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[試作]姉に言われたいセリフ

543 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:47:46 ID:qGAQnzIO
この駅からの風景は久々に見たけど、予想以上に変わってた。
駅からすぐ近くに在ったはずのコンビニが無くなってたり。
この4月から高校に通うことになった僕は、
こっちからの方が通いやすいからって、
親戚がやってる寮“浜野寮”で生活することになった。
「駅から徒歩7分!」がウリのはずなのに、
僕はもう、駅を降りてから10分以上も歩いてる。
……いい年こいて道に迷った。
僕はちょうど近くに在ったコンビニに入って、立ち読みをし、
ホットココアとピザまんを買うついでに道を訊いた。
肉まんも買おうと思ったけど、ついさっき売切れになったそうだ。
コンビニを出てから地図を思い出しながら進んでいくと、
公園があった。もう、寮は近くだ。間違いない。
この公園だけは幼い頃のままで、安心した。あの桜の木も。
まだ3月だし満開じゃないけど、それでもいいや。
公園の端にある桜を眺めながら僕は、公園に入った。
桜の木のそばにはベンチもある。
足が疲れてるし、あそこでココアを飲もう。

544 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:49:04 ID:qGAQnzIO
ベンチに座ると、右隣に女の子が座っていた。
少し年上か同い年くらいかな。
色白の肌。微笑みの形の唇。チェック柄でぶかぶかのコート。
右側には桜色のハンドバッグ。
ロングスカートは、似合っているように見える。
肩までの長い黒髪を微風に押さえながら、
晴れやかな空を見上げていた。
風が止んだ後で両手を上に伸ばして深呼吸し、
それからバッグの中身を取り出した。
同じ銘柄のココアだった。飲みながら目が合う。
「こんにちは〜。」
「こ、こんにちは。」
固唾を飲み込む。
「いい天気ですね〜。お散歩日和の。」
「ええ。そうですね。」
散歩じゃねーよと思ったけど、僕も微笑みを返した。

545 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:50:03 ID:qGAQnzIO
「あの、この辺りの方ですか?」
「え?いいえ。違いますけど。」
「あら、そうですか〜。」
眉をひそめたその表情は、見過ごせない。
「何か手伝えることはありますか?」
「ちょっとわたし、方向音痴で道に迷ってしまって、」
「それで、どこに行くんですか?」
「この辺りの方を探していたんですぅ。」
「分かる所まで案内しましょう。」
「ありがとうございます。でもでも折角ですけども、
一休みしてからでもよろしいでしょうか?」
いいですよと返事するそばから、バッグを開け紙袋を取り出した。
肉まんだった。
コートかた指先を出しながらそれを両手で持ち、
小さな口ではむはむと食べはじめた。
僕はピザまんを出して食べはじめた。

546 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:51:01 ID:qGAQnzIO
先に食べ終えココアも飲み終わってゴミを捨てると、
上目遣いでこっちを見ていた。まだ食べ終わってない。
「…食べますか?」
残り半分をこっちに差し出していた。
「いいんですか?」
「はい〜。わたし、食が細いですし。
それに捨てちゃったら勿体無いですし。」
「…じゃ、遠慮なく。」

547 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:52:02 ID:qGAQnzIO
食後の一休みのために、桜をしばらく眺めて、
それから僕たちは公園を後にした。
可愛い感じのする女の子と二人っきりで歩くのだから、
できればわざと遠回りしたい。
「それで、どこに行くんですか?」
「これ、なんですけど〜。」
女の子が左手で取り出したメモ用紙を見て、僕は驚いた。
浜野寮だった。たぶん、一緒に住むことになるだろう。
「荷物はもう寮に送ってあるんです。でもでも、
住ませてもらうわたしがまだなんです〜。」
「あ、これ、書いてある地図の縮尺が変ですね。」
わざとそう言って、ホコリまみれの記憶を頼りに、
市内を案内してまわった。別の公園まで歩いたり、
並木通りを歩いたりもした。
草木を眺める目つきが優しかったのが印象に残った。

548 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:53:02 ID:qGAQnzIO
そして喫茶店で一休みすることに。
唯さんが両手で髪をかきあげた。
黒髪から、サラサラという音が聞こえるような気がした。
「そういえば、まだ名前を訊いてなかったですね。
僕は、小浜祐(こはま ゆう)です。」
「…!……ゆうくん?」
唯さんの手が一瞬止まる。
「ええ、悠です。」
「……わたしの名前は、唯(ゆい)。唯一の唯の字を書くの。」

549 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:54:05 ID:qGAQnzIO
そこへウェイターが入ってきた。
「おそれいります、ご注文は?」
「注文、唯さんは、何にしますか?おごりますよ。」
「え?あ、じゃぁ、ホットココアを〜。」
「それと、モカジャバを。」
ウェイターが去った後で、唯さんが訊いていた。
「おごってもらっちゃっても、ほんとに、いいの?」
「ええ。さっきの肉まんのお返しに。」
「ありがとう。それと、唯。わたしを呼ぶときは、唯でいいよ。」
「いや、しかし年上相手に呼び捨てだなんて、」
唯さんの方が、学年が上に思えていたから言った。
「でも、そうじゃないかもしれないじゃない。」
「それは、」
どうしてですかと訊きかけたところで、
注文したものが運ばれてきた。
ホットココアをはふはふと冷ましながら飲む仕草からは、
年下なんじゃないかとも思えた。

550 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:55:00 ID:qGAQnzIO
僕は喫茶店で改めて、メモ用紙を見て場所を確認した。
浜野寮だよな。間違いなく。
会計を済ませた後、唯さんを連れて、
地図を思い出しながら浜野寮へと案内した。
到着した時の寮を見上げる唯さんの表情は、
色白の肌を上気させていて、心底安心した様子だった。
インターホンを鳴らすと、伯母さんが出てきた。
「伯母さん、お久しぶりです。」
「久しぶりねー。」
見ると伯母さんは、僕じゃなく、唯さんの方に駆け寄っていた。
どうして?知り合いだったの?

551 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:56:01 ID:qGAQnzIO
「唯ちゃん、元気だった?具合は?って、ちょっと!
祐君、唯ちゃんに何したの!?」
「え?なにって」
「熱あるじゃない!」
「だいじょうぶ。立てる。歩けるから。
……それより、ゆうくんを責めないで。
市内を案内してくれてただけなんだもの。」
「顔色悪いのに!」
「ゆうくんは悪くない!!悪くないわ。」
「…ごめんなさい、唯ちゃん。こんな大声出しちゃって。
祐君、103室の布団をすぐに敷いてあげて。」
「え?は、はい。」
「すぐにっ!」

552 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:57:00 ID:qGAQnzIO
今、唯さんは眠っている。
伯母さん(母の姉)から聞かされた話によると、こうだった。
唯さんは、僕の2つ年上の姉さんだ、と。
病気療養のために2年間休学していて、
この春から高校に復帰するということ。
最後に伯母さんは、僕の母の説明不足を詫びた。
「唯ちゃんの気丈なところは、相変わらずだったわね。
祐君、今日は言いすぎたかしら。ごめんね。」

夕食時、唯さんは出された分を全て食べた。
伯母さんが少なく盛り付けたからだった。

553 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:58:00 ID:qGAQnzIO
夕食後、僕は203室で自分の荷物を整理し始めた。
ちょうど、唯さんの真上の部屋だ。
段ボール箱のうちのひとつを開けると、
入れた覚えの無い物が目に飛び込んできた。
白いハンカチ?レースがついている。両手で広げてみた。
パンツだった。
他の下着類も入っていたが、どれも白ばかりだった。
「ゆうくん、ちょっといいかな〜?」
良くないタイミングなのに唯さんが入ってきた。
その色白の肌が、一瞬さらに白くなる。
口が開かれ息を飲むのが見てとれた。
僕はパンツを、慌てて箱の中にしまう。
箱を閉めるのと、唯さんが口を閉じるのとは、ほぼ同時だった。
色白の肌を赤くして、唯さんは言った。
「興味のある年頃なのはわかるけど、わたしのは見ないでね。」

554 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 19:59:02 ID:qGAQnzIO
「ごめん……なさい。」
「謝らなくてもいいよ。元はといえば、引越し屋さんが
間違えたのが悪かったの〜。ほら、名前が似てるから。」
段ボール箱の外側の名前の欄には、たしかに
「コハマユウ様」と書いてあった。
「ユウ」が女と間違える名前だったことも、まずかったのかも。
僕は唯さんと、お互いの箱を交換して中身を確認した。
「眠そうな顔してますね。」
「そうね〜。いつもは9時に寝てるから〜。」
時計を見ると、21:14と表示されていた。
「と〜こ〜ろ〜どぇ、」
「唯さん?」
目がトロンとしている。
「唯のこと、敬語で呼ぶのって、ないんじゃないかな〜。」
「いや、だってその、」
「明日までに呼び方直さないぃと眠れない〜。
あぁん、ゆうくんが寝かせてくれな〜い〜。」
「そんな、唯さん、」

555 :某173 ◆HsV9Lpvnw. :2007/04/27(金) 20:00:00 ID:qGAQnzIO
「ゆうくんがちゃんと“ゆい”って呼べなかった
舌ったらずな頃は、もう可愛かったんだからぁ〜。
あの頃みたく呼んで。」
なにかこう、こそばゆい記憶がよみがえってきた。
「唯、姉さん。」
「姉さん、じゃないでしょぅ!」
あー、なんか恥ずかしくなってきた。
「ゆいねえちゃん。」
「もう一声っ。」
「………ゆぃねぇ。」
「もう一度言って!」
「ゆぃねぇ。」
唯さんはため息をひとつ、ついた。
「それでいいのよっ♥♥
今度からは学校でもどこでも唯のことをそう呼んで。」
「学校でもですかっ!?」
「だから、敬語じゃだめって〜。」

――糸冬――

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