■スレッドリストへ戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 最新50
[試作]姉に言われたいセリフ
- 595 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:00:15 ID:N2y5u893
- 何かとやかましい電車内。
普段座れることなんて滅多に無いから、居眠りなんてもってのほかだったのだが
……今日はついているようだ。
一週間を戦い抜いたこの体と心には、この硬い椅子ですら天国の心地。
ものの数分で夢の中。
そんな居眠りの時間の中、俺は昔の夢を見た。
どこなのか分からない場所に俺と彼女の二人。
夢の中の彼女はいつも笑っていて、俺はいつも気まずそうに不貞腐れていて。
その笑顔が眩しくて、優しくて……。
こんな風な毎日を過ごしていたあの頃は本当に幸せだったと今になって思うのだ。
しかしまぁ、こんなものを見るのは最近は少なくなってきたのだが……。
「欲求不満……かぁ?」
駅の階段をゆっくり上りながら、小さく洩らした。
大丈夫。右のオッサンにも、左の女子高生にも聞こえてないはず。
寝起きの体はいやに重く、階段を上るのも必死だ。
必死なら必死で、何も考えなきゃ良いのに、
(……あの人は、今どこで何してんのかな……)
そう考えかけた俺の頭は、なんとも弱いことで。
「はぁ……」
非常に重いため息が俺から離れる。
そのお陰で俺の体は幾分軽く……なんてことは当然無く、
むしろ重くなった気さえする体を引き摺って我が家へ向かう。
「ただいま……」
鍵を開け、静かにドアを開ける。
誰もいない家の中はいつもどおりシンと静まっていて、落ち着いたというか寂しいというか。
いや、今日に限ってはそのどちらでもない。
なぜなら……
- 596 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:00:57 ID:N2y5u893
- 「おかえり、まこちゃん」
「ただいま、姉ちゃん」
「コーヒー淹れたの。まこちゃんも飲む?」
「暑いからいい。麦茶にするよ」
そろそろ違和感に気付くべきだった。
いや、その前に違和感さんから何か一言あるべきだろう。
しかし、俺がいつまで待っても、その一言は出てきそうに無いので、仕方なく俺が。
「って……姉ちゃんっ!?なんでここに!?」
「まこちゃん……一応、私の家なんだけど」
「いや、そうじゃなくて……学校は?」
「土日は休みよ?」
「それは知ってるから……」
悪気も無く屁理屈を言ってくる姉が怖い。
俺はため息をついた後、
「土日使って、里帰りって解釈でいい?」
「うん。それにしても、まこちゃん……」
「ん?」
「少しせっかちさんになったんじゃない?」
「……そうかね?」
「なんだか寂しいな」
小さく呟いて、カップを口に運ぶ姉ちゃん。
(……ホントに姉ちゃんが……)
この動揺を悟られぬよう、慌てて自分の部屋に逃げ込んだ俺。
まだ休みすら始まっていないというのに。
───────────────────────
- 597 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:01:39 ID:N2y5u893
- 姉ちゃんは去年から、大学に通うために一人暮らし。
そこまで遠いわけではないが、そうちょくちょく帰ってこれるほどの距離でもない。
実際、姉ちゃんの顔を見るのは久しぶりなのだが……
「……あの不意打ちはキツいな……」
正直なところ、俺は出合った瞬間から姉ちゃんに惚れている。
それは今でも相変わらずだ。
だが、肝心の姉ちゃんがあんななワケで……諦める覚悟が出来始めた今日この頃。
「さてと……」
自分の置かれた立場を再確認し、ゆっくりと立ち上がる。
このまま姉ちゃんのいる下におりていこうと思ったのだが……
コンコン
ノックの音。
「まこちゃん?」
姉ちゃんの声がドアの向こうから。
「入っても良いかしら?」
ぐるりと周りを見回す。
……さすがに、ちょっと入れられないな。
「何?」
最低限開いたドアから顔だけ出して、姉ちゃんの顔を見る。
「まこちゃんがなかなか降りてこないから、お茶、持ってきたの」
「あ……ありがと、姉ちゃん。っていっても今行くトコだったんだけど」
「あ、そうなの?」
姉ちゃんの顔が急に輝く。
「ケーキ買ってきたんだけど、よかったら食べない?」
「んー、じゃあ食べようかな」
「良かった。これでまこちゃんがコーヒー飲んでくれるね」
嬉しそうに微笑む姉ちゃんは、そりゃもう反則的に可愛くて。
「でも、まこちゃん?」
幸せに浸る俺に姉ちゃんの一言。
「お部屋は、ちゃんと掃除しなくちゃダメよ?」
……バレてたか。
───────────────────────
- 598 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:02:20 ID:N2y5u893
- 「ふーん、まこちゃんも私と同じ大学受けるんだ」
ケーキを一切れ口に運びながら、終始笑顔の姉ちゃん。
「まだどうなるか分かんないけどね。一応そのつもり」
「そっか、もっと良いとこに行くんだ」
……逆だよ。
「まぁ……姉ちゃんより出来が悪いんじゃ格好悪いからね」
「あはは、あんまり頑張ってもらうと私の立場が無くなっちゃうね」
冗談めかして笑う姉ちゃん。
……でも、そうだよな。
姉ちゃんのこと諦めるって決めたんだから、別に無理して姉ちゃんと同じ大学に行くこともないし。
「そっか。じゃあ、まこちゃんは頑張ってやってるんだ」
「うん、順調といえば順調かな」
「そっか……そうなのかぁ」
考えるように少し俯く姉ちゃん。
「どうしたの?」
「それよりも、まこちゃん。まこちゃんには彼女さんはいないの?」
「は!?」
「ほらほら、恥ずかしがらなくてもいいからお姉ちゃんに教えて」
「……」
これは……。
好きな女の子に『彼女いるの?』と聞かれる→俺に気があるかも!
姉に『彼女いるの?』と聞かれる→心配されてる?
では、好きな女の子が姉だった場合……。
「脈無しだろ、普通に考えりゃ……」
「え?今なんていったの?」
「ん?えっと……」
この質問、どう転んでも結果同じだな、きっと……
- 599 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:03:03 ID:N2y5u893
- 「彼女なんていない。って」
「そうなんだ……ゴメンね、変な話して」
「いや、別に良いけど……」
「ねぇ、まこちゃん。辛いなら、お姉ちゃんが相談に乗るよ?」
「は?」
「あ、別に前の彼女さんのこと気にしてないなら良いの。
でも、まこちゃんの顔色があんまりよくないから……まだ諦めきれないのかなって」
「……諦めきれない……か」
「やっぱりそうなんだ。私もね、まこちゃんの気持ち分かるよ」
「姉ちゃんも?」
「うん……私も」
こんな寂しそうな姉ちゃんの顔、俺は初めて見たかもしれない。
それぐらい姉ちゃんの目はどこか遠くを見ていて。
正直、それを見るのが辛い。
「でも、大丈夫だよ。自分は自分のやり方で何とかするから」
「そっか……強いんだ、まこちゃんは」
「だったらいいんだけどね」
そう笑って見せると、姉ちゃんの顔に優しい笑顔が戻る。
「それよりもさ、このケーキ美味しいよね。何処で買ったの?」
「あ、コレ?美味しいでしょー?向こうのお家の近くで買ったんだ」
「へー、そうなんだ。それに、姉ちゃんのコーヒーも美味しいよ」
「ふふ、ありがと。まこちゃん」
いたって普通の姉弟の会話……
一皮向けば繋がりの無い他人同士だというのに。
───────────────────────
- 600 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:03:44 ID:N2y5u893
- 人間の意志の強さなんてこんなものか。
それとも俺が特異的に弱いだけか。
……どっちにしろ、あまり好ましくない状況なのは確かだ。
さっきより、ちょっとは片付けられた俺の部屋。
十二分に満たされた胃袋を重く感じながらも、嫌な感じがしないのはこれも愛の力ですか。
「……ダメじゃん」
ダメなんだよなぁ……。
姉ちゃんのことを諦める。
案ずるは易し、行うは難し……『ココロ』が絡む分余計に厄介だ。
でも、姉ちゃんのことでこんなに悩むのは初めてな気がする。
「あー、もう分からん!!寝る!!」
一週間酷使されてきた頭はもうすでに限界だったようだ。
そのまま泥のように眠る俺。
それに知恵熱が加われば、朝には立派な焼き物に……なるわけない。
それはともかく。俺もそんなに寝付きがいい方ではない。
しばらく睡眠と覚醒の中間地点を彷徨う。
そんな時だ。
ガチャリ
ドアがゆっくり開く音を、鈍くなっている感覚器官が捕らえた。
目が開かない、体も動かない。
かろうじて働いている耳と脳で、状況をなんとなく読み取ろうと努力する。
「まこちゃん……寝ちゃった?」
姉ちゃんには悪いが、起きれそうも無い。
そのまま沈黙が流れる。
「はぁ……」
姉ちゃんのため息……
心なしか色っぽいそのため息に、ドキッとする。
「ゴメン……ね……」
ゴメン?
姉ちゃんの謝罪の意味を考える間もなく、上半身と唇に流れてくる姉ちゃんの体温。
- 601 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:04:25 ID:N2y5u893
- え……?
「……まこちゃん……」
俺の体の血液が一気に流れ始めた。
次第に頭も覚醒に向かう。
もはや感情を理解する間もない。
心の向くままに跳ね起きる。
「まこちゃん……」
姉ちゃんは驚いた様子で、小さく俺の名を呼んだ。
「……やっぱり起きてたんだ……なんだか、そんな気がしたのよね、あはは……」
「姉ちゃん……あの……」
「ゴメンね……」
振り返り、出て行こうとする姉ちゃん
その手を咄嗟に掴んで。
「待って!!」
向こうを向いたまま俯いている姉ちゃん。
「姉ちゃんのこと、好きだから!!」
「……」
「姉ちゃんは俺のこと興味ないと思ってたから……言えなかったけど
優しいトコとか、笑顔とか、一緒にいると温かいところとか、全部好きだから!!」
「……まこちゃん」
姉ちゃんの声。
それは、さっきまでの暗く重い物とは打って変わって。
「おバカさんなんだから」
笑顔で振り向く姉ちゃん。でも、その瞳には涙が浮かんでいるように見える。
- 602 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:05:06 ID:N2y5u893
- 「……へ?」
「それぐらい……私だって知ってたよ」
「嘘……?」
「嘘じゃないよ。だって、好きな人のこと、何でも知っておきたいじゃない?」
「……え?」
「根拠は無いけど、私の思いが通じたのかな、って思ってたんだけど……」
恥ずかしそうに俯いて見せた。
「姉ちゃん……」
「あともう一つ……実は、初めてじゃないの」
「……っ!?」
色々出てくる真実。
もう……いちいち自分がどう感じているかも分からない。
ただ一つ、いえることは……
「多分、私はまこちゃんが思ってるような人じゃないと思うの」
確かにね……。
「それでも……まこちゃんは私が好きだって言ってくれるなら……私をまこちゃんの恋人にしてください」
「ここまで言って、断わると思う?」
ちょっとムッとした表情の姉ちゃん。
はいはい、言います言います……
「俺も姉ちゃんのこと好きだよ。だから、もっといろいろな姉ちゃんを見せて欲しいな」
「うん」
涙目で微笑む姉ちゃん。この顔も素敵だ。
触れたくても触れられなかった姉ちゃんが俺の胸の中。
一応、俺の初恋は見事実ったといっても過言じゃないのではないだろうか。
───────────────────────
- 603 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:05:48 ID:N2y5u893
- 「送らなくて大丈夫?」
「うん、平気。それにしても何だかあっという間なのね、二日間って」
「今までの分を取り戻す!って、二日間色んなとこに行ったしね」
お陰で財布が……とは言うまい。
「帰っちゃうんだ……」
「仕方ないよ。でも……もう家を出る必要も無いんだけど」
「え?」
「お、怒らないでね?私もね。まこちゃんのこと忘れるつもりだったの……無理だったけど」
「そうなんだ」
「……それもこれも、まこちゃんが勇気がないからなのよ!」
人差し指を俺の鼻先に立てる姉ちゃんに、思わず謝ってしまう俺。
「う……ゴメン」
「なんてね。両想いだって知ってたのに、言えなかった私も悪いんだよね」
「いいよ、責任押し付けあってもしょうがない」
「そうだね」
にこりと笑う姉ちゃんの顔。
俺はきっとこの笑顔に勝ち目は無いんだろう。
「ねぇ、まこちゃん。一つだけ、お願い聞いてくれない?」
「うん、いいよ。何?」
「私ね、向こうでも頑張るから……頑張るから……『頑張ってね』のキスを……」
「ここで?」
周りに人はいないが、一応公衆の場所。
あまりそんなことをするべきではないのだけど、
「ここで。ダメ?」
負けました……。
「……ちょっとだけだからね」
「うん」
言われたとおり、『頑張ってね』の口付け。
- 604 :妹スレ前座専門 ◆isG/JvRidQ :2007/06/10(日) 21:06:37 ID:N2y5u893
- 「ふふ、ありがとう。まこちゃん」
「いえいえ……」
もう気の毒なほど真っ赤な顔の姉ちゃん。と俺。
「次は私かな」
「え……?」
今度は姉ちゃんから俺に。
「……ふぅ。ご馳走様」
満足そうに吐息を漏らす姉ちゃん。
「まこちゃんも、勉強頑張ってね?受かったら、二人で暮らそう?」
「……うん、頑張ります。それまで待っててください」
「うん。じゃね」
手を振って去っていく姉ちゃん。
その後姿から目が離せない俺。
何だかいつもよりも眩しくて、赤い夕焼けだった。
───────────────────────
言っておきますが俺は最初から最後までクライマックスなんてありません。
……まぁ、その……書いてみただけっつーか……。
まさにアウェイの洗礼ってヤツです。まぁ、向こうもホームではないのですが。
とにかく、調子に乗ってすいませんでした。
もう一本、缶ビール片手に書いたようないつもの問題作があるんですが……
まぁ、そちらは今後の状況しだいってことで。
238KB
新着レスの表示
スレッドリストへ戻る 全部 前100 次100 最新50
0ch BBS 2004-10-30