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[第四弾]妹に言われたいセリフ

235 :試験的SS1:愛、憶えていますか? :05/02/06 03:06:52 ID:W0XLqfeB
 チャイムが鳴り響き、今日の授業の終わりを告げる。
 にわかに騒然とし出す教室には、帰りの仕度をする者か友人と今日の予定を話す者かのどちらか。
 俺はと言えば、早々に帰りの仕度を整え、すれ違うクラスメイトに挨拶をしながらいつもの教室へ。
 俺の日課。 出来ればもういい加減、こなしたくない日課。
「お、今日もご苦労さん」
 目的の場所の前に立つと、聞きなれた声が俺に掛けられる。
「佐々木さん、あの」
 俺が用事を言おうとすると、
「あ〜ん、つれないなぁ。 昔はむーちゃんてっちゃんと呼び合った仲じゃないの。 せめて名前で呼んで欲しいなぁ」
「いや、でも」
「ああ、歳? 歳気にしてんの? やだなぁ、それこそ水臭いってぇ。 たったいっこ違いじゃないのよ〜」
「は、はぁ・・・・」
 相変わらず・・・・・何と言うか・・・・・。
「まいいや、はや呼べば良いんでしょ」
「おねが――――」
「はやー、素葉耶(そはや)ー、愛しのよあぶらざーが迎えに来たわよー」
 ・・・・人の話を聞かないむーちゃんだ。
「え、ほんと・・・・ってむーちゃん! い、愛しのってなによー」
「にゃはははは、はやのブラコンは学年でも知れ渡ってるからねー」
「も、もう、むーちゃんが言い触らすからだよー。 そんなことないのにぃ・・・」
 とてとてとこちらにやってくる。
「んじゃ、また明日ね」
「うん、またねむーちゃん」
「さようなら」
「おう、あでぃおす! てっちゃん! にゃはははは〜」
 吹き荒ぶ風のように(?)颯爽と去っていくむーちゃん。 廊下ににゃははを残しつつ・・・・。
「じゃあ、帰ろっか虎鉄くん」
「ん・・・そうだな」


236 :2:ここですか? さあ、神に祈りなさい! :05/02/06 03:09:16 ID:W0XLqfeB
 校門を出て一伸び。 やはり俺は勉強よりかは体を動かしていたいタイプのようだ。
「今日は用事ある? ――――お兄ちゃん」
 歩きながら喋りだす。
「・・・・・特にない」
「そっか。 じゃーね、寄りたいとこがあるの」
「どこだよ?」
「ほら、何だかんだで、まだ豚丼食べたことないじゃない。 そろそろ食べてみたいなー、って」
「夕飯前に食うと太るぞ」
「そ、そんなことないもん」
「太る。 確実に」
「うー、お兄ちゃん意地悪だー」
「あのな・・・」
「何? お兄ちゃん」
「・・・・・・・いい加減その『お兄ちゃん』っての、止めないか?」
「え?」
「いい歳してさ、お兄ちゃんは無いだろ・・・・」
「またその話ー? じゃあ何て呼べばいいのー? 兄さん? アニキ? お兄様?」
 不機嫌そうにそう言ってくる。 しかし、不機嫌なのはこっちも同じだ。
「・・・・・・・あのな」
「いいじゃないのよぉ、昔からこうだし別に困ること無いんだし」
「俺が困るわ」
 恥ずかしいっての。
「じゃあなんて呼べばいいのよ」
「虎鉄でいいだろ」
「な、名前で?」
「ああ、学校じゃそうしてるだろーが」


237 :3:チャクラエクステンション! シュートォー! :05/02/06 03:11:08 ID:W0XLqfeB
「だ、だってそれは・・・・学校だと、流石に恥ずかしいから・・・」
「学校で出来て、普通の日常生活で出来ない訳ないだろーが」
「だって・・・・名前って、なんか恥ずかしいよ・・」
「はぁ? じゃ、なんで学校で――――」
「が、学校は、恥ずかしいの我慢してるの! むーちゃんはともかく・・・他のお友達には、恥ずかしいんだもん・・・・」
「・・・・・・はぁ?」
 理解に苦しむ。 ってか街中でお兄ちゃん言ってれば、そのうちバレるだろうに・・・・。
「も、もうこの話はお終い! お兄ちゃんはお兄ちゃんって呼ぶの!」
 ぷいっと、むくれて顔を逸らす。 本当にガキみたいだ。 頭二つ違う身長とこの言動、仕草。
 長く伸ばした髪もかえって子供っぽくなってしまう。 本当に俺と一つ違いかね・・・・。
 でも、本当は――――
「あ、そうだ」
「何よお兄ちゃん。 まだなんかあるの?」
「剣、本当にもうやらないのか」
「剣道? うん、高校は吹奏楽でいくって決めたから」
「何で」
「何でって・・・私だって、女の子らしいこと、したいもん」
「どうせ帰ったらやるのに」
「そっちはちゃんと頑張るよ。 文武両道。 うちの学校のモットーだし。 お兄ちゃんも弓、頑張ってる?」
「ん、まぁそれなりに」
「そっか。 将来は一緒の仕事だもんねー」
「・・・俺は医者を継がせられるんだぞ」
「あはは、勉強も頑張んなきゃねー」
 将来。 俺たちのこれから。 ・・・いつまでもこのままなんだろうか?
「・・・・・帰るぞ」
「え? 豚丼はー?」
「用事が出来た」
「あ、う、うん・・・って、こっちは家じゃないよー?」
「久しぶりに手合わせしよう」
「え・・・・・?」

238 :4:ピーノの玉乗りでござーいっ。 :05/02/06 03:13:22 ID:W0XLqfeB
「着替え終わったか?」
「ん、準備おっけ」
「俺もだ」
 す、と向かい合う。 白い胴衣、紺の袴。 邪魔にならないよう、一本に束ねた髪。
 俺はその後姿を何度も見てきた。 今は正面から向かい合っている。
「久しぶりだね」
「ああ。 入学前に一本やったきりか」
「お兄ちゃんのね」
「勝負は――――」
「えへへ、私の勝ち」
「そうだな・・・・俺の勝ちなんて、数える位しかないもんな」
「コレばっかりは負けられないよ〜」
「・・・・・一つ、賭けをしないか?」
「何?」
「勝った方の言うことを聞く」
「いーのかな〜? そんなこと言って?」
「負けん」
「・・・・もう、そんなにお兄ちゃんって呼ばれるの嫌?」
「嫌だ」
「・・・・ちょっと傷つく」
「なら勝て」
「言われなくたって」
 渡される竹刀。
「夕ご飯前に木刀もないでしょ。 怪我したらお父さんに怒られちゃう」
「そうだな。 でも、真剣勝負だ」
「分かってるよ。 お兄ちゃん案外負けず嫌いだから、手を抜くと怒られちゃうもん」
「さて・・・・やるか」
「うん」

239 :5:起こらないから奇跡って言うんですよ :05/02/06 03:15:41 ID:W0XLqfeB
 これは真剣勝負。
 始まりの合図など無い。
 いつの間にか互いに取っている間合い。
 剣を持つと、雰囲気が変わる。
 昔からそうだ。
 いつものほわっとしたのが、ぴしりとしたものに変わる。
 その眼光は獲物を捕らえた鷹。 空気は飢えた狼。 一撃は雷。
 安綱流壱派師範代素葉耶。
 俺の小さい頃からの、好敵手。
 ・
 ・
 ・
 動かない二人。 しかしそれは表面的なこと。 向こうは「動かない」。 俺は「動けない」。
 いつからだろう、これほどまでの差ができたのは。 俺が弓に移り変えた頃からだろうか。
 刹那、向こうの竹刀が閃く。
「せいっ!!」
「くっ・・・!!」
 かろうじて捌き、瞬間離れる。 そして、まるで何も無かったかのように・・・・・静寂。
 安綱流壱派極意の一、無拍子。 俺でなければ、決まっていただろう。
 ただし、それは俺の腕云々の話ではない。 何のきっかけも作らず、瞬間の攻撃を放つ、それが無拍子。
 ただ血を分けた者が相手だからか、何となく分かってしまうというだけ。
 適わない。 適うわけが無い。
 俺の安綱流弐派は受けの剣。 しかし、攻めてきても返せない相手にはどうすればいいか。
 特攻しかない。
「せいやぁぁぁっっ!!」
 ときの声、そして、
「はっ!!」
 抜き面。 勝負が決まった。

240 :6:痛み止め打ってでもオレと戦え! :05/02/06 03:17:15 ID:W0XLqfeB
「あははー、私の勝ちだねー」
「・・・・そうだな」
 板張りの床に大の字になった俺に、覗き込んで話しかけてくる。
「お兄ちゃん、汗かいてるよ」
「そりゃ、師範代の相手をすりゃ、汗くらいかく」
 乱れた息で応える。
 いつ打ってくるのか殆ど分からないから、気を抜けない。 俺でも一回二回捌ければ良い方だ。
「さてとー、何して貰おうかなー?」
「・・・・男に二言は無い。 何でも言え」
「んー、ゆっくり考えるよ」
「・・・好きにすると良い」
「でも、どーしていきなり手合わせしようと思ったの? 賭けって、その場で思い付いたんでしょ?」
 ・・・・流石に分かってるな。 あれは思い付きだ。
「・・・・秘密だ」
「えー、何それぇ、ずるくない〜?」
「いいだろ、別に」
「気になるぅ・・・。 そーだ! さっきの賭け!」
「は?」
「言うコト聞かせる権利、発動だー!」
「おいおい、そんな下らないことに使っていいのかよ?」
「う〜ん、流石にもったいないから・・・これからは内緒禁止!」
「はぁ!?」
「男に二言はぁ〜?」
「・・・・・無い」
「よろしい」
「はぁ・・・」

241 :7:ちよちゃんはなんで飛ぶん? :05/02/06 03:19:10 ID:W0XLqfeB
「で、何で?」
「・・・・見たかったんだよ」
「何を?」
「剣道やってるとこ」
「え、私の? 何で?」
「・・・・・・・」
「秘密は無しだよ?」
「・・・・・・・好きなんだよ、剣道やってる姿」
「へ?」
「稟として・・・・小さい頃から憧れてた・・・んだと思う。 俺にはない、なんてんだろ、カッコイイ所とかが・・」
「す、好きなの?」
「ああ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「あああ、もももう! お兄ちゃん!! わた私単純なんだから、からかわないでよぉ!!」
「な、なんだよ、正直に白状したぞ俺はっ」
 ばっ、と体を起こし視線を逸らす。
「・・・・・」
「・・・・・」
 沈黙が気まずい・・・。
「だ、大丈夫だよ・・・?」
「な、何が?」
「私・・・剣道、続けるよ?」
「いや・・・そーいうんじゃなくて・・倶楽部でやって欲しかった、っていうか・・・」
「なんで・・・?」
「・・・・普段、ぽへっとしてるだろ?」
「へ? し、してないよぉ」
「してる」
「・・・・そーなの?」

242 :8:悪いがとっとと死んでくれや! :05/02/06 03:21:22 ID:W0XLqfeB
「だからさ・・・・そういうカッコイイ所もあるって・・・周りの奴らにも、知らしめしたかった、っていうか・・・」
「そー・・・なの?」
「ん・・・」
「・・・・・でも、私は・・・お兄ちゃんが分かってれば、それで・・・いいよ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
 なんだろ、この空気・・・らしくない、らしくないぜこんなの。 ああでも。 止まんねえ。
「俺の・・・・その」
 恥ずかしいからずっと黙ってた。 だけど、やっぱり言葉に出さずにいられねえ。
「憧れだった・・・いや、今でも憧れなんだよ・・・・」
「私・・・が・・・?」
「ん・・・」
「そっか・・・・そーだったんだ・・・・えへへ」
「何喜んでるんだよ・・・?」
「だって・・・私だけじゃないんだな、って」
「ん?」
「ほら・・・・私ってとろいから・・・その上、ぽへっとしてるんでしょ? だから、いっつもお兄ちゃんに世話掛けさせて・・・さ」
 視線は床。 恥ずかしくて顔をあわせられないらしい。
「お兄ちゃんってなんでも出来るし・・・だから、私も憧れてたりして・・・えへへ」
「そう・・・なのか?」
「うん。 えへへ、変なの、お互いが憧れなんて」
「はは・・・・そうだな」
「でも、だからだよ?」
「ん?」
「私が、虎鉄くんのこと、お兄ちゃん、って呼ぶの」
「え・・・?」
「私にとっては・・・憧れだから。 いつまでも追いかけたい、目標だから」
「・・・・・・・」
「だから・・これからも、呼んじゃ駄目・・・・かな?」
「・・・・・まぁいいや」

243 :9:未来は、ここにある。 ここから、始まる。 :05/02/06 03:23:30 ID:W0XLqfeB
「ほんとっ? やったー、有り難うお兄ちゃん!」
 心から嬉しそうに、満面の笑顔でそう言う。
 何だかな・・・こんなことでそんなに喜ばれるなら、ちょっとくらい恥ずかしい思いをしたってかまわないかも・・・・な。
「さて・・・そろそろ帰るか?」
「ん、そだね。 遅いとお父さん心配するかも」
「あの放任主義が心配すっかよ」
「そんなことないよ〜。 あ、待って、着替えるから」
「ん? いいじゃんそのままで」
「え〜、この格好で外歩くのは恥ずかしいよぉ」
「その方が可愛いからいいじゃん」
「へ・・・・?」
「あ・・・・・」
 し、しまった、ついうっかり本音が。
「あああ、い今のはからかったんだよねっ? ねっ?」
 ぶんぶん腕を振って、愉快なリアクションを振りまく。 ここまで照れられると逆に冷静になってしまう。 せっかくだからからかおう。
「いや・・・言ったろ、これからは本音で喋るって」
 内緒を禁止しただけだが、そんなに遠くない。
「あう、その、あのっ、おに、お兄ちゃんが、着てて欲しいなら、わ、私っ」
 しかし、なんでこんなにテンパるかね? もうちょっと落ち着きを持って欲しい。
「ず、ずっと着てても、いい・・・・・よっ」
「飯の時も?」
「お、お兄ちゃんが望むなら!」
「洗濯しないで?」
「お兄ちゃんが望むなら!」
「風呂も?」
「お、お兄ちゃんがっ・・・・お、お兄ちゃん!? からかってる?!」
「気付くの遅いぞ」

244 :10:おじいちゃん!! あーん、会いたかったよー :05/02/06 03:27:48 ID:W0XLqfeB
「う〜、お兄ちゃんのばかぁっ、すごく嬉しかったのにぃっ」
 な、涙目かよ・・。 くそう、卑怯だぜそりゃ。
「ばか〜、ばか〜っ」
「はいはい、悪かった悪かったって。 えーと、なんだ、可愛いってのは嘘じゃないからなっ」
「え・・・・ほんと?」
「男に二言は無いっ」
 ちょっと違うが。
「えへ・・そっか・・・・えへへ」
 ふ、ふぅ、非常事態は回避出来たみたいだな。
「ほ、ほらっ、帰るぞっ」
「あ、う、うんっ」
「全く・・・・今日は何か損してる気分だ」
「え、何で?」
「結局お兄ちゃん言ってるし、勝負に負けた、しかも俺は喜ばしてばっか」
「え〜? お兄ちゃんは嬉しくなかったのぉ? お互いが憧れだったんだよ? お互い想いあうなんて、まるでこいびっ・・・!!」
「は?」
「あ、う、ううん、何でもないよっ、何でもっ」
「はぁ・・・・?」
「えへへ・・・」
「・・・帰るぞ?」
 もういいや、今日は厄日ってことにしとこう・・・。

245 :11:お前たちに名乗る名前は無い! :05/02/06 03:30:25 ID:W0XLqfeB

「お兄ちゃんっ」
 道場を出て、ぴょこんと跳ねる。 結局胴衣のままだ。
「何だよ」
 えへへ、と照れくさそうに笑い――――
「お兄ちゃんは、私の自慢の――――弟だよっ!」
「・・・・俺の姉ちゃんは、弟のことお兄ちゃんって呼ぶからとても恥ずかしくて人に自慢出来ない」
「あ〜、ヒドいよそれぇっ。 呼んで良いって言ったじゃん」
「恥ずかしくないとは言ってない」
「も〜、今の台詞、私だってちょっと恥ずかしかったんだからねっ」
 ぷいっ。
 ・・・本当にどっちが上か分からない。
 でも、それが俺たち姉弟。
「俺も・・・・姉ちゃんは自慢の姉ちゃんだよ」
「え・・・?」
「聞き返すなっ、男に二言は無い!」
「それちょっと違うよ〜」
「うるさいっ、帰るぞっ」
「あ〜んまってよぉ、お兄ちゃーんっ」
 今日も姉が弟をお兄ちゃんと呼ぶ。
 多分、将来ずっと先も。

 そんな、少し変な俺たち姉弟のお話。

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