くと、雪乃は蓮に向かってぺこりと頭を下げた。
蓮はひらひらと手を振りながら答える。
「いいって。もともと俺が誘ったんだしね。」
「れ〜ん…よく頑張ったねー、ごくろうさ〜ん。雪乃ちゃーん、ジュースちょーだーい…」
ベッドにうつ伏せになったまま間抜けた声を出す和人に、雪乃は呆れ顔になる。
「…にいさん、黙って寝ててください…」
「はは。じゃあ、おれはそろそろおいとまするよ」
そう言って玄関へ向かおうとする蓮の背に雪乃が声を投げかける。
「あ…私もご一緒してよろしいですか?…ちょっと近くのコンビニに用事があって…」
「そう?じゃあ一緒に行こうか」
- 355 :前スレ931 :05/02/13 23:08:31 ID:e+kDRYFj
- 蓮と雪乃はどっぷりと日の暮れた町を、少し離れて歩いていた。
外を満たす2月の冷たい空気が肌を刺す。
漆黒が塗りつぶした夜空を統べるかのような青白い三日月に、雪乃はしばし目を奪われていた。
「いい兄妹なんだね、2人は」
ふいに蓮が口を開く。
「え…」
「和人のやつ、酔うと雪乃ちゃんの話ばっかりしてたよ。君に感謝してるって。いつもすまないってさ」
「…」
「雪乃ちゃんは兄さん思いだしね。いい妹さん持って幸せだよ、和人はさ。ウチの妹にも
見習って欲しいもんだなー、まったく」
酔いの勢いも手伝ってか蓮はいつになく饒舌だった。
しかし、それとは逆に雪乃は伏せ目がちになって黙り込んでしまう。
「ん、どうしたの?雪乃ちゃん」
「………そんなこと……無いです……」
「え?」
「あ…いえ……何でもありません。私…ここで失礼しますね…」
通りにぽつんと立つコンビニの明かりを確かめると、雪乃はまたぺこりと頭を下げ、蓮に背を向けた。
「う…ん…」
自身のアルコール臭い吐息に、和人は小さくうめいた。
ベッドの上でごろりと仰向けになって澄んだ空気を大きく吸いこむと、改めて部屋の中を
ぐるりと見渡す。
- 356 :前スレ931 :05/02/13 23:10:54 ID:e+kDRYFj
- カーテンの隙間からわずかに漏れた月明かりが、机の上を照らしていた
「もうすぐ…か」
浮かび上がった卓上のカレンダーを見ながらつぶやく。
「優」
和人の淀んだ瞳に、ありし日の情景が映し出されてゆく
死んだ母さんのことはあまり覚えていない。
物心つく前にいなくなってしまった人だから寂しさもなかった
母親のいない三人だけの暮らし。
父さんと俺と、そして優との暮らしは俺にとって十分に幸せなものだった。
優
2つ年の離れた妹は、俺が子供ながらに守りたいとはじめて願った存在だった
「お兄ちゃん!」
小さな身体で力いっぱい俺を呼ぶその声はどこまでも明るくて、それを聞くたび俺の心は満たされるようだった
優が笑って俺が笑って父さんが笑って
こんな暮らしがいつまでも続くと信じていた
それが限りある時間だなんて想像もしなかった
11年前
突然訪れた崩壊の日はあまりに唐突で不条理だった
- 357 :前スレ931 :05/02/13 23:12:26 ID:e+kDRYFj
- 優を――まだ5才になったばかりだった少女を襲ったのは死に至る病だった
可憐な花のようだったその身体は、見る見るうちに枯れ木の様にやせ衰え、やがて優はベッドの虜に成り果ててしまった
始めのうちは、見舞いに足しげく通っていた
少しでもあいつのそばに居てやらなきゃいけない、という7歳のガキなりの使命感だったのかもしれない
だが、俺が優の元にいることで出来ることなんか何一つ無いことをやがて思い知る
優の弱々しいながらも精一杯の笑顔が激しい苦痛に歪むのを目の当りにする度、俺は彼女に何もしてやれない無力な自分を呪った
そして、俺の足は次第に病院から遠のいていった
守りたいものを守れない無力な己の姿を見るのが怖かったから
そして優は死んだ
春を待たずに散った花の骸は小さくて、軽くて、はかなくて
俺は冷たくなった彼女のそばでいつまでもいつまでも泣き続けた
涙が枯れ果てるまで
それなのに…
「なんでだろうね」
そっと呟く。まるでそこにいる誰かに語りかけるように。
あの時あんなに後悔したはずなのに…
「今じゃお前の笑顔も思い出せないんだ」
- 358 :前スレ931 :05/02/13 23:14:28 ID:e+kDRYFj
- コンビニの袋を右手に提げ、家路を急いでいた雪乃は吸いこまれるかのような
星空をふと仰いだ。
霞がかった夜空の支配者が放つ、淡く冷たい輝きは和人の目に宿るそれと似ていた。
「にいさん…」
和人に本当の妹がいたことは雪乃も知っていた。
そして彼女の命日まであと少しだということも。
「…私は…にいさんの何なのかな…」
掌に向かって問いかける。
義理の妹
それ以上でもそれ以下でも無い
わかってはいるけれど…
あの地獄から
あの世界の果てから
私を救ってくれたにいさん
私にとって誰よりも大切な人…
例えにいさんの中に私がいないとしても
『優はね…』
亡くなった妹の話をするときのにいさんは、いつも行き場の無い怒りと悲しみをたたえていた
私はそんな姿を見る度、切なさと嫉妬をにじませずにはいられなかった
にいさんの中にはいつも優さんがいる。
どんなに私がにいさんを思っても
想い出の人にはかなわない
「…それでも…」
雪乃はぎゅっと唇を結んだ。
- 359 :前スレ931 :05/02/13 23:18:38 ID:e+kDRYFj
- 帰宅した雪乃は真っ直ぐ和人の部屋を目指した。
「にいさん…起きてますか…?」
そっと部屋の戸を開け、明かりを絞ってベッドに歩み寄る。
大の字になったまま布団もかけずに寝息を立てる和人の様子に、雪乃は小さく微笑みながら
そっと毛布をかけた。と、
「う…あ…」
目を瞑ったままの和人の口からふいに呻きが漏れた。
心なしか息遣いまで荒くなる和人に思わず雪乃が
「にいさ…」
声をかけようとしたとき…
「…ゆ…う…」
「!」
和人が漏らした言葉に、雪乃は体の芯が凍ってゆくような感覚に襲われた。
手に提げていたコンビニの袋が滑り落ち、中からジュースの缶が転がった。
「っ…」
雪乃はその場から逃げるように部屋を出て、扉を閉めた。
頭に浮かんだおそろしい感情が、暗い水のようにゆっくり体に染み渡ってゆくのを感じた。
閉めた扉に背中を預けたまま、力なく座り込む。
「…私は……優さんの代わり…なのかな……」
宵闇に問うても答えはなく。
………私は……何処に………いれば………
白蝋のような頬をひとすじの雫が伝ってこぼれた。
- 360 :前スレ931 :05/02/13 23:25:09 ID:e+kDRYFj
- それから続いた日々は何気ないようで、どこか奇妙に歪んでいた。
勢いよく流れる水がステンレスの流しを叩く。
キッチンで朝食の食器を洗おうと、雪乃はスポンジを手に取った。すると
「雪乃ちゃん。俺がやろうか」
脇から和人が声をかける。
「…いえ、大丈夫ですから…にいさんはゆっくりしてて下さい…」
「そう…」
雪乃にそう言われた和人は手をもてあましながらリビングのソファに腰掛け、窓の外を
ぼうっと眺め始めた。
和人は家にいることが多くなり、その目はいつも何処か遠いところを見ていた。
雪乃はそんな和人の様子を気懸かりに思いながらも、立ち入ることが出来ずにいた
2人の交わす会話も空虚で、形だけのものになってしまっていた。
この時期に毎年繰り返される光景ではあったのだが、幾度経験しても慣れるような
類のものではなかったし、その根幹にある傷が癒えるわけでもなかったから、この雰囲気が打破されることなど永久にないのではないかとさえ思われた。
「よっ、と」
ふいに掛け声をあげて和人はソファから立ち上がった。
「部屋にいるから。なんかあったら呼んでね」
そう短く告げると、さっさとリビングを出て二階へ上がっていった。
自室に戻った和人はベッドの上に身を投げ出した。
「はぁ…」
口を開けばため息ばかりの自分に軽い自己嫌悪を覚えながら、窓の外を見上げる。
空は雲ひとつない、透き通った快晴だ。
そんな美しい青空も今の彼には皮肉そのものだった。
ちらと目を背けた先に、最近変えたばかりのケータイがあった。
和人は上体を起こしてそれを手に取ると、履歴から番号を探して通話ボタンを押した。
- 361 :前スレ931 :05/02/13 23:26:50 ID:e+kDRYFj
- 耳障りな呼び出し音のあと、
『もしもし?』
と声がした。
「よう蓮、ちょっといいか?」
出来るだけ明るく言う。
『どうしたよ、いきなり』
「いやヒマだからさ、今夜カラオケにでも行か…」
『蓮にい、大変!天井まで火がぁー!』
途中まで言いかけた和人の耳に、電話口から聞きなれない嬌声が聞こえた。
『あ、アホっ!また台所焼く気か柚葉!』
それに蓮の声が続く。いつもの何処か醒めた印象とは異なるその様子に
和人は思わず尋ねた。
「誰か…いるのか?」
『ん?ああ、今妹がウチに遊びに来ててな。やかましくて大変だよ』
『あ、やかましいって言ったー!せっかくボクがお世話してあげてるのにーもお!』
『頼んでないっつーに……っと悪い。何だっけ?』
「………………あ…いや。やっぱ何でもない」
『何でもないってお前…』
「お邪魔しちゃったみたいだからねぇ?」
『いやっだから妹だって…』
「あははは。じゃ、頑張れよー」
『頑張れってあ…』
まだ何か言いたげな蓮を尻目に通話を切ると、和人はベッドにごろりと寝転がった。
そしてまだ愛想笑いの抜けきらない顔に、今度は嘲笑を浮かべた。
「何してんだ俺は…」
そっと目をつむる。
瞼に映るのはまたあの白い夢………
- 362 :前スレ931 :05/02/13 23:29:19 ID:e+kDRYFj
- 日も暮れなずむ頃。和人はノックの音で目を覚ました。
「ん〜…何?」
扉を開け雪乃が顔を出す。
「あ…ごめんなさい…起こしちゃいましたか…?」
「いいって。それより、どうしたの」
「…ちょっと駅前まで買い物に行ってきます。7時前には帰りますから、それまで留守番よろしくお願いします…」
「わかった。行ってらっしゃい」
それだけ言うと、和人は寝ぼけ眼をこすりながら再び横になる。
「…あ……にいさん…」
「ん?」
「…あの…」
寝転んだ和人の背中に言葉を投げかけようとする雪乃。しかし
「……………いえ…なんでもありません…」
その言葉は飲み込まれてしまった。
「そう」
和人は振り向きもせずに短く答えた。
雪乃が去った部屋で和人はひとり、窓からの夕焼けを望んだ。
今宵の黄昏を染める紅蓮はいつもより紅く見えた
______________________________________
夕闇が茜色の空を塗りこめてゆく。
駅前の繁華街を離れ、人もまばらな暗い道を雪乃はトートを片手に歩いていた。
「………はぁ」
取り留めのないことばかりを考えては打ち消し、ため息をつく。
どうしても思い浮かべてしまうのは和人のことだった。
- 363 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 23:29:26 ID:MGMBN756
- 超リアルタイム!
- 364 :前スレ931 :05/02/13 23:32:03 ID:e+kDRYFj
- 「(にいさん、辛そうだった…)」
義兄の心を捕らえて離さない呪縛は、今や彼女自身の枷にもなりつつあった。
和人を縛る後悔の念は、雪乃を孤独の迷宮に追いやる。
少女はそこから抜け出すすべを知らなかった。
誰かが悪いわけじゃない
わかっているからこそ、その悲哀には出口がなかった。
そんな雪乃の耳に不意に、みいみいという甲高い鳴き声が聞こえた。
「?」
声は横手に見える公園から発せられているようだった。
雪乃は声に導かれるように公園に入って、その鳴き声の主を探す。
植え込みの中に、果たして主はいた。
小さな三毛猫。
雪乃を見るなりびくりと飛び上がり、まだ小さくかわいらしい牙をむき出しにする。
体全体を震わせて力一杯感情を吹き出すその体に、雪乃は歩み寄って手を触ようとした。
はじめは警戒していた子猫だったが、やがてゆっくり近づいてゆくと雪乃の手に体をこすりつけ、のどをごろごろと鳴らし始めた。
「…きみも…ひとりぼっちなの…」
手に伝わる暖かさが優しくて、雪乃はしばし時を忘れて猫と戯れていた。
しかし
「あっ」
突然子猫はふっと身構えると、きびすを返し植え込みの奥に走り去ってしまった。
雪乃は少し寂しそうに後姿を見送るとゆっくり立ち上がる。
その時だった。
突然後ろに感じた人の気配に、雪乃ははっと振り向いた。
公園の薄暗がりの中、大学生くらいの三人の男が雪乃を取り囲むようにして立っていた。
ひとりは大柄でパーカーをだらしなく着こなしており、別のひとりは赤いキャップをかぶった狡猾そうな小男。
そして真ん中にいるニット帽の男が、にぃと薄笑いを浮かべて声を出した
「ねえ君、ヒマ?」
- 365 :前スレ931 :05/02/13 23:36:00 ID:e+kDRYFj
- 今日はここまでにさせて頂きます
ビミョーに引きを持ってきてみたり…
- 366 :名無しくん、、、好きです。。。 :05/02/13 23:39:34 ID:hgitM/xr
- 引くのかよ!?
も、持つ彼さま・・・・。
- 367 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 00:13:15 ID:GbLxIR1R
- 最後の日まで、あと6日。
当たり前だが、病気は正確ではない。わずかな誤差はあるに決まっている。
早朝、俺は誰もいないリビングで受話器を下ろした。
わずかな誤差。それが何日なのかは分からない。もしかしたら、何週間なのかもしれない。
……ある程度、覚悟はしておかなきゃ、な……。
―――バタン!
頭上、つまり二階から激しい物音がした。
そろそろ春香が目覚める頃だ。俺は苦笑しながらリビングを出た。
階段を上がり、俺の部屋のドアを開ける。
案の定、春香がベッド…………から落ちていた。目が合う。春香はにへっと笑う。
「……おはよう、まこちゃん」
「な、なんだ、まこちゃんって」
「あれ?入院する前はそう呼んでたのになぁ……」
「三年前だろ?そんな昔の話を持ち出すなよ」
「……そっか。もう三年も昔だもんね……」
しゅんとする春香。ああ、なんて俺はバカなんだ。朝からまた失敗してるのか。
「あ、いや、その……いいよ。その呼び方でも」
「え?い、いいの?」
「男に二言はないぞ」
「……じゃあ、ここは間をとってまこちゃんお兄ちゃんって呼ぶことにっ」
「却下」
- 368 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 00:14:37 ID:GbLxIR1R
- ちなみに俺の部屋に春香がいたのは、別にやらしい行為が行われたからじゃない。
昨夜、俺は春香に自分の部屋で寝ろと言ったのだが、春香はどうしても聞かなかった。
無理もないだろう。入院する前はお兄ちゃん子だったし。
何より、人と一緒に寝るなんてことも久しぶりだったのだから。
「ところで、お兄ちゃん。学校は大丈夫なの?」
朝食のご飯を口に膨らませながら、春香は言った。
「うん、今日は休むよ。さっき電話した」
「ええっ!?」
ご飯粒が飛び、慌てて春香は口の中のものを飲み込んだ。
「え、えとっ……だ、ダメだよ!ちゃんと―――」
「春香」
その先を遮る。
「俺は少しでも春香と一緒にいたい。俺のわがまま、聞いてくれないかな」
「……む〜」
「……」
「……お兄ちゃん、わたしが断れないってこと分かってて言ってるでしょ」
ぷくっ、と頬を膨らませて、春香は怒った表情をみせた。
しかし、俺から見ればそんなものはバレバレで……笑顔を噛み殺しているのが分かった。
やっぱり、本当は嬉しいのだ。
- 369 :海中時計 ◆xRzLN.WsAA :05/02/14 00:16:13 ID:GbLxIR1R
- とは言ったものの、普段なら学校に行っている時間。
俺はソファに座りながら、ぼーっとテレビを見ていた。
ヒマだ。
「春香ぁ、ヒマだな」
「え?そうかなぁ」
春香は隣で楽しそうにテレビを見ていた。何かのバラエティ番組の再放送だ。
「画面、やっぱり大きいね」
「病室のテレビは小さかったもんな」
「うん。本当に小さくて、すみっこの文字とかぼやけてたんだからっ!」
何故か拳を振り上げる春香。その振り上げた拳に自分自身がよろける。
「お兄ちゃん、退屈なの?」
「春香がいるから少しはマシだけどな」
「じゃあ……どこか行こうよ〜」
甘えるように俺の腕に頬をすりすりさせてくる。ここはひとつからかってやろう。
「……お前、自分の立場を分かってるのか?」
冷たい目つき。春香は明らかに動揺したようだった。
「あ……う……病人、です……」
たまらず吹き出してしまう。
「えっ!?は、春香っ、な、何かおかしなこと言った!?」
「言った言った!はははははっ!」
俺は春香に向き直る。
「お前は俺の妹だよ」
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